グローバル・インテリジェンス・サービス
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──グローバル・インテリジェンス・サービス
ベリアとロスヴィータは暁から情報を受け、マトリクスにおいて情報の真偽を確認することにした。
すなわち、ジャスパー・アスカム、グレイ・ロジカル・アナリティクス、グローバル・インテリジェンス・サービスの繋がりを。
「さて、流石にグローバル・インテリジェンス・サービスに
「分かってるよ。無茶はしない。マトリクスで情報収集をするだけ。検索エージェントには既にジャスパー・アスカムについて探させている。何か分かるかも」
「じゃあ、残りの情報収集は?」
「いつものところで」
ベリアはそう言ってBAR.三毛猫にログインした。
「“白鯨事件反省会”のトピックが盛り上がってる。覗いていかない?」
「興味あるね」
ロスヴィータが言うのにベリアがトピックに向かった。
「白鯨由来の技術も割と解析出来て来たな。意味の分からない要素もあるが、文法解析と図形解析で規則性が分かって来た。Sorcerer-CSの改良版が役に立っている」
「確かにね。もっとアップデートを続けたいけれど、これ以上はなかなか難しい。これは暗号解析と一緒だよ。イギリスがどうやってドイツのエニグマを解析したと思う? 総当たりだよ」
「もっともエニグマの暗号解析が成功したのは暗号文が結局はドイツ語っていう分かる言葉だったということもある。だが、こいつは英語でも、ドイツ語でも、アフリカーンス語でもない」
アニメキャラのアバターが言うのに、猫人間のアバターが肩をすくめる。
「それだよな。問題はそれだ。この白鯨由来の技術──いや、言語を解析するのに必要なものがある。基礎になる知識だ。この言語の意味は、この図形の意味は、これからの組み合わせには何の意味があるか」
「白鯨の技術には何かの根底となる技術がある。白鯨はそれが応用されたものだ。俺たちはプログラムを組むのに情報科学を学ぶ。数学から物理学、あるいは環境工学まで。その基礎の上に
「白鯨由来の技術を解析するには白鯨を作り上げた学問の基礎が必要って訳だ」
「そういうこと」
アニメキャラのアバターが言い、猫人間のアバターが答える。
「なあ、マトリクスの魔導書はどうした? あれは解析できそうなのか?」
「あれは難しい。白鯨由来の技術とは全く異なるものだ。Sorcerer-CSでも解析できない。規則性が全く異なるんだ。英語と日本語の文法はかなり違うと言うが、これはそれ以上の違いだ。英語とアルファケンタウリ語並みの違い」
誰かの発言にアニメキャラのアバターが答える。
「白鯨は山ほどデータがあるが、マトリクスの魔導書はデータが少なすぎる。今、調査に言っている連中がいるが、完全なデータを持ち帰った人間はいない」
「なら、これ使えないかな」
そこでベリアがトピックのテーブルにインペラトルのハッカーが使っていた自律AIの構造解析図を提示する。
「ふむ。こいつは大井ファイナンシャルを襲撃した自律AIじゃないか?」
「見たことがある。確かに大井を襲撃した自律AIだ。白鯨の技術も混ざっているな」
「どこで手に入れたんだ、これ?」
「マトリクスの魔導書で騒いでいる連中が手に入れたんじゃないか」
あれこれと意見が流れていく。
「なるほど。これまで最大のマトリクスの魔導書のデータだな。これなら分析の手掛かりになるかもしれない。解析にかけてみよう」
アニメキャラのアバターがそう言ってデータを解析に回す。
「もっとデータがあったら持ってきてくれ。俺たちで解析してみよう。昔懐かしの
「今のところ、私の持っているデータはこれぐらい。データが手に入ったら持ってくるよ。で、解析に使っているSorcerer-CSってどこで落とせる?」
「こいつがリンクだ。BAR.三毛猫のストレージにある」
ベリアが尋ねるのに猫人間がリンクを寄越した。
「ありがと。こっちでも解析してみる。じゃあ!」
ベリアはそう言ってトピックから離れた。
「さて、道草はやめてグローバル・インテリジェンス・サービスについて調べよう」
「今立っているトピックはないね。ログを漁ろう」
ロスヴィータがそう言ってジュークボックスに向かう。
「“グローバル・インテリジェンス・サービス”で検索」
「ヒット。“大英帝国買収事件”、“フォート・ミード事件記録”、“未解決暗殺事件について語るトピック”」
「“大英帝国買収事件”?」
「アトランティスがイギリス政府を乗っ取った時の話じゃないかな。乗っ取ったというか、大井がTMCに対して行ったようなことをしたんだよ。あらゆる国家事業を政治家を買収して民営化させ、全部買い取った」
「へえ。見てみようか」
ベリアがそう言ってログを再生する。
『全部だ。全部だよ。ゴミ収集も、水道も、
『民営化万歳。小さな政府万歳。もう小さすぎて政府は見えやしない』
刑事ドラマの刑事キャラのアバターをした男性が言うのに、SF映画の宇宙人のアバターをした女性が肩をすくめる。
『今度からはアトランティスの理事長が変わるたびに戴冠式をしないとな。グレートブリテン及び北アイルランド連合アトランティス事業部ってわけだ』
『ちょっと欲を隠せって話だよな。アトランティスは民営化に当たって競争すらさせなかった。イギリスを丸ごと抱き込んで、全ての事業を自分たちで抱え込んだ。今や議会も政府も形無し。そのうち王室も民営化するんじゃねーか?』
『クーデター紛いの政権交代だったからな。ロンドンで大規模な連続テロが起きて、政府のよって戒厳令が発令され、イギリス政府と契約していたALESSとハンター・インターナショナルが展開』
『そして、戒厳令下の政権交代。どう考えたって民主主義的なプロセスが取られたとは思えねえ。アトランティスはやりたい放題だ』
ログが発言者で流れていく。
『それに関わっているのがグローバル・インテリジェンス・サービスって会社だ。こいつはアトランティスの系列企業で、フォート・ミード事件を暴露したアメリカ
そういうのは刑事ドラマのアバター。
『アメリカ
宇宙人のアバターが語る。
『アフリカ諸国でのクーデター。それから南アメリカでの政変』
『南アフリカはアローの庭じゃないのか?』
『アルゼンチン、ベネズエラ、ボリビアを除けばな。南アメリカの反グローバリズム左派政権は片っ端からひっくり返ったが、この3ヵ国をひっくり返したのはアトランティスの連中だ』
誰かの発言に宇宙人のアバターが答える。
『アルゼンチンは覚えてるぜ。あの間抜けな左派ポピュリストの連中。数回のデフォルトの後で人気取りのためにフォークランドに攻め込んだ。第二次フォークランド紛争だ』
『そう。その戦争そのものにもアトランティスが噛んでる。ハンター・インターナショナル・ネイバル・システムズの運用する空母ウォースパイトが奪還を目指す任務部隊の主力を成していたんだからな』
空母そのものから艦載機までハンター・インターナショナルが運用していた事実上のアトランティスの空母と宇宙人のアバターが話す。
『アルゼンチンは二度目の敗北ってわけだ。で、政府が崩壊。軍隊と警察は別々の政党や指導者に忠誠を誓って内戦に突入。アルゼンチン内戦の勃発。そこでアトランティスが介入した。だろ?』
『ああ。それがグローバル・インテリジェンス・サービスさ。連中は右派の軍閥を支援した。ドローンや偵察衛星からの画像情報を与え、マトリクスや無線で傍受した通信情報を与え、そしてそれらを分析した情報を提供した』
『画像情報だけでも戦争で有利になるってのはウクライナで証明されている。それに加えて、連中がPR企業にも手を回したんだろう?』
『詳しいな。そうだ。連中はPR企業を使って支援する軍閥の正当性を訴えた。おかげで国際的な支援は右派の軍閥に集中した。連中がどんな非人道的な行為に手を染めていても、お構いなしだった』
左派の活動家を虐殺したってのにと宇宙人のアバターが言う。
『最終的に王座に就いたのはアトランティスの息のかかった軍閥で、アルゼンチンには軍事政権が樹立されたってわけだ』
『他の南アメリカ諸国でもアトランティスというか、グローバル・インテリジェンス・サービスが関与したクーデターや政権交代は確認されている。もっとも、言ったように南アフリカはアローの庭だがな』
どうやらグローバル・インテリジェンス・サービスの話題はこれらしい。
「ふうむ。クーデター関係か。アトランティスのかなり深い情報戦に関わっているらしい。
「大井も東アジアでやってるよね。クーデターや政権交代」
「まあ、大井もかなりあくどい六大多国籍企業だから」
ロスヴィータが言うのにベリアが肩をすくめた。
「次は“未解決暗殺事件について語るトピック”だね。“フォート・ミード事件記録”は多分知ってることだよ。イーサン・ガブリエル元アメリカ陸軍大将について」
「だね。それなら知ってる。フォート・ミード事件もみんな知ってる」
現職のアメリカ合衆国大統領が失脚したスキャンダルとロスヴィータが言って、“未解決暗殺事件について語るトピック”を再生した。
『
『容疑者が多過ぎる。シエラレオネには大井も、トートも、アトランティスも突っ込んでる。連中はそれぞれの支持する軍閥を支援して、他人の国で殺し合いだ』
『そもそもの始まりが始まりだ。シエラレオネは安定してなかったわけじゃない。2030年代にブラックアフリカ諸国の多くが安定した政権運営をしていた。だが、第三次世界大戦が終わって、六大多国籍企業の連中が暇をすると、ドン!』
『シエラレオネの政府首脳がどうやってくたばったと思う? “所属不明の無人攻撃ヘリ”からの攻撃を同時に受けて、だ。ありえねえ』
『シエラレオネ周辺がきな臭かったことも確かだが、ほとんどの場合は六大多国籍企業絡みだ。アンゴラがひっくり返ったのもアトランティスとトートが揉めたから。アトランティスは後から来てトートから資源を分捕ろうとした』
『ドカン! アンゴラは瞬く間に戦争の渦に包まれた。現地のアンゴラ救国戦線はアトランティスが、アンゴラ・アフリカ統一戦線はトートが支援してる』
『アンゴラ救国戦線はイギリスとアメリカから支援を受けてる。民主主義を守るためだとさ。グローバル・インテリジェンス・サービスの
『グローバル・インテリジェンス・サービスね。ガチガチのアトランティス系列企業だ。隠す気もないな。こいつらは自前で偵察衛星とドローン、情報収集艦を運用している』
『それから元
『グローバル・インテリジェンス・サービスの提供する
『シエラレオネでも当然活動しているのが確認されている。内戦が始まってからは4人の軍の高級指揮官、5名の政治的指導者を暗殺してるらしい。もっともこれを発表したのは大井だがな』
『アトランティスも大井もクソだな』
ログの中にグレイ・ロジカル・アナリティクスの名は出て来なかった。
「どう思う? またジェーン・ドウが八重野君を敵に焚きつけるために流したデマだと思う?」
「待って。検索エージェントが戻って来た。グレイ・ロジカル・アナリティクスが過去にグローバル・インテリジェンス・サービスと取引した情報。ジャスパー・アスカムって男の名前もある。取引内容は情報サービス?」」
「グローバル・インテリジェンス・サービスならそうした方が目立たないだろうね。彼らは特殊作戦部隊も飼ってるみたいだけど、本当に汚くて、危ない仕事はグレイ・ロジカル・アナリティクス、アトランティスの非合法傭兵にやらせる」
「後はジャスパー・アスカムが八重野のジョン・ドウかだね」
「東雲に知らせておく。私は八重野君を宥めるのは面倒くさい」
「酷いなあ」
ロスヴィータがそう言って肩をすくめた。
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