“キック・ザ・バリケード”//ドッグ・イート・ドッグ

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 ──“キック・ザ・バリケード”//ドッグ・イート・ドッグ



 呉とセイレムはハッカー集団“キック・ザ・バリケード”が根城にしていた建物の階段を駆け上り、サンドストーム・タクティカルの生体機械化兵マシナリー・ソルジャーとの交戦に向かっていた。


「元イスラエル国防軍IDFのローエー旅団か。かなりの機械化率のはずだ」


「ただのコントラクターではないだろう。既に複数の六大多国籍企業ヘックスに対して攻撃を行ったASAに味方しているんだ」


 呉とセイレムがそう言葉を交わす。


「捉えた。生体機械化兵マシナリー・ソルジャーが8名。アロー製の機械化ボディで間違いない」


「刺身にしてやろう」


 呉とセイレムが高度軍用機械化ボディを活かして一気にサンドストーム・タクティカルのコントラクターに肉薄することを試みる。


「ジャッカル・ゼロ・ワンよりシルバー・シェパード! 敵のサイバーサムライと交戦! 指示を求める!」


『シルバー・シェパードよりジャッカル・ゼロ・ワン。了解した。速やかに撤退せよ。コントラクターの生存が何よりも優先される。残りの仕事ビズはスコーピオン小隊が実施する』


「ジャッカル・ゼロ・ワンよりシルバー・シェパード。了解!」


 サンドストーム・タクティカルのコントラクターたちは赤外線遮断効果のあるスモークグレネードと熱光学迷彩を使用して呉たちから逃れようとした。


「逃がすか」


 だが、セイレムが踏み込んだ。彼女は音で状況を把握している。


 以前、クラウディウスと戦った時に音響センサーをバージョンアップしたのだ。


「肉薄させるな。肉薄させなければサイバーサムライも脅威ではない。弾幕を展開し、突破しろ。全ての銃火器から銃弾と爆薬を叩き込め!」


「了解!」


 アロー・ダイナミクス・ランドディフェンス製の口径12.7ミリ電磁機関銃も火を噴き、空中炸裂型グレネード弾も叩き込まれる。


「中東最強の元イスラエル国防軍IDFにしては温いじゃないか。仕事ビズに集中していないのか?」


「舐めてくれるなよ、サイバーサムライ。俺たちは歩く死体デッドマン・ウォーキングだ。エルサレムを自分たちの手でクレーターに変えたその日から、ずっと!」


 サンドストーム・タクティカルのコントラクターが腰に下げていた超高周波振動ナイフを抜き、セイレムが放った超電磁抜刀を受け止めた。


「やるじゃないか。楽しませてくれ!」


「くたばれ、サイバーサムライ!」


 セイレムが連続した斬撃を繰り出すのを超高周波振動ナイフを装備したコントラクターは攻撃を防ぎつつ、反撃に転じる。セイレムの右肩が貫かれ、抉られる。


「甘い」


 だが、セイレムも斬撃でコントラクターの左腕を切断した。


「援護します!」


「俺はいい! 置いていけ! お前たちは生き延びろ! 生き延びるんだ! 死ぬことは許さん! 俺はここで同胞を殺した罪の贖罪を果たす──!」


「くっ! 分かりました! 全員、撤退しろ!」


 サンドストーム・タクティカルのコントラクターたちはひとりを残してスモークグレネードが生じさせた煙幕の中を駆け抜け、屋上に向かっていた。


「さあ、さあ、さあ! 元イスラエル国防軍IDFの意地を見せてみろ!」


「やってやるよ、サイバーサムライ!」


 斬撃を叩き込むセイレムにサンドストーム・タクティカルのコントラクターは電磁ライフルを投げ捨てもう一本の超高周波振動ナイフを抜いて、セイレムの攻撃に応じつつ、反撃を行った。


 血液代わりの液状のナノマシンが飛び散り、双方の戦闘は激化する。


『呉! ALESSの緊急即応部隊QRFが向かって来てる! 戻ってきてくれ! ここから逃げないと不味い!』


「クソ! 分かった! セイレム! 戦闘中止だ! ALESSが向かっている!」


 東雲から連絡が来て呉がセイレムに向けて呼びかける。


「ここで下がれと言うのか? いいところだってのに!」


 そう言ってセイレムが“竜斬り”の刃をサンドストーム・タクティカルのコントラクターが握る超高周波振動ナイフに叩きつけて後退した。


『シルバー・シェパードよりジャッカル・ゼロ・ワン。ALESSの緊急即応部隊QRFが現場に到着した。邪魔なら排除していいが、各員の生存を最優先にせよ』


「ジャッカル・ゼロ・ワンよりシルバー・シェパード。了解。何としても帰還します」


『シルバー・シェパードよりジャッカル・ゼロ・ワン。幸運を祈る』


 サンドストーム・タクティカルの部隊は屋上に向けて撤退を始め、呉とセイレムは下にいる東雲たちとの合流を目指す。


「ベリア! まだかよ!?」


「待ってて! データの破損を修復しながら回収してるんだから!」


「ああ、もう! 八重野! 来るぞ! 窓に気を付けろ!」


 東雲がそう叫んだとき窓が割れて、ALESSのコントラクターが突入してきた。


『エイトボール・ゼロ・ワンより本部HQ。所属不明のサイバーサムライとハッカーがいる。Perseph-Oneを回収しようとしている模様』


本部HQよりエイトボール・ゼロ・ワン。何としても阻止しろ』


『エイトボール・ゼロ・ワンより本部HQ。了解』


 突入してきたALESSのコントラクターたちが東雲たちに向けて電磁ライフルを乱射する。東雲は“月光”を高速回転させて電磁ライフルの大口径弾を弾くが、あまりに集中した射撃に押された。


「ALESSのクソ野郎ども馬鹿みたいに撃ちやがって! やってやる! 反撃だ、八重野! 時間を稼ぐぞ!」


「分かった!」


 東雲が“月光”を高速回転させながらALESSの緊急即応部隊に向けて突っ込み、八重野も“鯱食い”を超電磁抜刀できるように握って突撃した。


「くたばれ!」


 東雲が“月光”を投射し、ALESSのコントラクターを仕留めるが、他のコントラクターたちから猛烈な射撃を浴びて後退。


「東雲! カバーする!」


 そこで八重野が飛び込み、超電磁抜刀でALESSのコントラクターを切り倒した。


「オーケー、八重野! いい感じだ! このまま押し返すぞ!」


 東雲と八重野が連携してALESSのコントラクターと戦闘を繰り広げる。


『エイトボール・ゼロ・ワンより本部HQ! 敵の抵抗が予想以上に激しい! 応援を求める!』


本部HQよりエイトボール・ゼロ・ワン。航空支援が到着する。コールサインはパラディン・ゼロ・ワンからパラディン・ゼロ・フォー。適時、戦術リンクで呼び出して使用せよ』


『エイトボール・ゼロ・ワンより本部HQ! 了解!』


 東雲たちがいる建物に向けてALESSから要請を受けて出動したハンター・インターナショナルの無人攻撃ヘリが飛来する。


『アムステルダムにハンター・インターナショナルが出動している。どうなってる? 連中は我々の許可がなければ出動できないはずだぞ』


『アムステルダム内で複数の民間軍事会社PMSCが交戦中の模様』


『我々も部隊を出せ。オランダ政府から安全保障業務を引き受けているのは我々太平洋保安公司だ』


 そこでハンター・インターナショナルの出動を知った太平洋保安公司が縄張り争いの観点から重武装の部隊をアムステルダムに出動させた。


『パラディン・ゼロ・ワンよりエイトボール・ゼロ・ワン。近接航空支援CASは実行可能だが、屋上に所属不明のティルトローター機がいる』


『エイトボール・ゼロ・ワンよりパラディン・ゼロ・ワン! こちらの機体ではない! 撃墜してもいいから支援してくれ!』


『パラディン・ゼロ・ワンよりエイトボール・ゼロ・ワン。了解。撃墜する』


 飛来したハンター・インターナショナルの無人攻撃ヘリがサンドストーム・タクティカルのティルトローター機をロックオンする。


『スコーピオン・ゼロ・ワンよりジャッカル・ゼロ・ワン。後始末は任せてくれ。撤退しろ。敵性勢力の無人攻撃ヘリがティルトローター機をロックオンしている』


『ジャッカル・ゼロ・ワンよりスコーピオン・ゼロ・ワン。撤退を支援してくれ』


『スコーピオン・ゼロ・ワンよりジャッカル・ゼロ・ワン。敵機を撃墜する』


 ハンター・インターナショナルの無人攻撃ヘリがティルトローター機を撃墜する前に作戦空域に到着したサンドストーム・タクティカルの無人攻撃ヘリが空対空ミサイルを叩き込んできた。


『パラディン・ゼロ・ワン、被弾、被弾。戦闘不能。作戦空域から離脱する』


『パラディン・ゼロ・ツーより本部HQ。所属不明の無人攻撃ヘリが友軍機を攻撃した。指示を求める!』


 ハンター・インターナショナルの無人攻撃ヘリ部隊に混乱が生じる。


「東雲! 民間軍事会社同士が殺し合ってる! 今のうちに逃げるぞ!」


「待て! ベリアの仕事ビズがまだ終わってない!」


「諦めろ! 殺されるぞ!」


「クソ! ベリア、もういい! 撤退だ!」


 上階から戻って来た呉が叫ぶのに東雲がベリアに呼びかけた。


「もう! もう少しで手に入ったのに! 破損した断片しかないよ!」


「それで十分だ! 逃げるぞ! ALESSの連中を突破してとんずらだ!」


「分かった!」


 東雲がALESSの緊急即応部隊に向けて突撃するのにベリアたちが続く。


「失せろ、クソ野郎ども! 俺たちは逃げるんだ! 邪魔するな!」


 東雲が強引に突破口を作り、八重野、呉、セイレムが突破口を維持してベリアとともに出口へとすり抜けた。


『スコーピオン・ゼロ・ワンより展開中の全部隊。これから“後始末”を行う。撤退は完了したか?』


『ジャッカル・ゼロ・ワンよりスコーピオン・ゼロ・ワン。やってくれ。既に全ての部隊が現場を離脱した』


『了解』


 サンドストーム・タクティカルが送り込んだ無人攻撃ヘリが主力戦車はおろか頑丈なトーチカやバンカーすらも消し飛ばす大型対戦車ミサイルを東雲たちがいた建物に向けて解き放った。


「ALESS突破! このまま逃げ切り──」


 東雲たちが建物を出た瞬間に大型対戦車ミサイルが炸裂した。


 建物が丸ごと吹き飛び、爆炎は辺りを覆い尽くす。


「おわ! 連中、何使いやがった!?」


「大型対戦車ミサイルだ。アクティブA防護PシステムSでも無力化できない化け物だよ」


「マジかよ。中にいたALESSの連中はご愁傷様だな」


 崩壊していく建物から逃げつつ東雲が呻いた。


「で、データはどうなんだ、ハッカー? ジェーン・ドウへの手土産ぐらいにはなりそうなのか?」


「無茶言わないでよ。時間があればもっと情報を掴めたけど、あまりにみんなで急かすんだから。データは断片だけ。これから構造解析を行って、どうしてPerseph-Oneを手に入れたハッカーたちが揃って白鯨について調べたか突き止める」


 セイレムが少し辟易したように尋ねるとベリアがそう言って返した。


「しかし、ASAとサンドストーム・タクティカルの連中はもう六大多国籍企業を敵に回すのも厭わずって感じだな。何をしやがろうってんだ?」


「さあね。オリバー・オールドリッジとルナ・ラーウィルから技術だけを引き継いだのか、それとも狂った思想すら引き継いだのか。それすら分かってない」


「もう狂人の相手はうんざり」


 ベリアが言うのに東雲がため息を吐く。


「おっと。ロスヴィータから連絡。太平洋保安公司が連鎖反応的に動いた。アムステルダムに展開しようとしてる。空中機動歩兵と機械化歩兵を中心に無人戦車や砲兵、無人戦闘機が向かってる」


「あーあ。滅茶苦茶だな。戦場になるぞ」


「大丈夫。逆にこっちにとってはありがたいことだよ。この混乱のおかげで私たちが脱出するのは容易になった。ALESSと太平洋保安公司が縄張り争いを始めれば、私たちなんて問題にされない」


「そいつはラッキー。明日、すぐにずらかろうぜ」


「了解。私はロスヴィータとPerseph-Oneの断片の解析を始める」


 東雲たちは無事にホテルまで撤収し、何事もなかったかのように食事をし、見張りを立てつつ眠った。


 アムステルダムの街には朝まで砲声と銃声が響いていた。


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