ハヴォック//ラボラトリー・パニック

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 ──ハヴォック//ラボラトリー・パニック



 東雲たちは六大多国籍企業の連合軍である財団ファウンデーション民間軍事会社PMSCによって包囲されたASAの研究施設内を白鯨がいるはずのサーバーに向けて進んでいた。


「エレベーターが止まるぞ。敵だ」


「クソ。切り抜けるぞ。俺が飛び込むから八重野は援護してくれ」


「分かった。任せろ、東雲」


 東雲が“月光”を展開し、八重野がそのすぐ後ろで“鯱食い”を構える。


 電子音とともにエレベーターが停止し、エレベーターは13階でその扉を開いた。


「侵入者を発見! 排除する!」


「ぶちかませ!」


 エレベーターを止めたサンドストーム・タクティカルの生体機械化兵マシナリー・ソルジャーが電磁ライフルを東雲たちに向け、東雲が“月光”を高速回転させてコントラクターに向かって突撃した。


「撃て、撃て!」


「敵はサイバーサムライだ! 接近させるな! 射撃で処理しろ!」


 サンドストーム・タクティカルが猛烈な射撃を東雲に浴びせる。25ミリ高性能ライフル弾から空中炸裂型グレネード弾まで全ての火力が東雲に牙を剥いた。


「バカスカ撃ちやがって畜生が! くたばりやがれ!」


 東雲は攻撃を部分的に受けて肉や内臓を抉られつつも、勇者として鍛えた精神と身体能力強化によって押し進み、サンドストーム・タクティカルの警備部隊に向けて“月光”を投射する。


「敵は未知のサイバネウェポンを使用! 警戒せよ!」


「なんで死なない! こいつも生き返った死人か!?」


 サンドストーム・タクティカルの生体機械化兵マシナリー・ソルジャーは後退しながら射撃を続け、東雲を何とか倒そうとするが、東雲はとても頑丈だ。


「いいぞ、東雲。私が斬り込む」


「やっちまえ、八重野!」


 そして、東雲が敵の火力を引き付けている間に八重野が突進し、サンドストーム・タクティカルの警備部隊に肉薄。


「一閃」


 超電磁抜刀でサンドストーム・タクティカルの生体機械化兵マシナリー・ソルジャーの首を刎ね飛ばし、すぐさま次のコントラクターの胸を貫いてヒートソードを抉るようにして抜いた。


 排熱機構が破壊された生体機械化兵マシナリー・ソルジャーの機械化ボディが高熱を帯び始め、熱暴走による爆発に近づく。


「自分のために死ぬな。戦友のために死ね!」


「なっ! 突撃するのかよ!」


 排熱機構が暴走しているサンドストーム・タクティカルのコントラクターが電磁ライフルを乱射しながら東雲に突撃してきた。


 東雲は“月光”を投射して突撃を阻止しようとするも、重量のある機械化ボディと高出力の高度軍用人工筋肉の出力するエネルギーは大型トラックの衝突にも相当するため突撃が止まることはない。


 そして、爆発。装甲と人工筋肉が撒き散らされる。


「滅茶苦茶やりやがって、このクソ野郎!」


 東雲は辛うじて生きていたが、ボロボロだ。あちこちに傷を負い、出血し、さらに“月光”への支払いで血を失っている。


「東雲! まだやれるか!?」


「やるしかねえだろ! かかってこいや、おらあ! このブリキ缶どもが!」


 八重野が斬撃を繰り返しながら東雲の身を案じるのに東雲が自棄になったように突撃し、攻撃を繰り広げる。


「ハイラックス・ゼロ・ワンより本部HQ! 敵のサイバーサムライと交戦中だが止められそうにない! 増援を寄越してくれ!」


本部HQよりハイラックス・ゼロ・ワン。施設内で他にも戦闘が起きている。援軍は遅れると思われる。15分戦況を維持できそうか?』


「ハイラックス・ゼロ・ワンより本部HQ! 不可能だ! 相手を少しでも道連れにする! 我々は先に行くぞ! 幸運を祈る!」


本部HQよりハイラックス・ゼロ・ワン。幸運を』


 サンドストーム・タクティカルの警備部隊はそう通信すると、東雲たちに対し徹底抗戦の構えを見せた。あらゆる火力を叩き込み、東雲たちの前進を阻止しようとする。手榴弾が次々に投擲され、対戦車ロケット弾が発射された。


「どれだけ撃つつもりだよ! 殺す気か!」


「殺す気に決まっているだろ! 防御しろ、東雲!」


 東雲がサンドストーム・タクティカルの攻撃を引き付けるのに八重野が突撃。サンドストーム・タクティカルの生体機械化兵マシナリー・ソルジャーに向けて超電磁抜刀を叩き込んだ。


運動KエネルギーEミサイルM発射準備完了」


「撃て」


 さらに東雲に向けて運動KエネルギーEミサイルMが放たれた。


「やべえのが来た!」


 東雲は“月光”を投射してミサイルを迎撃しようとするが、その単純な運動エネルギーのみで敵の主力戦車を撃破可能な代物だ。“月光”はミサイルに弾かれ、ミサイルは一瞬で東雲に到達した。


「やべやべやべ!」


 東雲が“月光”で何とかミサイルを防ぐが、ギリギリとミサイルがその強力な推進剤を燃焼させながら東雲を押す。


「撃て、撃て!」


「叩きのめせ!」


 さらにサンドストーム・タクティカルがミサイルの防御で手一杯の東雲を銃撃し、東雲が血と肉を撒き散らした。


「ふんぬっ!」


 東雲はそんな状況の中、ミサイルの方向を何とか天井に逸らし、ミサイルはまだ有り余るエネルギーで天井を貫いていった。


「八重野! ミサイルを持ってる奴を叩いてくれ!」


「分かった!」


 東雲が叫び、八重野が運動KエネルギーEミサイルMのランチャーを持っていたコントラクターの首を刎ね飛ばす。


「よし! 残りを片づける!」


 東雲と八重野が猛攻撃に打って出た。


 サンドストーム・タクティカルの警備部隊はひとり、またひとりと倒れる。だが、そのコントラクターも逃亡や降伏は決して行わない。


 それどころか手榴弾や爆薬を持って東雲たちに向かって突撃し、自爆する始末だ。


「敵全滅だ」


「こいつらイカれてるぞ。いくら死者の世界と繋がって死んでも不都合がなくなったとしても、ここまでして戦うか? まるでカルトの集団自殺だぜ」


「ブランチ・ダビディアンのウェーコ包囲のようにか? 確かにこの手のあまりにも高い士気は宗教がかっているが」


 東雲が唸るのに八重野も狂信的に戦ったサンドストーム・タクティカルの生体機械化兵マシナリー・ソルジャーたちの死体を見る。


「そういや白鯨を作ったオリバー・オールドリッジも聖書がどうのこうの言ってたっけ。俺は宗教を否定はしないけどさ。ある程度用法用量を守らないと体に毒だぜ」


 東雲はそう言うと再び前進を開始。


 エレベーターではまた敵に捕まる恐れがあるため、ベリアの誘導で非常階段に向かい、そこからサーバーがある26階を目指す。


『東雲。サンドストーム・タクティカル以外に研究施設内に民間軍事会社PMSCがいる。財団ファウンデーションの特殊作戦部隊。彼らの目的は不明。今、サンドストーム・タクティカルと交戦している』


「そいつらにぶち当たる可能性は?」


『否定できない。財団ファウンデーションはティルトローター機を無理やり研究施設に突っ込ませてかなりの数のコントラクターを送り込んでいる』


「いいニュースはないの? 状況が悪化する一方なんだけどさ」


『外にいる財団ファウンデーション部隊はインド軍の死者と戦ってる。彼らが研究施設をやたらめったら砲撃することはないだろうし、彼らが突入するのは当分先の話だと思うよ』


「そいつはいい知らせ」


 ベリアの報告に東雲が頷き、非常階段を駆け上る。


『リザード・ゼロ・ワンより本部HQ。侵入した敵の特殊作戦部隊と交戦中。相手は第七世代の熱光学迷彩を使用しており、戦況はこちらが不利になっている。無人警備システムはまだ復旧しないのか?』


本部HQよりリザード・ゼロ・ワン。現在電子戦部隊が構造物の奪還を試みているが、復旧の目途はない。現有戦力で対応せよ』


『リザード・ゼロ・ワンより本部HQ。了解。やれるだけのことを──』


 電磁ライフルの大口径高性能ライフル弾が肉を引き裂き、撒き散らす音が響く。


『セイレーン・ゼロ・ワンより財団ファウンデーション統合J任務T部隊F-インディゴi司令部。現在研究施設を制圧中だが、敵の抵抗が激しい。航空支援は要請可能か?』


財団ファウンデーション統合任務部隊-インディゴ司令部よりセイレーン・ゼロ・ワン。間もなくこちらの敵防空網破壊DEADを担当している部隊が敵の防空コンプレックスを制圧する。航空支援はそののちに要請可能だ』


『セイレーン・ゼロ・ワン、了解』


 財団ファウンデーションの構造物にトラフィックがあった。


『東雲。研究施設内に侵入した財団ファウンデーションの特殊作戦部隊を特定したよ。こいつは情報任務部隊ITFだ。本当に六大多国籍企業の民間軍事会社が精鋭を繰り出して来てる。不味いよ』


「クソ不味いな。こっちは伝統的なRPGよろしく4人の愉快な仲間たちだぜ。それで軍隊や特殊作戦部隊の相手をしろってのは死にに行くようなものだろ」


『ロンドンでは大暴れしたんでしょ。頑張って。こっちもマトリクスから支援する。まずは情報任務部隊の連中の正確な位置の特定と無人警備システムの上書きオーバーライドだ』


「任せた」


 ベリアたち“ケルベロス”が引き続きマトリクスから東雲たちを支援し、東雲たちは研究施設の中を目的地に急ぐ。


「よし。26階到達。敵だって馬鹿じゃないから警備は固めてるだろうな」


「激戦の予感がするな」


「今から帰りたくなってきたよ」


 セイレムが笑うのに東雲はげっそり。


 そして、東雲たちが扉を蹴り破って26階に突入するといきなり銃弾が飛んできた。


「あっぶね!? 敵か!?」


「敵以外に誰がいるんだよ」


 東雲が頬を掠めていった銃弾を受けてすぐさま“月光”で防御すると東雲を銃撃したサンドストーム・タクティカルの生体機械化兵マシナリー・ソルジャーが姿を見せた。電磁ライフルの銃口は東雲たちに向けられている。


「ぶちのめして進むぞ。誰でもいいから援護してくれ」


「俺が援護する」


「じゃあ、行くぞ!」


 呉が東雲を援護し、東雲たちはサンドストーム・タクティカルの警備部隊に突撃していく。“月光”が高速回転して電磁ライフルの銃弾を弾き、東雲と呉が肉薄した。


「クソ! サイバーサムライが──」


「くたばりやがれ!」


 東雲が“月光”でサンドストーム・タクティカルのコントラクターの首を刎ね飛ばし、その死体を蹴り飛ばして他のコントラクターの射撃を抑制する。


「オッケー! この調子で──」


 東雲が調子乗った瞬間、彼の側面から電磁ライフルの大口径ライフル弾が飛来し、東雲の右足を完全に消し飛ばした。


「畜生、新手か」


「姿が見えん。熱光学迷彩を使ってやがるな。待ってろ」


 東雲が瞬時に損傷個所を身体能力強化で回復させると、呉が生体電気センサーで襲撃者たちの正体を探ろうとする。


「捉えたか?」


「ダメだ。第七世代の熱光学迷彩だな。完全に隠れている。どうにかせにゃならんが」


「八重野、セイレム! 熱光学迷彩で隠れてる連中をやってくれ! 恐らく六大多国籍企業の送り込んできた特殊作戦部隊だ! ベリアが情報任務部隊だと言っていた!」


 東雲たちがサンドストーム・タクティカルの警備部隊を相手にしながら叫ぶ。


「分かった。やってやろう」


「音響センサーで解析を行う。無駄な音は立てるなよ」


 八重野が頷き、セイレムが早速音響センサーで敵位置の把握を始めた。


『セイレーン・ゼロ・エイトよりセイレーン・ゼロ・ワン。所属不明のサイバーサムライと接敵。指示を求める』


『セイレーン・ゼロ・ワンよりセイレーン・ゼロ・エイト。皆殺しにしろ』


『セイレーン・ゼロ・エイトよりセイレーン・ゼロ・ワン。了解』


 財団ファウンデーションが送り込んだ情報任務部隊が八重野とセイレムと交戦を開始する。第七世代の熱光学迷彩で姿を隠した高度軍用規格の生体機械化兵マシナリー・ソルジャーが電磁ライフルを八重野とセイレムに向けた。


「解析には時間がかかる。その間、何とか持たせるぞ」


「ああ。私ならば心配はいらない。死ぬことはないからな」


 セイレムと八重野もそれぞれ刀を構えて見えない敵に相対する。


 そして、サプレッサーで抑制された電磁ライフルの発砲音が響き、八重野の首を掠めて大口径ライフル弾が飛んでいった。


「いざ!」


 八重野が踏み込む。


……………………

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