ハヴォック//繋がる線

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 ──ハヴォック//繋がる線



 東雲たちは六大多国籍企業ヘックスの送り込んだ情報任務部隊ITFとASAの研究施設を守備していたサンドストーム・タクティカルを退けて、仕事ビズ目標パッケージであるサーバーを前にした。


「八重野。ベリアがこっちの端末からサーバーのアイスを無効にしてくれって言ってる。できるか?」


「可能だ。始めよう」


 東雲が頼むのに八重野が研究室で辛うじて無傷だったサイバーデッキに接続する。外部からの仕掛けランには意味があった高度なアイスも構造物内の端末に直接接続ハード・ワイヤードされては意味がない。


アイスを無効にしたぞ。ベリアに伝えてくれ」


「ベリア。サーバーのアイスは切った。仕掛けランを始めてくれ」


 東雲がベリアに連絡。


『グッドジョブ、東雲! これでサーバーにアクセスできる。中身を拝見しましょう。ロスヴィータ、雪風、白鯨がいるかもしれないから気を付けて』


 ベリアたちがASAのサーバーに進入する。


「どれくらいかかる?」


『分からない。かなり広い構造物だから。安心して。財団ファウンデーション民間軍事会社PMSCについては他のハッカーたちが盗み疑義してる』


「あいよ。だが、さっさと済ませてくれ。戦場に長居したくない」


『オーキードーキー』


 場がフリップする。


 ベリアたちはTMCのマトリクスから既にインドのマトリクスに移動しており、ハッカー集団“ケルベロス”に参加した雪風、そしてロスヴィータ、ジャバウォック、バンダースナッチとともにASAのサーバーに侵入していた。


「Perseph-Oneのトラフィックがあったのはここで間違いない。ここに何かがあるはず。そうじゃなきゃ六大多国籍企業がわざわざここを襲撃するはずもないし」


「検索エージェントを走らせてる。とりあえず気になったものは全て持って帰るよ」


「見落としがないようにしないとね」


 ロスヴィータが検索エージェントをサーバー内に走られ、ベリアも検索エージェントを使いつつ、巨大な構造物の中を進みここに何があるのかを突き止めようとする。


「ここに白鯨はいません」


「え? 本当なの、雪風?」


 雪風が突然断言するのにベリアが驚く。


「ええ。白鯨はここには最初からいなかった。いや、彼女の本体がいなかっただけで一部はいたのでしょう。一種の分散コンピューティングです。白鯨という超知能を実行ランするのにこのサーバーも使われていた」


「超知能というのはプログラムというソフトの問題だけではなく、コンピューターの処理能力の向上が必要って問題もあったね。それで巨大なコンピューターをいくつも使って並列処理したのか」


 雪風が既に構造物のほとんどを把握して告げるのにベリアがそう結論した。


「ですが、白鯨の本体はひとつのサーバーにあるはずです。あなた方ハッカーと同じで、作業の演算を行うのに複数のサーバーは利用しても、ハッカー自信はひとつの個としてマトリクスに存在する」


「それがどこか突き止めなきゃ」


 雪風が言い、ベリアが構造部のトラフィックログを解析する。


「ねえ、雪風。君も白鯨のように並列処理してるの?」


「はい。私の行う演算の一部は分散コンピューティングで行われています。少しばかり倫理と法律に抵触しますが、私が開発したソフトウェアにそのようなプログラムがコードされているのです」


「へえ。君もソフトウェアを生み出してるんだ」


「日常の作業を支えるソフトウェアがほとんどです。いずれ自分が超知能だと告白しても問答無用で削除されることのないように、人類の社会に貢献し、人々が超知能というものを恐れないように行動しております」


「君は本当に平和主義者だよね。白鯨にも見習ってほしいよ」


 雪風の言葉にロスヴィータが感心した。


「お喋りしてないで情報を引き抜いて、ロスヴィータ。ここから白鯨の本体のある端末に繋がっているのは間違いないんだから。そして、こういう分散コンピューティングを必要してるということは」


「Perseph-Oneも“ネクストワールド”も白鯨が管制している」


「そう。白鯨を止めないとこの混乱は止まらないかも」


 ロスヴィータがいい、ベリアが唸る。


「ご主人様。トラフィックログの解析が完了したのだ。世界各地のPerseph-Oneや“ネクストワールド”のユーザーと通信しているのを除外して、特異なトラフィックだけを割り出したのだ!」


「よくやった、ジャバウォック。さてさて、白鯨はどこにいる?」


 ベリアがジャバウォックが解析したトラフィックログを眺める。


「……ツバル?」


「え? ツバルに白鯨がいるの?」


 オセアニアに存在する諸島国家ツバル。


 ASAの研究施設にあったサーバーは頻繁にツバルにトラフィックを送っていた。


「待って。ツバルって全然知らないけどASAの関係施設があるの? どこに?」


「今調べてる。ツバルのどの構造物を交信を……」


 ロスヴィータが問うのにベリアがトラフィックログをさらに深く分析する。


「ツバルのフナフティ環礁。そこに巨大な洋上フロートがあるみたい。フナフティ・オーシャン・ベース。そこにある構造物に対してトラフィックがあった」


「ツバルかあ。また妙な場所に拠点を構えたものだね」


「六大多国籍企業から逃げるには丁度良かったんじゃない?」


 ロスヴィータが何とも言えないという反応をするのにベリアが肩をすくめた。


「他に何か情報は?」


「探している。でも、ここにはASAはもう何も残してない」


 その時、構造物を監視していた雪風が動いた。


「アスタルト=バアル様、ロンメル様。“ケルベロス”のハッカーの方々からの警報が出ました。財団ファンデーションが大規模な航空戦力を投入したと。中には戦略爆撃機も含まれているとのことです」


「爆撃で全て破壊してしまうつもりか。東雲に警告しないと!」


 場がフリップする。


「ベリア。終わったのか?」


『終わったよ。悪いニュースだけどここに白鯨はいなかった』


「マジかよ。全員そろって徒労だな」


 ベリアの言葉に東雲が大きくため息を吐く。


『それからもっと悪いニュース。財団ファウンデーションの航空戦力がそっちに向かってる。戦略爆撃機も含めた大部隊。彼らは研究施設をふっ飛ばすつもりだよ。もうサーバーはいいから急いで逃げて!』


「クソ。了解。全員、逃げるぞ! ここは爆撃される!」


 東雲が叫び、ASAの研究施設からの脱出が始まる。


「東雲。脱出のための足はどうするんだ?」


「あ。どうしよ?」


「はあ。ベリアに頼んだらどうだ?」


「そうしよう」


 八重野が呆れるのに東雲がベリアに連絡する。


「ベリア。足を準備してくれ。ここから逃げる手段がない」


『待って。近くに使えそうな車を探してみる』


 ベリアたちがマトリクスからジャックできそうな車を探した。


『東雲。申し訳ないけど財団ファンデーションと蘇ったインド軍の戦闘でその周辺の車は全て破壊されちゃってる。どうにもできにない』


「やべえ。爆撃はどれくらいで始まる?」


『早くて8分後。既にインド領空。元アメリカ軍の基地があったディエゴガルシア島が来てる。こっちで爆撃そのものを阻止できないかやってみるけど、あまり期待はしないで。走ってでも逃げて』


「あいよ。どうにかしないとな」


 東雲たちはとりあえずエレベーターに駆け込み、研究施設の1階に向かった。


「走って可能な限り研究施設から遠くに行こう。八重野もいるし、どうにかなるだろ」


「八重野だけ生き残って俺たちは全滅かもしれんぞ」


「考えたくない」


 呉の懸念に東雲がかぶりを振った。


「とにかく逃げる。爆撃に巻き込まれるのは困るからな」


 東雲たちを乗せたエレベーターが1階に到達し、東雲たちがエントランスを抜ける。


 そして、東雲たちが研究施設前の通りに出たとき、装甲バンが滑り込んできた。


「セイレム! 乗れ!」


「マスターキー。助かった」


 運転席にいるのはマスターキーで助手席にはエイデンがいる。


「乗り込め、乗り込め。爆撃が始まるぞ」


「もううんざりだよ」


 東雲たちは装甲バンに急いで乗り込み、全員が乗ったところで装甲バンがベンガルールの無限履帯で荒らされた道路を猛スピードで離脱していく。


『アルプス・ゼロ・ワンより財団ファウンデーション統合J任務T部隊F-インディゴi司令部。現在爆撃地点にアプローチ中。命令に変更はないか確認したい』


財団ファウンデーション統合任務部隊-インディゴ司令部よりアルプス・ゼロ・ワン。命令に変更なし。既に友軍部隊は撤退した。実行せよ』


『アルプス・ゼロ・ワンより財団ファウンデーション統合任務部隊-インディゴ司令部。了解。爆撃開始まで3分』


 ベンガルール上空に無人戦闘機に護衛された無人爆撃機が侵入する。


 無人爆撃機のウェポンベイが開き、巨大な誘導航空爆弾が投下された。誘導航空爆弾は地上にいる財団ファウンデーション前線航空管制官FACによって誘導され、ASAの研究施設に直撃した。


 電子励起爆薬を使用した航空爆弾が戦術核クラスの爆発を生じさせ、ベンガルールの街並みに爆風が吹き荒れる。


 その衝撃波は脱出の真っ最中だった東雲たちを乗せた装甲バンにも到達した。


「うおっ! 揺れる、揺れる!」


「捕まってろ。このままチェンナイまで逃げるぞ」


「空港にはいかねえの?」


「インドの空港は全て封鎖された。インドは今蘇ったインド軍のヒンドゥー原理主義勢力と六大多国籍企業で戦争をやってる最中だ。迂闊に戦場の空を飛べば地対空ミサイルSAMでドカンだぞ」


 東雲が尋ねるのにマスターキーがそう説明した。


「じゃあ、どうすりゃいいんだ。もうインドに用はない。このまま悠久の時が流れるガンジス川に身を任せてインド人になるならともかく、次の仕事ビズのためにもTMCに帰らないと」


「だから、チェンナイに向かうんだよ。チェンナイには港があって、船がある。海路でとりあえずインドから脱出だ。既にこっちで船そのものは押さえてあるから乗り込んで、逃げやがれ」


「オーケー。いいニュースを聞いたぜ」


 マスターキーが装甲バンを飛ばながら言い、東雲が頷いた。


「仲間から連絡が入った。蘇ったインド軍の部隊が手当たり次第に攻撃を始めたそうだ。彼らに出くわしたら気を付けたまえ」


「連中、戦車や戦闘機まで装備してるぞ。面倒なことになりそうだな」


 エイデンが知らせるのにマスターキーが唸る。


「交戦は避けようぜ。生き返った連中って死なないから倒せないだろ?」


「その通りだ。まあ、この状況ならまだ生きている人間だって、一回くたばっても戻ってくるがな」


「ゾンビアポカリプスの世界だな」


 マスターキーが軽く返し、東雲が肩をすくめた。


 それから東雲たちは蘇ったインド軍が六大多国籍企業の民間軍事会社と戦闘を繰り広げるインドの大地を駆け抜けた。


 通りでは戦車戦が繰り広げられ、戦車砲の砲声や対戦車ミサイルが戦車を吹き飛ばしたときの爆発音が響き続ける。砲兵も投入され砲弾があちこちに落下してはインドの街並みを破壊していった。


 上空でもインド軍の戦闘機と六大多国籍企業の無人戦闘機が交戦し、空対空ミサイルが飛び交い、早期警戒管制機AWACSに誘導された民間軍事会社の無人戦闘機が旧式のインド軍機を撃墜。機体が市街地に落下して炎上する。


「ひでえ状況。もうカオスそのものだぜ」


「世界規模でこんな状況だと考えると世界が滅びかねないな」


「疫病と戦争と六大多国籍企業による支配と来て次は死者が地上に溢れるとか黙示録の世界だぞ。天使のラッパはいつ鳴ったってんだ?」


 八重野が憂慮するのに東雲が戦場と化しているインドの市街地を眺めた。


「そろそろチェンナイだ」


「ベリア。チェンナイの偵察衛星の画像はあるか? 今からチェンナイに突っ込む」


 エイデンが言い、東雲がベリアに支援を要請。


『これが今のチェンナイの衛星画像。あちこちで戦闘が起きてるよ。上空に多数のドローン、通りには無人戦車と装甲車。砲兵まで郊外に展開してる』


「うへえ。勘弁してくれ」


 ベリアの寄越した偵察衛星の画像を見て東雲が心底嫌そうな顔をした。


「チェンナイ市内に突っ込む。戦闘に備えろ」


「あいよ。なんとかして生き残りましょう」


 東雲たちを乗せた車はチェンナイに入り、港湾施設を目指して突き進む。


……………………

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