ニイタカヤマノボレ//トラ・トラ・トラ

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 ──ニイタカヤマノボレ//トラ・トラ・トラ



 東雲たちは死者の世界から戻って来た白人至上主義ネオナチ集団“アームド・ホワイト”が立て籠もる建物に突入ブリーチしようとしていた。


「あーあ。派手にドンパチしてる。無反動砲も確認。こいつら本当に軍隊みたいに武器を持ってやがるな」


「死者の世界で拝借してきたんじゃないか?」


「死者の世界にも死の商人がいるの?」


 東雲たちがそんなことをぼやきながら目標の建物に忍び寄る。


「おい。誰かいるぞ!」


「アジア人だ! 殺せ!」


 東雲たちに気づいた“アームド・ホワイト”の武装構成員たちが、東雲たちに銃口を向けて攻撃を開始した。


「おっぱじまった! 派手にかますぞ! 続け!」


 東雲がテンションを上げ、“月光”を高速回転させて“アームド・ホワイト”の武装構成員たちに向かって突撃。八重野たちがそれに続く。


「クソ、この中国野郎──」


「侍、芸者、富士山、すき焼き! 俺は日本人だよ、腐れ外人!」


 東雲の“月光”が小口径自動小銃を構えていた“アームド・ホワイト”の武装構成員の首を刎ね飛ばした。


「ぶち殺せ! アメリカは俺たち白人のものだ! アメリカに神の祝福をゴッド・ブレス・アメリカ!」


「クソカラードどもを皆殺しにしろ!」


 しかし、死者であるが故に死を恐れない“アームド・ホワイト”の武装構成員は士気が低下することもなく平然と攻撃を継続する。


「ネオナチゾンビとかB級映画の世界だぜ、畜生。お次はなんだ? 台風と人食い鮫か? それとも宇宙人の侵略か?」


「いいから敵を排除しろ、東雲! 遊んでる暇はないぞ!」


「分かってるよ!」


 八重野も超電磁抜刀で“アームド・ホワイト”のテクニカルに備え付けられていた重機関銃ごと武装構成員を叩き切って叫ぶのに東雲も次の敵と交戦した。


「おい。殺した連中が蘇りそうだぞ」


「BAN-DEADを試す」


 セイレムが切り倒したばかりの“アームド・ホワイト”の武装構成員が起き上がろうとするのい八重野がベリアたちから託されたBAN-DEADを使用する。


 BAN-DEADというのは一種のアクセス権限のコントロールを行うプログラムである。電子掲示板BBSならば分かりやすいが、掲示板荒らしに対してそのトラフィックの発信源を特定し、電子掲示板へのアクセスを禁止する。そういうものだ。


 だが、“ネクストワールド”によって死者の世界と接続してしまった現実リアルには全てを管理する管理者シスオペは存在しない。本来ならば誰も管理権など有していないのだ。


 それをBAN-DEADは一種の乗っ取りによって勝手に権限を獲得して、対象の現実リアルへのアクセス権限を制限する。


 そういう仕組みのもののため、完全に機能する保証はない。


「試すぞ」


「上手く行きますように!」


 八重野がマニュアル通りにBAN-DEADを起動して、対象を選択。ワイヤレスサイバーデッキを通じてプログラムを実行した。


「おお?」


「消えたな」


 死者の世界から蘇ろうとしていた“アームド・ホワイト”の武装構成員が溶けるようにして姿を消し、消滅した。


「効果ありだな。いけるんじゃね?」


「どれくらい効果が続くかだ。このBAN-DEADは勝手に現実リアルの管理権を奪って行使している。ある種の不正アクセスだ。権限が取り消されれば、BAN-DEADの効果もなくなるだろう」


「はあ。万事解決とはいかないのね」


 八重野が説明すると東雲が露骨にがっかりする。


「その場しのぎでも今はいいだろ。今をどうにかしてツバルで解決すればいい」


「あいよ。その心意気で行きましょう」


 暁が高度軍用グレードの機械化ボディを活かした大口径自動小銃の精密射撃で“アームド・ホワイト”の武装構成員たちを正確に仕留め、東雲も次の敵に向かう。


 徐々に“アームド・ホワイト”の武装構成員たちは押し込まれて行き、東雲たちはついに建物の中に突入ブリーチする。


「ぶちかませ!」


「重機関銃のお出迎えとは洒落てるぜ!」


 “アームド・ホワイト”が重機関銃の射撃で東雲たちを迎撃するのに東雲が“月光”を高速回転させて重機関銃に向けて突撃した。


「クソッタレ! サイバーサムライが──」


「その首貰った!」


 東雲が“月光”を投射し、重機関銃の射手の首を刎ね飛ばす。


「BAN-DEAD、実行」


 すかさず八重野がBAN-DEADで死者復活を阻止。


「行け、行け、行け! 一気に制圧する!」


 東雲たちは建物内の“アームド・ホワイト”の武装構成員を叩き切ってはBAN-DEADで復活を阻止し、敵が対応しきる前に建物を制圧した。


「ガルシア。目標の建物のひとつを制圧したぞ。後詰を頼む」


『よくやった! すぐにこちらの部隊を送る。次の建物も頼むぞ』


「あいよ。お任せあれ」


 東雲がサント・フシールの指揮官ガルシアに連絡すると、サント・フシールの援軍が通りをテクニカルで駆け抜けて到着し、東雲たちが次の建物に向かう。


「ん? 何の音だ?」


「エンジン音だな。しかし、ドローンにしてはデカい音だ」


 東雲たちが次の建物に向かう途中で奇妙な音を空から聞いた。


「戦闘機だ」


「どこだよ? それにエンジン音が違うぞ」


「あそこだ。あれは第二次世界大戦の戦闘機だ」


「はあ?」


 東雲が八重野に言われて空を中止すると第二次世界大戦時代のアメリカ陸軍航空隊の戦闘機がスラム上空を飛び去って行った。


「あれは昔の戦闘機を保存して、修理して飛ばす趣味の集まりなんじゃないかな。ほら、零戦をレストアして飛ばそうって感じの」


「今、こんなときに飛ばすと思うか?」


「クソ。じゃあ、あれも死人か?」


「だろうな」


 東雲が愚痴るのに呉がそう返した。


『東雲。そっちに真珠湾攻撃で死んだアメリカ軍の兵士たちが向かってる。既に彼らの戦闘機と爆撃機は確認してる。地上部隊も移動している』


「それで敵か、味方か。どっちだ?」


『今、ディーが連絡を取って確認している。確認が取れるまで攻撃は控えて』


「了解しました」


 ベリアからの連絡に東雲が頷く。


「アメリカ軍は攻撃するなってさ。敵か味方か分からんそうだ」


「おいおい。連中が撃ってくるまで待てって言うのか?」


「我慢しろよ、セイレム」


 セイレムが文句を言うのに東雲がそう返した。


「で、作戦はこのまま続行か、リーダー?」


「そうなるな。もしアメリカ軍が敵に回ったら、麻薬カルテル、ネオナチ、米兵の三つ巴の戦いになるぞ。楽しくなってきたな?」


「全然」


 東雲が自棄気味に言うのに暁が真顔で言う。


「さてさて、前進再開だ。地獄に突っ込め」


 東雲たちは再びホノルルのスラムを進む。


「銃撃! あの建物からだ!」


「くたばれ!」


 建物の2階から“アームド・ホワイト”が東雲たちを銃撃し、東雲が“月光”を投射して射手を排除する。そして、BAN-DEADで復活阻止。


 この手のやり取りを何回も繰り返しながら、東雲たちは戦場と化したスラムを進み続ける。この戦争は終わりが見えない。


「エンジン音だ。ガソリンエンジンの大型車両」


「それを装備しているのはまさに蘇ったアメリカ軍じゃねーの?」


 八重野の音響センサーが特徴的なエンジン音を捉えるのに、東雲が油断なく“月光”を構えて備える。


 そして、第二次世界大戦中に配備されていた軍用トラック6台と軍用四輪駆動車1台が通りに現れ、東雲たちの前で停車した。


「動くな、ジャップ!」


 降りて来たアメリカ兵がやはり第二次世界大戦中のボルトアクションライフルの銃口を東雲たちに向けて叫ぶ。


「クソ。どうする?」


「ベリアから連絡があるまで攻撃するな」


 呉が呻き、東雲が答える。


「ジャップ! お前たちは“ネクストワールド”を維持する方か? それとも“ネクストワールド”を破棄する方か? どっちだ?」


「破棄する方」


 武装したアメリカ兵が尋ねるのに東雲が短く返す。


「オーケー。じゃあ、友軍だ。全員、銃を降ろせ! こいつらは味方だ!」


 指揮官らしいアングロサクソン系のアメリカ兵はアメリカ陸軍少佐の階級章を第二次世界大戦中の戦闘服に付けてヘルメットを被っており、昔の大きな無線を装備した通信兵を傍に置いていた。


「あんたら味方なのか?」


「そうだ。悪かったな、銃を向けて。だが、今の状況は1941年のあの日より酷い」


「真珠湾攻撃で死んだのか?」


「ああ。ヒッカム飛行場で高射砲部隊の指揮をしていた。そこにジャップの爆撃機が来てあの世にふっ飛ばされた。自己紹介が遅れたが、俺はジョセフ・F・ギルバート少佐だ。よろしくな、日本人」


「俺は東雲龍人。よろしく」


 アメリカ兵はギルバートと名乗った。


「で、あんたらはこの混乱を引き起こした“ネクストワールド”の阻止を目指す側。つまり“ケルベロス”の側なんだな?」


「そうだ。俺たちはその点で全員意見が一致している。死者の世界が現実リアルに繋がるようなことがあってはならん。父と子と聖霊の名において。あんたらはここで何をしている?」


 東雲が尋ねるのにそうギルバートが返して来た。


「ちょっとした仕事ビズだ。ツバルに“ネクストワールド”を機能させているサーバーがあるが、そこに乗り込むのには武器弾薬がいる。だから、武器を持ってる連中の仕事ビズの手伝いだ」


「ツバル。エリス諸島か。クソ、そんなところまで行かねばならんとは」


 東雲の言葉にギルバートが唸った。


「あんたらが手伝ってくれるっていうなら、他の蘇った死者たちの中で現実リアルで暴れている連中を叩きのめすのを手伝ってくれないか? 白人至上主義ネオナチ集団がここで暴れてるんだ」


「ナチ? アメリカにナチがいるのか?」


「イエス。ドイツのナチはあんたらの世代が徹底的にぶち殺したが、未だにナチの思想を掲げている連中がいるんだよ」


「なんてこった。アメリカの恥だぞ」


 ギルバートはネオナチについてはよく知らない様子だった。


「よし、国のためにもあんたらを手伝う。どこに向かってる?」


「地図はないんだ。マトリクスでC4Iって奴で指揮されてる」


「そいつは知ってる。戦後にいろいろと発達したみたいだな。マトリクスで機能している代物ならこっちでもアクセスできる。アドレスとキーをくれ」


「オーケー。あんた、100年前の人間なのに俺よりテクノロジーに慣れてるな」


「SF小説のファンだったんだよ。H・G・ウェルズが好きでな。後から死者の世界に来た連中に現実リアルが俺たちの世代が夢見たことを次々に実現させてると聞いたときはワクワクしたもんだ」


 ギルバートがしみじみと語りながら東雲から渡されたサント・フシールのC4Iにアクセスする。そして、C4Iにアップロードされた攻撃目標のデータを共有した。


「そっちの作戦を把握した。トラックに乗れ。俺たちが援護してやる」


「サンキュー、少佐」


 そして、ギルバートが軍用トラックを指さし、東雲たちが乗り込む。


「ウィルソン中尉! ジープで先導しろ! 道を開け!」


「了解、少佐!」


 昔ながらの50口径重機関銃がマウントされた軍用四輪駆動車にいるアメリカ兵がギルバートの命令に頷き、重機関銃の射手が周囲を警戒しながら進み始める。ギルバートは東雲たちが乗ったトラックに乗り込んだ。


「なあ、少佐。あんたはどうして“ネクストワールド”に反対なんだ?」


「いいか。俺たちはクソッタレな奇襲を受けても戦って死んだ。星条旗に包まれた棺桶に入って、兵士たちに弔銃で敬意を示され、あのアーリントンに埋葬されたんだ。それが今になってのこのこ戻って来たら恥さらしもいいところだ」


 東雲が尋ねるのにギルバートがそう言い放った。


「もう家族も死者の世界に来てるし、俺は死者の世界で他の軍人たちと話すのが好きだ。いろんな世代の軍人がいる。日本兵とも話したぞ。最初は犬猿の仲だったが、喋ってみると連中も愛国心と名誉を持ち合わせたいい連中だと分かった」


「へえ。真珠湾攻撃は卑怯だっていうアメリカ人は多いぜ」


「真っ当な手段ではなかったが俺は当時そこにいたから知ってる。攻撃されるはずなんてないって油断していたのも事実ではある。仮に宣戦布告の後に攻撃が行われても、どうせ狙われるのはグアムかフィリピンだって油断してたさ」


 東雲の指摘にギルバートが肩をすくめる。


「それより驚きなのはアメリカがあの戦争の後にずっと戦争をやってるってことだ。若い連中が俺たちのところに来るのは悲しくなる。連中は家族を残していることも多くて、そういう連中は現実リアルに戻りたがってる」


「そりゃ仕方ないよ」


「そうだが死人が舞い戻るのはよくない。俺たちは死んだ。死んだんだ。死は人生の区切りであり、不可逆なものでなくちゃならん。この世界は歩く死体デッドマン・ウォーキングを受け入れられる制度を有していない」


 東雲の言葉にギルバートはそう言いながらボルトアクション式ライフルを握った。


「少佐! 目的地です!」


「オーケー! 行くぞ、野郎ども! 今だけは俺たちは地上に戻り、そして戦う!」


 そして、戦闘が始まった。


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