運び屋//バトル・オブ・ハイウェイ

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 ──運び屋//バトル・オブ・ハイウェイ



 東雲はカリグラと、八重野はティベリウスと、呉はアウグストゥスと、セイレムはクラウディウスと向かい合っていた。


『東雲。大井統合安全保障にテロに関する欺瞞情報が流されて緊急即応部隊QRFはセクター5/2に向かっている。高速道路には来そうにない』


「この騒ぎで出動しないのかよ。何のためにいるんだ、連中」


『セクター12/1に彼らがわざわざ来るはずないでしょ?』


「あーあ。そうですか」


 東雲はうんざりしたようにそう言い、ベリアとの連絡を切った。


「おい。クソサイバーサムライ野郎。ぶっ殺してやるから突っ込んで来い」


「頭に血が上ると負けるぞ」


「うるせえ。いいからかかってこい。ぶち殺してやる」


「あーあ。まあ、いい。そんなに死にたいなら殺しやるさ」


 カリグラが加速し、一瞬で東雲に肉薄する。


「見切った!」


 カリグラの超電磁抜刀が叩き込まれる前に、東雲がカリグラの超高周波振動刀を迎撃する。カリグラの超高周波振動刀は東雲に迎撃されてしまい、激しい金属音を立ててヒヒイロカネ製の超高周波振動刀から衝撃が伝わる。


「このまま叩き折ってやるよ、クソ野郎」


「舐めてかかれる相手じゃないな」


「そうとも。頑張って殺してみな」


 東雲はカリグラを挑発し、“月光”を構えた。


「やってやる。そして、運び屋の荷物パッケージをいただく」


「もうひとつスマートな方法があるぜ。あんたらは荷物を諦める。そして、また他のジョン・ドウやジェーン・ドウに雇われてて、白鯨派閥からの仕事ビズは忘れちまう。さよならって具合にな」


「惹かれる提案ではあるが、俺たちには金が必要なんだよ」


「それじゃあ俺から三途の川の渡し賃をくれてやる」


「サンズ・リバーを渡るのも金がいるわけだ。もはや六大多国籍企業ヘックスによって地獄まで民営化されているのかね」


「確かめて来いよ」


 東雲が“月光”を投射し、カリグラが超電磁抜刀でそれを弾き、そのままの勢いで東雲に肉薄し、超高周波振動刀を東雲に叩きつけるように振るう。


「やられるかよ、このクソ野郎」


 東雲は“月光”でそれを迎え撃ち、反撃に転じようと動く。


「どうかな?」


 目にも留まらぬ早業をカリグラが繰り出し、東雲の左腕が切断された。


「やりやがったな」


「ふむ? 回復した?」


 切断された東雲の左腕が元通りになる。


「手品さ。さあ、今度はてめえの腕をぶった切ってやる。ついでに首もな」


「全く。面倒なことになってきたぜ」


 カリグラはそう愚痴りながら東雲との戦闘を続ける。


「そこだ!」


 東雲の“月光”がカリグラを捕え、その機械化された肉を裂いた。


「クソ」


 カリグラの右腕が斬り飛ばされ、カリグラが後退する。


「このままミンチにしてやるぜ」


 東雲はそう言ってにやりと笑った。


「機械化率が高いな。ジャクソン・“ヘル”・ウォーカー級か?」


 アウグストゥスと対峙している呉がそう言う。


「冗談抜かすなよ。脳みそをあそこまで機械化したら戦いは楽しめないぜ? プラスチックの脳みそで味わえるのはプラスチックの味だけだ」


「それもそうだ。だが、並み大抵の機械化率ではなさそうだが」


「まあ、ある程度は機械化しているさ。サイバーサムライとしてな」


 呉の言葉にアウグストゥスが余裕のある笑みを浮かべる。


「ジャクソン・“ヘル”・ウォーカーには勝てなかったが、あんたには勝つぜ」


「あんなブリキ野郎と一緒にされてもな。退屈な相手だっただろう? あいつは人間の形をしたダサいな兵器だ」


 アウグストゥスが呉との距離を詰める。


「さあ、叩き切ってやる」


「エンジョイ!」


 呉とアウグストゥスが衝突する。


 激しい金属音が何度も鳴り響き、超高周波振動刀特有の金属が震える音がした。


「最高だな。イカした相手と殺し合うのは最高だ。楽しめる。実に楽しめる。もっとテンポを上げようぜ。ハイになろう」


「殺し甲斐があるな」


 アウグストゥスがハイテンションで言うのに、呉も笑っていた。


「ギリギリのスリル。ナイフの刃を渡るようなスリル。たまらないね。これほど高ぶるものもない。電子ドラッグだろうと、女遊びだろうと、アルコールだろうとここまで滾ることはないぜ」


「電子ドラッグはやったことがないが、確かに女や酒には勝る」


「気が合うな。とことん殺し合おう。殺しても、殺されても文句はなしだ」


 アウグストゥスがそう言って超電磁抜刀し、呉の首を鋭く狙う。


「ああ。俺たちは死について文句の言える立場じゃない」


 呉は超電磁抜刀でそれを迎撃し、反転攻勢を掛ける。


 呉の超高周波振動刀がアウグストゥスの胸を浅く切りつけた。ブランド物のスーツが裂け、体を循環しているナノマシンを含んだ体液が滴る。


「ひゅう! やるな! そうでなくっちゃ!」


「来いよ。やってやるぜ」


 アウグストゥスが肉食獣のような獰猛な笑みを浮かべて呉に迫る。


 超高周波振動刀が戦術的に繰り出され、呉の首の皮を薄く切った。


「どうだい? 味わえているか?」


「とても。馬鹿みたいにスリルがあるが──」


 呉が強力な一撃をアウグストゥスに叩き込んだ。


 アウグストゥスの刀が衝撃を受け、揺さぶられる。そして、呉はその瞬間を狙ってさらなる斬撃を繰り出した。


 アウグストゥスの腹部が深く切り裂かれ、機械化された内臓が破損する。


「おおっと。ちょっと遊び過ぎたか。こいつは不味い」


 アウグストゥスが額から汗を流して、苦い笑みを浮かべた。


「次は首だぞ」


「やってみな」


 アウグストゥスは刀を収め、そして呉を見つめる。


「どうした、若きサイバーサムライ。これで終わりか?」


 一方ディベリウスは八重野を押していた。


「このっ」


「一つ覚えの超電磁抜刀。それだけで勝てるほどこの業界は甘くないぞ」


 ティベリウスは八重野の超電磁抜刀をいなし、宙を切った八重野のヒートソードが隙を生じさせたところで一撃を叩き込んだ。


 八重野が辛うじて身を逸らしてティベリウスの超高周波振動刀を躱したが、首の肉を僅かに裂いて刃が抜けていく。


「女子供は殺したくない。退け。どうせ勝てん」


「くだらない感傷を持ち込む人間の方が死ぬぞ」


「俺も昔は子供がいたんだよ。この職業では将来ある子供の親であり続けることはできないから諦めてしまったが」


 ティベリウスが深いため息をついてそういう。


「ふん。知るか。私が勝つ」


「じゃあ、好きに死ね」


 八重野が一気に距離を詰め、超電磁抜刀を叩き込むもまたしてもティベリウスに見抜かれてしまった。攻撃は回避され、反撃を受ける。


 八重野のヒートソードを握る手が衝撃を受け、怯んだところでティベリウスが八重野の右腕をヒートソードごと切り落とした。


「終わりだ。俺たちの仕事は運び屋の荷物パッケージを奪うことだけ。護衛も、運び屋も死ぬ必要はない。だから、退け」


「クソ」


 八重野は飛ばされたヒートソードを見るが2メートルほど離れている。取りに動けば斬り殺されるだろう。


 打つ手なしだ。


「音響解析完了。どこにいるか分かるぞ、サイバネアサシン」


 そして、セイレムはサイバネアサシンであるクラウディウスとの戦闘を続けていた。


「そこだ」


 セイレムが超高周波振動刀を振るうと、金属音が響き、金属の裂ける音がする。


「食い殺してやる」


「させるか」


 クラウディウスの熱光学迷彩機能がブレ、その姿が僅かに露になり、それと同時に閃光手榴弾が炸裂する。


「やってくれる。だが、耳を潰し損ねたな」


 セイレムが両目が強力な閃光によって使えなくなった状態で斬撃を繰り出す。


 超高周波振動刀がクラウディウスの単分子ワイヤーを射出する右腕を切断する。


「まだまだやるつもりか? お前はもう姿を隠すこともできない。何をしようとな」


「そのようだな。せめて時間稼ぎ程度はさせてもらおう」


 いつの間にか止まっていたトラックの荷台から何かが降りてくる。


「貴様。戦闘用アンドロイドか。クソッタレめ」


 セイレムの予想したように出て来たのは戦闘用アンドロイドだった。


 それも熱光学迷彩機能を備えた。


「音響解析をやり直しか。確かに時間は稼がれるな」


 セイレムはそう言って戦闘用アンドロイドが放ってきたスラッグ弾を叩き落とす。


「撤退だ。仕事ビズは失敗。この状況じゃ立て直せない」


 片腕を失ったカリグラがそう宣言する。


「まだまだやれるぜ、カリグラ。ここで退くのは損だぞ」


「黙れ、アウグストゥス。お前もこのまま医療支援が受けられなければ死ぬぞ。後はネロに任せろ。最悪、運び屋を荷物パッケージごとふっ飛ばせばいい」


「退屈な話だな。分かった。撤退しよう」


 そう言ってアウグストゥスがスモークグレネードを握ってピンを抜いた。


「またな、大井のサイバーサムライ! 決着をつける時まで生きておけよ!」


「俺は大井の人間じゃない」


 アウグストゥスが叫ぶと呉が小さく笑う。


 そして、赤外線遮断能力付きの煙幕が辺り一面を覆い尽くした。


「逃げちまうぞ」


「行かせてやれ。うんざりだ。サイバーサムライも、生体機械化兵マシナリー・ソルジャーにも。諦めてくれるならそれで万々歳」


 セイレムが言うのに東雲が心底うんざりしたようにそう吐き捨てた。


「クソ。いいようにやられた」


「そういう日もあるさ。だが、もう少しで殺せたんだがな」


 八重野が片手で頭を抱えるのに、呉がそう言う。


「どうも本当にこれで終わりって言い方じゃあなかった。それに今回はハッカーが仕掛けランをやってない。ハッカーの脳みそを焼いてやったわけじゃないんだ。今回は無人機を相手にしていない。忌々しいことに」


 東雲がそう言って造血剤を口に放り込んだ。


「そうだな。ハッカーが白鯨並みの凄腕でないとしても、何もしないというのはどうも臭う。それにマトリクスの魔導書。ハッカーはその技術を使っている」


「マトリクスの魔導書の技術か。電子戦のための自律AIだろ。だが、この前は大井ファイナンシャルに仕掛けランをやって失敗した」


「だが、ベイエリア・アーコロジーに対しては成功した」


 セイレムが言うのに呉が付け加える。


「なあ、もう行こうぜ。八重野は腕を切られちまってるし、それでいて装甲車はまだ動く。さっさと目的地まで行くのが吉でしょうって俺の勘が言ってる」


 東雲が八重野、呉、セイレムにそう言った。


「そうだな。運び屋は無事か?」


「暁! 生きてるか!」


 セイレムが尋ね、東雲が装甲車に向けて呼びかける。


「生きてる。荷物も無事だ」


「オーケー。いい知らせだ。さっさと行こう」


 装甲車はまだ動く。運び屋である暁と彼の運んでいる荷物も無事。


『東雲。高速道路を降りた?』


「さっきまでドンパチやってたよ。今から動く。で、何か用か?」


『大井統合安全保障の緊急即応部隊QRFが高速道路に向かっている。場所はセクター12/1。君たちがいる場所だよね』


「クソッタレ。終わってから来るなっての!」


 東雲が盛大に悪態を吐く。


「大井統合安全保障が来る。ジェーン・ドウから連中に連絡は言っていない。さっさと逃げるぞ。運び屋が捕まったらえらいことになる」


「分かった。飛ばすぞ」


 呉は再びハンドルを握り、装甲車を発進させた。


『東雲。空に気を付けて。民間機という飛行許可でドローンが飛んだけどどうも怪しい。衛星画像によると軍用機に見える。ロスヴィータが追跡してるけどTMC上空のエアトラフィックは混雑してて』


「マジかよ。勘弁してくれ」


 東雲はぐったりとシートに身をゆだねた。


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