コンフリクト//核爆弾

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 ──コンフリクト//核爆弾



 呉と八重野はベイエリア・アーコロジーの中心部に突入した。


「ここは居住区か」


「ああ。優秀な研究者たちが暮らしている場所だ。1時間で俺たちが命がけの仕事ビズをするよりも稼ぐ連中がここに暮らしている」


 八重野が言うのに、呉が肩をすくめてそう言った。


「どうあれ、ここにあるだろう核爆弾を無力化しなければ、俺たちもきのこ雲の下でくたばる羽目になる。急ぐぞ」


 呉はそう言うと、ベイエリア・アーコロジーの中心部を進んだ。


「警備システムを敵に向けてくれればよかったんだが」


「ないものねだりをしてもしょうがない。それにそろそろだ」


 確実にベイエリア・アーコロジーの中心部に進む。


「さて、戦闘に備えろ。機械音がする。恐らくは核爆弾のタイマーだ」


「分かった」


 そして、ベイエリア・アーコロジーの中心部にある喫茶店に呉と八重野が踏み込んだ。それと同時に鋭い殺気が走る。


「くっ!」


 八重野が即座に身を引くと超高周波振動刀特有の金属の震える音がし、八重野の髪を僅かに切り裂いて八重野の髪が舞い散る。


「おや。一撃とはいかなかったか。面白い」


 ラテン系の若い男が超高周波振動刀を手に八重野の前に立っていた。


「アウグストゥス。足止めされるのは不味いぞ。もうタイマーが動いてる」


「分かっているよ、ティベリウス。手を貸してくれ」


「ああ。もちろんだ」


 ラテン系の男──アウグストゥスの後ろから、大きなスーツケースを喫茶店のテーブルに置いたアフリカ系の男──ティベリウスがそういう。


 ふたりは八重野と呉の前に立つ。


「サイバーサムライか」


「いかにも。そちらも同業者のようだな。なかなか滾るものだ」


 呉が刀の柄を握るのに、アウグストゥスがにやりと笑ってそう返す。


「時間制限があるのが残念だ。俺たちは10分でここを出なければならない」


「そうしないと核爆弾が爆発するか……」


「ああ。俺たちはタイマーのセット方法は知っていても、解除方法は知らない。こいつが起爆するのを止める方法は知らない」


 ドカンと核爆弾が炸裂するとアウグストゥスが言った。


「俺たちは解除方法を知っている。止めてやるさ」


「じゃあ、その前に俺たちを殺さないとな? それとも4人で仲良くここを出て核爆弾から逃れるかだ」


「あいにくそいつはなしだ」


「結構。そうじゃないとな」


 アウグストゥスと呉が距離を測り合う。


「お前の相手は俺だ、お嬢ちゃん」


「お嬢ちゃんではない。立派なサイバーサムライだ」


 ティベリウスは八重野の前に立ちふさがる。


「それは申し訳ない。では、ひとりのサイバーサムライとして相手しよう。殺されても文句は言ってくれるなよ?」


「無論。そちらこそ、殺されても文句は言うな」


 ティベリウスと八重野が距離を測り合う。


 八重野は超電磁抜刀で一撃で仕留めるつもりだ。


「八重野。そっちを確実に押さえろ。こっちはこいつを押さえる」


「了解。仕留める」


 呉がそう言ってアウグストゥスとの距離をじわじわと詰めていく。


 そして、一斉に動きがあった。


「はあっ!」


「なんの!」


 呉が超電磁抜刀し、アウグストゥスがそれを迎撃する。


 激しい金属音が響き、超高周波振動刀同士が激突する。


「得物は同じだな。後はどちらがサイバーサムライとして優れているかだ。なかなか楽しめそうで何よりだ」


「そうかい。確かに強敵を相手にするってのは心が燃えるがな」


 ギリギリと鍔迫り合いを繰り広げ、アウグストゥスと呉が殺し合う。


 また八重野たちの方も激突していた。


「その首貰う」


「やらせん」


 通常の3倍の威力で射出される超電磁抜刀で、八重野のヒートソードがティベリウスの超高周波振動刀に叩きつけられる。


 ティベリウスは一瞬怯んだが、それでも押し込んでくる。


「一撃、とはいかないか」


「随分と強力な初撃じゃないか。だが、それにばかり頼っていては死ぬぞ」


「ふん。抜かしていろ」


 八重野は再びティベリウスから距離を取り、超電磁抜刀の構えを見せる。


「なるほど。それがお前の武器か。超電磁抜刀は確かに強力だ。サイバーサムライならば誰もが頼りにする。しかし、所詮は一撃のみの技。いつかは限界が来る」


「その前にお前の首を叩き切ってやる」


 八重野が再び超電磁抜刀を仕掛ける。


「見抜いた!」


 ティベリウスはそれを受け流し、弾くと、八重野に向けて超高周波振動刀を向ける。


「やらせるか」


 八重野は何とか態勢を立て直し、ティベリウスの超高周波振動刀を防いで距離を取る。ギリギリながら何とか助かった。


「見たことか。超電磁抜刀の一撃のみに頼るのは愚策。いくら強力な一撃であっても外せば大きな隙を産む。それは命取りだ」


「黙れ」


「ならば、黙らせてみろ」


 今度はティベリウスの方から超電磁抜刀を仕掛けて来た。


「黙らせてやる」


 八重野も超電磁抜刀でティベリウスの一撃を受け止める。


「まだまだ。甘いぞ、若きサイバーサムライ」


 ティベリウスは再び超電磁抜刀には移行せず、そのまま剣戟を続ける。


 八重野は次第に押されて行くも、なんとかギリギリの状態で身を守っていた。


「クソ。なかなかの相手だ。そう簡単には殺せないか」


「残念だったな」


 八重野は再び距離を取り、ティベリウスの連続した攻撃から逃れる。


 そして、また睨み合いが始まる。


「あんたの相棒は苦戦しているようだぞ」


「ふうむ。そいつは仕方ない。あんたらはどうもサイバーサムライを相手しなれているようだからな。今まで名前が知られてないのも、敵対者を確実に仕留めて来たから。そうだろう?」


「そこまで買いかぶられては困るな。所詮は俺たちも六大多国籍企業ヘックスの犬さ。命令されたことをするだけ。後始末が上手いジョン・ドウがいてな。奴に後始末を任せているから名前が知られない」


「そうかい。だが、これまで相手にしたサイバーサムライの数は多いだろう」


「まあ、そこそこだ」


 呉とアウグストゥスがそう言葉を交わす。


「お喋りしても核爆弾が爆発するまでの時間が縮まるだけだ。勝負をつけようぜ。あんたもそれを望んでいるだろう」


「ああ。勝負をつけよう」


 アウグストゥスと呉が距離を縮める。


 両者同時に超電磁抜刀。


「ふん!」


「太刀筋がいい!」


 ヒヒイロカネが火花を散らして衝突し、呉とアウグストゥスの両者の手に衝撃が走る。そのままふたりとも剣戟を続ける姿勢に入り、火花を散らし合う。


「今まで相手にしたサイバーサムライの中でも上位に入るな。あんたの相棒はまだまだ青いが、あんたは違うようだ」


「そいつは嬉しいね。死んでくれるとなお嬉しい」


「そいつは無理だな。とはいえ、そろそろ時間切れだ」


 もうすぐ10分が経過する。


「あんたを殺して、逃げさせてもらうぜ」


「そうはさせるか。死ぬのはあんただ」


 アウグストゥスと呉が同時に超電磁抜刀して衝突する。


 金属音が何度も響き渡り、超高周波振動刀が相手を切り裂こうと繰り出される。


「速度を上げていくぞ!」


「相手になってやる!」


 アウグストゥスが叫び、呉が応じ続ける。


「アウグストゥス! 時間切れだ!」


「ちっ。面白くなってきたところだというのに」


 八重野の相手をしていたティベリウスが叫び、アウグストゥスが引く。


「じゃあな、大井のサイバーサムライ。核爆弾の爆発に巻き込まれる前に逃げることをお勧めする。核爆発で死にたくはないだろう?」


「そうかい。俺も核爆発で死ぬつもりはない」


「そいつは結構。また会えたら戦おう」


 アウグストゥスはそう言って腰に下げていたスモークグレネードを投擲する。赤外線遮断の機能も備わった煙幕が辺り一面に立ち込める。


「八重野! 核爆弾を無力化するぞ! 爆弾解体はできるんだよな!?」


「任せてくれ! すぐに無力化する!」


 八重野が喫茶店のテーブルの上に置かれたスーツケース核爆弾に取り付く。


「旧式のアナログな起爆装置だな。だが、その分やりやすい。10分とかからず解体できるだろう。もう連中は行ったのか?」


「ああ。畜生。あいつら相当な腕前だったぞ」


「同意する。不味い相手だった」


 八重野はそう言いながら準備した工具で核爆弾を解体していく。


「残りどれだけだ」


「7分で起爆する。その前に解体できる」


 八重野は額に汗をにじませながら、核爆弾のタイマーが進み始める中で、アナログ式の起爆装置を解体していく。


「クソ。残り4分」


「大丈夫だ。解体できる」


 ネジを外し、コードを切断し、八重野が核爆弾を解体する。


「残り2分」


「タイマーは止まった。これから信管を取り外す」


 八重野はそう言ってスーツケース核爆弾の信管を抜いた。


「ふう。これで無力化できた。起爆しない」


「ご苦労さん。一安心だな」


 八重野が取りはずた信管を喫茶店のカウンターに投げ捨てた。


「ひとついいか。確かめたいことがある」


「何だ? 大井統合安全保障が来るから、あまり込み入ったことはできないぞ」


「分かっている。技術者に会いたいんだ。ダレン・I・グリーン。ここにいるはずだ。メティスのAI研究者だった男」


「ふむ」


 八重野が言うのに、呉が考え込む。


「そいつに会ってどうする?」


「話を聞きたい。あの非合法傭兵の連中はダレンを狙っていた。メティスにとって何かしらの秘密を抱えた人間だった可能性がある。私の呪いにも関係しているかもしれない。それを確かめたい」


「分かった。10分だ。10分だけ時間を割く。それ以上はダメだ。大井統合安全保障が突っ込んでくるだろう」


「分かった。マトリクスからベイエリア・アーコロジーの情報を収集しつつ向かう」


 八重野はそう言ってベイエリア・アーコロジーのシステムにアクセスし、ダレンの居場所を把握する。


「すぐ下の階層だ」


「オーケー。向かおう」


 八重野と呉は下に降りていく。


「居場所はこっちだ。こっちにいる」


 場がフリップする。


「アスタルト=バアル。ベイエリア・アーコロジーを攻撃したハッカーの痕跡を分析した。ハッカーは自律AIに支援されていたみたい。それも白鯨にとてもよく似ている」


「不味いね。白鯨と似た自律AIとは」


 マトリクス上でハッカーの攻撃を分析したロスヴィータが言うのに、ベリアが唸る。


「東雲はまだハッカーを捕捉できてないの?」


「できてない。今、セクター13/8に向かっている。旧東京湾浄化施設跡も結構広いから、時間がかかるかも。まだ次の攻撃は起きてないよね?」


「時間の問題かな」


 あのハッカーがベイエリア・アーコロジーへの襲撃を成功させるためだけにいたとは思えないとロスヴィータが言う。


「次の攻撃が起きる前に東雲たちが敵のハッカーを潰してくれればいいんだけど。どうもそこまで上手くいかない気がしてならないよ」


「楽観的な予想は大抵外れるものさ。で、八重野たちは?」


「八重野君たちは核爆弾を解体したってメッセージが来ている。けど、脱出するまではまだ時間がかかるってさ」


「急いだ方がいいって伝えた方がいい。大井統合安全保障の構造物からのトラフィックが増大している。かなり大きな動きがあるよ」


 ロスヴィータがそう警告し、ベリアがマトリクスの上にある大井統合安全保障の巨大な構造物を見つめた。


……………………

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