スフィンクスの足元で//“ワールド・デッド”
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──スフィンクスの足元で//“ワールド・デッド”
東雲たちは一斉に騒乱の気配が訪れたポートサイドのスラムを駆け抜ける。
上空には
それに対して現地の武装勢力が銃撃や対戦車ロケット弾での攻撃を加えて、小競り合いが発生する。放置すれば大規模な戦闘になるだろう。
「もう滅茶苦茶。ハッカーは逃げてないよな?」
「ロスヴィータがトラフィックを監視してる。どうもZ&Eに対してまた
「おいおい、マジかよ。この状況でか? 命知らずだな」
「こんな状況だからでしょ。イスラム殉教機構エジプト戦線は民間軍事会社のサイバーサムライが攻め込んできたと思ってる。だから、民間軍事会社を攻撃して攻撃を頓挫させようとしてる」
「上手くいきそうなのか、それ……」
「Perseph-Oneは一度Z&Eの軍用
「クソッタレ。急いで
東雲はそう言ってスラム街を駆け、
「敵だ! 殺せ!」
だが、ここはイスラム殉教機構エジプト戦線やら犯罪組織やらのたまり場であり一ブロック進むごとに銃撃を浴びせられる。
「邪魔するな、クソテロリストども!」
東雲は立ちふさがるテロリストや犯罪者を切り刻みながら突撃していく。
テクニカルが立ちふさがれば血を注いだ“月光”で車体ごと切断し、重機関銃陣地があれば射手の首を刎ね飛ばし、バリケードがあれば切り刻んで突破した。
「まだZ&Eの特殊作戦部隊は来てないな?」
「恐らくはまだ。マトリクスにおけるZ&Eの構造物をハックできないから分からない。治安当局にはいろんなメッセージが来てて、全部判読してたら明日になっちゃう」
「頼むぜ。連中が来たら面倒なことになる」
東雲はそう言ってひたすら走る。
「ここだ! まだZ&Eの連中は来てないし、テロリストもいない」
「踏み込もう」
「突入する。援護は任せた、八重野」
「ああ」
東雲がハッカーの拠点と思われる頑丈な昔の政府関係施設の建物の扉を蹴り破り、八重野に援護されて突入した。
同時に中から銃弾が東雲たちに降り注ぐ。
「室内に敵複数だ、東雲! 気を付けろ!」
「あいよ!」
施設内にいたテロリストたちが東雲たちを狙って発砲するのに、東雲が“月光”を高速回転させて銃弾を弾き、“月光”の刃を投射して敵を殺害する。
「東雲! ここは任せろ! あなたはベリアの守りを!」
「任せるぞ、八重野!」
ここで東雲と八重野がバトンタッチし、八重野が前に出た。
「いくぞ」
八重野は降り注ぐ銃弾を全て躱し、テロリストに向けて“鯱食い”を振るう。テロリストたちがヒートソードで切り裂かれ、撃破されて行く。
「これで終わり」
「この異教徒──」
八重野が最後のテロリストに刃を振るってその首を斬り落とした。
「東雲、クリアだ!」
「オーケー。ベリア、まだハッカーは
東雲が死体だらけの施設内を進みながらベリアに尋ねる。
「やってる。トラフィック増大。Z&Eの構造物に
「とっ捕まえよう」
東雲たちがハッカーの拠点を探して施設内を捜索する。
ここはテロリストの拠点として整備されていたようでイスラム殉教機構エジプト戦線の旗が張られた部屋や、カラシニコフが大量に保管されている部屋、自爆ベストがおかれた部屋などがある。
「とうっ!」
東雲が扉を蹴り破って次の室内に突入した。
部屋は空っぽ。何もない。
『シルバー・シェパードよりスコーピオン・ゼロ・ワン及びジャッカル・ゼロ・ワン。
『スコーピオン・ゼロ・ワンよりシルバー・シェパード。了解』
そこで奇妙な通信が流れた。
「ここじゃない。他だ。ベリア、まだ民間軍事会社はここに向かってないか?」
「待って。ロスヴィータが偵察衛星の画像を解析した。無人攻撃ヘリとティルトローター機がこっちに向かっている。Z&Eだと思う」
「あーあ。急がねえと」
ベリアの報告に東雲がそう言って施設内を捜索する。
「突入準備。3カウント」
「3カウント」
東雲と八重野が扉の横に張り付く。
それから扉を蹴り破って東雲と八重野が突入した。
「いた! ハッカーだ! サイバーデッキがある!」
部屋の中にハイエンドのサイバーデッキとそこにBCI接続したハッカーの姿があった。このハッカーが問題の“ワールド・デッド”だろう。
「ベリア。Perseph-Oneを確保してくれ」
「オーキードーキー」
「気を付けろよ。サイバーデッキに罠が仕掛けてないとも限ら──」
そこで部屋の外に面した壁が吹き飛んだ。
「なんだ!?」
「無人攻撃ヘリだ、東雲!」
施設の外に無人攻撃ヘリがホバリングしていた。
そこに装備された口径40ミリ電磁機関砲が東雲たちを照準する。
「逃げろ、逃げろ! ミンチされるぞ!」
「けど、データが!」
「馬鹿! 死んじまったら意味がないだろ!」
東雲はベリアを守るように“月光”を高速回転させて叩き込まれる機関砲弾を辛うじて弾きつつ、“ワールド・デッド”がいた部屋から逃走した。
東雲が部屋から出たタイミングで無人攻撃ヘリからロケット弾が叩き込まれ、“ワールド・デッド”の部屋から真っ赤な炎が廊下に噴き出した。
「セーフ。死ぬところだった」
「もう! あの無人攻撃ヘリ! もう少しでPerseph-Oneが手に入ったのに!」
東雲が安堵の息を吐くのにベリアが憤った。
「東雲。音響センサーが複数の足音を捉えた。機械化した兵士のそれだ。ただの歩兵でも
「Z&Eか?」
「分からん。だが、妙なトラフィックがある。ベリアに調べてもらってくれ」
八重野が“鯱食い”を納刀した状態で告げる。
「ベリア。妙なトラフィックがあるらしい。今の攻撃と関係しているかも」
「確認した。民間軍事会社だ。こいつら……サンドストーム・タクティカル?」
「知ってるのか?」
「前の“人民戦線”のテロのとき、ハッカーがいたアルゼンチンに展開していたALESSがテロの後に警告を出してた。サンドストーム・タクティカルに警戒しろって」
ベリアがそう言って唸る。
「今回も、前回もPerseph-Oneが使用された事件で現れた。偶然とは思えない」
「クソ。ロスヴィータには引き続きこっちの状況を探らせてくれ。今はサンドストーム・タクティカルがどういう連中かは調べなくていい。この状況を乗り切れる情報だけ集めてもらってくれ」
「了解。陰謀を解明するのは後にしよう」
ベリアとロスヴィータがマトリクス上のポートサイドのスラム街における情報とサンドストーム・タクティカルを含めた複数の民間軍事会社について調べ始める。
「今、この施設を攻撃してるのはサンドストーム・タクティカルの連中だ。アロー・ダイナミクス・アヴィエイション製の無人攻撃ヘリ2機とティルトローター機を確認」
「Z&Eは?」
「待って。ロスヴィータが治安当局への通信を傍受。Z&Eが出動を知らせた。例の部隊だよ。第5
「いよいよ切羽詰まってきたな」
東雲はそう言って屋上に繋がる階段を八重野と一緒に睨む。
「──! 東雲! 上だ! 天井から来るぞ!」
「マジかよ。畜生!」
階段を見ていた八重野が急に天井を向き、東雲も“月光”を天井に向ける。
天井がブリーチングチャージで吹き飛ばされ、
アロー・ダイナミクス・ランドディフェンス製の口径25ミリ電磁ライフルを装備した部隊だ。
「ジャッカル・ゼロ・ワンよりシルバ・シェパード。所属不明のサイバーサムライを確認。いや、ひとりは生身だ」
『シルバー・シェパードよりジャッカル・ゼロ・ワン。無理に交戦するな。Perseph-Oneの破棄だけ確認できればいい』
「ジャッカル・ゼロ・ワンよりシルバー・シェパード。了解」
電磁ライフルを構えたサンドストーム・タクティカルのコントラクターたちが東雲と八重野に向けて発砲しながら、無人攻撃ヘリの攻撃を受けてハッカー“ワールド・デッド”の部屋に向かう。
「クソッタレ。連中の狙いは俺たちでもテロリストでもないぞ。ハッカーだ」
「いや、違うよ。Perseph-Oneだ。連中が回収して回ってるんだ」
東雲が電磁ライフルの銃撃を“月光”で弾きながら言うのにベリアがそう返した。
「まあ、それならいいさ。俺たちがPerseph-Oneを手に入れてないし、あのサイバーデッキもハッカーも無人攻撃ヘリにとっくに吹き飛ばされてる。問題は」
「Z&E」
「それだ」
東雲がそう言って銃弾を叩き込んでくるサンドストーム・タクティカルのコントラクターたちを睨む。
「ロスヴィータが偵察衛星と宅配ドローンのカメラから映像を得た。Z&Eのロゴが入った重ティルトローター機6機と無人攻撃ヘリ2機、それから無人戦車と
「到着までは?」
「空中機動歩兵が約8分後。機械化歩兵は15分以上後」
「どうにかしましょう。とりあえずPerseph-Oneを
東雲はそう言いながらベリアを守りつつ、八重野と合流する。
「八重野! ずらかるぞ! Z&Eが向かって来てる!」
「Perseph-Oneはどうする?」
「もうふっとんじまったよ。
「分かった」
東雲と八重野は銃撃を続けるサンドストーム・タクティカルのコントラクターたちから離れ始め、施設の出口を目指す。
『ジャッカル・ゼロ・ワンよりシルバー・シェパード。Perseph-Oneの削除を確認。バックアップなどもない』
『シルバー・シェパードよりジャッカル・ゼロ・ワン。撤収せよ。そちらにZ&Eが向かっている』
『ジャッカル・ゼロ・ワンよりシルバー・シェパード。了解。撤収する』
東雲たちが撤収してからサンドストーム・タクティカルの
『タイガー・ゼロ・ワンより
そこで目標の建物に向けて進んでいたZ&E第5特殊業務執行グループ・ヴィーキングの重ティルトローター機がサンドストーム・タクティカルのティルトローター機と無人攻撃ヘリを視認した。
『こちらZ&E第5特殊業務執行グループ・ヴィーキング。上空の航空機に告げる。所属と任務を明らかにせよ。さもなければ撃墜する』
『こちらサンドストーム・タクティカル。任務はエジプト治安当局から委任された警察業務。イスラム殉教機構エジプト戦線の相手をしていた』
『了解。確認した。これからこちらの部隊が作戦行動に入る。直ちに退去せよ』
『了解』
サンドストーム・タクティカルは何事もなかったかのようにティルトローター機にコントラクターたちが乗り込み無人攻撃ヘリとともに立ち去った。
「ベリア! Z&Eの連中はどっちから来てる!?」
「あらゆる方向から! ここを包囲しようとしてる!」
「最悪だぜ。どうにかしねえと蜂の巣だ」
東雲たちはポートサイドのスラム街から逃げ出そうとしている。
「前方から無人戦車と機械化歩兵部隊! どこかに身を隠して!」
「あいよ!」
東雲が近くの建物の扉を蹴り破って押しいった。
「────!?」
建物の中には腕をなくしたアラブ人の子供が4名と電子ドラッグをキメてダウンしてる電子ドラッグジャンキーが2名横になっていた。恐らくは親子だろう。
「ちょっと匿ってくれ。すぐに出ていくからさ」
東雲は子供たちにそう言いながら、チップを取り出し子供の持っていた端末に5000新円をチャージし、静かにするように指で口を押さえて見せた。
子供たちは大人しくなり、電子ドラッグジャンキーは起きて来ない。
そして、無限軌道の音が近づいて来た。
市街地戦仕様の障害物を撤去するドーザーと無数の機関銃やガトリングガンを装備した無人戦車が建物の前を横切っていく。
無人戦車の砲塔側面にはZ&Eのお上品なロゴ。車体側面には英語で『ヴァイキング・オールウェイズ・ウィン』と白い塗料で書かれていた。
「ヴァイキングは常に勝利する、か」
砂漠迷彩の無人戦車に続いて重装甲の
「行った?」
「行った。こっちに気づいた様子はない」
「じゃあ、逃げよう」
「そうだな」
東雲たちは隠れていた建物を出ると周囲にZ&Eがいないかどうかを確認してからスラム街に出た。
「おいおい。死体の山だぜ。俺たちが殺した連中じゃない」
「何を期待している。民間軍事会社の連中だぞ。お上品なロゴやスマートな宣伝で着飾ったところで軍隊上がりで権利ばかり振りかざすろくでなしどもだ」
無人戦車と歩兵戦闘車が通過した場所はテロリストと民間人の区別なく虐殺が繰り広げられたようで死体があちこちに散らばっている。
「また対戦車ロケット弾の炸裂音だ」
「Z&Eがイスラム殉教機構エジプト戦線と交戦を開始したみたい。逃げよう」
「ああ」
そして、東雲たちは辛うじてポートサイドのスラム街から脱出した。
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