西海岸戦争//脱出

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 ──西海岸戦争//脱出



 東雲たちはニューロサンジェルス国際航空宇宙港に到達した。


「着いたぞ。降りろ、降りろ!」


 東雲たちは車から飛び降りて、空港に飛び込む。


「ここまでくれば──」


 東雲が安堵の息を吐こうとしたときに銃声が響いた。


「な、なんだ!?」


「クソ。空港内でALESSと交戦している連中がいるぞ」


 東雲が周囲を見渡すと強化外骨格エグゾを装備したALESSのコントラクターたちが銃撃を行っていた。だが、ALESSのコントラクターが銃撃している相手は見えず、ALESSのコントラクターたちは銃撃を受けている。


「熱光学迷彩を使った連中だな。アローが送り込んできた生体機械化兵マシナリー・ソルジャーか?」


「勘弁してくれよ。後は飛行機に乗って逃げるだけだぞ」


「そう簡単には逃がしてくれないってことさ」


 東雲が唸るのに呉がそう言って生体電気センサーで熱光学迷彩で隠れている襲撃者たちを認識する。第六世代の熱光学迷彩ならば生体電気センサーで捉えることができる。


「襲撃者は12名。生体電気センサーの反応からしてアロー・ダイナミクス・ランドディフェンス製の機械化ボディを使用した生体機械化兵マシナリー・ソルジャーだ」


「ああ。クソ。どうする?」


「ぶち殺して進むしかない」


「じゃあ、そうしましょう」


 呉が言い、東雲が“月光”を展開する。


「ALESSに誤射される可能性は?」


「あるだろうな」


「連中、仕事ビズをやれよな」


 八重野が答え、東雲が愚痴りながら銃撃を繰り返すアローが送り込んだ生体機械化兵マシナリー・ソルジャーの方に向かう。


 敵の生体機械化兵マシナリー・ソルジャーはサプレッサーを装着した電磁ライフルを使っている。音だけでは位置を掴めない。


「東雲。そっちにこちらが捉えた敵の情報を送る。頼りにしてるぜ」


「あいよ。行くぞ!」


 東雲は呉から敵の生体機械化兵マシナリー・ソルジャーの生体電気センサーで捉えた情報を受け取り、それを使って敵の位置を把握して攻撃を行う。


「ぶち抜け!」


 東雲が“月光”を投射し、生体機械化兵マシナリー・ソルジャーを貫く。廃熱機能が損傷した機械化ボディが爆発を起こし、熱光学迷彩が解けて人工筋肉と装甲が散らばっているのが見えた。


「よーし! 順調!」


 東雲が喜びの声を上げたとき、東雲の左腕が肩から吹き飛ばされた。電磁ライフルによる射撃だ。大口径弾が東雲の肉体を抉った。


「やってくれるな。全滅させてやるよ」


「東雲、援護してくれ。私が突っ込む」


「ああ。分かった」


 八重野が勢いよく敵に突撃し、東雲が八重野の後方から援護する。


 敵の生体機械化兵マシナリー・ソルジャーが電磁ライフルで猛烈な射撃を東雲たちに浴びせるが、八重野はそれをすり抜けて敵に肉薄し、超電磁抜刀の強烈な一撃を敵に向けて叩き込んだ。


「いいぞ、八重野! やっちまえ!」


「おっと。あたしの獲物を横から取るなよ?」


 さらにセイレムが突撃し、生体機械化兵マシナリー・ソルジャーを斬殺。


『東雲! チャーター機には乗り込んだ?』


「まだだよ! 敵とドンパチしてる! アローの生体機械化兵マシナリー・ソルジャーだ!」


『分かった! でも、急いで! アメリカ海軍の空母が展開した! アローがニューロサンジェルスに大規模な攻撃を仕掛ける前兆だよ!』


「マジかよ。勘弁してくれ」


 ニューロサンジェルスにアメリカ海軍の空母打撃群CSGが展開しようとしていた。自国への攻撃を行おうとしているのだ。


「八重野、呉、セイレム! 急がないとアメリカ軍が攻撃してくるぞ!」


「これで急いでないように見えるか?」


「すまん、すまん」


 呉が睨むのに東雲がそう言いながら生体機械化兵マシナリー・ソルジャーを撃破していった。


「ラスト!」


 東雲が敵の生体機械化兵マシナリー・ソルジャーを撃破。敵はこれにて全滅した。少なくともALESSを相手に暴れていた連中は全滅だ。


「オーケー。敵撃破。さっさと飛行機に乗り込むぞ」


お土産パッケージを忘れるなよ」


 東雲とセイレムがそう言い合って搭乗手続きを自動で行い、ジェーン・ドウが準備したチャーター機を目指した。


「乗り込め、乗り込め!」


 中型旅客機が止まっているのに東雲たちが乗り込み、座席に座った。


『コントロール。これから離陸する』


 旅客機のパイロットが管制塔に連絡し、旅客機がタキシングして滑走路に入る。そして、エンジンの出力が上がり、滑走路を滑るように走って上空に飛び立った。


「ふー。セーフ。死ぬかと思った」


「やばい仕事ビズだったな」


「いつものことと言えば、いつものことだけどさ」


 呉と東雲が機内で愚痴る。


「TMCまで直行するのか?」


「そうだよ。寄り道はしない。補給も必要ない」


 お土産パッケージである南島エルナが東雲に尋ねると東雲がそう答えた。この旅客機はこのまま成田に向かうことになっている。


「一安心だな。戦場では長居しない方がいい」


「全くだな」


 八重野も珍しく安心した様子を見せ、東雲がリラックスする。


 東雲たちを乗せた旅客機はフライトを続けた。


「なあ、博士。あんたは“ネクストワールド”について研究してたのか?」


「そうだよ。私は暗号とAIが専門だ。“ネクストワールド”はその両方に関係している。“ネクストワールド”を生み出したのはAIだし、未知の技術が使われている“ネクストワールド”は暗号のようなものだ」


「で、解析はできたのか?」


「一定の成果は得られた。既に結果はTMCの大井データ&コミュニケーションシステムズ本社に送信してある。もう少し解析を進めれば丸裸にできるだろう」


「へえ」


 南島エルナが語り、東雲が感心する。


「それじゃあ、あんたがTMCに到着すれば大井も“ネクストワールド”を──」


 そこで旅客機が揺れた。まるで乱気流に巻き込まれたように。


「なんだ……」


「軍用機が近くにいる。どこの飛行機だ?」


 東雲が狼狽えるのに八重野がそう言う。


『こちらフラッグ・セキュリティ・サービス・エアロスペース・オペレーションズ。大統領令を受けて作戦行動中。飛行中の航空機に告ぐ。こちらに従い、指定された空港に着陸せよ。指示に従わなければ撃墜する』


『了解。そちらの指示に従う』


 2機のフラッグ・セキュリティ・サービスの無人戦闘機によって東雲たちを乗せた旅客機が着陸コースに入って行く。


「着陸しようとしてるぞ」


「マジかよ。どこに降りるんだ?」


「位置的にアラスカだ」


「アラスカを牛耳ってるのは?」


「アロー」


 東雲の問いに八重野が答えた。


 無人戦闘機に誘導されて旅客機が飛行し、アラスカにあるデッド・スティーブンス・アンカレッジ国際航空宇宙港に着陸する姿勢に入った。


「どうする、どうする? このままだとアローに拘束されちまうぞ」


「どうしようもない。ジェーン・ドウも想定していなかっただろう事態だ。私もアラスカには何のコネもないしな」


「不味いぞ」


 そして、東雲たちを乗せた旅客機が着陸し、タキシングして空港の敷地を移動すると搭乗口に収まる。


「全員、座席から動くな」


 フラッグ・セキュリティ・サービスの強化外骨格エグゾを装備したコントラクターたちが旅客機に乗り込んできて、東雲たちに銃口を向けた。


「指示に従ってこの飛行機から降りろ。一時的にお前たちを拘束する」


「どういう理由で?」


「黙れ。我々は大統領令を受けて行動中だ」


 東雲は渋ったが、フラッグ・セキュリティ・サービスのコントラクターたちは強引だった。彼らの所有している銃火器の銃口は確実に東雲たちの頭部に向けられている。


「はいはい」


 東雲も諦めてフラッグ・セキュリティ・サービスの指示に従って旅客機を降りた。そのまま空港内に連行され、空港の一角に設けられた収容施設に入れられた。


 収容施設は牢獄というほどでもなく、軽食のサービスとゆったりと座れる椅子があり、何人かの東雲たち同じようにフラッグ・セキュリティ・サービスに強制着陸させられた旅客機の乗員がいた。


 全員が途方に暮れているように見える。


「あーあ。捕まちまった。どうするよ?」


「飛行機を適当にハイジャックして逃げるか?」


「そんなことしたら無人戦闘機に撃墜されちまうよ、セイレム」


 セイレムがどうでも良さそうに言うのに東雲が返した。


「連中はどうして旅客機を強制着陸させてるんだ? 航空網をマヒさせてアトランティスに打撃を与えようって訳か? それとも明確な目的があるのか?」


「しらね。さっぱり分からん。もしかすると俺たちのお土産パッケージが狙いだったりしてな」


「そいつは不味いぞ」


 東雲が肩をすくめるのに呉が眉を歪める。


「ベリアに情報を集めてもらったらどうだ?」


「繋がるのかね」


「やってみろ」


「はいはい」


 東雲がARからベリアに連絡する。


『東雲? どうしたの? 旅客機に乗り込んだんじゃないの?』


「フラッグ・セキュリティ・サービスの連中にアラスカに強制着陸させられた。連中がどういう目的で俺たちを拘束しているのか調べてくれないか」


『オーキードーキー。やってみる』


 ベリアがそう言ってマトリクスから情報を集める。検索エージェントが走り、北米を中心とするマトリクスから情報が集められた。


『東雲。フラッグ・セキュリティ・サービスは大統領令で行動中。大統領令は西海岸の治安回復を目的とした軍事行動の実施。フラッグ・セキュリティ・サービスも動員されてテロリスト狩りをやってる』


「俺たち、テロリストだと思われてんの?」


『特定の人間を狙ったものじゃない。手当たり次第だよ。疑わしきは拘束。既にあちこちで旅客機が強制着陸させられてる。東太平洋の航空優勢はアメリカ軍とアローががっちり握ってる』


「はあ。逃げる方法は?」


『ないね。西海岸全域に飛行禁止命令が出た。全ての飛行機は引き返して着陸しろってさ。引き返せない飛行機は撃墜するって言ってる』


「滅茶苦茶やりやがる。正気かよ」


 大統領令が発令され、西海岸を飛行中の全ての航空機にアメリカの空港に引き返し、着陸せよとの指示が出ていた。帰還不能点ポイント・オブ・ノー・リターンにいる航空機は外国籍であろうと撃墜されている。


「このまま拘束されてるとどうなる?」


『まず偽装IDがバレる。それから大井との繋がりがバレて、よくて刑務所、悪ければその場で射殺ってところかな』


「勘弁してくれよ。奪取しなきゃならんが──」


 東雲が呻いたとき、彼のARにメッセージが来た。


「ジェーン・ドウからだ」


『彼女、何だって?』


「迎えを寄越すとさ。指定された地点まで行けって。この地点、海の上じゃないか?」


『こっちにも送って』


「あいよ」


 東雲がベリアにジェーン・ドウから送られた位置データを送信した。


『本当だ。洋上だよ。アラスカ沖か。飛行艇でも使うつもりなのかな』


「どうでもいいけど、どうやって海の上に行けっての?」


 俺たちはイエス・キリストじゃないから水に上は歩けないぜと東雲がぼやく。


『こっちで支援する。アラスカの港湾施設の構造物に仕掛けランをやってる。船を適当にくすねるから指定された港の埠頭まで向かって。事前に伝えておくけどフラッグ・セキュリティ・サービスには何もできない』


「了解。どうにかしましょう」


 東雲がそう返すと呉たちの方を向いた。


「ジェーン・ドウが迎えを寄越してくれる。ただし、送迎係の合流地点は洋上だ。ベリアが船を盗むから港まで行くぞ。いいか?」


「洋上? どういうことだ?」


「知るかよ。とにかく、ここにいたら殺される。逃げるしかない」


「じゃあ、やるか」


 東雲が言い、呉が頷いた。


「フラッグ・セキュリティ・サービスのコントラクターが警備に6名。ベリアたちはマトリクスから支援できない。殺したら連中のマトリクスは大騒ぎになるぞ」


「強行突破だ。皆殺しにして連中の軍用四輪駆動車を奪って港に向かう」


「オーケー。やりましょう」


 セイレムがにやりと笑い、東雲が“月光”を展開する。


……………………

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