保護//迎撃

……………………


 ──保護//迎撃



「水の精霊さんよ。外はどうなっている……」


 東雲が汚染水に宿った水の精霊に尋ねる。


「機械がたくさん押しかけているわよ。たくさんのたくさんの機械。お友達?」


「いいや。敵だ」


 そう言って東雲は水に精霊に魔力を分け与える。


「ベリア。一時的に迎撃してからここから脱出する。敵について教えてくれ」


『敵はアロー・ダイナミクス・ランドディフェンス社製戦闘用アンドロイド。これがどこから流れ込んだのかと思ったらよりによって国連チューリング条約執行機関の下請けをやってる民間軍事会社PMSC


「マジかよ。間抜けもいいところだな」


 AIを規制するための組織がAIに乗っ取られてるなど笑いしか出ない。


「さて、お出でなさるぞ」


 東雲は“月光”を握り締める。


 アンドロイドたちの足音が近づいてくる。


「やべえ、やべえよ。ウェアをキメねえと……」


「動けなくなったら置いていくぞ」


「畜生」


 三浦はそう言ってウェアを差し込むのを止めた。


「3、2、1、ゼロ」


 けたたましい銃声が響いてシャッターが穴だらけにされる。東雲は高速回転させた月光でそれを阻止する。そして、彼はシャッターを開き、外に飛び出た。


「目標捕捉。目標捕捉。目標捕捉。目標捕捉」


「排除。排除、排除。排除」


 けたたましいガトリングガンの銃声が響き、サイズ的には大柄な成人男性程度でありながら、ゴツいガトリングガンを抱えた戦闘用アンドロイドが東雲を狙って銃撃を行う。


『見た目に騙されたらダメだよ。こいつら46式戦闘人形より面倒な奴だから。外装は複合装甲。内部は第五世代の人工筋肉。射撃統制システムFCSは最先端。機動力も極めて高い』


 46式戦闘人形より小型でありながら、スペックとしては46式戦闘人形を上回っているとベリアは言った。


「らしいな」


 ガトリングガンを浴びせてくる戦闘用アンドロイドの攻撃を受け流しつつ、東雲は戦闘用アンドロイドに肉薄する。


「まずは1体!」


 血と魔力が注がれた“月光”の刃が複合装甲を引き裂き、戦闘用アンドロイドを上半身と下半身に切り分け、戦闘用アンドロイドは火花を散らして倒れた。


「殺害。殺害。殺害。殺害」


「てめーが死んでろ」


 次に纏めて3体の戦闘用アンドロイドを東雲がぶった切る。


「強制執行。強制執行。強制執行。強制執行」


 そう言って戦闘用アンドロイドはリボルバー式のグレネードランチャーを持ち出した。東雲に向けてグレネード弾が降り注ぐ。


「クソ、クソ、クソ。やってくれやがる」


 東雲は口径40ミリのサーモバリック弾の爆風を受けながら、衝撃で肋骨がまたしても折れたことを認識した。


「切り刻め、“月光”!」


 “月光”の刃が舞い、戦闘用アンドロイドを纏めて5体排除する。ちゃんと録画機能を潰すために、頭部を切断している。“月光”はアンドロイドの頭部を貫き、目標を完全に沈黙させた。


「残り3体」


 戦闘用アンドロイドたちはガトリングガンとグレネードランチャーで東雲をひたすら攻撃し、殺害しようとしてくる。


「貫け、“月光”」


 東雲は七本の“月光”を投射し、アンドロイドたちを滅多刺しにして沈黙させた。


 装甲が厚く、どこまでも火力を発揮してくる戦闘用アンドロイド相手の戦闘で東雲は相当な量の血液を失った。


 貧血気味になりかけるのに東雲は造血剤を纏めて四錠口の中に放り込む。


「ベリア。まだまだか?」


『まだまだ。そして、さらに悪いニュース。国連チューリング条約執行機関が戦闘用アンドロイドの向かった方向を追ってる。彼ら、君たちの方に向かっているよ』


「畜生。最悪だ」


 悪いことは連鎖するというがこれはあんまりではないかと東雲は思った。


『お替わり、来るよ。こっちでもどうにかできないか探ってみる』


「頼む。国連チューリング条約執行機関まで来たら洒落にならない」


 場がフリップする。


 マトリクス上でベリアとディー、そしてジャバウォックとバンダースナッチは考え込んでいた。雪風はいつの間にか姿を消していた。


「国連チューリング条約執行機関はフラッグ・セキュリティ・サービスって民間軍事会社PMSCに業務を一部委託していた。そして、これがフラッグ・セキュリティ・サービスのサーバー」


「すげえアイスだ。軍用アイスに匹敵する」


「そう。大井統合安全保障のアイスも凄かったし、これも凄い。だが、ここに白鯨が侵入して、戦闘用アンドロイドをハックしている」


「あるいはアロー・ダイナミクス・ランドディフェンス社のサーバーから」


「アローも六大多国籍企業ヘックスだ。仕掛けランは難しいよ」


 白鯨はどちらかからアンドロイドをハックして、東雲にけしかけている。


 そして、白鯨の目標を追って、国連チューリング条約執行機関が動いている。東雲は必要になれば国連チューリング条約執行機関の兵士だろうと斬るだろうが、彼らにはリアルタイムで情報が共有されるARデバイスを持っている。


 東雲が国連チューリング条約執行機関を襲えば、瞬く間にその情報は共有されて、東雲はお尋ね者だ。ジェーン・ドウも切り捨てるだろう。


「フラッグ・セキュリティ・サービスの方からやろう。六大多国籍企業を相手にするよりはマシだ」


「オーケー。やろうぜ」


 ディーが頷き、2名と2体の人間とAIはフラッグ・セキュリティ・サービスのサーバーに近づいていく。


 早速不審な接近に気づいて追跡エージェントが放たれる。


 ベリアたちは追跡エージェントを回避し、フラッグ・セキュリティ・サービスのサーバーのアイスに挑む。


「やはり限定AIを使ったアイスか。アイスブレイカーで一撃って訳にはいきそうにないね」


「だが、連中を攪乱する手段はあるぞ」


「ふむ?」


 ディーが言うのにベリアが首を傾げる。


「アーちゃんが言っていただろう。可視化されたアイスは一見して壁のように見えるが、その実は隙間があるって。その隙間にパラドクストラップを流し込む」


「そして限定AIが処理しかねているところをアイスブレイカーを叩き込む、と」


「そういうことだ。どうだい?」


「やろう」


 ベリアたちはパラドクストラップを準備して、限定AIのアイスが守るフラッグ・セキュリティ・サービスのサーバーの前に立つ。


 追跡エージェントには欺瞞用のワームを食わせておいた。これで暫くは追跡エージェントがベリアたちに気づくことはないだろう。


「隙間ってどの辺りだ?」


「こればかりは勘でやるしかないね。恐らくは、ここ!」


 アイスにパラドクストラップがぐいと差し込まれる。


 次の瞬間、限定AIに、そのアイスに問題が生じたのが分かった。パラドクストラップに引っかかったのだ。


「よし。ジャバウォック、バンダースナッチ。アイスブレイカーを」


「了解なのだ!」


 ジャバウォックとバンダースナッチが同時に複数のアイスブレイカーを使って、アイスを砕く。アイスに穴が開き、ベリアたちはそこから内部に侵入できるようになった。


「恐らく中は」


「ああ。ブラックアイスがあるだろうな」


 ディーがそう言って検索エージェントをサーバー内に放つと一瞬で焼き切られた。


「例のワーム。まだ使える?」


「使えると思うぞ。やってみるか」


 例の軍事目的で開発されたシステム制圧用ワームが投入される。


 ワームが瞬く間にブラックアイスに焼き殺される速度を越えて増殖し、システムが制圧されて行く。ここでもう一度ディーが検索エージェントを放つ。


「白鯨は?」


「いない。どうやらアロー本社からハックしているみたいだな」


「なら、こっちで現場の指揮権を取り戻そう」


「オーケー」


 ベリアたちはフラッグ・セキュリティ・サービスのサーバー内に入り込み、指揮権を剥奪されている戦闘用アンドロイドたちの指揮権の奪還を目指した。


 まずはMr.AKに類似したアイスブレイカーを使用して、戦闘用アンドロイドのアイスに穴を開け、そこからアップデート際に接続されたアロー・ダイナミクス・ランドディフェンスとの接続を切る。


「よし。切れた。これでいいはず。後は、と」


 ベリアは戦闘用アンドロイドたちを別の方向に誘導するとそこで戦闘用アンドロイドの演算回路を焼き切った。


 これで国連チューリング条約執行機関も東雲の後を追えないはずである。


「これでいいはず」


「そろそろタイムリミットだ。脱出するぞ」


「オーキードーキー」


 ディーは盗聴器を残してベリアとともに脱出した。


「状況は?」


「フラッグ・セキュリティ・サービスはほぼ全ての戦闘用アンドロイドをロストした。作戦能力は大幅に低下。国連チューリング条約執行機関の兵隊はまだあんたの相棒を見つけられてない」


「いいニュース」


「悪いニュース。大井統合安全保障のサーバーにまた白鯨が侵入した。そして、大井統合安全保障は治安維持部隊にアーマードスーツと軽装攻撃ヘリを再び加えている」


「最悪」


 ベリアがそう言って肩を落とす。


「どうする? 大井統合安全保障にもう一度仕掛けランをやるかい」


「そうするしかなさそうだね。白鯨と鉢合わせになりそうだけど」


「まあ、奴に焼き殺されないことを祈ろう」


……………………

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る