ハヴォック//サーバーを巡る戦い
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──ハヴォック//サーバーを巡る戦い
サンドストーム・タクティカルの警備部隊と交戦中の東雲と呉。六大多国籍企業の連合軍である
ASAの研究施設を巡る争いは激化していた。
「現在解析率45%だ。暫くは目隠しして踊るしかない」
「やってやろう」
セイレムがそう言い、八重野が電磁ライフルの発砲音からある程度の位置を掴み、肉薄して超電磁抜刀を繰り出す。
手ごたえはあった。何かを裂いたような感覚が八重野の手に感じられる。だが、それが致命傷なのかどうかは分からない。
それでも今の八重野にできるのはこれが最大だ。
「いいぞ。敵が動いていて解析速度が上がっている。掻き回せ」
セイレムも発砲音で位置を推定して“竜斬り”を突きだす。手ごたえはあったもののすぐに反撃が来て電磁ライフルの銃弾がセイレムの左肩を僅かに抉る。
「気を付けろ。そっちは私と違って不死身じゃないんだ」
「不死身なんてズルをしては戦いは退屈だよ」
八重野が警告するが、セイレムは獰猛な笑みを浮かべて解析と交戦を続けた。
そして、情報任務部隊と八重野、セイレムの戦いは続いて解析が行われる。
「特徴的な動作音を捉えた。解析率87%!」
「もう少しだな。やってやろう」
セイレムの言葉に八重野が恐れを知らずに敵に向けて突撃して、その不死身という呪いを活かして敵を攪乱する。情報任務部隊の射撃は八重野には一発とて到達しない。
「解析率96%!」
「これならば、いける」
既に敵の位置と動きはセイレムの音響センサーの情報を解析する限定AIによって判明しつつあった。残り少しで敵の隠れ蓑を引き剥がすことができる。
情報任務部隊もそれに気づいているのか攻撃が激化した。
電磁ライフルが火を噴くのを八重野があえて正面に立って引き付け、セイレムを援護する。八重野には攻撃が通じない。狙いが逸れるか、電磁ライフルに
「解析率100%だ。情報を共有する。叩きのめすぞ」
「望むところだ」
セイレムが完全に敵の位置を掴んで攻撃を始め、セイレムから情報を共有された八重野もこれ以上に果敢に戦う。
超電磁抜刀が叩き込まれ、超高周波振動刀とヒートソードが舞い、情報任務部隊の損害は増えていく。ひとり、またひとりと倒れる中で情報任務部隊は後退を始めた。
『セイレーン・ゼロ・エイトよりセイレーン・ゼロ・ワン。損害が大きい。そちらの
『セイレーン・ゼロ・ワンよりセイレーン・ゼロ・エイト。こちらも敵の抵抗が激しく
『セイレーン・ゼロ・エイトよりセイレーン・ゼロ・ワン。了解した』
そして、情報任務部隊が本格的な撤退を始める。
彼らは音響グレネードを投擲するとそれが強力な音を発して爆発。
「クソ。音響センサーがマヒした」
セイレムの音響センサーがマヒし、情報任務部隊のコントラクターたちを捉えられなくなる。姿を消した情報任務部隊のコントラクターたちはその隙に逃げ去ってしまった。
「八重野、セイレム。そっちはどうなった? こっちは何とか片付けたが」
「逃げられた。だが、まだ施設内に残っているはずだ。連中の狙いが白鯨の獲得にせよ、白鯨の廃棄にせよ、行先は私たちと同じ。また出くわすぞ」
「はあ。憂鬱。そういやベリアは白鯨を消せとは言ってなかったな」
そこで東雲が
ベリアはASAの研究施設にある白鯨を確保しろとは言ったが、それをどうするかについて東雲に説明していなかった。
「ベリア。白鯨はどうするんだ?
『状況による。一度サーバーに接続して白鯨が“ネクストワールド”を完全にコントロールしているのかどうかを確かめる。コントロールしていたら破壊も視野に入れるけど、そうじゃなかったら情報を引き出したい』
「オーケー。確認した。マトリクスからはアプローチできているのか?」
『研究施設の構造物は概ね雪風が制圧した。例外は
「そいつはまた。こっちでできることは?」
『八重野に任せていいけどそっちの端末に
ベリアはそう言って肩をすくめた。
「了解。何とかしましょう。いくぞ! まだまだ
東雲たちは前進する。
そこで激しい爆発音が外で響き、研究施設が地震のように揺れた。ジェットエンジンの音が遠くに響いていくのも聞こえてくる。
『
『マーズ・ゼロ・ワンより
『
マトリクスにトラフィックが生じた。
「さてさて。爆発音やら銃声やらがバリバリ響いてくるぜ。この音の源は今から向かう先だよな、どう考えても」
「だろうな。間違いなくサンドストーム・タクティカルはサーバーを守ろうとするし、
「ミンチにされそう。泣けてくる」
呉が語るのに東雲がため息。
彼らは確実に26階にある巨大なサーバーに向かって進み続け、戦闘音が大きくなっていく。電磁ライフルや電磁機関銃の銃声、爆発音、ガラスが砕ける音、悲鳴と怒号。
「ベリア。サーバー付近の映像データではないか? 突っ込むにしてもある程度戦況を把握しておきたいし、心も備えておきたい」
『オーキードーキー。監視カメラの映像をゲットして転送するよ』
東雲が頼むのにベリアからASAの研究施設内にある
「クソ。サンドストーム・タクティカルと熱光学迷彩を使ってる六大多国籍企業の連中が銃撃戦の真っただ中だ。対戦車ロケットまで使ってるぞ」
「東雲。私が先頭を進もうか?」
「いや。大丈夫だ。俺が攻撃を引き付ける。八重野、あんたはさっきのように熱光学迷彩を使ってる特殊作戦部隊をセイレムと一緒に蹴散らしてくれ。そっちは俺にはどうにもならんからな」
「分かった」
東雲が作戦を述べるのに八重野が頷く。
サーバーのある研究室の出入り口には土嚢が積み上げられたサンドストーム・タクティカルの重機関銃陣地があり、そこから
情報任務部隊のコントラクターは陣地に向けてグレネード弾や対戦車ロケットを叩き込んでいるが、サンドストーム・タクティカルの陣地にはアーマードスーツもおり、
「滅茶苦茶嫌な予感がするが」
東雲たちはサーバーのある研究室にて激戦地になっている場所に近づく。
東雲が前に出たとき電磁ライフルの大口径ライフル弾が頬を掠めて飛んでいった。
「捕捉されたぞ。こうなりゃ強行突破だ、畜生!」
「情報任務部隊の連中は任せろ」
東雲と呉はサンドストーム・タクティカルに、八重野とセイレムは情報任務部隊の方に突っ込んだ。まさに三つ巴の戦いである。
「ぶっ潰す!」
東雲がサンドストーム・タクティカルの重機関銃陣地の射手に向けて“月光”を投射する。アーマードスーツのアクティブ防護システムが高出力レーザーで迎撃を試みるが失敗。“月光”は重機関銃の射手を仕留めた。
だが、東雲を脅威と見做したアーマードスーツが東雲に攻撃の矛先を向ける。
口径35ミリ電磁機関砲とグレネード弾が次々に叩き込まれる。
「アーマードスーツはいつもやっかいだぜ。血を使わせやがって。装甲で守られてるからっていい気になるなよ、クソ野郎!」
東雲はサーモバリック弾頭のグレネード弾から衝撃波を受けて内臓が潰れつつも突撃し、アーマードスーツに肉薄すると“月光”でアーマードスーツを真っ二つに引き裂いた。火花が飛び散り、制御系が破壊され、操縦車が死亡。機能停止だ。
『アイベックス・ゼロ・フォーよりアイベックス・ゼロ・ワン! 新手だ! 敵のサイバーサムライを確認した! 現在交戦中! 指示を乞う!』
『アイベックス・ゼロ・ワンよりアイベックス・ゼロ・フォー。何としも守り抜け!』
『アイベックス・ゼロ・フォー、了解! やってやる!』
サーバーを死守するサンドストーム・タクティカルのコントラクターたちが東雲たちに対して猛烈な射撃を浴びせかけた。
「東雲。アーマードスーツは任せていいか? 俺は
「あいよ。お任せあれ。ジャンクにしてやりましょう」
呉がサンドストーム・タクティカルの
『セイレーン・ゼロ・ワンより
『
『セイレーン・ゼロ・ワンより
『
ASAの研究施設の外で無人攻撃ヘリがホバリングしていた。
『セイレーン・ゼロ・ワンよりレイピア・ゼロ・ワン。
『レイピア・ゼロ・ワンよりセイレーン・ゼロ・ワン。使用可能なのはドラゴンスレイヤー対戦車ミサイル、口径70ミリ誘導ロケット弾、口径40ミリ電磁機関砲』
『セイレーン・ゼロ・ワンよりレイピア・ゼロ・ワン。ドラゴンスレイヤー対戦車ミサイルによる支援を要請する。目標は戦術リンクにアップロードしている』
『レイピア・ゼロ・ワンよりセイレーン・ゼロ・ワン。了解。近接航空支援を実施する。デンジャークロース!』
そして、外にいた無人攻撃ヘリから対戦車ミサイルが発射された。
対戦車ミサイルは研究施設の窓から飛び込み、タングステンで覆われたシーカーが壁を破壊しながら突き進む。そのまま戦術リンクにアップロードされた目標に達すると限定AIが弾頭を爆発させた。
爆炎が戦場一帯に広がる。
「うおっ!? クソ、滅茶苦茶やりやがるな。八重野、セイレム! 無事か!?」
爆風を受けて東雲がよろめきながら呼びかけた。
「無事だ。こっちも畳み込む」
「やっちまってくれ」
八重野が平然と返事を返して情報任務部隊の
彼らは次々に撃破されてしまい、死守の構えを見せるサンドストーム・タクティカルだけは自殺行為に等しい攻撃を続けるも、情報任務部隊はサーバーのある研究室から徐々に後退を始めた。
『
『セイレーン・ゼロ・ワン、了解。撤収する』
情報任務部隊はスタングレネードを複数八重野たちに向けて放り投げると電磁ライフルの射撃を行いながら研究施設を離れていく。スタングレネードの爆発音のせいでセイレムの音響センサーはまたマヒしており、追撃できない。
「東雲。こっちは敵が撤退したが嫌な感じだ。急いだ方がいい」
「あいよ。こいつで最後だ!」
東雲が最後のサンドストーム・タクティカルのアーマードスーツに“月光”の刃を突き立てた。アーマードスーツの制御系と操縦者が貫かれ、アーマードスーツは機能を完全に停止した。
「さて、いよいよ
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