標的A//フィナーレ
……………………
──標的A//フィナーレ
45式無人戦車は同軸機銃のカメラと
そして、面倒なのは45式無人戦車がC4Iシステムとデータリンクでもう1両の戦車と情報を共有しているということであった。
「畜生。向こうの戦車から見てるな」
まだ無傷なもう1両戦車が各種センサーで東雲の姿を捉え、別のセンサーを潰された1両とともに攻撃を加えてくる。
東雲は2両戦車がガトリングガンで攻撃を加え、
「へし折れろ!」
東雲は45式無人戦車の55口径120ミリ砲のその砲身が叩き切られた。
これで主砲は戦闘不能だ。この状態で下手に撃てば、自爆することになる。
続いてガトリングガンを狙おうとするのにもう1両のセンサーが無事な戦車が味方の戦車ごと砲撃を加えてくる。砲弾は東雲を掠めて飛んでいき、遠方で爆発が生じる。
「味方ごとふっ飛ばそうって気か」
東雲がセンサーが無事の方の戦車がガトリングガンで東雲を狙って来るのに七本の“月光”を高速回転させて応戦しながら、センサーと砲身が破壊された戦車にトドメを刺すようにガトリングガンを叩き切る。
「くたばれ、ブリキ缶!」
そして魔力と血液を注ぎ込んだ“月光”で45式無人戦車の制御系が入っている砲塔部を叩き切った。
強力な複合装甲と通電式電磁装甲が攻撃を防ごうと大量の電力を流すが、東雲の“月光”はそのような防御などものともしない。
45式無人戦車は制御系を破壊され、ついに戦闘不能になる。
「残り1両」
友軍戦車がやられたのを見たのか、最後の1両の戦車は友軍戦車ごと東雲を砲撃した。主砲から放たれた多目的対戦車榴弾が炸裂し、破壊された戦車が鈍い金属音を立て、爆風が撒き散らされる。
東雲も吹き飛ばされ、内臓が破裂するのと骨があちこち折れるのが確認できた。幸い、ギリギリで回避行動を取ったおかげで手足が引きちぎれることはなかった。
「また血が。危ねえな、こん畜生!」
東雲は身体能力強化で傷を再生させ、跳ね起きるとガトリングガンによる追撃を七本の"月光”で防ぐ。そして、次の主砲弾が放たれる前に素早く移動する。
戦車はがりがりとアスファルトを削りながら高速移動しつつも、その砲身はスタビライザーと
「クソ、クソ、クソ! 狙いが正確になってやがる!」
再び多目的対戦車榴弾の砲撃。コンクリートが抉れ、砲弾の破片とともに東雲を襲う。爆風も東雲を吹き飛ばし、東雲はなんとか前転の姿勢を取って、衝撃を受け流す。
主砲の電子冷却装置と自動装填装置によってすぐさま次の砲弾を放てるようになった戦車が砲撃を繰り返す。
「畜生。徹底して応戦するつもりだな。いいだろうさ。受けて立ってやるよ!」
東雲はそう言って何とか戦車の側面に回り込もうとし、そして戦車はそれを追いかけながら、砲塔と車体を旋回させる。
場が
ベリアは日本陸軍のシステム内に入り込んだ白鯨を目撃していた。
日本情報軍の布いた
「アーちゃん。ここは無理だぜ。日本情報軍のサイバー戦部隊がうようよしている」
「でも、戦車を止めないと。東雲だっていくらなんでも戦車の相手は無理」
ベリアはどうにかして戦車奪還を目指す日本情報軍のサイバー戦部隊の包囲を抜けようとしていた。だが、流石は日本国防四軍のサイバー戦を担っているだけあって、そう簡単に通してくれそうにはない。
「マトリクス上でも魔術は機能する」
そこでふとベリアがそう言う。
「“立ち去れ、無垢なるものたちよ。今、ここは禁断の地である”」
ベリアがそう詠唱すると日本情報軍のサイバー戦部隊が目標を見失ったかのように散開していく。
「こいつは……」
「人払いの結界。意識されると長くは持たない。今のうちに!」
ベリアはそう言って、日本陸軍のシステムに潜り込む。
「ジャバウォック、バンダースナッチ。例のアイスブレイカーを」
「了解なのだ、ご主人様」
ジャバウォックとバンダースナッチがアイスブレイカーを展開する。
「上手くいってよ……!」
そして、2体のAIによる攻撃が始まる。
アイスブレイカーは白鯨が戦車に対して展開した
「すげえ。どういうアイスブレイカーなんだ……」
「例の白鯨が改良したMr.AKのこと、覚えている? あれを参考にしてみた。もちろん、そっくりそのまま真似したわけではないけどね」
ベリアが新しく開発したいアイスブレイカーには魔術が刻まれていた。カルネアデス学派の結界破壊用魔術の効果がある魔法陣がプログラミングされ、その魔術はマトリクス上で
「さあ、戦車! 覚悟!」
そして、ベリアが戦車のシステムに突入した。
場が
戦車は東雲を捉え続け、砲撃を繰り返す。
同軸機銃とリモートウェポンステーションのガトリングガンも火を噴き、東雲を制圧しようとする。東雲は砲弾は回避し、銃弾は"月光”の高速回転で防いでいた。
「おいおい。マジかよ」
そこに警備ボットと警備ドローン、そして大量のアンドロイドたちが突入してきた。
「ゲイリー! あんたのところでやれるか!?」
「すまん! もう限界だ! 研究所内で迎撃する!」
「畜生! 分かったよ!」
東雲は戦車を迎撃しなければならない。
だが、そこで突然戦車が砲口を研究所に向けた。
「不味いっ!」
戦車の放った多目的対戦車榴弾が研究所の正面玄関で迎撃を試みていたギルマン・セキュリティのコントラクターたちを吹き飛ばす。
「クソッタレ!」
東雲が戦車に斬りかかろうとしたとき、戦車が突然停止した。
『東雲! 戦車は止めたよ!』
「ああ。らしいな。そっちで動かせるか?」
『1分だけなら動かせる。日本情報軍のサイバー戦部隊が戻ってくるまで』
「了解。今、見えている警備ボットと警備ドローン、それからアンドロイドどもを吹き飛ばしてくれ」
『オーキードーキー!』
そして、戦車が暴走する機械たちに牙を剥いた。
リモートウェポンステーションのガトリングガンが一斉に警備ドローンを薙ぎ払い、多目的対戦車榴弾がアンドロイドたちを吹き飛ばす。
1分の戦闘の結果、突入してきたアンドロイドたちはほぼ壊滅した。
「何体か抜かれたが、こっちで対処するしかない」
東雲はそう言って研究所内に突入した。
研究所内は多目的対戦車榴弾に吹き飛ばされたギルマン・セキュリティのコントラクターたちの死体と破壊されたアンドロイドの残骸が散らばっていた。
「ひでえな。死体の山だ」
東雲はそう呟くと銃声のする方向に向かう。
銃声は2階から。東雲が2階に向かうと、片腕を多目的対戦車榴弾でもがれたゲイリーが自動拳銃でアンドロイドたちに応戦していた。
「今行くぞ! 間違って俺を撃つなよ!」
東雲はそう言って、ゲイリーに襲い掛かろうとしていたアンドロイドを七本の"月光”の刃で全て破壊し、ぐったりとしているゲイリーの下に向かった。
「大丈夫かい……」
「大丈夫に見えるか?」
「ああ。見えない。あんたはもうダメだろう」
「分かっている。あんたにこれを託す」
そう言ってゲイリーは電子キーを東雲に渡した。
「これは……」
「例の保護対象の研究者がいる部屋の電子キーだ。俺たちがここまでして守る価値のあるものだったのか、それを確かめてくれ。すぐそこの部屋だ」
「分かった。まだ待ってろ。死ぬなよ」
「ああ。まだ死なない」
東雲は電子キーの番号に記された部屋を見つけ、電子キーを差し込む。
電子音がして、重々しい金属音とともに研究室の扉が開く。
「なっ……」
部屋には誰もいなかった。いや、人がいた痕跡すらない。埃を被ったサイバーデッキやコンピューターがあるだけだった。
「どうだった……。俺たちの守る価値のあるものだったか……」
「ああ。守る価値のあるものだったよ」
「そいつはよかった」
そう言ってゲイリーはこと切れた。
畜生め。クソッタレ。無駄死にだと東雲は思う。
ジェーン・ドウには何か別の目的があった。その目的を達成するために東雲たちを利用した。だが、その目的とはなんだ? 何の意味があってこんなことを?
「ベリア。研究者はいない。何か思い当たることは?」
『考えたんだけどさ。ジェーン・ドウは何故か最初に『データが盗まれた』って話をしたよね? それってフルスキャンした白鯨のコピーだと思う。そして、今回はそれを取り戻すために、また同じ罠を用意して白鯨を待ち伏せた』
「なるほど。白鯨を釣り上げるためか」
『物的証拠のない憶測に過ぎないけどね』
ベリアのアバターはそう言って肩をすくめた。
「しかし、それだけのために100人近い人間を無駄死にさせたのか……」
東雲は怒りとやるせなさがあった。どうせまた
全ては
そこで東雲の視界の端に何かが見えた。
「マトリクスの幽霊。いや、雪風」
白い着物の白髪青眼の少女は東雲に向けて丁寧に頭を下げると消えてしまった。
「……どういう意味だ?」
東雲はただ、困惑した。
……………………
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます