新しい仲間
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──新しい仲間
ジェーン・ドウが再び接触してきたのは、東雲と呉が戦ってから7日後のことだった。
「ローテク野郎。ちびの方はどうした?」
「マトリクスの潜っている」
「起こしてこい」
東雲たちの自宅にてジェーン・ドウがそう言う。
「ベリア。ジェーン・ドウが来てる」
『分かった』
ベリアが起き上がり、サイバーデッキから起きてくる。
「この間はご苦労だった。有意義なデータが引き出せた。そこで、だ」
ジェーン・ドウが指を鳴らす。
「や、やあ。この前はお世話になりました」
ロスヴィータが姿を見せた。
「こっちで聞き出せる情報は全て聞いた。後はこいつが自らマトリクスに潜って、白鯨のデータを手に入れるだけだ。──あるいは白鯨を撃破するか」
「そのことだけど、白鯨のコアコード手に入れたよ。報酬は?」
「本当か? よし。10万新円だ。無駄遣いはするな」
「あなたは私のお母さんなの……」
ベリアも東雲と同じ突っ込みを入れた。
「それはそうと、これからはこいつと組め。三人寄れば文殊のなんとやらだ。ローテク野郎は引き続き物理担当。こいつはマトリクスでの活動を得意としてるからちびの方と組め。これはお願いではないぞ」
「はいはい。じゃあ、2人分サイバーデッキ置くのか?」
「報酬は増やしてやる。しっかり働け、ローテク野郎」
そう言ってジェーン・ドウは姿を消した。
「大金が転がり込んだのはいいけど、サイバーデッキをもう一台買うのか……」
「お金はボクが出すから。とはいってもメティスの紐付きのお金は使えなくなっちゃったけどね」
「そうしてくれ。しかし、狭い部屋がさらに狭くなる」
1LDKの部屋を3人でルームシェアするのはどういうものだろうかと考える東雲。
「引っ越す?」
「いや。ここよりいい物件となるとセクター13/6でも家賃がごそっと上がる」
ここの家賃は騒々しくてあれだが月50新円だが、ここから2LDKの部屋などを求めると地価の高騰などから、100新円だったり200新円だったりに倍増するのだ。
「サイバーデッキで寝るから布団とかはいいよ」
「そうか。じゃあ、我らの城を見て、必要なものがあったら買いに行こう」
東雲たちがロスヴィータに自分たちの部屋を案内する。
「ここはキッチン。だけど、基本的にテイクアウトか外食で済ませるから調理することはない。レンチンするか、洗い物をするかだけだ」
「下手に合成品買ってきて、調理しようとしても化学反応で有毒ガスが発生することもあるからね。賢明だよ」
「いや、有毒ガスは知らなかったが。まあ、食事は中華かインド料理のテイクアウトだ。好みは? 向こうの世界にいたハイエルフたちはヴィーガンに近かったが」
「この間一緒にピザ食べたでしょ? ボクはなんでも食べるよ。この世界で偏食をするなんて自由はないだろう?」
「それもそうだ。どうせ合成品だしな」
異世界のハイエルフたちは異世界に満ちた豊富な魔力を含んだ野菜だけで生活していたが、ロスヴィータはサラミとチーズとハラペーニョがトッピングされたピザを東雲と食べている。
それらは遺伝子改変したオキアミや大豆の加工品に化学薬品で味と栄養素を後付けしたものだ。この世界でヴィーガンでいるのはとても難しい。
「それからここがダイニング。椅子がいるな」
「椅子だね」
ベリアがタブレット端末にメモを取る。
「それからここがリビング兼俺の寝室。テレビも何もないけど、冬は炬燵を置くつもりだ。それぐらいは楽しみにしておいてくれ」
「セントラルヒーティングが期待できるような物件でもないしね」
「実を言うと異世界でも炬燵を作ってみようとしたんだ」
「へえ? どうなったの?」
「火力が強すぎて足が焦げるか、全然温かくないかのふたつだった」
「ああ。魔道具を作るのは難しいからね」
東雲は錬金術などは化学が苦手だと言って錬金術などは避けていたのに、地球の便利な道具を作って現代知識スゲーをやろうとして失敗しまくっていた。
「まあ、焚火を囲むのも風情があってよかったよ」
「こっちではキャンプなんて金持ちの趣味だからある意味では貴重な経験だ」
キャンプは金持ちの道楽だった。
昔は気軽に借りられたキャンプ場も環境破壊が進み、保護区に指定され、高額な使用料を支払わなければ使えない。キャンプ道具などの生活に直結しない趣味の品もテントひとつで1万新円程度はする。
もっともそれだけするだけあって性能は軍用品並みだが。
生活に直結しない品──つまり趣味の品の値段は高い。
食べ物や飲み物、サプリといったものの値段は抑えられている。
だが、そうではない完全な趣味の品となると価格は高騰する。
「そして、ここがサイバーデッキのあるベリアの部屋。ここにあんたのサイバーデッキも置くことになるだろう」
「へえ。いいサイバーデッキ使ってるね。カスタムしてるし」
「俺には分からん」
東雲が会話から外れるとベリアとロスヴィータは熱心にサイバーデッキのカスタムについて意見交換していた。どうやらこれ絡みの出費は多そうだと東雲は覚悟した。
「それからここが更衣室兼風呂場。使用中のときは札を下げること。着替えは?」
「チップとあのスーツだけで逃げて来たから揃えないといけない」
「それは重要だな。洗濯機は自由に使ってくれ。5分で終わる」
ちなみにと東雲が尋ねる。
「どういう経路で逃げて来たんだ?」
「カナダのメティスの研究所からアメリカを抜けてメキシコまで行って、そこから飛行機でTMCに。TMCセクター13/6でいなくなった人間の
「
「まあ、ここまで治安が悪いとは思わなかったけど」
メキシコもかなり危なかったけど、今は麻薬カルテルじゃなくてメティスが支配しているからとロスヴィータは語る。
「メキシコで食料を作ってるんだよな?」
「メキシコの安い人件費で低所得者向けの合成食品をね。メキシコとカナダはメティスの縄張りだよ」
「それなのにメキシコに?」
「アメリカの空港は全て見張られてたから。逆に縄張りに突っ込んでみたらどうかって思ったわけだよ。ある意味では成功し、ある意味では失敗した。ボクはTMCに逃げ込むことには成功したけど、メティスの追手は追いかけて来た」
「しかし、メティスもよくあれだけの戦力を大井の縄張りであるTMCに送り込めたものだな。大井統合安全保障は何をしてたんだか」
「メティスは食料供給のためのロジスティクスを握っている。彼らは食料を作り、加工し、出荷して、配分するところまで自前でやる。そのためのロジスティクスを悪用したんだと思う」
何でもかんでも六大多国籍企業は自分のところでやりたがるとロスヴィータは言う。
「なるほどな。食料コンテナに戦車やらアーマードスーツやらを隠していたわけか。となると、これからも似たような襲撃があるんじゃないだろうな?」
「ボクの痕跡はジェーン・ドウが全て消してくれた。これで
「それはいいことだ」
俺も毎回あんなに出血したらどうかなっちまうと東雲は愚痴る。
しかし、あのサイバーサムライ──呉の処分はどうなったのだろうかとも思う。
あれは腕のいい人間だった。久しぶりに東雲も滾った。だが、ジェーン・ドウが他のジェーン・ドウやジョン・ドウと関係があるかもしれない呉を信頼するか? と思う。
「とりあえず着替えとその他もろもろの小物だね」
「うん。揃えていこう」
ベリアがタブレット端末にメモを取って見せるのに、ロスヴィータが頷く。
「じゃあ、買い物に出かけますか」
東雲はそう言って玄関に向かった。
まずは服。東雲たちと同じ撥水加工された合成繊維のジャケットとラフなスーツ。ラフなスーツはTMCスタイルだ。
それから家具を少々と洗面道具などを揃えた。
それとベリアは化粧はしないがロスヴィータは軽くするというので化粧品を探し回ることになった。下手なものを買うとアレルギーができるというので、これに関しては慎重にものは選んだ。
そして、化粧品並みに悩んだのがサイバーデッキ。
「これがいいよ。ハイエンドのサイバーデッキ。カスタムもできる」
「うーん、それよりこっちの汎用性の高いのを買って、自分好みにカスタムした方がよくない?」
「ええー。後で後悔することになるかもよ? 少なくとも
東雲にはさっぱりついていけない世界である。
「なあ。寝心地とかでは選ばないのか?」
「選ばない」
「そうかー」
東雲にはさっぱりついてけない世界である。
「むしろ、寝心地が悪いぐらいがいい。マトリクスで寝落ちしたりなんてしたら、いつ脳を焼き切られるか分からないからね」
「そうそう。マトリクスで寝落ちなんてしたらどんな情報を盗まれるか」
マトリクスって怖えと東雲は思ったのであった。
「じゃあ、お勧めに従ってこのハイエンドのサイバーデッキをカスタムしようかな」
「それがいいよ。じゃあ、次はカスタムパーツを買いそろえにいこう」
「TMCセクター5/2?」
「そうそう」
まだまだ続くのかと東雲はげっそりした。
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