デモリッション//“ハニー・バジャー”
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──デモリッション//“ハニー・バジャー”
“ハニー・バジャー”のあらゆるセンサーが東雲たちを捉え、
口径35ミリ電磁機関砲が火を噴き、東雲たちが攻撃を避けるも遮蔽物も何もかもが高威力の機関砲弾で破壊されコンクリートの破片が飛び散る。
「クソッタレ! 敵は全滅したんじゃねーのかよ!」
「こいつ、AIに攻撃を任せてやがるな。自律型致死兵器システム規制条約違反だぞ」
東雲とセイレムが攻撃を躱すがすぐに次の攻撃が叩き込まれる。
電磁機関砲と同時にオートマチックグレネードランチャーがサーモバリック弾頭のグレネード弾を叩き込み、口径12.7ミリガトリングガンがうなりをあげる。
「おい、セイレム! こいつの弱点は!?」
「ああ? ねえよ、そんなもん。弱点ある兵器ってのは欠陥品だ」
「クソ。じゃあ、バラバラにしてやる!」
東雲が“月光”を高速回転させてハニー・バジャーに突撃する。
“ハニー・バジャー”はすぐに反応し、東雲にロケット弾を3発発射した。フレシェット弾頭のそれが殺意を撒き散らし、“月光”の隙間を縫って飛来したそれが東雲の肉をえぐる。
「おらっ!」
東雲が“ハニー・バジャー”の脚部に斬撃を叩き込み、切断した。
“ハニー・バジャー”がその姿勢を僅かに崩す。
「このまま──」
そこで東雲は思わぬものを見た。
切断したはずの“ハニー・バジャー”の脚部が再生し、すぐに姿勢を回復させた“ハニー・バジャー”が東雲をガトリングガンで銃撃したのだ。
「おいおい! なんだこいつ!?」
「気を付けろ、大井の。こいつは第2世代の半生体兵器だ。損傷個所をメモリに従って回復させて来る。確実に潰さないと鬼ごっこだぞ」
「マジかよ、クソッタレ。じゃあ、再生できないぐらい解体するしかねえな」
「そうだな。やるぞ」
今度は東雲とセイレムが同時に襲い掛かる。
“ハニー・バジャー”はふたりに火力を叩きつけ、確実な殺害を目指す。限定AIによる完全な無人兵器としてサンドストーム・タクティカルが運用する“ハニー・バジャー”は機械的な速度で交戦する。
瞬時に判断が下されて兵装が使用され、東雲とセイレムが辛うじて攻撃を回避し、そして弾きながら、“ハニー・バジャー”に肉薄した。
「ぶった切る!」
「死ね!」
東雲とセイレムがそれぞれ左右から“ハニー・バジャー”を挟撃する。
マニピュレーターアームや脚部が切断され、兵装が地面に落ちるも無数の兵装で武装した“ハニー・バジャー”の戦力はそう簡単には低下しない。
肉薄する東雲たちに近接防衛兵器が作動し、同時に4発の空中炸裂型迫撃砲弾が射出された。“ハニー・バジャー”の周囲に破壊が撒き散らされる。
「きりがねえぞ、こいつ! 死ぬほどめんどくせえ!」
「黙って戦え! こいつをぶち壊すか、こいつに殺されるかだ!」
“ハニー・バジャー”を相手に東雲が愚痴り、セイレムが怒鳴った。
「じゃあ、やってやりますよ! “月光”!」
東雲が“月光”を投射して“ハニー・バジャー”を貫いた。
だが、東雲の目的は別にある。
「主様! 我の出番じゃな!」
そう、“月光”の少女を呼び出したのだ。
東雲たちが“ハニー・バジャー”の火力を引き付けるのに、死角から“月光”の少女が“ハニー・バジャー”に襲い掛かった。
「やっちまえ、“月光”!」
「任せるのじゃ!」
跳躍した“月光”の少女によって“ハニー・バジャー”が肩に装備しているロケット弾を破壊し、暴発したそれが“ハニー・バジャー”の全身のバランスを失わせる。
「いいぞ! この調子でぶっ壊してやる、クソガラクタ野郎!」
東雲が追い打ちをかけるように“月光”を投射し、“ハニー・バジャー”のマニピュレーターアームを切り裂いて兵装を落とさせる。
そこで“ハニー・バジャー”が対戦車ミサイルを発射した。
「分裂した!?」
「軽装甲目標向けの多弾頭ミサイルだ! 奴はこっちの熱源を捉えてる!」
弾頭が分裂し東雲とセイレムに襲い掛かる。
「うおっ! こん畜生、やってやるぜ!」
東雲は多数の弾頭に分裂した対戦車ミサイルを“月光”を投射して迎撃する。
「大丈夫か、セイレム!」
「まだいける。まだいけるぞ。血が燃えるようだ」
「あんた、それ病気だぜ?」
東雲の方は血が燃えるどころかなくなりそうで救急用造血剤を口に放り込んだ。傷を回復させること、“月光”で敵を斬ること、“月光”の少女の成人アバターを維持すること。これらで血を失い過ぎている。
「さあて。今度こそ潰すぞ」
「主様。我の方は敵に見えておらぬようじゃ。こっちで攻撃するぞ!」
「ああ。やってやろうぜ!」
“ハニー・バジャー”は既にリソース転換でこれまで負った損傷を回復させつつある。だが、元のリソースは確実に減少している。
「タコ殴りにしてやる!」
「やっつけるのじゃ! 魔剣“月光”の力を思い知るがいい!」
東雲と“月光”の少女が“ハニー・バジャー”に斬撃を叩き込み続ける。
「ああ。これが戦いだ。面白い!」
セイレムも加わり、“ハニー・バジャー”を攻撃。
“ハニー・バジャー”はリソース転換で損傷を回復させつつ、再び対戦車ミサイルを発射しつつ、ミサイルを迎撃した東雲を狙って電磁機関砲を叩き込む。
「ふっざけんなよ! いい気になりやがって! くたばりやがれ!」
東雲が“月光”を投射するのに
だが、“月光”の刃は逸れず、
「やっちまえ、“月光”!」
「一撃喰らわせてやるのじゃ!」
そして、“月光”の少女が突撃。
目視以外のあらゆるセンサーに捕捉されない“月光”の少女が今度は対戦車ミサイルランチャーを破壊し、暴発した対戦車ミサイルによって“ハニー・バジャー”が大きく揺さぶられ、姿勢が崩れる。
「いいぞ。相手は手負いだ。このまま仕留める」
セイレムが突撃し、姿勢が崩れた“ハニー・バジャー”の脚部を切断し、姿勢を本格的に崩し始めた。
“ハニー・バジャー”は反撃を試みるも、火器管制システムがバランス制御とかみ合わず、東雲やセイレムを狙った攻撃は明後日の方向に飛んでいく。
「トドメだ! “月光”、同時攻撃!」
「了解じゃ!」
東雲が前方から、“月光”の少女が後方から“ハニー・バジャー”を挟み撃ちしに“ハニー・バジャー”の胴体を串刺しにした。
そこで“ハニー・バジャー”の制御系とメモリが破壊され、機能の回復が不可能になった“ハニー・バジャー”が鹵獲防止のための自爆シークエンスに突入する。
「大井の! 離れろ! 吹っ飛ぶぞ!」
「マジかよ! このクソ野郎!」
セイレムが叫ぶのに東雲がすぐさま“ハニー・バジャー”から距離を取る。
そして、炸裂。
リソースを爆薬に転換した“ハニー・バジャー”が木っ端みじんに吹き飛び、辺り一面に爆炎と黒煙を振りまいた。
「よし、撃破!」
「やったな」
東雲がガッツポーズを取り、セイレムが“竜斬り”を鞘に収めた。
「主様! 我は役に立てたかの?」
「ああ。流石だ、“月光”。惚れ直しちまったぜ?」
「ふふっ。主様の役に立てるのが一番の幸せじゃよ」
東雲が“月光”の少女に笑みを浮かべてサムズアップするのに“月光”の少女は本当に幸せそうに微笑んでいた。
「さあて! 後は爆弾を仕掛けてずらかりますか」
「
東雲とセイレムがそう言葉を交わす。
「“月光”。すまないが戻ってもらっていいか?」
「分かったのじゃ。また呼んでくれるのじゃろう?」
「ヤバイ時の頼りはお前以外にいないよ」
「いつでも頼って欲しいのじゃ」
そう言って“月光”の少女は青緑色の粒子となり姿を消した。
「爆弾の設置地点まで進むぞ。一応用心はしてくれ」
「当り前だ」
東雲たちは研究所内を駆け抜けて爆弾の設置予定地点まで前進した。
「ここだな。八重野、仕掛けてくれ」
「分かった」
設置予定地点に八重野が電子励起爆薬をセットする。起爆は無線による遠隔操作だ。
「セット完了。いつでも爆破できるぞ」
「オーケー。ずらかろうぜ。ここは木っ端みじんに吹き飛ばす」
八重野が爆弾を仕掛け終え、東雲たちが研究所を脱出する。
「まだこの装甲車は使えそうだな」
「新しく足を準備してる暇はない。こいつで逃げよう。俺が運転する」
「頼むぜ、呉」
東雲たちは呉が運転する軍用装甲車に乗り込み、ASAの研究所から逃げていく。
「そろそろ起爆しても大丈夫だ。やるか?」
「やれ」
「起爆」
次の瞬間、研究所があった場所にきのこ雲が吹き上げ、衝撃波が地上を舐めるように広がっていった。東雲たちが乗っている軍用装甲車も幾分かの衝撃を受けて揺れる。
「すげえ爆発。こりゃニュースになるな」
「
「でも、あれだけ爆発が起きたら誰かがネットに映像をアップするだろ?」
「アングラの情報は信頼されないものだ、東雲」
八重野が説き伏すようにそう返した。
「なにはともあれ
「この国は治安がいいし、飯は美味いし。TMCに帰りたくないな」
呉がそう言い、東雲はそう言いながら身を伸ばした。
東雲たちはそのままサンホセの中心街に戻り、そこからファン・サンタマリーア国際航空宇宙港に向かって、そしてチャーター機でTMCへと戻っていった。
コスタリカ共和国は爆弾テロがあったと報道しただけだ。
場が
「ダガン少将閣下。ASAコスタリカ・インテリジェンス・インスティテュートからの通信途絶。偵察衛星は巨大な爆発を捉えています。恐らく、生存者は」
サンドストーム・タクティカルのコントラクターがサンドストーム・タクティカルの
「死に急いだか。誰もそんなことは命令していないというのに」
モーシェ・ダガンがそう呟いた。
そして、彼は深々と息を吐くと、立ち上がり歩き始めた。
場所はどこかの研究施設内部で剥き出しのコンクリートの壁を無数のケーブルが伸びている。廊下にはARで案内されるようにセットされており、モーシェ・ダガンは中央研究室という方向に向かっていた。
「エリアス・スティックス博士。コスタリカの研究所が襲撃を受け、爆破されたぞ。私が指摘したとおりの結果になったな」
中央研究室にはいくつものサーバーやサイバーデッキを初めとする電子機器が設置されており、エリアス・スティックスを含めた多くのASAの研究者たちがいた。
「そのようだな。君が正解した。我々は退避して正解だったな。幸い、研究員もデータも無事だ。何の不都合もない」
「何の不都合もない、か。何人死んだと思っている。私の部下も、お前の部下も大勢が死んだぞ。コスタリカの研究所は完全に放棄しておくべきだった。攻撃の予兆があった時点で、すぐに!」
エリアス・スティックスが平然と述べるのにモーシェ・ダガンが憤った。
「将軍。進化に犠牲はつきものだ。人類のための尊い犠牲として受け入れようじゃないか。明日の人類のために彼らは犠牲になったのだよ」
「ふざけるな。避けられたはずの死を尊い犠牲とは呼ばない。それはこう呼ぶのだ。犬死に、と。私の部下は死に急いだ。彼らにはもう何もないというのに」
「理性的に考えてみたまえ。我々の研究拠点が“ここ”だと知られないためにはコスタリカの研究施設を犠牲にする必要があった。そうでなければ六大多国籍企業はすぐさま“ここ”に乗り込んできたはずだ」
エリアス・スティックスはあたかもできの悪い学生に説明する講師のような口調でそう語った。
「それにもはや死は不都合ですらなくなる」
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