原潜基地//バイバイ、樺太
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──原潜基地//バイバイ、樺太
吹き荒れる殺戮の嵐。
『怯むな! 祖国ロシアの大地を解放しろ!』
『ありったけの火力を叩き込め!』
オホーツク義勇旅団が日本海軍特別陸戦隊を相手にあらゆる火力を向ける。
対戦車ロケットが飛翔し、グレネード弾が飛び、大口径ライフル弾が放たれ、特別陸戦隊を相手に戦い続ける。
だが、特別陸戦隊はオホーツク義勇旅団の攻撃をものともしない。
『敵
『新たに所属不明の機械化ボディの反応を確認。大井重工製の40式生体機械化ボディをベースにしたと思われるものがひとつ。メティス・メディカル製
『オホーツク義勇旅団の民兵の可能性あり。排除せよ』
『了解』
特別陸戦隊がアーマードスーツを盾にしながら、前進してくる。
「やばいぞ。連中、俺たちを狙ってやがる」
「逃げた方がよさそうだな。隙を突いて脱出しよう」
東雲が唸り、ミノカサゴがそう言う。
「了解。どうにかしましょう」
東雲はそういうと“月光”を高速回転させて遮蔽物を出た。
「撃ってきたぞ! 急げ、急げ!」
遮蔽物から出た東雲に特別陸戦隊が火力を集中してくる。
「行け、行け! オホーツク義勇旅団の方は任せたぞ、ミノカサゴ!」
「了解。もうひとりのサイバーサムライも借りるぞ」
東雲が特別陸戦隊の攻撃を“月光”で防ぎつつ、ミノカサゴと八重野はオホーツク義勇旅団の相手をする。
八重野が高速移動して“鯱食い”で切り裂き、ミノカサゴがフレシェット弾と生物化学兵器で兵士たちを蹴散らす。
「アーロ! ディミトリ! 脱出だ! 急げ!」
「オーケー!」
アーロたちも東雲たちに続いて遮蔽物から出る。
「ディミトリ! 案内を!」
「こっちだ!」
ディミトリが先に進み、ホットスポットを避けたルートでトンネルに向かった。
「ミノカサゴ! 蜂の巣にされる前に逃げるよ!」
「分かった」
スーツ姿の女が叫び、ミノカサゴが連続して生物化学兵器を使用するとスーツ姿の女とともにトンネルのある廊下に向けて飛び込んだ。
「八重野! アーロを連れていけ! 俺も脱出する!」
「了解だ」
八重野が廊下に飛び込み、東雲も後退しながら廊下に入る。
「急げ、ディミトリ! 連中、絶対に追いかけてくるぞ!」
「言われなくても分かってるよ、畜生! 日本海軍特別陸戦隊のもう一度相手にする羽目になるなんてな!」
廊下に飛び込んだ東雲たちの背後から電磁機関砲の砲声が響く。
『おい! サーシャ! サーシャが死んだ! このクソ野郎ども!
『遮蔽物だ! 遮蔽物に隠れろ! 殺されるぞ!』
『銃もRPGも通用しない! どうすりゃいいんだよ!』
オホーツク義勇旅団の悲鳴染みた通信が東雲に聞こえて来た。
『フジ・ゼロ・ファイブよりフジ・ゼロ・ワン。逃げた人間がいます。機械化ボディの民兵と思しき人間です。指示を乞う』
『フジ・ゼロ・ワンよりフジ・ゼロ・ファイブ、フジ・ゼロ・シックスは逃走した民兵を追跡し、撃破せよ。
『了解』
2体のアーマードスーツが廊下に逃げた東雲たちを追う。
「走れ、走れ、走れ! 蜂の巣にされるぞ! 死にたくなければ走り続けろ!」
「俺についてこい! ホットスポットを避けながら最短距離で進む!」」
東雲が叫ぶのにディミトリが叫び返した。
『フジ・ゼロ・ファイブよりフジ・ゼロ・シックス。40式多目的誘導弾を直接打撃モードで使用する。リンク-39を使用して共同交戦を実施』
『フジ・ゼロ・シックスよりフジ・ゼロ・ファイブ。リンク接続、コンプリ―ト。いつでも撃てます』
『発射』
2発の大型ミサイルが東雲たちに向けて発射される。弾頭は
「ミサイルだ! 伏せろっ!」
東雲が“月光”をミサイルに対して投射し、同時に八重野たちが伏せる。
ミサイルは大爆発を引き起こし、地下潜水艦基地の廊下の天井からボロボロと劣化したコンクリートが落下してきた。
『ミサイルが迎撃された……』
『フジ・ゼロ・ファイブからフジ・ゼロ・シックス。警戒せよ。敵は何らかのサイバネティクス技術を使用している。攻撃を続け、反撃を許すな』
『了解』
特別陸戦隊の2体のアーマードスーツは電磁機関砲と自動擲弾銃で絶え間なく東雲たちを攻撃する。
「バカスカ撃ちやがって! 血が切れちまうだろ!」
東雲は“月光”でひたすら特別陸戦隊のアーマードスーツからの攻撃を防ぎつつ、案内役のディミトリの後に続いて廊下を走る。
「上に昇るぞ。トンネルまではもう少しだ」
「頼むから急いでくれ」
ディミトリが階段を駆け上り、アーロ、スーツ姿の女、ミノカサゴ、八重野、東雲の順で上階の居住区に駆け込む。
『フジ・ゼロ・ファイブよりフジ・ゼロ・ワン。所属不明の民兵は上階に逃走。追跡を継続するか。指示を乞う』
『太平洋保安公司の
『フジ・ゼロ・ファイブよりフジ・ゼロ・ワン。了解。合流する』
ここでようやく特別陸戦隊のアーマードスーツが東雲たちを追うのを止めた。
「あいつら、ここまでは付いてこないみたいだぜ。やったな」
「安心ていいやら。恐らく基地の外に樺太連隊辺りが到着しているのかもしれない」
東雲がガッツポーズを取るのにディミトリが愚痴った。
「ディミトリ。ここを出たら報酬と航空便のチケットを渡す。統一ロシアに逃げろ」
「ああ。ここにはもううんざりだ。クソみたいな嫌がらせばかりされて、飯も酒も碌に手に入らず、女はどいつも病気持ち。統一ロシアが政治的に腐敗していて、経済成長率がマイナスだろうとウォッカは手に入るだろう」
アーロが言うのにディミトリがそう返す。
「そうだ。統一ロシアに逃げたらレストランを始めよう。海軍歩兵時代に料理を学んだんだ。合成品でも美味いボルシチとペリメニが作れる。ささやかな暮らしだろうがが、静かに生きていける」
ディミトリはそう言いながらホットスポットを避けて進む。
「あんたらはここを出たら何がしたい?」
そこっでディミトリが東雲たちにそう尋ねた。
「俺は北海道で味噌バターラーメンが食いたいなあ。バターが乗ってて、コーンが乗ってて、チャーシューがいっぱい乗ってるの」
「どうせ合成品だぞ」
「いいんだよ。北海道に行って味噌バターラーメンを食べるのはセクター13/6で中華そばを食べるのとは違う」
八重野が呆れたように言い、東雲がそう言い返した。
「私はさっさとカナダに帰って預けていた猫に会いたいね。タビーの猫で今1歳になる。鶏肉の缶詰が大好物でね。目がないんだ」
ミノカサゴがそう言う。
「意外だな。あんたに猫を愛する気持ちがあるなんて」
「文句でもあるのか?」
「ないよ」
ミノカサゴが睨むのに東雲がそう言った。
「俺は
「いいねえ。俺も温泉に行きたくなってきた」
アーロは呟くようにそう言い、東雲が頷いた。
「私は
スーツ姿の女はそう言った。
「八重野、お前は?」
「特にない。この
「夢がない奴だな」
「別にいいではないか」
東雲が呆れるのに八重野が少々憤慨して返した。
『東雲。取引は終わった?』
「終わったよ、ベリア。今、逃げているところだ」
『気を付けて。旧ロシア海軍地下潜水艦基地周辺に樺太連隊と太平洋保安公司の
「規模は?」
『不明。軍の
「俺たちも衛星が使えたらなあ」
『衛星か。試してみよう。民間向けの偵察衛星も飛んでるし』
ベリアがそう言ってARから引っ込む。
『オーケー。スペース・ジオ・スキャンって民間の会社が運営している偵察衛星がちょうど樺太を映してる。今、ズームして解析してみる』
ベリアが樺太上空を飛行しているアロー系列の民間宇宙開発企業スペース・ジオ・スキャンが運営しているECHO-SAT22という偵察衛星から樺太の状況を見る。
撮影された画像を拡大して樺太の旧ロシア海軍地下潜水艦基地の周辺の様子を取得し、ジャバウォックとバンダースナッチに解析させる。
『東雲。偵察衛星からの情報。旧ロシア海軍地下潜水艦基地の周辺に空中機動歩兵1個大隊と機械化歩兵3個大隊、無人戦車1個大隊。それから無人攻撃ヘリが8機とドローンが多数。周辺の道路は大井統合安全保障が封鎖した』
「あーあ。大変なことになっちまったな。どうやって逃げたものか」
『今、偵察衛星の映像から抜け道を探してる。どこかに抜け道があるはずだから。今は樺太連隊と太平洋保安公司に気づかれないようにそこから脱出して』
「あいよ」
東雲たちはディミトリの誘導でホットスポットを避けてトンネルを目指す。
「トンネルだ。脱出できるぞ。陸戦隊は付いて来てないな?」
「来てない。俺から出よう。様子を見てくる」
「頼んだ」
東雲が危険な任務を引き受け、ディミトリが道を譲った。
東雲は梯子を登って行き、閉じておいたハッチを開く。
「よーし。日本陸軍も太平洋保安公司の連中もいない。大丈夫だ!」
「分かった!」
東雲が地上で見張る中、アーロ、スーツ姿の女、ディミトリ、ミノカサゴ、八重野の順でトンネルから脱出した。
『東雲。封鎖を逃れた道路を見つけた。ナビするから車なりなんなりの足を手に入れて。とりあえず、旧ロシア海軍地下潜水艦基地から半径30キロは樺太連隊と太平洋保安公司の作戦圏内だから、その外に』
「了解。逃げるぞ! 車まで戻ろう!」
東雲が叫び、ディミトリたちが動く。
「先に報酬を頼む。もう俺の
「ああ。端末を出してくれ。チャージする」
アーロがディミトリの端末に報酬をチャージする。
「いいぞ。これでこのクソッタレな土地から脱出できる」
ディミトリはそう言って大喜びし、森の外に止めてあった車に向けて走り出した。
そこで彼の肉体が弾け飛んだ。
「無人攻撃ヘリだ!」
アーロが大声で叫び、東雲がディミトリを八つ裂きにした無人攻撃ヘリの場所を探して空を見渡した。
「クソ。あの野郎! やりやがって!」
東雲が自分たちを照準している無人攻撃ヘリに“月光”を投射する。
だが、距離もあって無人攻撃ヘリは“月光”を回避し、東雲たちに電磁機関砲の方向を向けながら飛行する。
「人狩り機仕様の無人攻撃ヘリだ。ここに留まっていれば皆殺しにされるぞ」
「逃げるしかない」
ミノカサゴがそう言って、スーツ姿の女が駆けだす。
「あの無人攻撃ヘリがいる限り、無事に脱出できるとは思えん」
東雲がホバリングしてる無人攻撃ヘリを見てそう呟いた。
予想通り無人攻撃ヘリは太平洋保安公司が運用する人狩り機仕様の無人攻撃ヘリで、あらゆるセンサーで東雲たちを捕えている。
「撃ち落せるか」
「やって見せましょう」
東雲は八重野にそう言うと“月光”を全て攻撃に回し、ホバリングしている無人攻撃ヘリに対して向けた。
そして、射出。
今回もレーダーで飛翔物を捉えた無人攻撃ヘリは限定AIが自動で回避行動を取るが、東雲の放った全ての“月光”を回避するには至らなかった。
翼のハードポイントに装備していた誘導ロケット弾に“月光”が突き刺さり、誘導ロケット弾が暴発し、無人攻撃ヘリは深刻な損傷を負って墜落する。
「よしっ! 脱出だ!」
東雲が八重野とアーロと一緒に走り出す。
『東雲。君の現在地をARデバイスから特定した。ナビゲーションするからそれに従って大井統合安全保障の封鎖から逃れて』
「あいよ! さよなら、樺太だ!」
ベリアからの連絡に東雲がそう言うと、先に乗り込んだアーロが運転する車に八重野とともに乗り込んだ。
……………………
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