デモリッション//ブリーチ

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 ──デモリッション//ブリーチ



「分かったのは」


 東雲がAR上で地図を広げる。


「サンドストーム・タクティカルはがっちりASAの研究所を固めているということ。地対空ミサイルはわんさかで、ゲートにはアーマードスーツと無人戦車。恐らく内部は敵だらけで間違いないだろう」


 東雲たちは偵察を終えて、ASAのAI研究所の警備を確認した。


 それは東雲が言う通りで、サンドストーム・タクティカルは軍事基地を守るように重装備で警備を行っていた。


「突っ込むと蜂の巣にされかねないが、いいニュースだ。ベリアとロスヴィータがサンドストーム・タクティカルのC4Iをハックできると言ってる。そっちに任せれば少しばかりの猶予は生まれるだろう」


「まあ、無人戦車を相手にちょっとした余裕だと死にかけるんだが」


「言うなよ。あれは俺がどうにかするから。戦車をぶっ潰すのは好きじゃないけど得意だぜ?」


 呉が指摘するのに東雲が小さく笑ってそう返した。


「で、誰が爆弾を扱うかだ。俺は専門外だ。扱ったことのある奴いるか?」


 東雲がメンバーを見渡す。


「私がやろう。爆発物の取り扱い経験はある」


「よし。爆弾は八重野に任せる。セイレムは八重野を援護してくれ。俺と呉で突破口を作って、暴れまわるから」


 八重野が言うのに東雲がそう宣言した。


「おいおい、大井の。あたしに先頭をやらせろ。お守りはごめんだ」


「じゃあ、呉が八重野を援護してくれ。八重野は死なないから大丈夫だと思うが、爆弾をロストしても仕事ビズは失敗だ」


 セイレムが突っ込むのに東雲が作戦を変更。


「分かった。あんたも用心しろよ。他人より頑丈なのが取り柄なようだが」


「それぐらいだよ、俺自身の取り得は。だが、“月光”は違うぜ? 現代兵器と戦ったって俺の“月光”が勝つ」


「得物に自信があるのはいいことだ。サイバーサムライらしいな」


「俺はサイバーサムライじゃないけどね」


 呉が言うのに東雲が肩をすくめてみせた。


「で、突入の際にはベリアとロスヴィータが調達した軍用装甲車を使う。脱出の際にもこいつを使いたいが、破壊される可能性を考えて帰りの足は現地調達も想定する」


 ベリアとロスヴィータが廃棄された軍用装甲車を廃車置き場から調達していた。アクティブA防護PシステムSなどは搭載されていないが、12.7ミリの重機関銃の射撃にも耐えられる。


「無人警備システムはベリアたちが制圧する予定だ。だが、相手はそのことに備えているだろうとベリアたちは予想している。アーマードスーツはゴースト機じゃなくて、人間が入っているはずだ」


「そもそもアーマードスーツは無人警備システムに繋いでないだろう。そいつはサンドストーム・タクティカルのC4Iで動いているはずだ。無人戦車と同じように」


「そうだよ。大暴れしなきゃならん。警備を排除して爆弾を設置し、除去される前に研究所内で起爆する。で、俺に分からないのは爆弾の威力だ」


 あれはどれくらいの威力があるんだと東雲はジェーン・ドウが準備し、現地で受け取った電子励起爆薬が詰まったスーツケースを見る。


「出力1キロトンってところあろう。冷戦時代の特殊核爆破資材SADMと同程度の威力だ。研究所ひとつを吹っ飛ばすのには十分だろう」


「オーケー。どれくらい爆弾から離れれば安心なんだ?」


「それは分からないな。研究所の内部で爆発させるということは研究所の構造に影響を受ける。研究所が頑丈ならば爆発は内部から少し出る程度だろうが。とりあえず、核爆弾としてシミュレーションしたデータを送る」


「受け取った。割と離れないといけないな。放射線は出ないって話だが」


「電子励起爆薬は核反応による爆発ではない」


 東雲が八重野が送って来たデータを見ていい、八重野がそう指摘した。


「よし。じゃあ、作戦は確認できたな。今回の仕事ビズはシンプルだ。突っ込んで、爆破する。それだけ。刀振り回して敵をぶった切って、大暴れしてからとんずらしよう。いいな?」


「ああ。やってやろう」


 東雲がそう言って立ち上がり、呉たちが頷いた。


 東雲たちはホテルをチェックアウトし、ベリアたちが準備した軍用装甲車に乗り込むとサンホセ郊外のASAの研究施設に向けて出発した。


 特に現地の警察や民間軍事会社PMSCが警戒している様子はなく、いつもの仕事ビズと違ってチェックポイントなどもなく、軍用装甲車はASAの研究施設に近づいていった。


「いよいよだぜ。準備はいいな? すぐにドンパチが始まるぞ。心臓が飛び出ないようにしておけよ」


「言ってくれるな。あたしはいつでもおっぱじめられるぜ、大井の?」


 東雲が見えて来たASAの研究施設を見つめて言うのにセイレムが不敵に笑った。


「いい感じだな。陰謀企ててるクソ野郎どもを掻き回してやろう」


 東雲はそう言ってアクセルを全開に踏んだ。


 軍用装甲車が加速していき、ASAの研究施設が瞬く間に迫る。


「突っ込むぞ!」


 そして、軍用装甲車がASAの研究施設の正面ゲートを突破し、敷地内に突っ込んだ。


「降りろ、降りろ! 狙われるぞ!」


「ぶちかませ!」


 東雲たちが大急ぎで軍用装甲車を降り、サンドストーム・タクティカルの警備部隊と対面する。


『東雲。電子支援を開始するよ。サンドストーム・タクティカルの構造物内に侵入した。これからC4Iをマヒさせてから、無人警備システムを焼き切る!』


「やってくれ、ベリア! こっちはもう始めてる!」


 東雲が正面ゲートを警備していた無人戦車に突撃しつつそう叫ぶ。


 アロー・ダイナミクス・ランドディフェンス製の無人戦車は砲塔を予想以上の速度で回転させて東雲たちを狙う。


 市街地戦も想定したこの無人戦車には無数の機関銃やガトリングガンが装備されており、それらの銃口も東雲たちを捉えている。


 そして55口径120ミリ電磁主砲を含めたそれらが一斉に火を噴いた。


「うおおお!? 殺意たけえっ!? ベリア、C4Iは!?」


『今すぐ! 実行!』


 東雲が“月光”で主砲弾である多目的対戦車榴弾HEAT-MPを撃ち落し、さらに叩き込まれてきた無数のライフル弾を弾くのに、ベリアが叫んだ。


 無人戦車からの攻撃が一時停止し、東雲に向けられる殺意が止まる。


「サンキュー、ベリア! さあ、ジャンクにしてやるぜ!」


 東雲が一瞬だが動きを止めた無人戦車に肉薄し、主砲を叩き切り、砲塔上部に乗り込みそこから砲塔内の制御系を破壊した。


 無人戦車はそれで機能を停止。無力化された。


「よっしゃ! これで片付い──」


 そこで砲声が響き、東雲が乗っていた無人戦車が爆発する。


「東雲! もう1台来たぞ! 大丈夫か!?」


「やってやるよ、クソ戦車!」


 八重野がアーマードスーツを相手にしながら叫ぶのに、東雲が正面ゲートに侵入してきた新しい無人戦車に向かう。


『ヘッジホッグ・ゼロ・ワンより本部HQ。侵入者と交戦中。侵入者は4名。いずれもサイバーサムライ』


本部HQよりヘッジホッグ・ゼロ・ワン。なんとしても排除せよ』


 無人戦車とアーマードスーツが東雲たちに襲い掛かる。


「遊んでやろう。退屈させてくれるなよ?」


 セイレムがアーマードスーツに一瞬で肉薄し、電磁機関砲を叩き切り、さらに本体にすかさず斬撃を叩き込み、制御系を破壊されたアーマードスーツが火花を散らして動きを止める。


 だが、すぐに次のアーマードスーツが現れ、セイレムを電磁機関砲やロケット弾で狙って来る。あらゆる火力が叩き込まれ、爆炎が広がった。


「甘い! だが、悪くはないぞ!」


 セイレムがさらに加速してアーマードスーツに突っ込み“竜斬り”をアーマードスーツに突き立て、一気に引き裂く。


「くだらん鉄くずで刀に勝てるとは思わないことだ」


 セイレムはそう言ってニッと笑った。


 そのころ、東雲は乱入してきたもう1台の無人戦車を相手にしていた。


「クソ、クソ、クソ! バカスカ撃ちやがって! 殺す気かよ!」


 東雲が“月光”を高速回転させて銃弾を弾きつつ、主砲から叩き込まれる多目的対戦車榴弾HEAT-MPに“月光”を投射して迎撃する。


「ぶちかます!」


 東雲が跳躍して主砲から逃れるも、市街地戦仕様の無人戦車の機関銃やガトリングガンはビルなどの高い建物から歩兵によって攻撃されることを考えて、ほぼ直上が狙えるほどの俯角を有する。


 飛びあがった東雲に機関銃とガトリングガンが火を噴き続ける。


「くたばれ、ブリキ缶!」


 東雲は銃弾に肉をそがれ、ミンチにされながらも降下し、砲塔上部の装甲に“月光”を突き立てた。砲塔内部の制御系が叩き切られ、無人戦車の全ての兵装が沈黙する。


「やった! 他は!?」


「片付いたぞ、大井の。内部に突入ブリーチだ」


 東雲が周囲を見渡すのに、アーマードスーツを多数粗大ごみに変えたセイレムがそう言って返した。


「オーケー。突入ブリーチだ」


 東雲がASAの研究施設の正面エントランスの扉を“月光”で叩き切り侵入する。


『ヘッジホッグ・ゼロ・ワンより本部HQ。敵は施設内に侵入した。現在迎撃準備中。非戦闘員の退避を願いたい』


本部HQよりヘッジホッグ・ゼロ・ワン。了解した。非戦闘員を退避させる』


 サンドストーム・タクティカルの警備部隊が東雲たちを目指して殺到し始めた。


「サンドストーム・タクティカルを蹴散らして、進路を切り開くぞ、セイレム!」


「任せときな。やってやるよ!」


 東雲とセイレムが先頭に立ってASAの研究施設内を駆ける。


 無人警備システムはベリアたちの手で焼き切られており、反応を示さない。


本部HQより全部隊。侵入者を排除せよ。交戦規定ROEは射撃自由』


 そこでサンドストーム・タクティカルの生体機械化兵マシナリー・ソルジャーとアーマードスーツが東雲たちの前に立ちふさがった。


「突破するぞ、セイレム」


「皆殺しだ」


 東雲とセイレムが12名の生体機械化兵マシナリー・ソルジャーと6機のアーマードスーツに向けて突撃した。


『撃て、撃て! 敵はサイバーサムライだ! 肉薄させるな!』


『アーマードスーツは弾幕を展開しろ!』


 アーマードスーツが口径35ミリ電磁機関砲を掃射し、さらにサーモバリック弾頭のグレネード弾とフレシェット弾の70ミリロケット弾を叩き込んでくる。


「うおおっ!? 滅茶苦茶撃たれてる! この狭い場所でその弾幕は反則だろ!」


「文句を言うな、大井の! 躱すなり弾くなりしろ!」


「ひでえ!」


 セイレムは機関砲弾とグレネード弾を叩きりながら踏み込み、さらに東雲が前に出て“月光”で相手の猛攻撃を弾く。


『クソ! 突っ込んでくるぞ! 正気か!?』


『全火力を叩きつけろ! 戦術リンクで同期させて一斉射撃だ!』


『了解!』


 サンドストーム・タクティカル側が攻撃を連動させ、一斉に火力を叩き込んできた。


 廊下が炎に包まれサーマルセンサーでも相手が探知できなくなる。


『やったか……』


『待て。生体電気センサーに反応が──』


 燻る炎と煙の中から東雲が現れ、“月光”をアーマードスーツに突き立てた。


「おらあっ! 元勇者舐めんな! ドラゴンの相手だってしたことあるんだからな!」


 東雲は自棄になったようにそう叫び、アーマードスーツを次々に撃破していく。


『近接防衛兵器を使用する! 随伴歩兵は離れろ!』


 東雲が迫るのにアーマードスーツからボールベアリングを詰め込んだ空中炸裂グレネード弾が射出されて爆発で鉄片が撒き散らされる。


「また腹に穴が開いたぞ、畜生が!」


 東雲は内臓を何度もミンチにされながらそれを強引に身体能力強化で治し、アーマードスーツをぶった切った。


「いいぞ、大井の! このまま殺しまくれ!」


 さらにセイレムが突入し、一気に2体のアーマードスーツを両断した。


「よし! アーマードスーツ全滅! 残りを片づけるぞ!」


「任せな!」


 東雲とセイレムがサンドストーム・タクティカルの生体機械化兵マシナリー・ソルジャーに牙を剥く。


……………………

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