西海岸戦争//ジェーン・ドウ
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──西海岸戦争//ジェーン・ドウ
東雲たちがTMCでサンドストーム・タクティカルによるテロを阻止するという
「なんか不気味だな」
「今、
「マジかよ。戦争だって?」
「そう、戦争だよ。企業が殴り合ってる。
「わお。ジェーン・ドウもアメリカの駒を動かしているのかね……」
「そうなんじゃない? 君が望んだ休暇が来たのかもよ。いい機会だから猫耳先生とデートして来たら?」
「うむ。そうだな。それも──」
そこで東雲が言葉を飲み込んだ。
「クソ。噂をすれば」
「ジェーン・ドウ?」
「そう。今からTMCセクター6/2に来いとさ」
「いってらっしゃい」
「薄情な奴」
ベリアが手を振るのに東雲はそう愚痴って自宅を出た。
そして、東雲は電車に乗るとセクター6/2に向かった。時刻は会社員たちが帰宅する時間帯で、夜の仕事が多いセクター6/2は帰宅する前に一杯やっていこうという会社員たちで溢れている。
東雲はジェーン・ドウに指定されたバーに入る。
「遅い」
ジェーン・ドウからいつもの言葉を貰い、個室に移った。
「前の
「はいはい。で、何の
「戦争の話は聞いたか?」
「アメリカで六大多国籍企業がドンパチしてるって話か?」
「そう、それだ。面倒なことになってる。アメリカと言えばアローだ。全土を支配しているわけではないとはいえ、多くの州政府はアローを頼る。そのアローがアメリカが戦場になろうとしているのにブチ切れた」
「おい。どこが戦争をやってるんだ? アローだろ。他は?」
「メティス、アトランティス、トート、大井。HOWTech以外全員だ」
東雲の問いにジェーン・ドウが忌々し気に語る。
「そいつは大乱闘だな。アローは何をしようとしている?」
「アトランティスはニューヨークやロサンジェルスという基盤があるが、他の連中はほぼ勝手に出しゃばって来た連中だ。そいつらをどうするかって? アメリカから叩きだすんだよ。連中の民間軍事会社を使ってな」
「あーあ。そりゃ大ごとだな。俺たちにその相手をしろ、何て言わないよな?」
東雲が渋い顔をしてそう尋ねた。
「お前らには別の
「ロサンジェルス?」
「正確にはニューロサンジェルスだな。アトランティスの支配下にあって、今都市の周りではアローの雇った連中との戦闘が起きている。アトランティスはニューロサンジェルスを死守する構えだ」
「スターリングラードみてえ」
「そんなところだ。スターリングラードと一緒で攻めてるアローが不利。連中は
「まあ、寒くはないだろ、西海岸の都市だし」
ジェーン・ドウが少し笑って言うのに、東雲はどうでも良さそうに返す。
「ただ、こっちも連中がドンパチしているのに巻き込まれている。大井データ&コミュニケーションシステムズの研究者がニューロサンジェルスにいるんだが、アトランティスに身柄を拘束された」
「おいおい。それをどうにかしろってのか?」
「それが
「ALESSとドンパチしろってか。援護は?」
「HOWTechの連中を貸してやる。HOWTechは戦争には参加してないが、ニューロサンジェルスで合同研究をやってた。HOWTechの連中も研究者に用事があるってことだ。アトランティスに押さえられると不味いデータもある」
「データって? まさか“ネクストワールド”についてか?」
「阿呆。今、それ以外に何が問題になってる。サンドストーム・タクティカルの連中のパフォーマンスは大成功だよ。六大多国籍企業は“ネクストワールド”の使用法と対抗手段の開発を急いでる」
「そして、コツコツ研究するより研究しているところから
「それが経済的なんだよ」
ジェーン・ドウが東雲を鼻で笑った。
「オーケー。飛行機はニューロサンジェルスに離発着できるのか? また軍用輸送機ってのは勘弁してほしいぜ」
「
「八重野が? そういやロサンジェルスは八重野の故郷だったな」
「放蕩娘の里帰りってわけだ。ちびのサイバーサムライが暮らしていたときとは見違えるようになっているがな」
「へえ」
ジェーン・ドウがカクテルを揺らしながら言うのに東雲がそう返す。
「で、
「軟禁してるのはALESSだよな。ハンター・インターナショナルは?」
「さあな。大事になったら出張ってくるんじゃないか」
「勘弁してくれよ」
東雲は心底嫌そうに呻いた。
「いいからやれ。今度は失敗は許さんぞ。最近は何度も失敗しやがって。俺様の評価に響くんだからしっかり働け。お前らは俺様の犬だということを忘れるな」
ジェーン・ドウがそう言い放ってドアを指さした。
「はいはい。分かりましたよ」
東雲はため息をついてバーを出た。
そして、TMCセクター13/6に戻る。
「帰ったぞ」
「お帰り、東雲。ジェーン・ドウは何だって?」
「
「紛争地帯に飛び込むわけだ。相変わらずろくでもない
「全くだな」
ベリアが諦め気味に言うのに東雲が同意した。
「現地の情報を集めてくれるか。俺は八重野と呉、セイレムと話し合う。特に八重野は現地の犯罪組織にコネがあるらしくてさ」
「オーキードーキー。調べておくよ」
「頼んだ」
東雲はそう言って八重野の部屋に向かう。
「八重野。
「どこで、何をするんだ?」
八重野が玄関で東雲にそう尋ねた。
「ニューロサンジェルスで大井の研究者を救出する。ジェーン・ドウはあんたがニューロサンジェルスの犯罪組織にコネがあるって言ってる」
「ニューロサンジェルスか。確かにコネはある。あまり使いたくはないが」
「そこを何とか頼むぜ」
「分かった。連絡を取ってみる。呉とセイレムは?」
「動員だ。現地はアトランティスとアローが戦争してる。俺たちふたりじゃとてもじゃないがやばい」
八重野の問いに東雲がそう答える。
「で、だ。今から呉たちと
「ああ」
東雲と八重野は呉とセイレムに連絡し、セクタ-9/3の居酒屋で落ち合うことになった。TMCを走っている電車は大井の系列企業が運営しているが、電車だとセクター13/6からでもすぐにセクター9/3に到着する。
「よう、おふたりさん。
「聞いてる。聞く限りかなり不味い」
東雲が居酒屋前で呉とセイレムと合流。
「もう状況を把握してるのか?」
「ニュースは聞こえてくるものだぜ。マトリクスに繋いでればな」
「はいはい。ローテク人間で悪うございました」
「あんたもそろそろ本気でBCI手術受ける準備しておいたらどうだ?
「やだ。絶対やだ。脳みそにケーブル繋ぐとかぞっとする」
呉が諭すのに東雲は断固拒否の構えを見せた。
「ほっとけ、呉。こいつは剣を振り回してるだけで役に立つ」
「そうだな」
セイレムがうんざりしたようにそう言い、呉が肩をすくめる。
「じゃあ、飲み食いしながら話し合おうぜ」
東雲たちが居酒屋に入る。
案内ボットに席に案内されて、東雲たちが早速注文する。
「馬刺しと竜田揚げと生中」
「4種のサラダ盛り合わせと冷や奴。それからウーロン茶」
「肉食えよ、八重野」
「後で食べる」
東雲と八重野がそう言葉を交わし、すぐに料理と酒が運ばれてくる。全て合成品だが、味はそこそこだ。
「ニューロサンジェルスには八重野が犯罪組織にコネがあるって話だ。具体的にはどうなんだ、八重野……」
「ラジカルサークルという犯罪組織がある。ロサンジェルス崩壊時にはオールドドラッグの密売をやっていた組織だ。今は電子ドラッグや違法なインプラントを密売してる。ロサンジェルス崩壊時からのメンバーと知り合いだ」
「信頼できる連中なのか?」
「
「オーケー。いいニュースだ」
八重野が説明するのに東雲が頷いた。
「そいつらに武器の密輸を頼めるのか?」
「ああ。今も連絡用のIDは持ってる。連絡すれば密輸方法を指示してくるはずだ。船便なり空輸なりで」
呉が確認し、八重野が答える。
「で、ニューロサンジェルスの現状はどうなんだ?」
「アトランティスとアローが戦争してる。アローが民間軍事会社を動員してニューロサンジェルスに侵攻しようとしている。いろいろと言い訳はしてるが、アローは単にアトランティスをアメリカから叩きだしたいだけだ」
「戦況はアローが不利だってジェーン・ドウは言ってたが」
「確かにアローはニューロサンジェルスの災害地区で足止めされてる。血塗れの市街地戦をやってる状況だ。だが、ニューロサンジェルス市内に
「ふうむ。ALESSだけじゃなくてアローの連中も敵に回しそう」
「そうなるかもしれんな」
東雲がぼやくのに呉がそう言いながら焼き鳥をつまむ。
「問題の研究者は大井のどの部門なんだ?」
「大井D&Cウェストコースト。ALESSが軟禁してるとジェーン・ドウは言ってる」
「ふうん。ALESSがビルを封鎖してるってとこか。そこまでされて大井の連中がTMCでアトランティスに報復に出ないのが不思議だな」
東雲がタルタルソース付きの竜田揚げを取り皿にとりながら言うのにセイレムが合成の焼酎のオンザロックを飲みながら返す。
「アトランティスがやったことは連中が管理する都市での
「で、利益を失う、と。大井はTMCの経済都市としての信頼を落としたくないから、報復はしないってわけだな」
「そんなところだろう」
東雲が端的に表現し、呉が頷く。
「東雲。ラジカルサークルと連絡がついた。成田にアメリカ空軍の輸送機が来るから、そいつに乗せろと」
「成田に米軍の輸送機が来るの?」
「ああ。在日米軍はほぼ日本から撤退したが、日本には朝鮮国連軍の後方司令部が今もある。キャンプ座間。そこにいる人員のための物資輸送をやってる。キャンプ座間そのものは太平洋保安公司が管理運営しているが」
朝鮮国連軍は1950年から現代までずっと設置されているが、ほぼ有名無実と化しており、今朝鮮半島で起きている消耗戦には介入していない。
「じゃあ、後で成田に行くぞ。厄介な
東雲はそう愚痴ってビール風味の合成酒を飲み干した。
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