運び屋//暴走特急

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 ──運び屋//暴走特急



『エクリプス・ゼロ・ワンよりオーバーロード。TMCセクター12/1の高速道路を封鎖した。戦闘の痕跡あり。指示を求める』


『オーバーロードよりエクリプス・ゼロ・ワン。周辺を捜索せよ。不審車両を発見すれば発砲を許可する。一刻も早い安定化が求められている』


『エクリプス・ゼロ・ワン、コピー』


 東雲のARに大井統合安全保障の無線のデータが流れる。


『高速道路をこのまま進むのはお勧めしないよ、東雲。高速道路は降りた方がいい。すぐに大井統合安全保障の緊急即応部隊QRFに封鎖される。そして、彼らは質問は撃ってからってね』


「はあ。最悪」


 東雲は盛大にため息を吐く。


「呉。高速を降りろ。大井統合安全保障の緊急即応部隊が動いている。そして、俺たちは蜂の巣にされかねない」


「了解。次のインターチェンジで降りる」


 呉はそう言ってインターチェンジで高速道路から一般道路に降りた。


「ここら辺は治安が悪いぜ。セクター13/6ほどじゃないがな。金目のあると分かったら、容赦なく襲ってきやがる。雑魚を蹴散らす準備はしておいてくれ」


「私はもう何の役にも立てない」


 東雲が言うのに八重野が酷く落ち込んだ様子でそう言った。


「分かってる。お前の分は俺がカバーするから気にするな。死ななかっただけで上出来だ。死人が出たら面倒なことになってた」


「だが、私はまた負けてしまった。私は負けたんだ」


「ふうむ。そういう時は次のリベンジに燃えるといいぞ。落ち込んでも何にもならないが、リベンジのために備えれば成長だ。敗北は糧にしろって俗にいうだろ?」


「それはそうだが」


「何事もポジティブに考えようぜ。後ろ向きになっても正面の障害物に気づかず、顔をぶつけるだけさ」


 東雲はそう言ってベリアからの連絡を待っていた。


『東雲。追加情報だよ。飛行許可を求めていたのはペーパーカンパニー。そして、偵察衛星の画像を解析したけど間違いなく軍用ドローン。対戦車ミサイルも積んでるかもしれない』


「おい。どうして対戦車ミサイルを積んでいるようなドローンに飛行許可が出るんだ? どう考えたって飛ばしていい機体じゃないだろ」


『TMC自治政府は飛行許可を限定AIに処理させてるから。だって、毎日毎日大井統合安全保障のドローンやティルトローター機が飛んでるんだよ。そして、人間の管制官に監視させれば人件費がかかる』


「はー。俺は今絶望的なまでに日本という国に失望している」


『恐らくもっと失望することになるよ。大井統合安全保障の航空部隊がそのドローンを怪しみ始めた。彼らは人口密集地でもセクター12/1程度ならば撃墜する』


「クソッタレ」


『こっちでもどうにかできないか頑張ってみるけど、大井統合安全保障が君たちに対戦車ミサイルが叩き込まれるまでに撃墜できればいいでしょ?』


「残骸が俺たちの頭の上に落ちてこなけれな」


 東雲がそう言って肩をすくめる。


「呉。ドローンが飛んでる。軍用だとさ。でもって、大井統合安全保障の航空部隊が出撃している。なるべくドローンに狙われにくい場所を進んでくれ」


「無茶言うなよ。軍用ドローンはジャングルがあったって目標を狙えるぞ。センサーが段違いなんだよ。市街地だってナンバープレートを読み取って攻撃できるだろう」


「はあ。じゃあ、どうする? ドローンを撃墜するか? 誰かハンカチとティッシュと一緒に地対空ミサイルを持ってきてないか?」


 東雲が尋ねるのに八重野、呉、セイレム、暁が肩をすくめた。


「はいはい。分かってますよ。誰だって地対空ミサイルは持ち歩かないよな。見つかる前に逃げ切るしかない」


「逃げて見せましょう」


 呉が制限速度限界まで装甲車を加速させて、TMCセクター12/1の街を下っていく。


「ジェーン・ドウから連絡が来た。セクター12/8のスーパーの跡地に来いとさ。随分と荒んだ場所に呼び出してくれるもんだな」


「ドローンは? 見える距離から撃ってくるとは限らないぞ」


「ベリア。ドローンはどうなってる?」


 東雲がベリアに尋ねる。


『追跡してる。現在セクター11/5上空。高度3000メートルを飛行中。ドローンは間違いなくセクター12/1に向かっている』


「クソ。ハックできないのか?」


『今やってるよ。軍用アイスを突破するのは楽じゃない。それに敵のハッカーがどこを狙っているのか分からないんだよ。迂闊には動けない』


「頼むよ。どうにかしてくれ。高度3000メートルじゃ“月光”も届かねえ」


『今、セクター11/8上空。気を付けて。恐らくもう対戦車ミサイルの射程内』


「最悪」


 東雲が深くため息を吐く。


「ミサイルが飛んできそうだ。迎撃する。なんとかしてな」


「もうじきセクター12/3だ。ドローンはこっちに気づいているのか?」


「らしい。あのサイバーサムライどもと戦った時に、発信器を付けられたかもしれない。車を変えるか?」


「そんな時間ねえし、代わりの車もねえ。このままやり過ごすしかない」


「やれるのか……」


「やれなきゃ俺たち全員お空まで吹っ飛ぶことになるぞ」


 東雲はそう言って、ルーフから体を乗り出して“月光”を構える。


『東雲! 対戦車ミサイルが発射された!』


「来やがれ!」


 ベリアからの通達に東雲が“月光”で上空から急速に迫りくる対戦車ミサイルを迎撃した。対戦車ミサイルに“月光”が突っ込み対戦車ミサイルが炸裂する。


『大井統合安全保障の航空部隊がドローンを捕捉! 撃墜するよ!』


「人口密集地で無茶苦茶しやがる」


 大井統合安全保障の第七世代の無人戦闘機が短距離空対空ミサイルを飛行中のドローンに叩き込み撃墜した。


 残骸がセクター12/3に落下していき、人口密集地に落ちた。炎上する残骸が建物を燃やし、人が大急ぎで逃げ始める。


 大井統合安全保障系列の民営消防事業者が到着するのは、セクター12/3では酷く遅いものである。


「よーし。ドローン、迎撃完了。もう脅威はないだろ。セクター12/8に急ごうぜ」


「ああ。急ごう。これで終わりとは限らない」


「だな」


 呉がアクセルを踏んで言うのに、東雲が頷いた。


「しかし、敵のハッカーは何をしてるんだ? 大井統合安全保障に仕掛けランをやってるんじゃないんだろうな?」


「だとすれば面倒だな。白鯨のときのようなことになりかねない」


「厄介だな」


「この辺りのセクターにも戦闘用アンドロイドは配備されているしな」


 東雲と呉がそう言葉を交わして、セクター12/3からセクター12/8に向かっていった。


『東雲! 大井統合安全保障の下請けが敵にハックされた。丁度、セクター12/1からセクター12/11にまで展開している民間軍事会社PMSCだ』


「またかよ。何でかんでも下請けに投げやがって」


『セクター二桁代で真面目に働いてもお金にならないからね。けど、その民間軍事会社は大井重工製戦闘用アンドロイドで武装している。気をつけて!』


「はいはい」


 東雲はベリアにそう返し、周囲を見渡す。


「おい。呉、セイレム。この地域の民間軍事会社がハックされている。戦闘用アンドロイドの類が攻撃してくる可能性がある。準備しておいてくれ」


「分かった。可能な限り飛ばす」


「頼むぜ」


 東雲は引き続き、ルーフから顔を出して“月光”を構える。


「来たぞ。戦闘用アンドロイドの戦列歩兵だ。道路を封鎖してやがる。って、電磁パルスガン!?」


「安心しろ。軍用装甲車は電磁パルス対策は施されている」


「じゃあ、ガトリングガンは?」


「7.62ミリなら通用しない」


「はあ。ショックガン!」


「不味い」


「だよなあっ!」


 東雲がショックガンを構えている戦闘用アンドロイドに向けて“月光”を投射する。


 “月光”は数体の戦闘用アンドロイドを叩き切り、ショックガンを暴発させた。だが、全てのショックガンを装備した戦闘用アンドロイドを破壊することはできない。


「来るぞ! 避けろ!」


 ショックガンから衝撃波が飛んできて装甲車を掠める。


「クソ。ヤバイ。滅茶苦茶撃って来やがる」


「警備ドローンだ! ガトリングの掃射が来るぞ!」


「失せろ! この野郎!」


 東雲が“月光”を高速回転させて銃弾を防ぎ、さらに“月光”を投射して警備ドローンを撃破する。だが、警備ドローンは次から次に飛来する。


「やってられん! 呉、突破しろ!」


「ああ!」


 呉がアクセルを全開にして戦闘用アンドロイドを跳ね飛ばし、強行突破した。


「いいぞ! このまま逃げ切れ!」


「追いかけてくる。警備ドローンも戦闘用アンドロイドも。連中も装甲車を使ってやがるな。無人車両だ。いかにも低所得層の警備向けって感じだな」


「金持ちは人間お守りしますが、貧乏人は機械がやりますってか」


「そういうもんさ」


「あーあ。じゃあ、貧乏人向けの警備サービスを追い払わないとな」


 東雲が後ろから追いかけてくる無人車両と警備ドローンに“月光”を向ける。


「おらおら! 失せやがれ、クソ無人機ども! 血を流さない奴は大嫌いだ!」


 東雲が警備ドローンを叩き落とし、無人車両のエンジンを破壊した。無人車両がスピンして横転しながら炎上する。


「おっしゃ! 飛ばせ、呉! 逃げ切るぞ!」


「任せておけ!」


 東雲は造血剤を口に放り込み、呉はアクセルを踏む。


「畜生。また前方に戦闘用アンドロイドの隊列だ。バリケードまで構築してやがる」


「迂回するか?」


「できるならやってくれ。ベリアにも急いでハッカーを排除するように伝える」


 東雲はそう言ってベリアに連絡を取る。


「ベリア。ハッカーの排除はまだか?」


『今やってるよ! 敵はあのマトリクスの魔導書由来の自律AIを使ってる。厄介な電子製兵器だよ。その上、白鯨の技術まで使っている。また攻撃エージェントが来るよ、ロンメ! ジャバウォック、バンダースナッチ! 解析急いで!』


「忙しそうだな」


『忙しいよ! こっちも可能な限りハッカーは抑えるから頑張って!』


「あいよ」


 東雲がベリアとの連絡を切る。


「ダメだ。敵のハッカーはまだ撃退できそうにない」


「じゃあ、連中に付き合うしかないな」


「うんざりだ。クソッタレ。サイバーサムライの次は無人警備システム!」


 東雲が叫び、前方の戦闘用アンドロイドに向けて“月光”を投射する。


「轢き殺して進め、呉! 全部相手にしてたらくたばっちまうぞ!」


「分かった!」


 東雲が造血剤を口に放り込んでから叫ぶのに呉が全速力で戦闘用アンドロイドの隊列に向けて突っ込んでいった。


 ガンガンと金属音が響き、装甲車が戦闘用アンドロイドを轢き殺して突き進む。


「行け行け! 突き進め! 畜生、また警備ドローンだ!」


「もうすぐセクター12/8だ!」


「警備を連れてたらジェーン・ドウはいい顔をしないよな」


「当り前だろう。どうにかして追い払うぞ」


「何かいい装備は?」


「とっておきの電磁パルスグレネードが2発だけ」


「全部使え!」


 東雲が叫び、呉が電磁パルスグレネードを放り投げる。


 電磁パルスグレネードが炸裂し、戦闘用アンドロイドが行動不能になる。


「ベリア! ハッカーは!?」


『無事に追い出せた! 制御を奪還!』


「いいニュースだ。これで馬鹿騒ぎも終わりだ」


 東雲はそう言って深く息を吐いた。


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