バトル・オブ・ブリテン//カナリー・ワーフ

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 ──バトル・オブ・ブリテン//カナリー・ワーフ



 決行日。


『東雲。ルナ・ラーウィルとジャスパー・アスカムのアトランティス・バイオテック本社における所在を確認。ただ、ヘレナの居場所が分からない』


「面倒なことになりそうだな」


 つい昨日までは分かっていたヘレナの居場所は不明だった。


「ALESSの生体認証スキャナーの故障は?」


『起こした。けど、これでルナ・ラーウィルとジャスパー・アスカムの居場所はリアルタイムで追いかけられなくなる』


「なんとかしましょう」


 東雲はベリアと言葉を交わすとベリアが準備したALESSの軍用四輪駆動車に乗っている呉に目を向けた。


「やるぞ。スムーズに行こうぜ」」


「了解」


 呉が運転席で軍用四輪駆動車を走らせ、ロンドンを進む。


「ALESSのチェックポイント。生体認証スキャナーと探知用機械化生体トレーサードッグがいる。武装したコントラクターも」


「ここで躓くのはなしだぜ」


 東雲たちはチェックポイントに向かっていく。


「止まれ」


 チェックポイントで東雲たちの車が止められる。


「レベル4か? エンジニアがここから先に何の用事だ」


「アトランティス・バイオテック本社の生体認証スキャナーが故障している。その修理だ。聞いてないか?」


「確認した。行け」


 東雲がALESSのコントラクターに言うのに、コントラクターは通過を許可した。


「さあて、いよいよカナリー・ワーフだ。西インド・ドックが再開発の対象になり、それから新しい金融街として整備され、そしてそれからアトランティスによる大英帝国の買収でアトランティスの拠点になった」


「アトランティスの本丸か。気合入れないとな」


 呉がそう言い、東雲がチェックポイントを見る。


 既に連絡が言っていたのか生体認証スキャナーが自動的にスキャンすると、AELSSのコントラクターは車を止めることなく通過させた。


「アトランティス・バイオテック本社まで間もなく」


「ここにある高層ビルは全てアトランティス系列企業のか?」


「そうだよ。全てだ。アトランティスはロンドンを支配してる」


 東雲が摩天楼を見渡して尋ねるのに呉がそう言った。


「ついた。アトランティス・バイオテック本社」


「デカいビルだ。とんでもなくデカい」


「アトランティス・バイオテックは世界中で活動している。経済規模はこの会社だけで中小国に匹敵。その本社機能がここにあるんだ」


「はあ。大層なことで」


 東雲はそう言うと車を降りた。


 アトランティス・バイオテック本社のエントランスにはALESSのコントラクターが警備に当たっていた。重武装のコントラクターだ。


「止まれ。何の用事だ?」


「生体認証スキャナーが故障してるだろ。その修理だ」


「ああ。その件か。すぐに直してくれ。無人警備システムが動かせない」


「任せろ」


 東雲はALESSのコントラクターにそう言ってエントランスからアトランティス・バイオテック本社の中に入った。


「ベリア。アトランティス・バイオテック本社内に侵入した」


『オーケー。生体認証スキャナーは動かさないようにしてるから、急いでヘレナを確保して。最後にヘレナが確認されたのは地下の実験施設』


「あいよ」


 東雲たちは地下の実験施設に向かう。


 普段は無人警備システムに保護されているはずのアトランティス・バイオテック本社は生体認証スキャナーの故障でシステムは停止している。


「通常の手続きだと生体認証スキャナーの故障はどう直すんだ?」


『生体認証スキャナーの診断のために制御系があるサーバー室に向かうことになる。サーバー室は68階。つまり、ALESSのコントラクターに本社内で捕まると不味いよ』


「ああ。クソッタレめ」


 東雲たちは速足で地下の実験施設に降りていく。


「地下の実験施設に入った。研究者がいるが、ALESSのコントラクターはいない」


『そのまま実験施設内のルーム3Aに入って。昨日まではヘレナはそこにいた』


「分かった。今もいることを祈ろう」


 東雲たちが隔壁のように封鎖された扉を開いて、ルーム3Aに入った。


 ルーム3Aはバイオセーフティレベル2の実験室で安全キャビネットなどの実験設備が配置され、白衣の研究者たちがいる。


「な、なんだ、君たちは? 君たちを呼んだ覚えはないぞ」


 研究者たちが困惑した様子で東雲たちを見る。


「いないぞ。ヘレナはいない」


『地下実験施設の監視カメラの映像を調べてるけど、どの研究室にもヘレナはいない。しくじった。ここじゃない!』


「クソ。どこにいった……」


 ベリアの言葉に東雲が唸る。


「おい。ここにいた少女をどこに運んだ!」


「お、お前は本当にALESSのコントラクターか?」


「喋らないと殺すぞ」


 東雲は“月光”を展開し、研究者に向けた。


「ケ、ケンブリッジだ! ケンブリッジにあるアトランティス・バイオメディカル・コンプレックスに移送された! 上からの命令で昨日だ!」


「ベリア。ヘレナはケンブリッジだ。アトランティス・バイオメディカル・コンプレックスという場所」


 研究者が震えあがって叫ぶのに東雲がベリアに連絡する。


『確認した。アトランティス・メディカル・コンプレックスはイギリス国内で最大の生物医学実験施設。バイオセーフティレベル4の実験室まで完備している。そっちの構造部をハックしてみる』


「任せた。ルナ・ラーウィルとジャスパー・アスカムは?」


『生体認証スキャナーを動かしたら君たちがそこにいる理由がなくなる。今、監視カメラで調べているけどオフィスにルナ・ラーウィルはいない。さっきまでいたのに』


「ALESSの無線を傍受してくれ。何か伝えているかもしれん」


『オーキードーキー!』


 東雲の要請でベリアがALESSの無線を傍受し始めた。


『ビショップ・ゼロ・ワンより本部HQ要人VIPの移送準備完了。次の指示を待つ』


本部HQよりビショップ・ゼロ・ワン。間もなく輸送機が屋上に到着。要人VIPをいつでも乗せられるように』


『ビショップ・ゼロ・ワンより本部HQ。了解した』


 ALESSのアトランティス・バイオテック本社にいる部隊の通信が傍受される。


「連中、要人VIPを移送しようとしてる。この要人VIPってのはまさかルナ・ラーウィルじゃないのか」


『東雲。屋上の監視カメラを確認した。ルナ・ラーウィルがALESSの護衛部隊と一緒にいる。ロスヴィータが衛星でロンドン周辺の画像を取得したら、アトランティス・バイオテック本社にティルトローター機が向かってる』


「やられた。奴らこっちの動きに気づいてたんじゃないか……」


『かもしれない。こっちがALESSをハックしたように向こうのハッカーも──』


 そこでベリアからの連絡にノイズが入った。


「ベリア、ベリア? どうした?」


『敵のハッカーに攻撃されてる! 不味いよ! ALESSの構造物が奪還される!』


「分かった! こっちで対応する! そっちはどうにかしてくれ!」


 東雲がベリアに向けて叫ぶ。


「八重野! ALESSの構造物をハックしてくれ! ルナ・ラーウィルは逃げる! ジャスパー・アスカムだけでも始末する!」


「分かった!」


 八重野がハイエンドワイヤレスサイバーデッキからALESSの構造物に挑む。


 だが、突如として警報が鳴り響いた。


「この野郎!」


 呉が警報を鳴らした研究者を斬り倒した。


「畜生。警報がなったぞ。ALESSのコントラクターが突っ込んでくる」


「八重野。ジャスパー・アスカムは?」


 セイレムが唸り、東雲が尋ねる。


「掴んだ。79階の会議室にひとりでいる」


「よし。殺しに行くぞ。ALESSのIDが使えるうちに」


 東雲がそう言って研究室を出る。


『東雲。無人警備システムはこっちで焼き切った。無人警備システムは作動しない。けど、ALESSの交信に偽のコントラクターがいるって情報が──。ロスヴィータ! 攻撃エージェントが来るよ!』


 ベリアの方は交戦中のようだ。


「ヤバイ。偽のコントラクターがいるって情報がALESSに流れた。確認が厳重になっちまうぞ。ALESSに気づかれる」


「交戦は可能な限り避けるぞ。時間のロスが一番の損害だ」


「あいよ」


 東雲を先頭に呉たちが上層に向かう。


『キャッスル・ゼロ・ワンから本部HQ。IDを偽装したコントラクターについての情報あり。アトランティス・バイオテック本社にて生体認証スキャナーの故障を修理しに来たというエンジニアのIDが不確かだ』


本部HQよりキャッスル・ゼロ・ワン。データを解析した。偽造されたIDと確認。対応を開始する。キャッスル・ゼロ・ワンは引き続き、エントランスを警備せよ』


 ALESSの無線を八重野が傍受した。


「東雲。完全に気づかれた」


「クソッタレめ。強行突破だ。ぶち抜いて進む!」


 東雲たちは上層のエントランスに出た。


「いたぞ! IDを偽装している連中だ!」


「キャッスル・ゼロ・ワンより本部HQ! 接敵した!」


 ALESSのコントラクターたちが銃口を東雲たちに向けてくる。


「時間のロスが最大の損失だったよな!」


「そうだ! 相手にするな! どうせ全部隊がここに殴り込んでくる!」


 東雲が叫ぶのに呉が叫び返す。


「任せとけ」


 そこで暁が電磁ライフルをALESSのコントラクターに向けた。


 電気の弾ける音が響き、極超音速で大口径ライフル弾が発射される。


「クソ! 敵は電磁ライフルで武装! 繰り返す! 敵は電磁ライフルで武装!」


本部HQよりキャッスル・ゼロ・ワン。対応策を準備中。そのまま交戦を継続し、時間を稼げ』


「無茶を言うな! 全員ミンチにされるぞ!」


 口径30ミリの電磁ライフルは掠めただけで肉を引き剥がされる威力がある。


 直撃したコントラクターはミンチに変わった。


「東雲! 今のうちにエレベーターに飛び込め!」


「あいよ!」


 東雲がエレベーターのボタンを押して開き、全員がエレベーターに飛び込む。


「八重野。まだALESSの構造物はハックできてるか……」


「なんとかな。ベリアたちを攻撃したハッカーはベリアたちに気を取られている」


「いいニュース。ジャスパー・アスカムは?」


「動いてない」


 東雲の問いに八重野が答える。


「不味い。エレベーターが止まる」


「敵か?」


「恐らく」


「あーあ」


 暁が言うのに東雲がため息をついて“月光”を展開する。


『バルバロイ・ゼロ・ワンより本部HQ。侵入者はエレベーターで移動中。57階で停止させる。交戦規定ROEは?』


本部HQよりバルバロイ・ゼロ・ワン。交戦規定ROEは射撃自由。確実に侵入者を仕留めろ』


『了解』


 そして、エレベーターが57階層で停止した。


「来るぞ──!」


 エレベーターが開くと同時に銃弾の嵐が吹き荒れる。


「バルバロイ・ゼロ・ワンより全部隊。撃て、撃て!」


「突っ込め!」


 東雲が“月光”を高速回転させてALESSの警備チームに突っ込む。


「サイバーサムライだ! 畜生!」


「射撃を続けろ! とにかく火力を叩き込め!」


 ALESSのコントラクターたちが自動小銃や機関銃で東雲たちを激しく銃撃するが、攻撃は“月光”によって弾かれる。


「そら! ミンチにしてやるよ!」


 東雲が“月光”を手にALESSのコントラクターたちに突っ込み、血を撒き散らす。


「一閃」


 八重野も超電磁抜刀で東雲を背後から狙おうとするALESSのコントラクターを仕留めた。王蘭玲によって高速化された機械化ボディが的確な一撃を叩きだす。


「バルバロイ・ゼロ・ワンより本部HQ! 至急応援を──」


「死ね」


 東雲がALESSの警備チームの指揮官の首を刎ね飛ばした。


……………………

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