西海岸戦争//アラスカ沖

……………………


 ──西海岸戦争//アラスカ沖



 東雲たちが武器を握る。


 それにフラッグ・セキュリティ・サービスのコントラクターたちが気づいた。


「おい、そこのお前たち! 何をしている!」


「殺しの準備さ」


 フラッグ・セキュリティ・サービスのコントラクターに東雲がそう言って笑い、“月光”を投射した。“月光”の刃が敵6名全員を殺害し、その血を吸った。


「行くぞ! 脱走だ!」


 東雲たちが一斉に空港の外を目指す。


「あれをいただこうぜ」


 東雲がフラッグ・セキュリティ・サービスの軍用四輪駆動車に視線を向けた。


「おっと。敵の増援だ。これも仕事ビズ。蹴散らすぞ」


「任せろ」


 東雲が軍用四輪駆動車を確保しようとするのに呉とセイレムが増援としてやってきたフラッグ・セキュリティ・サービスの部隊に立ち向かう。


「サイバーサムライだ!」


「射殺許可は出てる。殺せ」


 フラッグ・セキュリティ・サービスの強化外骨格エグゾを装備したコントラクターたちは中口径自動小銃で呉とセイレムを銃撃する。


「さあ、踊って見せろ!」


 セイレムが一瞬でフラッグ・セキュリティ・サービスのコントラクターの懐に飛び込み、超電磁抜刀で敵を仕留める。コントラクターの体が真っ二つに引き裂かれ、ナノマシンを含んだ鮮血が舞う。


「いいぞ、セイレム。皆殺しだ」


 呉も肉薄して斬撃を叩き込み、続いてさらに斬撃を繰り出す。


 超高周波振動刀が特徴的な振動音を発しながら死を撒き散らした。


「懐に飛び込まれた! 助けてくれ!」


「クソ! 俺たちじゃどうにもできない!」


 呉とセイレムの戦いによってやって来たフラッグ・セキュリティ・サービスの増援部隊は壊滅した。


「呉、セイレム! 乗り込め! 港に逃げるぞ!」


「了解」


 東雲が確保した軍用四輪駆動車に呉とセイレムが飛び乗る。


「ベリアから港の位置が来てる。飛ばすぞ」


 東雲が軍用四輪駆動車のアクセルを踏み込んでアラスカ州アンカレッジの街を港に向けて疾走した。八重野たちは警戒に当たっている。


「東雲。無人攻撃ヘリが飛んでる。こっちに気づいているのかどうかは分からないが」


「クソ。とにかく逃げるしかない!」


 八重野が報告するのに東雲がとにかく車を飛ばした。


『フィッシャーマン・ゼロ・ワンより本部HQ。強奪されたとの報告がある車両を確認した。対応を求める』


本部HQよりフィッシャーマン・ゼロ・ワン。現在確認中。追跡を継続せよ』


『フィッシャーマン・ゼロ・ワンより本部HQ。了解』


 上空を飛行中のフラッグ・セキュリティ・サービスのドローンがアンカレッジを高速で疾走する東雲たちを乗せた軍用四輪駆動車を捕捉して、追跡を続ける。


「港までどれくらいだ?」


「もう少しだ。港湾施設にもフラッグ・セキュリティ・サービスがいると思う?」


「いるだろうな」


「あーあ」


 呉が肩をすくめ、東雲がため息を吐く。


『シャーマン・ゼロ・ワンより本部HQ。テッド・スティーブンス・アンカレッジ国際航空宇宙港にて戦闘の痕跡あり。こちらの作戦要員が斬り殺されている。敵はサイバーサムライと思われる』


本部HQよりアンカレッジ全域に展開中の全部隊。敵のサイバーサムライが市内で活動している。射殺を許可する。排除せよ』


 ついに東雲たちにアンカレッジ中のフラッグ・セキュリティ・サービスが敵対した。


「東雲、急げ! フラッグ・セキュリティ・サービスの軍用装甲車が向かって来る! 電磁機関砲を装備した車両だ!」


「もううんざり! アメリカに来てよかったことひとつもない!」


 八重野が叫び、東雲が車を飛ばす。


「そこだ! 突っ込むぞ!」


 そして、東雲たちがアンカレッジの港に突っ込んだ。


「手配にあった連中だぞ!」


交戦規定ROEは射撃自由。殺せ」


 港にもフラッグ・セキュリティ・サービスの警備部隊が配置されていた。戦闘用アンドロイドにアーマードスーツ、装甲車、そして強化外骨格エグゾを装備したコントラクターたち。


 それらが一斉に東雲たちを攻撃する。


「うおおおっ! クソみたいに撃って来やがるぞ! 八重野、続け! 先にアーマードスーツと装甲車を片付ける!」


「分かった!」


 東雲が“月光”を高速回転させて銃弾と砲弾を弾き、八重野とともに6体のアーマードスーツと2台の軍用装甲車に突撃した。


「くたばれ、ブリキ缶!」


 東雲がまず1体目のアーマードスーツに“月光”を投射。ゴースト機であった無人のアーマードスーツが火花を散らして機能を停止する。


「一閃」


 八重野もアーマードスーツに超電磁抜刀でヒートソードを叩き込んだ。アーマードスーツの装甲が引き裂かれ、やはりゴースト機だったアーマードスーツが戦闘不能に。


「いいぞ! スクラップにしてやれ!」


 東雲がさらに次のアーマードスーツを攻撃。


『近接防衛兵器を使用。随伴歩兵は警戒せよ』


 東雲が迫るのにアーマードスーツが近接防衛用の迫撃砲弾を発射した。


 口径60ミリの迫撃砲弾が空中で炸裂し、ボールベアリングを撒き散らす。


「それはもう効かねえよ、ボケ!」


 東雲は“月光”で攻撃を弾き、アーマードスーツを“月光”で貫く。アーマードスーツを駆動させている人工筋肉が引き裂かれ、電磁装甲のためお高圧電流が火花となって散る。アーマードスーツはそして撃破された。


「東雲。残り2体だ」


「やっちまおう」


 八重野もアーマードスーツを撃破しており、東雲とともに同時に次のアーマードスーツに向けて襲い掛かった。


 魔剣である“月光”と現代科学の叡智である“鯱食い”によって電磁装甲かつ複合装甲で構成されるアーマードスーツは切り裂かれ、2体同時に機能を止めた。


「残りは装甲車! やるぞ、八重野!」


「ああ!」


 フラッグ・セキュリティ・サービスの軍用装甲車は歩兵戦闘車IFVであり口径40ミリ電磁機関砲と対空火器である口径12.7ミリガトリングガン、同軸機銃の口径7.62ミリ機関銃が東雲たちを狙う。


 猛烈な射撃を受けて東雲たちが危機に晒された。


「クソ。馬鹿みたいに撃ちやがって。殺す気かよ」


「殺す気に決まってるだろ」


 東雲が“月光”を高速回転させて銃弾砲弾を弾き、八重野が突撃する。


「抜刀」


 八重野が歩兵戦闘車IFVに肉薄し超電磁抜刀で装甲を切り裂き、制御系を破壊すると装甲車が停止した。


「貫け!」


 さらに東雲が“月光”を叩き込んで歩兵戦闘車IFVを破壊。これによってフラッグ・セキュリティ・サービスが港湾に展開させていた軍用装甲車は全て沈黙。


「呉、セイレム! そっちはどうだ!?」


「片付いたぞ。皆殺しだ。。船はどこだ?」


 東雲が尋ねると呉がそう返した。


「船はこっちだ。来てくれ」


 東雲がベリアから連絡があったアンカレッジの港に停泊している船に向かう。


「こいつだ」


「ふうむ。まさかレジャーボートとは。この致死的な毒素だらけの海に船を浮かべて何が楽しいのやら」


「どうでもいいだろ。逃げようぜ」


 セイレムが小型の船舶を見て言うのに東雲が船に乗り込んだ。


『東雲。船には乗った?』


「乗ったよ。どう操縦するんだ、これ?」


『こっちでリモート操作するから君たちは乗ってるだけでいいうよ』


「サンキュー、ベリア」


 船はマトリクスからベリアがリモートで操縦し、東雲たちをジェーン・ドウが指定したアラスカ沖を示す座標に運ぶ。


『フィッシャーマン・ゼロ・ワンより本部HQ。依然として逃亡している対象を追跡中。対象は船に乗った。アラスカ沖に向かっている』


本部HQよりミズーリ・ゼロ・ワン。ドローンからの情報に従い次の目標を追跡し、撃沈せよ。交戦規定ROEは射撃自由』


 ドローンは未だに東雲たちを追跡しており、さらにフラッグ・セキュリティ・サービスの海上部隊が向かってきた。高速哨戒艇で編成される戦闘艦隊だ。


 高速哨戒艇には対艦ミサイルSSMなどの誘導兵器と76ミリ電磁速射砲が搭載されている。東雲たちを乗せたレジャーボートを沈めるには十分。


「不味いぞ。連中、軍艦を出してきやがった。沈められちまう」


「神様にお祈りするしかねーな」


 呉が遠くに見えるフラッグ・セキュリティ・サービスの高速哨戒艇を見て呻くのに、東雲が諦観気味にそう返した。


 その時だ。


 突如として海上が揺れて爆炎が吹き上がると、高速で飛翔する飛行体がフラッグ・セキュリティ・サービスの高速哨戒艇に突き進み、命中した。


 大規模な爆発が生じ、フラッグ・セキュリティ・サービスの高速哨戒艇は上部構造物を完全に喪失。さらに喫水線下に亀裂が生じ、浸水しながら沈没していった。


「な、なんだ……」


「対艦ミサイルだ。潜水艦がいるぞ」


 東雲が目を見開くのに八重野がそう言って洋上を見張る。


 東雲たちが予定地点近くに迫ると海面を切り裂いて巨大な潜水艦が浮上してきた。潜水艦はどれも同じに見える東雲にはこれがどの国の潜水艦かすら分からない。


巡航ミサイル原潜SSGNだ。日本海軍だぞ」


「マジかよ。海軍が迎えに来てくれたの?」


 呉が言うのに東雲が浮上した潜水艦を見つめる。


『こちら日本海軍所属艦艇“龍驤”である。応答せよ』


「あー。こちらは小さなレジャーボートの愉快な仲間でジェーン・ドウに駒だ。迎えに来てくれたのか?」


『その通りだ。こちらから迎えを寄越す』


 東雲が答えるのに日本海軍の潜水艦から返信が来て、潜水艦のハッチから日本海軍の作業服姿なれど国籍章は日本海軍所属ではなく、太平洋保安公司所属であるコントラクターたちが洋上にボートを展開した。


お土産パッケージは?」


「無事に確保している。乗せてくれるんだよな?」


「ああ。乗ってくれ。アメリカ海軍に捕捉される前に逃げる」


「あいよ」


 東雲たちはボートに乗り込んで潜水艦に向かい、潜水艦に乗り込んだ。


「全員、搭乗しました」


「了解。潜水開始。バラストタンク注水」


 潜水艦はスムーズに海に潜って行き、洋上から姿を消した。


 それから再び日本海軍の潜水艦からミサイルが発射される。


 電子励起弾頭の極超音速巡航ミサイルだ。それがアラスカにあるフラッグ・セキュリティ・サービスの海軍基地と空軍基地に向けて飛翔し、炸裂した。


目標ターゲットの破壊を確認」


任務タスク完了。作戦海域から離脱する」


 日本海軍の潜水艦はリムドライブで無音航行し、アメリカ海軍とフラッグ・セキュリティ・サービスの対潜作戦ASWによる探知を避けて日本に向かった。


「これで仕事ビズは片付いたってことでいいのか?」


「いいだろ。これ以上するべきことはない。お土産パッケージは無事確保し、脱出経路にも乗った。後はこれが終わった後で使い捨てディスポーザブルにされないか心配するだけだ」


「ここまでやったのに使い捨てディスポーザブルにされる危険があんの?」


「日本海軍を動かしたんだ。ジェーン・ドウとしては気に入らないことをやったんだよ。非合法傭兵のために国軍を動かすなんてコストが高すぎる」


「あーあ。帰ってもジェーン・ドウに会いたくねえな」


「報酬を貰わないと」


「報酬はもういいよ。金には困ってないし」


 呉が言うのに東雲がため息を吐いた。


「このまま日本に逃げきれるだろうか」


「フラッグ・セキュリティ・サービスだってまさか潜水艦で逃げるとは思ってないだろう。逃げられる、逃げられる」


「大統領令の話を聞いただろう。アメリカ海軍が展開しているんだ。西海岸には空母や対潜哨戒機、ハンターキラー原潜がうようよしている」


「聞きたくない」


 八重野が今の状況を伝えると東雲が耳栓をする。


「この潜水艦は最新鋭だ。そして、日本海軍というか大井重工造船事業部は潜水艦についてかなり高度な技術を持ってる。静音性は西側の潜水艦の中でもずば抜けていると聞いた。簡単には探知されないだろう」


「探知されたら?」


「浮上させられるか、撃沈される」


 呉が肩をすくめてそう言った。


「昔さあ。Uボートって映画見たんだけど攻撃受けてる潜水艦の中で滅茶苦茶怖いんだよね。ガンガン爆雷が振ってきてパイプが弾けたりしてさ。潜水艦が沈んでいって水圧で潰れそうになるの。怖くね?」


「安心しろ、大井の。昔と違って今の対潜作戦ASWは魚雷で一撃だ。艦艇から発射される対潜ミサイルSUMや艦船を母艦とする自律型無人潜水機AUVから発射されるものでな。辞世の句を読む暇もなく死ぬ」


「それもやだなあ」


 セイレムが語るのに東雲がそう返す。


 日本海軍の潜水艦は東雲たちを乗せてTMCへと向かう。


……………………

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