ハヴォック//インド脱出
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──ハヴォック//インド脱出
東雲たちを乗せた装甲バンは蘇った死者たちで構成されるインド軍ヒンドゥー原理主義勢力と
「交戦は避けるぞ。ベリアから貰った偵察衛星の映像でインド軍と民間軍事会社がいる場所を避けて進む。ナビするから運転を続けてくれ」
「あいよ。任せたよ、大井の」
東雲が行先を指示し、マスターキーが装甲バンを進める。
チェンナイでも戦闘が起きており、砲声と銃声、爆発音にジェットエンジンの音が鳴り響いていた。蘇った死者たちがそこを闊歩し、まさにカオスそのものであった。
「そこを左だ」
「おい。これじゃ港湾施設に近づけんぞ?」
「急がば回れだよ。戦車砲でふっ飛ばされて機関銃で蜂の巣されるよりいだろ」
マスターキーが愚痴るのに東雲がそう言い返す。
東雲たちは慎重にチェンナイ市内を進み、武装勢力との接触を避けた。だが、いくら地上部隊を避けることができても上空を飛行するドローンの類はどうにもならない。
『センチュリー・ゼロ・ファイブより
『
『センチュリー・ゼロ・ワンから
『
上空を飛行中のドローンがASAの研究施設から移動した東雲たちの車を捕捉し、対戦車ミサイルの照準をロックオンした。
『東雲! 上空のドローンから対戦車ミサイル! 警戒して!』
「あーあ。すぐにこれだよ。クソが! 迎撃する!」
東雲が装甲バンのルーフから顔を出し、飛来している対戦車ミサイルを捉えると“月光”を投射した。“月光”の刃は対戦車ミサイルに命中し、対戦車ミサイルが上空で派手な爆発を引き起こす。
「次が来る前にとんずらするぞ! 飛ばせ、マスターキー!」
「飛ばしてるよ!」
東雲たちはチェンナイの街並みを駆け抜け、
「ベリア。ドローンはまた追跡してるか?」
『みたい。君たちを捉えているドローンがいるよ。そこで提案。今からナビする通りに進んでみて。問題が解決するよ』
「マジか。やってみよう」
東雲がベリアの指示する通りにマスターキーをナビする。
「そこを左だ。そして、直進する」
「何があるんだ?」
「偵察衛星には民間軍事会社の連中が映っているが」
「敵に突っ込むのか?」
「分からん。ベリアの提案に賭けてみよう」
装甲バンは民間軍事会社が展開している地域に進んだ。
『よし! 東雲、ドローンを撃墜するよ!』
東雲たちが近づいたのは民間軍事会社が運用する
「ひゅー! いいぞ。これで逃げられる」
東雲が安堵の息を吐き、装甲バンは港湾施設を目指す。
『全インド人民よ! 立ち上がるのだ! インドを正しき道に進ませるためにヒンドゥーの教えに従い、異教徒たちをこの母なるインドの地より駆逐せよ! 我々は今こそ理想の国家を実現するために──』
テロで死んだが蘇った前インド首相がラジオでわめいているのが聞こえて来た。
『東雲。とても悪いニュースがある』
「言ってくれ。もう大抵のことでは驚かん」
『インド海軍の艦船が洋上に展開した。こいつらも蘇った連中。沈んだはずの空母を主力に駆逐艦が複数。それに反応した
「どうなってんだよ。死人が生き返るのはともかく空母まで?」
『死者が生き返るのも十分異常だよ。で、インド海軍は艦砲射撃と爆撃の準備を始めてる。狙っているのはまさに東雲たちが目指してる港湾施設』
「はあ。どうすりゃいいんだ?」
『なんとかインド海軍の動きを止める。けど、相手は旧式とは言え高度軍用
「頑張ってって。無責任な。砲撃喰らったら流石に死ぬぞ」
ベリアからの通信に東雲が低く呻く。
「東雲、どうなっていると?」
「インド海軍が港を砲爆撃しようとしているってさ。ベリアは出港までには連中を止めると言ってるが、その前に攻撃が始まったらどうにもならんと」
「そうか。では、私を使え。私がいる限り砲撃には巻き込まれないはずだ」
「頼りにしてるぜ、八重野」
八重野が言い、東雲が前方を見据えつつ、ベリアから転送されている偵察衛星の画像に視線を配る。偵察衛星は次々に変わりつつも、同じチェンナイを捉えている。
「不味い。港湾施設に民間軍事会社の連中が進出した」
「クソ。どうするんだ?」
「俺が聞きたい。連中、どうも防空コンプレックスを組み立てているみたいだ。砲爆撃を迎撃しようってわけか?」
「規模は?」
「2個中隊規模。空中機動歩兵でアーマードスーツと戦闘用アンドロイド、空挺戦車と
マスターキーが尋ねると東雲が偵察衛星の映像からそう答えた。
「それなら問題はない。私が蹴散らしておこう」
「頼りにしていいのか、エイデン・コマツ?」
「君より経験はあるつもりだ。サイバーサムライとしてね」
エイデンは不敵に笑った。
そして、装甲バンはついにチェンナイの港湾施設に突入。
『ヴォーバン・ゼロ・ワンより
『
港湾施設には自走対空砲、
「おうおう。民間軍事会社の連中がうようよしてるぜ」
「このまま突っ込め。肉薄して全て片付ける」
マスターキーが唸るのにエイデンがそう言って腰に下げたヒートソードの柄を握る。
『不明車両が侵入。指示を乞う』
『排除しろ。敵性勢力の可能性あり』
『了解』
そして、東雲たちが乗った装甲バンに自動小銃や機関銃の猛烈な射撃が叩き込まれた。銃弾がフロントガラスを粉砕して飛び抜け、バッテリーも被弾して炎上を始める。
「おいおい! 大丈夫なのか!?」
「神様にお祈りしな!」
東雲が狼狽え、マスターキーが叫ぶと装甲バンは無理やり民間軍事会社のコントラクターたちがいる陣地に飛び込んだ。
「さあて、
「あんた、本当にやれるのか?」
「年長者とはただ衰えただけの存在ではないのだよ、青年」
東雲にエイデンはそう言うと装甲バンから降車し、装甲バンを取り囲む民間軍事会社のコントラクターたちを見渡した。
『敵のサイバーサムライを視認。排除する』
コントラクターたちの銃火器による攻撃がエイデンに向かおうとした瞬間、エイデンが姿を消した。
次の瞬間、鮮血が舞った。
装甲バンを包囲していた10名あまりのコントラクターの首が刎ね飛ばされ、胴体を貫かれ、腹部を切り裂かれ、一斉に地面に崩れ落ちたのだ。
「ふん。まだまだいけるな、私も」
そして、エイデンが姿を見せ、刀に帯びた血が熱によって蒸発したヒートソードを鞘に収める。
「すげえ。あれもサイバーサムライなのか」
「ジャクソン・“ヘル”・ウォーカーばりの機械化率か。あるいは剣術って奴を究極的に極めた
東雲が目を見開くのに呉が感心した様子でそう言った。
「私たちも行こう。エイデンだけに任せるわけにはいかない」
「ああ。行くぜ!」
既に民間軍事会社の部隊はアーマードスーツと空挺戦車、戦闘用アンドロイド、そしてやはり
東雲たちも装甲バンを飛び出し、エイデンに続く。
『敵のサイバーサムライを複数確認。うち2名は死人だ』
『排除しろ。この防空コンプレックスが破壊されれば我々にも被害が出る』
口径90ミリ電磁ライフル砲や口径12.7ミリガトリングガンを装備した無人空挺戦車が前方に進出し、東雲たちに向けてフレシェット弾を発射。
「クソ。戦車は反則だろ!」
東雲は“月光”を高速回転させて攻撃を弾くも、肉が抉られる。
「エイデン。あなたの刀は」
「“羅生門”。昔のままだよ、アリス」
「そうか。共に戦うのは初めてだな」
「君の成長を見せてくれるかい」
「もちろんだ」
エイデンが言い、八重野がエイデンの隣に立つ。
「では、我々の道を邪魔するものを切り倒し、道を作ろう」
エイデンが再び姿を消し、空挺戦車の砲塔が爆発。バッテリーと弾薬が爆発したことで空挺戦車は瞬く間に戦闘不能に。他の空挺戦車も次々に撃破されて行く。
「流石だな、エイデン」
「君に全てを教えられれば良かったのだが」
「では、今学ぶ。見せてくれ、あなたの戦いを」
八重野もアーマードスーツに突撃し、超電磁抜刀で撃破する。アーマードスーツが近接防衛兵器として口径60ミリ迫撃砲弾を発射しても、八重野にはかすりもしない。
「君も成長したな、アリス」
「少しばかりずるとしているがな」
エイデンと八重野が暴れまわり、民間軍事会社の戦力が急激に損耗する。
「やるなあ、連中。これなら逃げられそう」
東雲も八重野たちが撃ち漏らした敵を叩き、目的の船舶を目指した。
『ヴォーバン・ゼロ・ワンより
『
『ヴォーバン・ゼロ・ワンより
『
その時、東雲たちのいる港湾施設に無人戦闘機が向かっていた。
『東雲。そっちに
「次から次に。もう嫌」
東雲が上空を見上げると東雲たちのいる場所に向けて誘導航空爆弾が投下される瞬間を捉えた。投下された爆弾が戦術リンクの位置情報に従って誘導され、東雲たちに向かって落ちてくる。
「“月光”!」
急速に落下してくる誘導航空爆弾に東雲が“月光”を投射。東雲が血を注いだ“月光”の刃は爆弾を真っ二つに引き裂き、信管を作動させて空中で爆発させた。
「よし! こいつで何とか──」
東雲がガッツポーズを取ったと思えば突如として港湾施設で爆発が生じた。
蘇ったインド海軍が砲爆撃を開始したのだ。
「始まっちまったぞ! ベリア! どうにかできるんだよな!?」
『もちろん! 今から構造物を制圧する!』
インド海軍は艦砲で砲撃を実行しつつ、空母から戦闘機を発艦させようとしていた。戦闘機が2機発艦した後で構造物がベリアたち“ケルベロス”の
滑り込みで離陸した戦闘機は東雲たちを狙っていた無人戦闘機と空戦を始めた。まずは
「オーケー。民間軍事会社も死人で構成されたインド軍もこっちに向かってこない。今のうちにとんずらしようぜ」
「こっちだ。船を準備してある」
東雲が周囲を見渡してそう言い、マスターキーが港湾施設を埠頭に向かう。
チェンナイの埠頭にはレジャー用の高速艇があった。化石燃料で動く旧式だが、そこまで古い印象は受けない。この手のレジャーボートは海洋汚染が激しくなったときから進歩を止めているだけだ。
「全員乗り込め!」
東雲たちが船に乗り込み、マスターキーの操縦で船は埠頭を出た。
そして、急速にインドの大地を離れていく。
「はあ。これで一段落、か? どこに向かうんだ?」
「タイだ。タイにもこちらの協力者がいる。タイから飛行機でTMCに向かうぞ」
「オーケー。暫くは船旅を楽しみましょう」
マスターキーが答えるのに東雲がそう言って遥か水平線の向こうに消えたインドの大地を見ようとした。
今や地上を
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