原潜基地//大乱闘

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 ──原潜基地//大乱闘



 迫りくる統一ロシア空挺軍の特殊任務部隊スペツナズ


 統一ロシアがトート・ウェポン・インダストリーと共同開発したボディと口径14.5ミリの電磁ライフルを装備して東雲たちに向かって来る。


「あいつらは任せていいぞ」


「あんた、武器をどこに持ってるんだ?」


「ここだ」


 ジャージ姿の女がそう言ってジャージの袖を捲ると腕からグレネードランチャーのような銃身が飛び出し、それが特殊任務部隊スペツナズに向けられる。


「まずは1体」


 次の瞬間、電磁ライフルが発射されるような電気の弾ける音が響き、ジャージ姿の女の腕から突き出た銃身から金属の覆われた筒に入っている劣化ウランで作られたフレシェット弾が極超音速で発射される。


 フレシェット弾は装甲を貫き、広範囲に及んで殺傷効果を及ぼした。


 直撃した特殊任務部隊スペツナズの兵士はミンチより酷いことになった。


『クソ! セルゲイがやられた!』


『電磁フレシェット弾だ! 敵のサイバネアサシンがいるぞ!』


『イーゴリ軍曹、制圧射撃を行え! 機関銃で制圧しろ!』


 ベリアが傍受しているオホーツク義勇旅団の通信ネットワークに特殊任務部隊スペツナズの通信も紛れ込んでくる。


 特殊任務部隊スペツナズの兵士が旧ロシア軍の機関銃で東雲たちが隠れる遮蔽物に向けて銃弾を叩き込み続ける。東雲たちに顔を上げさせない。制圧射撃だ。


「ふん。その程度で封じたと思っているとは特殊任務部隊スペツナズの質も落ちたものだな」


 ジャージ姿の女はそういうと腕だけ遮蔽物から出してまたフレシェット弾を相手に向けて叩き込む。


 そして、フレシェット弾は見事特殊任務部隊スペツナズの兵士に命中した。


「よく当てられるな」


「センサーはいろんなところについているし、生体電気センサーもあるんでね」


 東雲が感心するのにジャージ姿の女はそう返した。


「そら、もう1体」


 ジャージ姿の女が放つ電磁フレシェット弾は生体機械化兵マシナリー・ソルジャーの小銃弾くらいならば余裕で防ぐはずのボディをミンチに変える。


『クソ、クソ、クソ。グレネード弾を使え! 遮蔽物に隠れているニンジャをミンチにしてやれ!』


『了解!』


 電磁ライフルのアドオングレネードランチャーから特殊任務部隊スペツナズの兵士が空中炸裂型グレネード弾を射出する。


「やらせるかよ」


 発射されたグレネード弾を東雲が“月光”を射出して迎撃し、グレネード弾が東雲たちが隠れる遮蔽物の手前で暴発した。


「いい仕事だ、サイバーサムライ」


 ジャージ姿の女はそう言ってまた1体の特殊任務部隊スペツナズの兵士に電磁フレシェット弾を叩き込んだ。


『分隊長! このままでは無駄死にです! 撤退命令を!』


『黙れ、ドミトリ伍長! 我々は任務を遂行する! この祖国の大地であるサハリンを母なるロシアの下に!』


 特殊任務部隊スペツナズはそう言って機関銃による援護射撃の下で、電磁ライフルを構えて突撃してきた。


「しびれを切らしたか。仕事ビズだぞ、サイバーサムライども」


「あいよ!」


 ジャージ姿の女が電磁フレシェット弾を叩き込んでから言うのに、東雲が“月光”を高速回転させて特殊任務部隊スペツナズに向けて突進を開始し、それに八重野が続いていく。


『サイバーサムライが突っ込んでくるぞ!』


『ミンチにしてやれ』


 特殊任務部隊スペツナズの兵士たちが一斉に東雲と八重野に電磁ライフルから大口径ラフル弾を叩き込み始めた。


「飛ばすぞ、八重野!」


「ああ!」


 東雲は身体能力強化で生体機械化兵マシナリー・ソルジャー並みの速度で加速し、八重野が王蘭玲がクロックアップした脳のインプラントを実行して東雲と一緒に特殊任務部隊スペツナズに突っ込む。


「おらっ! 薄切りトーストにしてやるぜ!」


 東雲が“月光”の刃で特殊任務部隊スペツナズの兵士を電磁ライフルごと引き裂いた。


 機械化した身体を切断された生体機械化兵マシナリー・ソルジャーが火花を散らせて崩れ落ちる。


「いざ」


 八重野も王蘭玲の手で出力が向上したボディで特殊任務部隊スペツナズの兵士に切りかかる。


 目にも留まらぬ速度で超電磁抜刀が行われ、敵が一刀両断された。


「すげえな。前よりずっと早いぞ」


「ああ。私自身も驚いている」


 八重野はそう言いながら超電磁抜刀を使わず次の特殊任務部隊スペツナズの兵士に斬りかかった。


 ヒートソードは生体機械化兵マシナリー・ソルジャーの装甲をバターのように引き裂き、排熱機構を破壊して熱暴走によって死亡させる。


 特殊任務部隊スペツナズ残り4名。


『分隊長が死亡! 分隊長死亡!』


『落ち着け。指揮を引き継ぐ。距離を置いて攻撃しろ。サイバーサムライども接近させるな。イーゴリ軍曹、機関銃で支援しろ。オホーツク義勇旅団の民兵どもも前に出せ』


『了解』


 流石は腐っても精鋭特殊作戦部隊なだけはあり、指揮官死亡後も直ちに対策を立てて東雲たちを迎え撃つ。


「お前ら! 突撃だ! 祖国ロシアのために!」


「ウラァァ────!」


 オホーツク義勇旅団の兵士たちもカラシニコフを乱射しながら突撃してくる。


「クソ。数が多い。その上、特殊任務部隊スペツナズの連中、オホーツク義勇旅団の雑魚どもを肉の壁にしてやがるぞ」


「いちいち相手にしてたら脱出する機会を逃す」


「どうする?」


「私に策はない」


 東雲がオホーツク義勇旅団の兵士たちが叩き込んでくる銃弾を高速回転する“月光”で弾きながら尋ねるのに八重野が“鯱食い”を鞘に収めてそう返した。


「おい! 大井のサイバーサムライども! 下がれ、下がれ! 雑魚を追い払う!」


 そこでジャージ姿の女から合図が来た。


「下がるぞ、八重野。援護するから先に行け」


「分かった」


 東雲が銃弾を弾きながら、じりじりと遮蔽物まで後退する。


「策があるんだな?」


「ある。少しショッキングだぞ」


 ジャージ姿の女はそう言うと腕から伸びた銃口をオホーツク義勇旅団の軍勢に対して向けた。


 そして、電気が弾ける音がする。


「おお?」


 今度放たれたのはフレシェット弾ではなかった。


 放たれたのは空中炸裂型のグレネード弾で生体電気センサーの反応を捉え、オホーツク義勇旅団の隊列の中央で炸裂した。


 ごく小さなカプセルが放出され、周囲に撒き散らされる。


「うぐっ……」


 グレネード弾から放たれたカプセルを受けたオホーツク義勇旅団の兵士が胸を押さえて苦しみながら倒れ込む。


 大量にばたばたと人間が倒れていく。


「何を使った……」


「バトラコトキシンをベースに合成された毒素を含んだカプセルを叩き込んだ。1発でも受ければ心不全を起こして死亡する。この毒素は暗殺のために開発されたものだ」


 ジャージ姿の女は平然とそう返した。


「生物化学兵器かよ。無法極まりだな」


「銃弾で肉を裂き、苦痛を与えて殺すのと毒で殺すのに何の違いがある。戦場で慈悲深い死を期待している連中はとんだお花畑だ」


 東雲が死んでいくオホーツク義勇旅団の兵士たちを見るのにジャージ姿の女は次の毒素を含んだグレネード弾を叩き込んだ。


「東雲。不味い」


「どうした、八重野」


「アーマードスーツの駆動音が聞こえる。オホーツク義勇旅団の侵入ルートの反対側。我々の後ろの方からだ」


 八重野が東雲にそう報告する。


「まさか」


「畜生。日本海軍特別陸戦隊だ」


 アーロがそう呻く。


 赤い非常照明に照らされた廊下から特徴的な四足のアーマードスーツ──49式強襲重装殻が姿を見せた。


 大井重工製の最新鋭機。日本海軍特別陸戦隊だけが装備する装備。


「遮蔽物に隠れろ!」


 ジャージ姿の女が叫ぶ。


 次の瞬間、口径35ミリの電磁機関砲が掃射された。


 オホーツク義勇旅団の兵士も、以前の戦闘の際に積み上げられた土嚢やコンテナなども全て溶けるように薙ぎ払われる。


「畜生、畜生、畜生。ハンバーグにされちまう!」


「トマトソースも添えて美味しくなっちまうな!」


 東雲たちが頑丈な遮蔽物に隠れる。


『フジ・ゼロ・ワンより各員。あらゆる手段を使って全ての障害を排除せよ。射撃自由、生存者ゼロが交戦規定ROEだ』


『了解』


 日本海軍特別陸戦隊のオペレーターたちは8体のアーマードスーツと生体機械化兵マシナリー・ソルジャー12名で構成されていた。


 日本国防四軍が採用している口径25ミリの電磁ライフルと口径12.7ミリの電磁機関銃で武装した生体機械化兵マシナリー・ソルジャーがアーマードスーツを援護する。


 アーマードスーツは35ミリの電磁機関砲を短く連射しながら制圧射撃を実行しつつ、自動擲弾銃で火力を加え、その上口径70ミリの誘導ロケット弾からサーモバリック弾を叩き込んだ。


「あの日本海軍のアーマードスーツにフレシェット弾は通用しない。アクティブA防護PシステムSが装備されていて、友軍に向かって来るグレネード弾や対戦車ロケット、対戦車ミサイルを高出力レーザーで撃墜する」


「何でもありかよ」


「その上、装甲は電磁装甲。90ミリ戦車砲にも耐える」


「もう嫌」


 東雲が深いため息を吐いた。


『フジ・ゼロ・ワンより各員。生体機械化兵マシナリー・ソルジャーはアーマードスーツを盾に敵歩兵の近接を阻止せよ。アーマードスーツはとにかく火力を叩き込め。この階層に核兵器や使用済み燃料棒は存在しない』


 日本海軍の特殊作戦部隊たる特別陸戦隊の練度は遥かに高かった。


 オホーツク義勇旅団は遮蔽物に隠れてでたらめにカラシニコフを乱射するだけなのに対して、特別陸戦隊は遮蔽物ごとぶち抜いて射殺し、逃げる敵を確実にヘッドショットしていく。


「逃げようぜ。あんな連中相手にしてられねえよ」


「だが、どのタイミングで逃げる? 前も後ろも敵だらけだ。脱出トンネルに飛び込むのにはあまりにも危ない」


 東雲が言うのに八重野が尋ねた。


「おい、ジャージ女。何かいいもの持ってないか?」


「ねえよ。それからジャージ女はやめろ。ミノカサゴと呼べ」


「そいつは洒落た名前だことで。俺は東雲、あっちは八重野。で、俺たちはどうにかしてこの危機を切り抜けにゃならん」


 東雲はオホーツク義勇旅団と特殊任務部隊スペツナズから浴びせられる弾丸やロケット弾と日本海軍特別陸戦隊から浴びせられる火力を左右に見てそう言った。


「特別陸戦隊を相手にするなんて遠回りの自殺だ。連中は極東最強格の部隊だぞ。第三次世界大戦最大の激戦である上海強襲上陸作戦やフィリピンの海賊排除、そして樺太制圧作戦に参加している」


「聞きたくない。とにかく、このままじゃどっちからか蜂の巣にされちまう。そして、トンネルに通じる廊下はオホーツク義勇旅団の方にある。この遮蔽物から出てそこまで駆けこまないとミンチだ」


 ジャージ姿の女──ミノカサゴが言うのに、東雲が日本海軍特別陸戦隊のアーマードスーツから飛来したロケット弾を“月光”で迎撃してそういう。


「スモークグレネードでもあればいいだが」


「そんなの持ってきたら太平洋保安公司のチェックポイントで捕まる」


 アーロが呻くのにスーツ姿の女が返した。


 そこで東雲たちの頭上をオホーツク義勇旅団が発射した数発の対戦車ロケット弾が飛び去って行った。


 対戦車ロケットは日本海軍特別陸戦隊のアーマードスーツを捉えていたが、アクティブ防護システムが作動し、高出力レーザーによって撃墜される。


 そして、このアーマードスーツに装備されたアクティブ防護システムは致死兵器ではないので完全な限定AI管制だ。


『フジ・ゼロ・ワンより各員。敵の脅威増大。迅速に排除せよ』


『フジ・ゼロ・スリーよりフジ・ゼロ・ワン。生体電気センサーが生体機械化兵マシナリー・ソルジャー特有の信号を捉えた。今、限定AIがパターンを分析した。統一ロシア空挺軍のものだ』


『フジ・ゼロ・スリーよりフジ・ゼロ・ワン。了解。敵は電磁ライフルで武装しているものと思われる。生体機械化兵マシナリー・ソルジャーを優先的に排除せよ』


 アーマードスーツの火力が特殊任務部隊スペツナズに叩き込まれる。


『イーゴリ! イーゴリ軍曹! クソ! 日本人どもめ!』


『RPGを集中射撃しろ! アクティブ防護システムを飽和させるんだ!』


 オホーツク義勇旅団が一斉に対戦車ロケットを海軍特別陸戦隊のアーマードスーツに向けて叩き込んだ。


「あぶねえ!」


「滅茶苦茶だな」


 東雲が頭上を飛翔する対戦車ロケットに頭を下げるのに八重野も伏せた。


 対戦車ロケットは十数発叩き込まれたが、全てが日本海軍が使用するC4ISTARによって連動するアーマードスーツ同士の同時交戦能力により全弾が迎撃された。


『フジ・ゼロ・ワンより各員。樺太連隊と太平洋保安公司の対反乱戦COIN部隊が駆けつけているが、その前に片づけるぞ』


 剣呑な命令が特別陸戦隊のオペレーターの間で響き、火力が敵に向けられる。


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