TMCクライシス//空調システム

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 ──TMCクライシス//空調システム



 東雲は“月光”を爆薬に向けて照準し、爆薬ごと信管を破壊する。ドラム缶に収まった爆薬が機能を停止し、リモートでの起爆も不可能になった。


「これで進めるか?」


「ああ。信管は破壊できている。そのはずだ。あれがダミーで見えないところに信管を隠している可能性もあるが」


「敵は相当性格が悪い奴だぜ」


 東雲はそう言って監視カメラも破壊する。


「これなら?」


「恐らくは問題なし」


 呉はそう言って再び先頭を進む。


 ドラム缶の爆薬は爆発しなかった。


 東雲たちは慎重にドラム缶の脇を通り抜け、階段を上し続ける。


 まだまだブービートラックはあったが、いくつかは民間人や大井統合安全保障のコントラクターが引っかかって炸裂した後だった。


「空調システムの階層だ」


 そして、ようやく空調システムの階層まで辿り着いた。


「ここからもブービートラップはあると思うか?」


「分からん。先に大井統合安全保障が突っ込んでいればある程度は解体されていると思うが。用心して進むに越したことはない」


「了解」


 東雲はそう返して、慎重に非常階段のドアを開いた。


 ドアにトラップはなし。ただし、そのちょっと先には赤外線探知式の爆弾。


 呉が爆薬を解体し、先に進む。


 フロアには大井統合安全保障のコントラクターの死体が積み重なっていた。


「どうやらブービートラップはかなり解体されていると見ていいな」


「肉弾式解体か。無茶しやがる」


「大井統合安全保障のコントラクターの命も使い捨てディスポーザブルってことだ。お仲間が増えて嬉しいね」


 東雲はそう言ってそれでも慎重にフロアを進む。


「死体は動かすな。死体のブービートラップを仕込むのはよくある手だ」


「死体漁りはしねえよ」


 呉の警告に東雲はそう返し、フロアを進んでいく。


「空調システムはもう少しだ。しかし、敵2名がどこにいるか、だな」


「制御センターの方にいることを祈るよ」


「得てしてそういう楽観的な考えは打ち砕かれるものだぞ、兄弟」


 呉はそう言い、またひとつブービートラップを解体した。


「廊下には他にブービートラップはないように見える」


「レーザー式のものなどは?」


「俺の目はレーザー光なども捉えるがない。振動探知式は複数のブービートラップと組み合わせるには相性が悪い」


 他のブービートラップの爆発で誤作動を起こすと呉は言った。


「じゃあ、テンポを上げて進んでも大丈夫か?」


「ああ。何か見えたらすぐに知らせる」


「それでは、毒ガスが撒き散らされる前に」


 東雲はそう言って駆け足で廊下を進んだ。


 大井統合安全保障のコントラクターの死体はまだあり、彼らが自らの命を以てして、爆弾を解体したことが窺えた。


 ブービートラップは存在しないが、女の声がする。


「──六大多国籍企業ヘックスに隷属する奴隷にして帝国主義者たちよ! 今こそ人民の怒りの鉄槌を受けるがいい! 自らの行いに対する報いを受けるのだ──」


 デフォルメされたペンギンが喋っていた言葉と似ている。


「どうやら襲撃者を鉢合わせ臭いな」


「仕方がない。お相手しよう」


 東雲たちはそう言って空調システムの制御室に飛び込んだ。


「いた──!」


 小柄なアラブ系の女と南米系──ラテンアメリカ人が空調システムの制御室に陣取っていた。ひとりはオートマチックグレネードランチャーを持ち、ひとりは巨大なガトリングガンを背負っている。


「来たっすよ、ダッシュK!」


「あいよー!」


 ガトリングガンが瞬時に火を噴く。


 ダッシュKと呼ばれた女がガトリングガンで弾幕を形成するのに東雲が“月光”をフル回転させて応じる。


「畜生! あれって人間が運用できるもんじゃねえだろ!」


「サイバネアサシンだ! ニンジャ!」


「ニンジャとか気が抜けるようなこというなよ!」


 さらにアラブ系の小柄な女がオートマチックグレネードランチャーから射撃を加えてくる。弾頭はしっかりサーモバリック弾。口径40ミリのそれが連続して東雲に向けて飛翔し、炸裂する。


「クソッタレ」


 東雲は吹き飛ばされた。内臓が潰れ、骨が折れている。


 瞬時に身体能力強化で回復させ、“月光”を回転させ続ける。


「ガトリングガン女はこっちで叩く! そっちはグレネードランチャー女を!」


「了解した!」


 東雲が前方に突撃してダッシュKに迫る。


「ニトロ! 援護をー!」


「ほいほいっす!」


 小柄な体からは想像もできないような腕力で梱包爆薬が投射された。東雲は“月光”を一本差し向け空中でそれを切断するも、半分が爆発を引き起こした。


 東雲の腕が引きちぎれる。


「この野郎っ!」


「野郎じゃないっす。レディーっす」


 その間にも呉がグレネードランチャー女──ニトロに肉薄しつつあった。


「おっと。レディーに近づくには礼儀がなってないっすよ?」


 オートマチックグレネードランチャーからサーモバリック弾が放たれ、呉の周辺で炸裂するのに呉が後退する。


「変則軌道弾か」


「対サイバーサムライ用の必須装備っすから。あんたらサイバーサムライは飛翔中のグレネード弾を切り落としやがりますからね!」


 オートマチックグレネードランチャーから放たれるグレネード弾は直進せず、曲がりくねった軌道を描きながら、飛翔して炸裂する。


 そのため、呉もなかなか迎撃できない。


「このクソ女っ! バカスカバカスカ撃ってんじゃねえよ!」


 東雲の方は千切れた腕を身体能力強化で回復させていたが、さっきのサーモバリック弾の攻撃もあって貧血を引き起こしていた。


 弾を弾き続けるにも血液を消耗する。


「なかなか面倒なサイバーサムライだねー。こっちも合わせていくよー」


 ダッシュKはそう言うと、ガトリングガンの回転率を偏重させた。


 すると、東雲の高速回転する“月光”の隙間を縫って銃弾が飛来する。


 東雲は腹部に銃弾を一発受け、内臓が吹き飛ぶ。


「この野郎!」


 東雲は最後まで血液と魔力を振り絞って身体能力強化を行使し、傷を回復させるとダッシュKに向けて突進した。


「ニトロ―! 援護ー!」


「手が離せないっす!」


 呉の方は変則軌道弾を何とか切り裂きつつ、徐々にニトロとの距離を詰めつつあった。爆薬を切り裂き、グレネード弾を引き裂き、ニトロに迫る。


「ダッシュK! 撤退するっす! もうガスを撒いてとんずらっす!」


「了解ー!」


 ニトロがそう言って発煙弾を大量に叩き込むと、周囲が煙に満ちる。


「ガスを止めろ!」


「空調システムを停止させる!」


 呉が一瞬だけワイヤレスBCIで新東京アーコロジーのシステムに潜り、空調システムを奪還して停止させる。


「毒ガスは!?」


「ダクトの中だ! 中和剤を放り込む!」


 呉がそう言ってダクトの中の蓋を開けた中和剤を放り込んだ。


 毒ガスが次の瞬間放出され、同時に中和剤のナノマシンが相手のナノマシンを分解していく。


 沈黙だけが流れ、東雲たちは中和が成功することを祈った。


「中和できたのか……」


「分からん。しかし、今のところ俺たちは死んでない」


 それが答えだと呉が言う。


「畜生。とんでもない目に遭ったぜ」


 東雲はそう愚痴り救急用造血剤を口に放り込む。


「あんた、本当に凄いな。腹に大穴が開いてなかったか……」


「慣れだよ、慣れ。嫌な慣れだけどな」


「慣れでどうにかなるものなのか……」


 呉は怪訝そうにしていた。


「それより俺たちもずらかった方がいいぜ。大井統合安全保障が空調システムの奪還に来るはずだ。テロリストと勘違いされたらたまらん」


「それもそうだ。逃げるとしよう」


「すたこらさっさだ」


 東雲は廊下を駆け抜け。非常階段を飛び降りるように降りていき、1階に到達する。


「隔壁が開いたぞ!」


「ガスは!? 毒ガスは撒かれていないんだろうな!?」


 完全武装かつ防護服を装備した大井統合安全保障の部隊が新東京アーコロジー内に入ってくる。彼らはハンドスキャナーで内部の毒ガスの有無を確かめていた。


「クリア! 毒ガスは検出されていません」


「屋上から小型ヘリが離陸したとの情報が──」


 新東京アーコロジー内に安堵の息が溢れる。


「TMCサイバー・ワンはまだ攻撃されていないみたいだな」


「いや。襲撃を察知されなかっただけかもしれない。いずれにせよ、敵の目的は新東京アーコロジーを毒ガスで攻撃することじゃなかった。連中はギリギリまで、毒ガスを撒かなかった。時間稼ぎだ」


「じゃあ、急いでTMCサイバー・ワンに向かわねえとな」


 東雲はそう言って呉の四輪駆動車に乗り込む。


「それにしてもここを攻撃した奴は凄腕のハッカーだったが、あいつらはどうも違った。ただのサイバネアサシンだ。装備こそサイバネ技術が使われていたが、連中の残した装備はタブレット端末がひとつだけ」


「それだけじゃ、新東京アーコロジーを電子的制圧はできないってか。だが、現に連中は新東京アーコロジーを、ここを占拠していたぜ。警備ボットやリモートタレットが銃撃してくるのはあんたも見ただろう」


「ああ。だが。どうも臭い。例の白鯨って奴の仕業じゃないのか」


「だとしたら作戦成功だ。今ごろはベリアたちがメティス本社に仕掛けランをやっているところだからな」


 白鯨に遭遇せずに済むと東雲は言った。


「だといいんだが」


 呉はそう言って静かに車を発進させた。


……………………

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