帝国主義者に死を//青ざめた馬が来る

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 ──帝国主義者に死を//青ざめた馬が来る



 東雲たちはメティスの人工食料ターミナルにて反グローバリズムテロリスト“人民戦線”とオホーツク義勇旅団、韓国国家情報院の準軍事作戦要員パラミリを相手に戦闘を繰り広げていた。


 戦闘のカギは世界人口の9割を滅ぼすというナノマシン“DLPH-999”だ。


「死ね。六大多国籍企業ヘックスの犬め」


「死ぬのはてめえだ、クソッタレ。人の縄張り荒らして偉そうにしてんじゃねーぞ」


 韓国国家情報院の準軍事作戦要員パラミリの部隊が軍用のもので機械化した体で電磁ライフルを叩き込みながら突っ込んで来るのに東雲と八重野が応じた。


 東雲が“月光”を高速回転させて中国製の口径14.5ミリの電磁ライフルから叩き込まれる高初速弾を弾きつつ、八重野が敵に肉薄する。


「クソ! サイバーサムライ──」


「遅いぞ」


 準軍事作戦要員パラミリのオペレーターが叫びかけるのに八重野があっさりと敵の首を超電磁抜刀で刎ね飛ばした。


「次!」


 八重野が突撃してきた次のオペレーターに立ち向かう。


「ナノマシンは見つかったか!?」


「まだだ! ばら撒かれてないことを祈ろう!」


 激しい銃撃戦の中でドクター・ジョナサンが後方から叫ぶのに東雲が叫び返した。


「素人と素人に毛が生えた程度の連中が馬鹿みたいに集まって。無駄だ。その装備と練度では突破できん」


 ミノカサゴは容赦なくバトラコトキシン由来の生物毒素を含んだ空中炸裂型グレネードと電磁フレシェット弾をテロリストたちに叩き込んでいく。


「ニンジャがいるぞ! どうにかしろ!」


「機関銃で制圧射撃だ! 撃て、撃て!」


「六大多国籍企業の家畜どもめ! 我々の大義のために死ね!」


 ミノカサゴが身を潜めているコンテナに向けて無数の銃弾と対戦車ロケット弾が次から次に飛来する。ミノカサゴは遮蔽物であるコンテナから腕だけを出して正確に敵を射撃している。


「ああ! 奥平が死んだ! この野郎っ!」


「機関銃班! 何をやってる! ニンジャを封じろ! 全員ミンチにされるぞ!」


「やってるが意味がない! 狙撃手が必要だ!」


「狙撃手なんていない!」


 素人の寄せ集めのせいか近年の軍隊では必ずと言っていいほど配置される中距離の狙撃を担当する選抜射手も存在しなかった。


「数だけは多いな。次から次にと。いいぜ、かかってこい! ぶちのめしてやる!」


 東雲はカラシニコフを乱射しながら突撃してくる“人民戦線”とオホーツク義勇旅団を相手に“月光”の刃を振るい、首を刎ね飛ばし、胸を貫き、死を振りまく。


「東雲。あの男が金属製のスーツケースを持っている。どうも怪しい。あれがナノマシンなんじゃないか?」


「当たりかね。ミノカサゴ! 注意して射撃しろ! ナノマシンが見つかったかもしれない! あのスーツケースに命中させるなよ!」


 東雲がミノカサゴに向けて叫ぶ。


「ようやく問題のナノマシンとご対面か。こっちでナノマシンの周りにいる連中を排除する。そっちでナノマシンを確保してくれ」


「あいよ! やってやりましょう!」


 東雲が八重野が見つけた金属製のスーツケースに向けて突撃する。


 銃弾が嵐のように降り注ぐ中、東雲は“月光”を高速回転させ、テロリストたちに向けて突っ込んでいく。


「電磁ライフルが通じない! クソ、クソ、クソ!」


「奴を止めろ! 集中射撃だ! グレネード弾も対戦車ロケット弾も手榴弾も、使えるものは全て使って奴を殺せ!」


 韓国国家情報院の海兵隊や陸軍上がりの準軍事作戦要員パラミリが怒鳴り、東雲に向けてあらゆる武器の火力を向けて来た。


 空中炸裂型グレネード弾が飛来してボールベアリングを撒き散らし、サーモバリック弾頭の対戦車ロケット弾が強烈な衝撃波を発生させ、限定AIによって知性化された知性化手榴弾スマートハンドグレネードが適切なタイミングで炸裂する。


「ちっくしょう! 滅茶苦茶しやがって! 普通の人間なら死んでたぞ、クソが!」


「なっ! あの火力を突破しただと!? 化け物か!?」


「化け物じゃねえ! 元勇者だっ!」


 殺意と憎悪と血と鋼鉄の嵐の中を東雲は駆け抜け、準軍事作戦要員パラミリのオペレーターたちの中に突っ込んだ。


 “月光”が敵を引き裂き、首を刎ね飛ばし、血が踊る。


「人民のために! くたば──」


「そんなに人のためを思うならてめえが死ねよ、テロリスト!」


 東雲が“人民戦線”の金属製のスーツケースを持った男の胴体を真っ二つにして、蹴散らした。既に“人民戦線”は壊滅状態だ。


「ゲット!」


 東雲が問題の金属製のスーツケースを手に入れた。


「取り戻せ! 不可能ならここで破壊してしまえ!」


「クソッタレのサイバーサムライめ! 死ね!」


 東雲にさらに銃火器の攻撃が降り注ぐ。敵は東雲だけではなく、東雲が握っているスーツケースも狙っていた。


「自爆覚悟かよ。勘弁してくれ」


「援護するから下がれ、大井のサイバーサムライ!」


「あいよ!」


 ミノカサゴが援護射撃を行う中、東雲がコンテナまで下がろうと努力する。


「ナノマシンを取り戻せ! 突撃しろ! 突撃、突撃!」


「制圧射撃で友軍を援護! ニンジャにこれ以上撃たせるな!」


「ヤポンスキーめ!」


 “人民戦線”のテロリスト、韓国国家情報院の準軍事作戦要員パラミリ、オホーツク義勇旅団の民兵。それらが銃を乱射し、東雲を追いかけてくる。


「東雲。援護する」


「頼むぞ、八重野!」


 東雲に近づく人間を八重野が切り捨てて、接近を阻止する。


「ドクター・ジョナサン! ナノマシンを確保した! 中和を頼む!」


「そっちに向かう! 援護してくれ!」


「任せろ!」


 東雲が“月光”を高速回転させて敵から叩き込まれるあらゆる口径の銃弾を弾き、グレネード弾を撃墜し、対戦車ロケット弾を叩き落とす。


 その隙にドクター・ジョナサンが東雲たちが遮蔽物にしているコンテナに駆ける。


「これだ。任せるぞ」


「オーケー。手順通りにやろう。ナノマシンはこの状態なら非アクティブ状態だ。中和剤をアクティブにしてから汚染源に対して正確に投与する。慎重に、慎重にやるんだ」


 東雲が金属製のスーツケースをドクター・ジョナサンに渡すのに、ドクター・ジョナサンがスーツケースのカギをヒートナイフでこじ開け、中身を見た。


 スーツケースの内部には6つの金属製の筒があり、厳重にロックされている。筒そのものにカギはなく、いつでも筒を開けるようになっていた。それ見てドクター・ジョナサンが呻く。


「クソ。非アクティブ状態なのか分からなくなってきた。これは既にいつでもアクティブにできるようになってるんじゃないか。もう少し検査装置があれば」


「無力化できるのか、できないのか!?」


「専門の機械が必要だ。この状態で無理に中和を試みれば結果として汚染を引き起こすかもしれない。このままメティスの施設まで運ぶべきだ」


「畜生。マジかよ。じゃあ、この状況を乗り切らないとな!」


 ドクター・ジョナサンがそう言い、東雲は未だ数がある“人民戦線”、韓国国家情報院、オホーツク義勇旅団の兵士たちを睨む。


『東雲。大型宅配ドローンをハックした。それから大井統合安全保障の下請けが運用している軍用装甲車と戦闘用アンドロイドも。いつでも投入できるよ』


「助かる、ベリア。ぶちかましてくれ!」


『オーキードーキー!』


 ベリアがそう言うと同時に東雲たちを攻撃している敵に向けて大型機械類を運ぶための巨大なドローンが急降下してきて爆発炎上した。


「何が起きた!?」


「おい、チェ軍曹! 大丈夫か!? 畜生!」


 敵が大混乱に陥り、隙を見せたところをミノカサゴによって狙われる。


「味方の装甲車と戦闘用アンドロイドが突入する! 間違って撃つなよ!」


「了解!」


 東雲と八重野は無謀な突撃を繰り返すテロリストたちを叩き切りながら前線を維持していた。そこら中に死体が散らばり、死体を踏み越えて敵が進んでくる。


「戦意だけはやたらと旺盛だな」


「電子ドラッグをキメてる。連中は死を恐れないぞ。まるでレミングスだ」


「レミングスの集団自殺は都市伝説だぜ」


「どうでもいい。間抜け具合は同じだ」


 東雲が電磁ライフルを握った準軍事作戦要員パラミリの首を“月光”で刎ね飛ばすのにミノカサゴがそう嘲って電磁フレシェット弾をオホーツク義勇旅団の民兵に向けて叩き込んだ。


「来た!」


 そこで軍用装甲車が敵の背後から突撃してきて、無人砲塔に装着された25ミリ電磁機関砲が火を噴き、敵を薙ぎ倒した。


「大井統合安全保障かっ!?」


「RPGを叩き込め!」


 乱入してきた軍用装甲車を狙ってテロリストが対戦車ロケット弾を発射した。


 だが、装甲車に装備されていたアクティブA防護PシステムSが高出力レーザーで対戦車ロケット弾を叩き落とした。


「アクティブ防護システムだ、クソッタレ!」


「同時に発射しろ! 対応を飽和させるんだ! 一斉──」


 軍用装甲車の脅威検出システムが対戦車ロケットの発射機を持った人間を選んで25ミリ電磁機関砲と同軸機銃がテロリストたちをミンチにした。


 さらに軍用装甲車から武装した戦闘用アンドロイドが下りてきて残っている敵を銃撃し、皆殺しにしていく。テロリストたちは梱包爆薬を抱えて戦闘用アンドロイドに突撃し、そして銃殺された。


「おーおー。楽な仕事ビズになったぜ。ベリアに感謝だな」


「これで脱出できるな。ナノマシンをメティスの施設まで送ろう」


 ついに敵は壊滅した。死体と破壊された銃火器だけが転がり、硝煙の臭いと血の臭いで満ち溢れている。


 戦闘用アンドロイドたちは軍用装甲車の兵員室に戻り、非戦闘状態になった。


「脱出だ。流石にこれ以上ナノマシンを隠し持ってはいないだろう。仕事ビズはお終い。危険なブツの輸送さえ終われば報酬を貰って家に帰れる」


 東雲はそう言ってここに来るときに使った軍用四輪駆動車に乗り込んだ。


「気を付けて運転してくれ。ここにあるナノマシンが万が一流出すれば、ここにいる全員が間違いなく死ぬことになる。一度汚染されれば助からない」


「嫌な代物だぜ。どうしてこんなものを作るのか。技術の無駄遣いって奴じゃないのか。全く、メティスはトラブルばかり起こす」


 ドクター・ジョナサンが言い、東雲がぼやく。


「ジョナサン。これを使って。電磁パルスガン」


「オーケー。焼き切っておこう。念のためだ」


 ドクター・ジョナサンがメディック・マリーから電磁パルスガンを受け取ってナノマシンが入っている容器に電磁パルスを叩き込む。


「で、目的地は?」


 東雲がテロリストたちに死体を潰しながらメティスの人工食料ターミナルを出て、ドクター・ジョナサンにそう尋ねる。


「住所を送る。TMC内にあるメティスのバイオセーフティレベル4の研究室がある施設だ。そこならば安全にDLPH-999を無力化できる。施設へのアクセスIDは俺たちが持ってるから大丈夫だ」


「了解。じゃあ、行きましょう」


 東雲は軍用装甲車をメティスの施設があるセクター5/4に向けて走らせた。


「しかし、ここにあるそのちっぽけなもので世界が滅ぶなんて考えられないな。確かに生物化学兵器は危ないぜ? 日本でもケミカルテロが起きて大勢が犠牲になったし、911同時テロの後で炭疽菌を郵送するテロでも犠牲者が出たが」


「随分とケースが古いな。1995年と2001年とは。確かにそのテロでは世界規模の人口減少というような悪夢は起きなかった。だが、我々の社会がいかに脆弱化は歴史を見ればすぐに分かる」


 東雲が運転しながらいうのにドクター・ジョナサンが述べ始める。


「黒死病──ペストの流行はヨーロッパの人口を激減させた。その結果として労働力の減少から社会構造が変化するまでに至った。スペイン風邪のパンデミックも第一次世界大戦に影響を及ぼすほどだった」


 黒死病とスペイン風邪。どちらも大量の人間を殺した。


「そして、だ。近年ではゼータ・ツー・インフルエンザのパンデミックによる大惨事。地球から家畜が姿を消した。ネクログレイ・ウィルスも世界から穀倉地帯というものを消滅させてしまった」


「そう言われると案外この世界も脆いように思えてくるな。脅威とそれへの対応の終わりなき戦いに辛うじて勝ってるから人類は存続しているわけだ」


「そういうことだ。もちろん、DLPH-999は人工的に作られたものであり、本来ならば人類が敵対するものではない。だが、類似の脅威はどこで芽を出すのか分からないのが、この厳しい自然というわけだ」


「これからも人類には勝利し続けてほしいぜ」


 少なくとも圧勝はしていない。穀物も家畜も消え、人々は無菌室で栽培された人工食料を化学合成して摂取しているだけなのだから。


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