バトル・オブ・ブリテン//ロンドン脱出

……………………


 ──バトル・オブ・ブリテン//ロンドン脱出



 東雲たちがハンター・インターナショナルの装甲部隊と激突する。


 ハンター・インターナショナル側は既に無人戦車を一両損失。


「くたばれ、クソ野郎ども!」


 東雲はありったけの血液を注いだ“月光”を振り回して無人戦車の群れを相手にする。無人戦車は日本陸軍と同様にデータリンクし、同時交戦能力を有する。


『ハイランダー・ゼロ・ファイヴ! 戦闘不能、戦闘不能!』


『ハイランダー・ゼロ・シックス、交戦、交戦』


 無人戦車が暴れまくる東雲を捉えようと戦車砲を振り回し、無限軌道でアトランティス・バイオテック本社前の道路を機動する。


「気を付けろ! サイバーサムライどもがいるぞ! ひとりじゃない! 警戒しろ!」


「ハイランダー・ゼロ・ワンより全部隊! データリンクで目標を割り振った! 指示された目標に向けて射撃を実行せよ!」


 無人戦車に随伴しているアーマードスーツ部隊が迫りくる八重野たちと交戦する。


「一閃」


 アーマードスーツから放たれる口径30ミリ電磁機関砲弾を叩き切り、肉薄した八重野がアーマードスーツを撃破する。


 電流が飛び散り、アーマードスーツが大破。戦闘不能になる。


「いいぞ、いいぞ。このまま混乱させて突破だあ!」


「東雲! 突出し過ぎてる! 援護できない!」


「大丈夫だ! 自分で何とかする!」


 暁が叫ぶのに東雲が“月光”を振るってハンター・インターナショナルの大部隊を相手に大暴れする。


「しかし、この状況からどうやって」


「戦い続ければ分かる。今は敵を斬るのみ」


 呉が呻くのに八重野がそう言って次のアーマードスーツを仕留める。


『東雲! 大丈夫!?』


「大丈夫だぜ、ベリア! だが、ちょっと不味い状況になってるかもな!」


『今、ロスヴィータがハッカーを退けようとして交戦してる! 私はハンター・インターナショナルの構造物を攻撃して、ジャックした! 短時間だけど爆弾を下げたドローンで援護できる!』


「やってくれ! それから足を頼む! ロンドンから脱出してケンブリッジに向かうことになった!」


『オーキードーキー!』


 ベリアの声とともに上空を飛行していたドローンから無人戦車に向けて対戦車ミサイルが叩き込まれた。


 爆発炎上する無人戦車。さらに対戦車ミサイルが降り注ぐ。


『ハイランダー・ゼロ・シックス、戦闘不能!』


『ハイランダー・ゼロ・ワンより本部HQ! 友軍ドローンから攻撃を受けた! 繰り返す! 友軍ドローンから攻撃を受けた!』


 ドローンはありったけの対戦車ミサイルを無人戦車に叩き込み、それから軍用装甲車に向けて急降下して体当たり。そして、爆発炎上。


 複数のハンター・インターナショナルのコントラクターが巻き込まれ、負傷者の救助のために動きが制限される。


「ベリア! 足は!?」


『準備した! ALESSから分捕ったよ! もう構造物から排除されるからリモート操縦はできない! 自分たちで運転して!』


「あいよ!」


 そして、大混乱のハンター・インターナショナル部隊の包囲を突っ切ってALESSの軍用四輪駆動車が走り込んできた。無人だ。


「八重野! 呉! セイレム! 暁! 逃げるぞ、乗れ!」


「分かった!」


 東雲が運転席に飛び込み、八重野たちが戦闘を中止して乗り込む。


「あばよ、ハンター・インターナショナルのクソ野郎ども!」


 東雲が軍用四輪駆動車を急発進させ、アトランティス・バイオテック本社から脱出する。ハンター・インターナショナルの部隊は混乱から立ち直っておらず、追跡してくる様子はない。


『クルセイダー・ゼロ・ワンより本部HQ。出動要請を受けてロンドンに展開中。展開位置について指示を求める』


本部HQよりクルセイダー・ゼロ・ワン。現在ドローンがテロリスト5名を追跡中。確実に押さえろ。ドローンとのリンクを許可する』


『クルセイダー・ゼロ・ワンより本部HQ。了解』


 ハンター・インターナショナルの無線通信を八重野が傍受していた。


「東雲。無人攻撃ヘリが随伴した空中機動歩兵が追いかけてきている。急いでロンドンを脱出しないとさっきのようにはいかないぞ」


「クソ。次から次に。暁! 無人攻撃ヘリは任せた!」


 八重野の知らせに東雲が暁に向けて叫ぶ。


「任された! 撃墜する!」


「さあ、チェックポイントをぶち抜くぞ! 全員掴まれ!」


 東雲がアクセルを全開にしてALESSの部隊によって封鎖されているカナリー・ワーフのチェックポイントに突っ込んだ。


「来たぞ! 報告にあった不審車両だ! 撃て!」


「退け、退け、退け!」


 東雲がALESSの軍用四輪駆動車のフロントで“月光”を高速回転させて銃弾を弾きつつチェックポイントを強引に突破した。


「こちらカナリー・ワーフ・チェックポイント・チャーリー! 不審車両が突破! 不審車両がチェックポイントを突破して逃走!」


本部HQよりカナリー・ワーフ・チェックポイント・チャーリー。ドローンが追跡中。現在地を引き続き封鎖せよ』


「了解!」


 ハンター・インターナショナルの空中機動歩兵と無人攻撃ヘリはロンドン上空を飛行しており、ドローンの映像で東雲たちが逃走に使った車両を追跡している。


「まだ追いかけてきてる。ロンドンから出れば本当にアイリッシュ・マフィアが我々を脱出させてくれるのか?」


「知るかよ。暁に聞け。もううんざりだぜ。毎回毎回追いかけ回されて。ベリアもロスヴィータも援護できないし、俺たちはクソみたいな状況だし。クソッタレ!」


 八重野が尋ねるのに東雲が唸ってロンドンの街の道路を突破していく。


「暁! 必ず撃ち落せよ! 俺は運転で忙しいから無人攻撃ヘリの相手はできんぞ!」


「分かってる! だが、俺は機械化はしててもレーダーは持ってないんでね!」


「ああ。クソ。ベリア! ドローンか衛星の画像はないか!?」


 暁がルーフから顔を出して叫ぶのに東雲がベリアに連絡を取る。


『東雲! ロンドンの最新の偵察衛星の画像だよ! 今、民間宇宙開発企業の偵察衛星がロンドン上空にいるからその映像! ロスヴィータ! 攻撃エージェントが更新されたよ! アイスを再構築して!』


 ベリアから偵察衛星の画像が送られてくる。


「ベリアはクソ忙しそうだ。暁、偵察衛星の画像に無人攻撃ヘリは映ってるか!?」


「ばっちりだ。位置を掴んだ。狙撃で仕留める」


 暁が電磁ライフルを超遠距離射撃モードにし、電力をフルチャージすると電磁ライフルから口径30ミリの大口径弾を発射した。


『コンドル・ゼロ・ワン。被弾、被弾。戦闘不能。作戦空域から離脱する』


『コンドル・ゼロ・ツーより本部HQ。敵車両からの対空射撃を確認。射撃の許可を求める』


 1機の無人攻撃ヘリが限定AIによる操縦で作戦空域であるロンドン上空から退避し、随伴していた僚機が対戦車ミサイルを東雲たちの車両にロックオンした。


本部HQよりコンドル・ゼロ・ツー。射撃を許可する』


『コンドル・ゼロ・ツーより本部HQ。射撃開始』


 そして、ウェポンステーションから対戦車ミサイルが放たれた。


「クソ。対戦車ミサイルだ」


「躱せねえぞ!? 道が狭くて!」


「大丈夫だ。撃ち落す」


 暁が冷静にそう言い、飛翔する対戦車ミサイルに狙いを定めた。


 そして、発砲。


「やった」


「上出来」


 暁の放った大口径弾は対戦車ミサイルを撃墜した。


「じゃあ、残りの無人攻撃ヘリも頼むぜ」


「了解」


 そして、再び超遠距離射撃モードで無人攻撃ヘリを狙撃する。


『コンドル・ゼロ・ツー。被弾、被弾。制御系に異常発生。作戦空域より離脱する』


 無人攻撃ヘリが火花を吹き、旋回して離脱していく。


『クルセイダー・ゼロ・ワンより本部HQ。上空援護機がいなくなった。追加の航空部隊を派遣されたし』


本部HQよりクルセイダー・ゼロ・ワン。現在上空に爆装した戦闘機が2機存在する。コールサインはウルフ・ゼロ・ワン、ウルフ・ゼロ・ツー』


 空中機動歩兵がティルトローター機で迫るのにハンター・インターナショナルの無人戦闘機部隊が飛来した。


「東雲。次は無人戦闘機だ。爆装してる」


「もう嫌。勘弁してよ」


 東雲が泣きそうになる。


「ロンドンからもう少しで脱出できる。郊外に出ればアイリッシュ・マフィアと合流して脱出できるんだろう?」


「そうだといいだけどね!」


 ロンドンの道路を東雲の運転するALESSの軍用四輪駆動車が駆け抜けていく。


「空中機動歩兵の他にALESSやハンター・インターナショナルの追跡部隊はいない」


「いいニュースだ。このまま──」


「対戦車ミサイルだ!」


 ハンター・インターナショナルの無人戦闘機から対戦車ミサイルが発射された。


「暁!」


「どうにかするから飛ばせ!」


 東雲が全速力で軍用四輪駆動車を飛ばし、暁が電磁ライフルで大型対戦車ミサイルを狙って狙撃を実行する。


 無人戦闘機から放たれた大型対戦車ミサイルは無人戦車などに装備されているアクティブA防護PシステムSなどで迎撃不可能なほどに大型化した弾頭を搭載したものだ。


 だが、暁の放った電磁ライフルの大口径弾は有効だった。


 空が炎に染まる。


「あんなのを何発も撃ち込まれたらかなわんぜ」


「さっさと逃げるに限る」


 東雲が言い、呉が肩をすくめた。


 東雲たちを乗せた車は大急ぎでロンドンを脱出するルートに向けて走り、暁が次に対戦車ミサイルが飛来する可能性に備えて空を見張る。


「よし! 最後のチェックポイント! ここを突破したら車を捨てるぞ!」


 東雲が“月光”を高速回転させながらチェックポイントに突っ込む。


 タレットとして設置されたガトリングガンが火を噴くのを弾きながら東雲たちはロンドンのチェックポイントをついに突破し、ロンドンの外に出た。


『東雲! ハンター・インターナショナルのドローンをジャックした! ドローンからの映像の送信を遮断しているから今のうちに逃げて!』


「いい仕事だ、ベリア!」


 ロンドンの外に広がるスラムに入ると東雲たちは車から飛び降りた。


 東雲たちを高空から追跡していたドローンからの映像が送られず、ハンター・インターナショナルは東雲たちを見失っている。


「アイリッシュ・マフィアとはどこで合流するんだ!?」


「まずは追手を撒かにゃならん。スラム街を逃げ回るぞ」


 東雲が尋ねるのに暁がそう答え、スラム街を駆け回る。


「こっちだ。こっちに服屋がある。服屋と言っても死体漁りスカベンジャーが抗争が起きた後で死体から剥いできたのを売っているだけだが」


 暁がそう言ってスラム街にある薄汚い店に入る。


「何だい。ALESSの連中に売るもなんてないよ」


 気難しそうな老婆が暁たちを睨む。


「俺たちは偽ALESSだ。悪党だよ、ばあさん」


「ふうん。それなら売ってやるよ。何が欲しい?」


「服が欲しい。5人分。逃げてるんでね」


「好きなのを選びな」


 老婆がそう言うのに東雲たちがALESSの制服を脱ぎ捨て、薄汚れた着替えを纏う。血の匂いや吐瀉物の臭いがするそれに着替えた。


「オーケー。代金は?」


「4000ポンド」


「あいよ」


 老婆の端末に暁がチャージする。


「さて、行こうぜ。もう追手は来ないはずだ」


「だといいだけど」


 東雲たちはスラム街の住民に溶け込む格好をし、スラム街を何食わぬ顔で歩く。


「スラム街に生体認証スキャナーは?」


「ここはセクター13/6より下品でね。生体認証スキャナーなんて設置したら電子パーツ狙いの窃盗が生じる」


「セクター13/6でも面白半分に生体認証スキャナーぶっ壊す馬鹿が後を絶たないが」


 あいつら生体認証スキャナーを射的の的だと思って撃ちやがると東雲がぼやく。


『クルセイダー・ゼロ・ワンより本部HQ目標ターゲットをロスト。繰り返す。目標ターゲットをロスト』


 ハンター・インターナショナルの空中機動歩兵は東雲たちを見失った。


「これでケンブリッジに向かえるぞ」


「ケンブリッジでの作戦はどうするんだ?」


「さあ?」


「マジかよ。もう出たとこ勝負だな」


 暁が肩をすくめるのに東雲が深々とため息を吐いた。


……………………

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る