帝国主義者に死を//思想の奴隷
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──帝国主義者に死を//思想の奴隷
東雲たちが配置に着き、ベリアたちがマトリクスに潜る中、テロを企てている“人民戦線”に動きがあった。
『東雲。敵が動いたよ。“人民戦線”がマトリクス上で実行部隊がTMCセクター3/1に入ったことを報告している。TMCの外から来たのは確実。今、生体認証スキャナーでメンバーの追跡を始めた』
「オーケー。よろしく頼むぜ、ベリア」
ベリアたちがマトリクスから生体認証スキャナーのシステムをハックして、事前に判明していた“人民戦線”のメンバーの生体認証データから追跡を始める。
『“人民戦線”のメンバーを確認。合計12名。3台のバンに分乗して移動中。武装は確認できないけどないわけではなさそう』
「向かっている先は分かるか?」
『セクター9/1かな。まだはっきりしない。ドローンの映像でも確認しているけど、このまま3台が揃って目的地に向かうかも怪しい』
「オーケー。一先ずセクター9/1で待ち伏せる」
『そうして。私たちは追跡を続ける。敵の狙いがある程度分かっているから、追跡に苦労しないと思うけど』
「抜かりなく頼むぜ。世界が滅ぶかもしれないんだからな」
『オーキードーキー』
ベリアからの連絡が切れる。
「敵はセクター9/1に向かってる。あんたの予想が当たったかもな、ドクター・ジョナサン。セクター9/1にはメティスの人工食料ターミナルがある」
「知ってるよ。急いで向かおう。一度汚染されたらナノマシンが有機物の量だけ増殖して巨大なホットスポットになる。風が吹いただけでTMCが深刻な汚染を受ける」
「了解」
東雲たちはホテルを飛び出し、自動車に乗り込んだ。軍用四輪駆動車だ。
東雲が運転席に座り、ハンドルを握ると車を出した。
「セクター9/1のメティスの人工食料ターミナルに入るには、メティスのIDかTMC自治政府のIDが必要になる。そうでなければ強行突破になるだろう」
「恐らくは強行突破だろうな」
八重野が言うのに東雲がそう返した。
「だが、武装は限定される。コリアンギャングは壊滅し、防護装備や銃火器は私たちが破壊してしまったからな」
「待てよ。連中、まずはセクター13/6に向かうんじゃないか? 装備が失われたことをまだ知らないはずだ。だろ?」
「いや。連絡しても返事がなければ押収されたと考えるし、大井統合安全保障が待ち伏せているかもしれない。リスクを犯して、返事のない倉庫に行くとは思えない」
「それじゃ連中自爆覚悟か? 防護装備なしでナノマシンを撒いたら自分たちも被害を受けることになるぞ」
八重野が推察するのに東雲がそう指摘する。
「考えが甘いのかもしれない。ナノマシンを人工食料ターミナルに放り込んですぐ逃げれば自分たちは助かると思っているのかもしれないな」
「実際はどうなんだ、ドクター?」
「この手のナノマシンの恐ろしいところはほんの僅かな量のナノマシンに被曝しただけでも、ナノマシンが群体として機能し、本来の効果を発揮する点だ」
ドクター・ジョナサンが説明を始める
「確かにナノマシンの小さな小さな1体だけのナノマシンとしては機能することはない。ナノマシンは群体になることで初めてメモリを有し、自己複製が行える。この手の群体による知性化は社会生物学で研究されていた」
「三人寄れば文殊の知恵?」
「まあ、そう言いたくなるのは分かる。だが、微妙に違う。人間から細菌に至るまで個体だけでの知性と集団として組織された場合の知性は異なってくる。例えばミツバチやアリのコロニー。あれは高度な知性を発揮している」
「昆虫そのもの脳はさほど大きくもないのに、か」
「フェロモンなどによるコミュニケーションによって集団を組織してなされることだ。このことを超個体と呼ぶ。人間もコミュニケーションによって個人ではなせない事業を達成するが、まあそういうものだ」
ドクター・ジョナサンはそう言った。
「ナノマシンもコミュニケーションを?」
「行う。他のナノマシンの行動に影響を受けて作業を行うようになっている。もっとも小規模なナノマシン群体だと0.5ナノメートルのナノマシンで、それが10体あれば自己複製と機械としての機能を発揮する」
「ふうむ。仕組みはよく理解できないが、ちょっとの曝露でも危険になるわけだ。だが、“人民戦線”はそれを理解していない可能性がある、と」
「ナノマシンについて詳しい連中とは思えない。時代錯誤な反グローバリストでは。素人そのものだろう。仮に詳しいとすれば、DLPH-999を流出させようとは考えないはずだ」
「世界が滅んじまうもんな」
東雲がハンドルを動かしながらそう返した。
「防護装備もなしでDLPH-999を使えば間違いなく散布した人間も曝露して死亡する。簡易な防護装備ではダメだ。完璧なものが必要だ」
「俺たちにはその完璧な防護装備はあるのか?」
「5名分。
「頼むぜ。中和剤を投入するタイミングは?」
「散布から3分以内に散布地点に使用しなければならない。そうでなければ中和剤で中和しきれず、汚染が拡大する」
「ハードな条件だぜ」
ドクター・ジョナサンの言葉に東雲がぼやいた。
「中和剤の使用は任せてくれ。こいつは使用するのに知識がいる。ただばら撒けばいいってものでもない。汚染部位に適切に使用しなければ効果がない」
「あいよ。任せたぜ。で、そろそろセクター9/1だが。ベリア、“人民戦線”の連中はどうしてる?」
そこで東雲がベリアに連絡を取る。
『セクター9/1に向かって進んでいる。3台とも一緒に。分散されたら厄介だったけど、そこまで込み入った作戦は立ててないみたい。それから大井統合安全保障のマトリクス上の構造物から大量のトラフィックを検知』
「大井統合安全保障が動く?」
『かもしれない。でも、恐らくは後始末だよ。ジェーン・ドウの持ってる情報の出所を考えて。テロを警戒するのは大井の保安部。保安部の人間は表立って動かなくとも、大井統合安全保障に警備ぐらい命じる』
「けっ。いつも高圧的で偉そうなくせに役に立たない連中だぜ」
『愚痴らない。そっちに“人民戦線”の位置をリアルタイムで送るから対応して』
「あいよ」
東雲のARに“人民戦線”の現在地が表示される。TMCの生体認証スキャナーとドローン、偵察衛星による情報だ。
「敵さん、かなりセクター9/1に近づいているがこっちが先に人工食料ターミナルに到着する。待ち伏せできるぜ」
「それはいいニュースだ。散布前に押さえるのが一番いい」
東雲がARの情報から告げるとドクター・ジョナサンが安堵したような息を吐いた。
「で、俺たちもメティスの施設に入るにはIDがいるわけだが」
『準備できてる。TMC自治政府職員のIDだよ。使って』
「サンキュー、ベリア」
東雲はそのままセクター9/1に入り、そこからメティスの人工食料ターミナルに向けて車を進めていく。
「インペラトルとやり合った時以来だな」
「今度はメティスが味方とは」
八重野がいい、東雲がリモートタレットが装備されたゲート前で車を止める。
自動的に生体認証が行われ、東雲たちが偽装したIDを示した。生体認証スキャナーが認証を終えて、ゲートが自動的に開く。
「よし。あのデカい建物が人工食料ターミナルの保管庫だ。あの付近で待ち伏せよう」
東雲が車を止めて降りた。
「防護装備の装備方法を教える。息苦しいだろうが我慢して装備してくれ」
「了解、ドクター」
東雲たちが準備された軍用規格の防護装備を身に着ける。ガスマスクも装備だ。
「さて。もう少しで連中が来るぞ。先生方は隠れててくれ。戦力してカウントしてないからな」
「一応元海兵隊として自動小銃ぐらいなら撃てるが専門家に任せた方がいいか」
ドクター・ジョナサンとメディック・マリーが港にあるコンテナの陰に隠れた。
「あんたには期待してるからな、ミノカサゴ?」
「任せとけ。対人戦闘は私の専門だ」
ミノカサゴはそう言って機械化した腕に装着したランチャーの稼働を確認する。
「“人民戦線”の車がまっすぐ進んでくる。もう少しでゲートだ」
「車ごとふっ飛ばしてやろう」
「マジで?」
「マジだ」
ミノカサゴがそう言って膝立ちになり、ランチャーを構えた。
そして、ゲートにベリアたちがマークしていた“人民戦線”のバンがアクセル全開で突っ込んでくる。ゲートをぶち破るつもりだ。
「くたばりな」
その車列の先頭にいるバンに向けてミノカサゴがランチャーから電磁力でグレネード弾を叩き込んだ。高性能爆薬が詰まった
電磁力で弾きだされたそれがバンのフロントにめり込んで炸裂する。バンが爆発を起こして炎上しながら慣性の力でゲートに向かい、自爆テロに備えてある頑丈なゲートにぶつかり、完全な廃車となった。
「爆発物の使用は控えてくれ! ナノマシンが意図せずして漏洩する可能性がある!」
「ちっ。分かったよ」
ドクター・ジョナサンが背後からいうのにミノカサゴが舌打ちした。
「作戦は?」
「私が遠距離で可能な限り仕留める。あんたら近接して来たらぶちのめしてくれ」
「了解」
ミノカサゴが遮蔽物であるコンテナに隠れていうのに東雲が頷いて“月光”を展開する。八重野も“鯱食い”の柄を握る。
そして、爆発して炎上したバンから瀕死の男たちが転がり落ちると同時に後方のバンから旧式のカラシニコフとRPGで武装した“人民戦線”の人間たちが現れた。
「人民のために!」
「悪しき帝国主義を打倒せよ!」
“人民戦線”のテロリストたちがカラシニコフを乱射し、RPGをコンテナに向けて発射する。弾頭はサーモバリック弾だ。
「素人め」
だが、碌に狙いはついていないし、お互いをカバーし合う様子もない。
その様子見てミノカサゴが嘲り、ランチャーを“人民戦線”のテロリストたちに向けて電磁フレシェット弾を叩き込んだ。
ボディアーマーもまともに身に着けていない“人民戦線”のテロリストを電磁フレシェット弾は八つ裂きにし、血の霧を発生させた。
「クソ! 怯むな、同志たち! 我々が人民を救うのだ!」
「俺たちは企業帝国主義者には屈しない! 暴力革命だ!」
それでも“人民戦線”のテロリストは戦意を喪失せず手榴弾も使い前進してくる。
「片っ端からひき肉してやる」
ミノカサゴが今度は例のバトラコトキシンベースの毒素を含んだ空中炸裂型グレネード弾を叩き込んだ。一気に4名のテロリストが死亡する。
「進め! 進め! 突撃だ!」
『東雲。敵の増援だよ。生体認証スキャナーのデータを整理していたらオホーツク義勇旅団と韓国国家情報院の
“人民戦線”のテロリストが強行に前進する中、ベリアから連絡が入る。
「敵の援軍が来るぞ。オホーツク義勇旅団の連中と韓国の
「弾はたっぷり持ってきた。ぶち殺してやるよ」
東雲が尋ねるとミノカサゴが答えた。
「撃て、撃て! 企業の犬を殺せ!」
「味方が合流する! 共に戦え!」
後方でトラックが停車し、そこからスラブ系の武装したテロリストたちが降車し、カラシニコフと機関銃を乱射すると同時に旧式の対戦車ロケット弾を叩き込んでくる。
「ヤポンスキーの暴君どもに死を! 母なるロシア万歳!」
「前進だ! 突撃しろ!」
「ウラァ──!」
オホーツク義勇旅団のテロリストたちも東雲たちに向けて突撃してきた。
「素人が何人集まっても戦力にはならないということを教えてやろう」
ミノカサゴが電磁フレシェット弾と生物化学空中炸裂型グレネード弾を群がるロシア人たちに叩き込み、ロシア人がミンチになり、毒に冒され死んでいく。
「そろそろ俺たちの出番みたいだな」
「近接してくる連中は任せるぞ、大井のサイバーサムライ」
「あいよ」
“人民戦線”とオホーツク義勇旅団のテロリストたちは友軍の屍を乗り越えて狂ったように突撃してくる。
彼らはもはや思想の奴隷だ。
それは死に至る状態。
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