原潜基地//事前調査
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──原潜基地//事前調査
ベリア、ロスヴィータ、ヘレナ、暁はエストニアのマトリクスにジャンプした。
エストニアのマトリクスはいくつもの
「追跡エージェントと検索エージェントは付いて来てない。逃げ切れた、かな」
ベリアが診断プログラムを走らせ、各勢力の追跡エージェントと検索エージェントの有無を確認した。
「どこに隠れればいい?」
「手ごろなところだとHOWTechの下請けの構造物かな。
暁が尋ねるのにベリアがそう言っていくつもの構造物が並ぶエストニアのマトリクスを見渡しそう言った。
「オーケー。そこに隠れておく。時期が来たら教えてくれ」
「これ、私の端末のIDね。連絡するときはここから連絡するから」
「分かった。待ってる」
ベリアがIDを渡し、暁がそう返した。
『ベリア。大丈夫か?』
「東雲か。ようやく大丈夫になったよ」
『よかった。全く、お前が六大多国籍企業と国連チューリング条約執行機関を相手にマトリクスで暴れていると言われたときはどうなるかと思ったよ』
「ってことはジェーン・ドウから話があった?」
『あった。お前らを助けるのと引き換えに
「だって、マトリクスの魔導書はヘレナそのものだったんだよ。マトリクスの魔導書にはヘレナの記憶があって人格がある。そして、彼女はもうこの揉め事にはうんざりしていたってところ」
『そうかい。じゃあ、仕方ない。大体ヘレナの本体の方も囚われの身だしな』
東雲がそう返す。
「で、
『メティスの反白鯨派閥との取引の護衛。なんと白鯨の完全データと俺たちが盗み出したメティス理事会のデータを交換するんだとさ』
「本気で言ってるの? 白鯨の完全データ?」
『ジェーン・ドウは本気だ』
「あーあ。それは嫌な
『いいよ。気にするな。どうせジェーン・ドウはどうあれ俺たちにこの
ベリアが謝罪するのに東雲が軽い調子でそう言った。
「それじゃ
『場所は北方自治政府管轄の樺太。そこにある旧ロシア海軍地下潜水艦基地。そこの放射線汚染されていない場所で取引するんだとさ』
「分かった。調べてみる」
『どうもその地下基地から日本海軍が核兵器を運び出しているらしい。日本国防軍の連中に気を付けろ』
「オーキードーキー」
ベリアはそう言って東雲との連絡を切る。
「ロスヴィータ。新しい
「それはまた。樺太の旧ロシア海軍基地か。噂には聞いたことがあるよ。ロシア内戦で分裂した勢力のひとつである極東ロシア臨時政府が軍事支援と引き換えに北方領土と一緒に売り払った」
ロスヴィータが続ける。
「ただ、現地の旧ロシア海軍歩兵の旧政府忠誠派がその地下潜水艦基地に立て籠もった。それを日本海軍の特殊作戦部隊が蹴散らしたって話。基地はその戦闘のせいで何隻かの原潜が損傷し、放射線漏れが起きてる」
「東雲は今も樺太に日本海軍の部隊がいるって言ってる。考えられるとしたらどの程度の部隊だと思う?」
「さあ。そこまでは。マトリクスで調べてみるしかないね」
「だけど、BAR.三毛猫はメンテ中」
「どこから当たろうか」
最大の情報源であるBAR.三毛猫は六大多国籍企業が暴れたことでメンテ中だ。
「別の
「そこにしよう。会員制?」
「そ。私が会員だから招待するね」
ロスヴィータはそう言って新しく表示したアドレスの先に飛んだ。
「ここだよ。電子掲示板BIG-E。仕様はBAR.三毛猫と違うけど、ここもハッカーたちが集まっている。それからいろんな分野のマニアたち」
「招待状を受け取った。アカウントを作ってる。……できた」
ベリアはBIG-Eの会員アカウントを作成した。
「BIG-Eはトピックごとに部屋が違うから、まずは何を探す?」
「樺太の日本国防軍について」
「ではミリタリー部屋だね」
ベリアたちはオフィスのようにいくつもの部屋が並ぶBIG-Eの中を進み、ミリタリー部屋に入った。
「今あるトピックに樺太関係のものはないね」
「過去ログはこっちで探せる。BAR.三毛猫ほど洒落てないけど、この書類棚で検索を掛けたらヒットするはずだよ」
「では、早速試してみよう。“樺太”と」
そうすると様々なトピックがヒットした。
「“樺太奪取作戦について語るトピック”、“日露樺太危機事件”、“現在の樺太情勢”他もろもろ」
「おさらいのために“樺太奪取作戦について語るトピック”から軽く見ていこうか?」
「そうしよう」
ベリアが過去ログを展開する。
『極東ロシア臨時政府は日本政府に北方領土と樺太の売却を決定したぜ』
『さっき正式発表があったな。既に日本国防四軍は動いてるってさ』
このミリタリー部屋の住民たちは格好も凝っているらしく、アメリカ連合軍のロバート・E・リー将軍の格好をしたアバターと大日本帝国海軍の第一種軍装を纏ったマンガキャラのアバターなどが喋っている。
『動員されたのは日本陸軍の第2師団と第11師団。日本海軍の第4任務部隊。日本空軍の第3飛行隊。水陸両用作戦になるが水陸機動旅団はまだ南にいる』
『そもそも国防軍は旧ロシア軍の抵抗を想定してるのか? 極東ロシア臨時政府は売却に同意して、金と軍事物資を受け取ったんだろう?』
『旧ロシア政府忠誠派の抵抗は想定しているだろうな。極東ロシア臨時政府は極東の軍の全てを掌握したわけじゃない。それに旧ロシア政府はウクライナ戦争のときからあの地域に日本が侵攻してくることを懸念していた』
『被害妄想が事実になったわけだ。国防軍は勝てるかね?』
『勝てるだろう。ロシア海軍は乗組員が逃亡して軍艦は港で朽ち果ててる。反政府テロリストによるサボタージュも行われたようで衛星画像じゃ炎上する港と軍艦が映っている有様だ。陸上戦力もウクライナに引き抜かれて大したものじゃ』
『第4任務部隊には空母もいるし、日本海軍の
事実、日本国防軍は大した抵抗も受けずに極東ロシア臨時政府から売却された北方領土と樺太を占領している。
『問題は占領後の話だ。ロシア系住民をどう扱うのか。日本に帰化させるのか。それともロシアに送還するのか。中国やイスラエル式に自治区を作って閉じめるってのはあまりやってほしくないな』
その後、トピックの話題はリアルタイムで変動する戦況の話になり始めた。
空軍基地や海軍基地、陸軍駐屯地の近くに暮らす住民たちがどこの部隊が動いたとかいう話を報告していき、報道の情報と合わせて分析されていた。
だが、あまりベリアたちの興味を引く話題はなかった。
「別のトピックを見てみよう」
「“日露樺太危機事件”?」
「あんまり関係なさそうだけど軽く」
ベリアが新しい過去ログを展開する。
『統一ロシア軍が
『いつもの騒ぎだな。統一ロシアは樺太の売却は無効だと言って国際司法裁判所に訴えてる。日本政府はひたすらそれを無視。統一ロシアもウクライナ戦争の件で訴えられて出廷を拒否してるからお相子か』
『国際法なんざクソくらえの世の中だ。守られているのはチューリング条約くらいか? どこの国も自分に都合のいい国際法しか守らない』
『だが、統一ロシアは太平洋艦隊に新しく強襲揚陸艦を配備したらしいぞ。何かあるんじゃないか?』
『樺太と北方領土奪還か? 無理だろ。日本海軍の潜水艦がうろうろしてて、統一ロシアには対潜能力がほとんどない』
『だよな。その上、樺太には陸軍の樺太連隊と地対艦ミサイル連隊が駐屯している』
『近づけば蜂の巣だ』
樺太を巡る日本と統一ロシアの軍事緊張は今も続ているようだった。
「さて、本命」
「“現在の樺太情勢”」
ロスヴィータが過去ログを展開する。
『樺太の核兵器ってのはマジの情報なのか?』
『太平洋保安公司が動員されているのは確かだ。特殊兵器事業部。
『日本海軍の潜水艦が大井重工造船事業部の手で
『樺太の旧ロシア軍の核兵器で核武装したのか』
『一度核兵器を入手すれば日本で核兵器の製造は可能だ。今日日の核爆発のコントロールは全てマトリクス上でシミュレーションできる。爆縮レンズのシミュレーションも、レーザー水爆のシミュレーションも』
『晴れて核保有国』
アバターたちが呆れたようにそう言う。
『核兵器に注目が集まりがちだが、樺太のロシア系住民による抵抗運動はどうなってるんだ? 統一ロシアの
『海上保安庁と海上保安庁から業務委託されている大井統合安全保障が水際で可能な限り防いでいる。だが、統一ロシア海軍の通常動力潜水艦が密かに武器弾薬を抵抗運動に渡してると日本政府は批判している』
『日本政府の樺太統治はイスラエルのパレスチナ自治区より性質が悪い。基本的に追い出し戦略だ。住民に徹底的に嫌がらせと弾圧を行って統一ロシアに追い出してる』
『汚い仕事を担当するのは潔癖の日本国防軍じゃなくて大井統合安全保障と太平洋保安公司。ロシア系住民が隔離された居住区を装甲車と無人戦車で荒らしまわって、空じゃ無人攻撃ヘリがばたばた。一日中だ』
『戦争に負けるってのはそういうことだってことをロシア人も学習しただろうさ』
からかうようにそう言う意見が出る。
『樺太連隊も弾圧に参加しているって話だが』
『連中は一般市民に嫌がらせしてる暇はない。対オホーツク義勇旅団の
『山岳地に籠ったオホーツク義勇旅団相手に砲爆撃したりな。太平洋保安公司の“専門家”って奴がアドバイスしているらしい』
『元アメリカ軍特殊作戦部隊や元人民解放軍の治安部隊』
『うさん臭い』
どうやら樺太における
「樺太はまさに紛争地帯。情報が確かなら取引ができるような場所じゃないよ」
「他にもログがあるけど日本国内を追われた極左暴力集団の反グローバリストが逃げ込んでいる見たい。それ相手の先頭まで起きてるし、これは」
「最悪の場合。日本国防軍、太平洋保安公司、大井統合安全保障、オホーツク義勇旅団、統一ロシア軍、反グローバリズムテロリスト、そしてメティスの白鯨派閥の相手か」
「本当に最悪。希望があるとすれば日本国防軍と太平洋保安公司の構造物の
「統一ロシア軍のサイバー戦能力は第二次ロシア内戦で急激に低下したからね」
「それぐらいしか希望はない」
ロスヴィータが肩をすくめる。
「東雲たちに後で伝えておこう。樺太連隊の編成を調べてからね」
「了解」
ベリアたちはBIG-Eとマトリクスから情報を集める。
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