ニイタカヤマノボレ//デッドマンズ・アーミー

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 ──ニイタカヤマノボレ//デッドマンズ・アーミー



 蘇ったアメリカ軍の車列がスラムの通りで停車し、トラックから次々に兵士たちが降りていき、そしてすぐさま戦闘態勢を取る。


「機関銃はそこだ。迫撃砲は向こうに設置しろ。ウィルソン中尉、何人か連れて行って敵陣地の様子を見てこい」


「了解」


 ギルバートがきびきびと指示を下し、将校らしさを見せていた。


「全員陸軍か?」


「いいや。海軍や海兵隊もいる。事態が事態だから真っ当な軍隊を組織できなかった。寄せ集めだよ。だが、どいつも勇敢な兵士だ」


 東雲が尋ねるのに戦艦に乗っていた連中もいるとギルバード。


「通信兵! 陸軍航空隊に連絡を取れ。航空支援を要請する」


「チャンネルは繋がっています。いつでもどうぞ」


 傍に控えている通信兵にギルバートが言い、通信兵が周波数を合わせた。


「こちらチャーリー・マイク・ゼロ・ファイブ。航空支援を要請する。目標の座標を言うからしっかり聞けよ。座標は──」


 レトロな紙の地図を広げて、無線機の受話器を握ったギルバートが航空支援を要請。


「来るぞ。伏せておけ」


 レシプロ機のエンジン音が上空から響き、死者の世界から戻って来たアメリカ陸軍航空隊の攻撃機が飛来すると爆弾を投下して飛び去った。


 爆弾は目標の建物に1発だけ命中し、建物を破損させた。


「海軍に要請するべきだったか。あまり当たらんな」


「大丈夫だ。何とかするよ」


 ギルバートが爆撃の成果を見て愚痴るのに東雲が“月光”を握る。


「分かった。俺たちが援護する。突っ込め」


「行くぞ!」


 東雲たちが前方に出てギルバートの指揮する部隊が後ろに続いた。


 アメリカ軍の兵士たちはボルトアクション小銃やとても古くて重い機関銃を装備し、指揮官たちは短機関銃を握っている。


「突撃っ! 続け!」


 東雲が先頭に立ち、“月光”を高速回転させて建物に突入ブリーチ


「クソ! アジア人どもが! 殺せ!」


「死ね、クソカラード!」


 建物内にいた“アームド・ホワイト”の武装構成員たちが東雲たちを狙って射撃する。機関銃や自動小銃が火を噴き、“月光”がそれを弾く。


「援護する! デイビス上等兵、連中に機関銃をお見舞いしてやれ!」


「了解しました、軍曹殿!」


 東雲たちの背後からアメリカ軍部隊の機関銃班が“アームド・ホワイト”を銃撃。蘇ったアメリカ軍の持っている武器は旧式もいいところだが、機能はするし人を殺すには十分な威力を持っている。


「何だ、あの連中は! どこから来た連中だ!」


「構うな! 殺せ! 皆殺しだ!」


 アメリカ軍の攻撃に“アームド・ホワイト”が応じ、自動小銃を乱射した。


「なんてこった。火力が違い過ぎる。ここまで武器は進化したって言うのか?」


「怯むな! 優れた兵士は優れた武器に勝る! 俺たちは名誉あるアメリカ合衆国軍人で、連中はただの素人だ! 戦え!」


 アメリカ軍の兵士たちがボルトアクション小銃で一発ずつ銃撃するのに“アームド・ホワイト”は自動小銃で一瞬に大火力を発揮する。第二次世界大戦初期の武器と21世紀の武器では性能の違いは明白だ。


 だが、練度においてはアメリカ軍の兵士たちは訓練された職業軍人であり、“アームド・ホワイト”は武器を持ったチンピラに過ぎない。アメリカ軍の兵士たちは遮蔽物などを意識し、正確に敵を撃ち抜いた。


「グレネード!」


 アメリカ軍の兵士が前に出て手榴弾を投擲。


「やべっ! 下がれ、下がれ!」


 警告に対して東雲が慌てて下がり、手榴弾は“アームド・ホワイト”の武装構成員たちを纏めてふっ飛ばした。


「東雲。アメリカ軍の装備は旧式だが人は殺せる。アメリカ軍の攻撃に巻き込まれるなよ。お前は私と違って不死身じゃないんだからな」


「分かってるよ。あいつら、ちょっと危ないけど頼りになる連中じゃない?」


「それは認める」


 東雲が軽く言うのに八重野が倒れた“アームド・ホワイト”の武装構成員をBAN-DEADで排除していく。


「順調、順調! いい感じだ!」


「おい、東雲。俺とセイレムは屋上の迫撃砲陣地を潰してくる。他は任せていいか?」


「あいよ。死ぬなよ?」


「当り前だ」


 呉とセイレムが偵察衛星の画像で建物の屋上に確認された“アームド・ホワイト”の迫撃砲陣地に向かった。


「こっちも迅速に片付けるぞ、八重野」


「ああ。やってやろう」


 東雲たちは建物内に設置された“アームド・ホワイト”の重機関銃陣地や無反動砲陣地をアメリカ軍と一緒に潰していく。


「畜生、畜生! このクソサイバーサムライ──」


「ラストワン!」


 そして、建物に最後まで抵抗していた“アームド・ホワイト”の武装構成員が切り倒さ、八重野のBAN-DEADで排除された。


「これで終わりか? 後は司令部か?」


「そのようだな。呉とセイレムが戻ってくるのを待とう」


 東雲と八重野が建物の出口でアメリカ軍部隊とともに待機する。


『こちらガルシア。聞こえるか、サイバーサムライ?』


「おう。聞こえるぜ。どうした?」


『“アームド・ホワイト”の連中がカチューシャ・ロケットを持ち出してこっちを砲撃している。ドローンで爆撃しようとしたが対空火器AAAで妨害された。そっちでどうにかしてくれないか?』


「場所を知らせてくれ。それから第二次世界大戦の装備をしてるアメリカ軍は友軍だ。間違って撃つなよ」


『分かった。目標位置をC4Iにアップロードする』


 サント・フシールの現地指揮官ガルシアが“アームド・ホワイト”が持ち出したカチューシャ・ロケットの位置を知らせて来た。


「よう。迫撃砲は片付いたぞ」


 そこで建物の屋上から呉とセイレムが飛び降りて来た。


「次はカチューシャ・ロケットを叩けってさ。カチューシャ・ロケットってあれだろ。ソ連の多連装ロケット砲。なんでネオナチが持ってるわけ?」


「カチューシャ・ロケットってのはソ連のそれを指すだけじゃなくて多連装ロケット砲全般に使用される名称だ。そして、結構簡単に作れる。ゲリラでもテロリストでもネオナチでもDIYする気があれば作れる」


「マジかよ。迷惑な話だぜ」


 呉が説明するのに東雲が愚痴る。


「ギルバート! 少佐! 次の目的地まで連れってくれないか!」


「いいぞ。トラックに乗れ。それから援軍が向かっている」


「そいつはいい。援軍は大歓迎だ」


 ギルバートが言うのに東雲が喜んだ。


 それから東雲たちは再び軍用トラックに乗り込み、スラムを前進する。


「来たぞ。援軍だ」


 ギルバートが言うと道路を無限軌道とエンジン音を響かせて援軍がやって来た。


「昔の戦車か?」


「第二次世界大戦初期の軽戦車だな。ハワイにも配備されていたのか」


 今の主力戦車に比べると圧倒的に心もとない小さなサイズで小さな主砲の戦車が、東雲たちを乗せた軍用トラックの車列の後方についた。


「あんなの対戦車ロケット喰らったら一撃でお陀仏だぞ」


「でも、ないよりいいだろ」


 セイレムが呆れるのに東雲がそう返した。


『東雲。こっちがジャックしたドローンからの情報だよ。敵は弾着観測用の小型ドローンを複数飛ばしている。君たちの傍でも飛行しているから砲撃には備えておいて』


「備えろってどうするんだよ、ベリア」


『自分で考えて。小型ドローンは昔ながらの無線操縦でハックできない』


「はあ。災難の予感」


 東雲が軍用トラックの荷台から空を眺める。


 そこで突如として爆発が周囲に生じた。


「うおおっ!? 砲撃だ!」


「飛ばせ! 敵の砲兵に狙われている! トラックごと吹き飛ばされるぞ!」


 東雲が叫び、ギルバートが無線に向けて喚く。


 車列が速度を上げて進み、明らかにカチューシャ・ロケットによるものである砲撃の中を駆け抜けていく。


 幸いにして周囲が市街地であったことで直撃しなければ、破片で殺傷されることはなかった。外れたロケット弾は建物に命中して爆発するだけだ。


「進め! 進め!」


「少佐! 陸軍航空隊が航空支援可能とのことです!」


「分かった! 敵の砲兵を叩かせろ!」


「了解!」


 すると車列の上空を第二次世界大戦中のアメリカ軍レシプロ戦闘機2機が通過し、地上に向けて機銃掃射を実施した。それによって一時的に敵の砲撃が止まる。


「わお。すげえな。カチューシャ・ロケットとレシプロ戦闘機。第二次世界大戦にタイムスリップだぜ」


「喜んでる場合か」


 東雲が上空を飛行するレシプロ戦闘機を見て歓声を上げるのに八重野が呆れる。


『サイバーサムライ。ガルシアだ。砲撃が止まったがカチューシャ・ロケットは撃破できたのか?』


「今から確認しに行くところだ。友軍の航空支援があるぜ」


『はあ? 航空支援ってどこの連中だ?』


 ガルシアは東雲の言葉に困惑した様子だった。


「少佐。航空支援はこれからも可能なのか?」


「ああ。恐らくはな。海軍にも支援を要請できる」


「そいつはいい」


 東雲は楽な仕事ビズになりそうだとにやりと笑う。


 東雲たちを乗せた車列は目的の“アームド・ホワイト”が持ち出したカチューシャ・ロケットがいる場所に向かった。


 カチューシャ・ロケットは砲撃を再開したらしく、上空を多数のロケット弾が飛翔してホノルルの空を引き裂いている。


「敵はしぶといな」


「叩きのめしてやる。戦車を前に出せ! 砲撃で挨拶だ!」


 車列後方を進んでいた軽戦車が前方に出て砲塔を旋回させる。


「いたぞ! 敵の砲兵を確認! 射撃開始!」


 ついに“アームド・ホワイト”のカチューシャ・ロケットが存在する砲兵陣地に東雲たちは到着。陣地には民生用トラックにレールをつけた簡易のロケット砲が8台存在しており、そのうち3台は戦闘機の機銃掃射で破壊されている。


「戦車、撃て! 歩兵は速やかに降車して戦闘開始だ! 急げ!」


「うひゃあ。戦争だぜ」


 ギルバートが命令を叫び、東雲たちも軍用トラックから飛び降りる。


「戦車だ!」


「クソ! どこのどいつが戦車なんて持って来やがった!」


 迫りくる軽戦車に気づいた“アームド・ホワイト”の武装構成員がアメリカ軍の軽戦車を銃撃するもライフル弾程度では第二次世界大戦の戦車であっても意味がない。


『こちら放蕩息子のジャクソン号。砲撃開始!』


 そして、軽戦車がカチューシャ・ロケットに向けて砲撃。


 ロケット弾を装填中だったカチューシャ・ロケットに榴弾が命中し、弾薬が誘爆を起こして大爆発を起こす。


「いいぞ! そのまま叩き潰せ! 歩兵は戦車を援護だ! 動け、動け!」


 ギルバートが命じ、アメリカ軍の兵士たちが軽戦車を盾にしながら機関銃やボルトアクション小銃で“アームド・ホワイト”の武装構成員と交戦する。


「で、俺たちはどうするよ?」


仕事ビズをするだけだ、東雲。アメリカ兵が殺しても、ネオナチの連中は復活する。BAN-DEADで排除しなければ」


「あいよ」


 八重野が言い、東雲たちはアメリカ軍の兵士たちとともに“アームド・ホワイト”の砲兵陣地に向けて前進を開始。


 アメリカ軍と“アームド・ホワイト”の双方が重火器を持ち出しており、その間をすり抜けるには両者が叩き込み続けている猛烈な機関銃の射撃の真っただ中を潜り抜けなければならない。


「クソ戦車! 誰かどうにかしろ!」


「ロケット砲がほとんど壊滅しちまったぞ!」


 蘇ったアメリカ軍が持ち出した戦車は古くても戦車であり“アームド・ホワイト”の自動小銃や機関銃の射撃を装甲で弾き、砲撃を続けていた。


「流石はメイド・イン・ユナイテッドステイツの戦車だ。ドイツ軍にだって勝てるぞ。ナチからパリを解放したときにはこいつがパレードの先頭だな」


「蹴散らせ! やっちまえ!」


 ギルバートが満足そうに活躍する軽戦車を見て言い、彼の部下たちが軽戦車とともに“アームド・ホワイト”と戦闘を続ける。


「対戦車ロケットを持ってこい!」


「持ってきたぞ! ぶちかましてやる!」


 だが、ここで戦車にとって最大の脅威が出現する。


 対戦車ロケット弾だ。


 “アームド・ホワイト”の武装構成員が対戦車ロケットを構え、砲撃を続ける軽戦車に狙いを定めるとタンデム弾頭の対戦車ロケット弾を叩き込んだ。


 軽戦車の装甲は現代の主力戦車ですら戦闘不可能になることがある対戦車ロケットを受けて、それを防げるはずもない。メタルジェットが装甲を貫き、軽戦車内を高熱で焼き尽くす。軽戦車の砲弾が誘爆して砲塔が天高く吹っ飛んだ。


「なんてこった! 戦車がやられちまったぞ!」


「何が起きたんだ?」


 歩兵が携行可能な対戦車ロケットであり、アメリカ軍が使用したバズーカが生まれたのは1942年。1941年に戦死したギルバートたちはその存在を知らない。


『寝不足エドワード号。攻撃を続ける。援護してくれ!』


「戦車を援護しろ! これ以上やらせるな!」


 残った軽戦車が勇猛果敢に突撃し、ギルバートの指示で歩兵が軽戦車を援護して“アームド・ホワイト”に向けて突撃していく。


「あーあ。もう本当に戦争だぜ。俺たちもあそこに突っ込むの?」


「それが仕事ビズだろ。文句言わずにやるぞ」


「はいはい」


 呉が促し、東雲は渋々銃火の瞬く戦場に飛び込んだ。


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