刺客ラッシュ
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──刺客ラッシュ
暴走したアンドロイドはすぐに発見できた。
隣の個室から血塗れの手をした屈強なアンドロイドが出て来たのだ。
戦闘用アンドロイドはARに大井統合安全保障の許可済みという表示が出ており、大井重工製46式戦闘人形という名称と製造ナンバーが表示されている。
恐らく装甲は戦車にも使われている複合装甲。その重量を支える動力は人工筋肉。
人工筋肉。海洋哺乳類の
「叩き斬るには苦労しそうだな」
“月光”を狭いバー2階の廊下に展開させる。
まずは試しと複数の“月光”で多方向から斬りつける。傷ひとつつかない。
「お客様。飲みすぎです。飲みすぎです。飲みすぎです。飲みすぎです」
戦闘用アンドロイドが東雲に向けて突進してくる。
「あいにく、最初の一杯も満足して飲めてねえんだよっ!」
東雲は“月光”を高速回転させて、戦闘用アンドロイドの突撃を防ぐ。
がりがりと表面を削る“月光”を戦闘用アンドロイドは破損を恐れず、突撃してきて押し込もうとする。第五世代の人工筋肉は最先端の重機のそれに匹敵する力がある。
東雲の“月光”は徐々に押され、東雲が追い詰められる。
「弱点見つけ!」
“月光”が戦闘用アンドロイドの間接部を狙う。
“月光”の刃は戦闘用アンドロイドの両腕の間接──どうしても装甲が薄くなる場所を切り裂き、両腕を切り落とした。
「お客様。他のお客様のご迷惑となっています。他のお客様のご迷惑となっています。他のお客様のご迷惑となっています。他のお客様のご迷惑となっています」
戦闘用アンドロイドの腹部が開きショックガンが姿を見せる。
「マジかよ」
ショックガンが東雲を壁に叩きつけた。
肋骨が数本折れた。腕の骨もイカれた。背骨は無事。内臓から出血してる。
身体能力強化で強引に怪我を治す。痛みは残るが血は止まり、骨は元通りになる。
そして、はあと血の混じった息を吐く。
「やってくれやがったな、クソ野郎」
ぶち殺してやると東雲が“月光”に血液と魔力を注ぐ。
「一閃」
東雲は戦闘用アンドロイドが反応するよりも速く、どこまでも早く加速し、戦闘用アンドロイドの胴体のショックガンごと複合装甲を断ち切った。
戦闘用アンドロイドは機能不能に陥り、ショックガンようのエネルギーが爆発して装甲の隙間から爆風が吹き上げる。頭部は吹き飛び、地面に戦闘用アンドロイドの生首がごろりと転がる。
「なあ、上で何か騒ぎが起きたんじゃないかい?」
そこでこのバーの客と思しき、アフロシャツにハーフパンツの男が現れた。室内でもサングラスをしていて、表情が窺えない。
「大人しく下にいろ。大井統合安全保障が直に来る」
「そうかい。あんたが“毒蜘蛛”だろう。このクソッタレなサイバーサムライ」
次の瞬間、男の左手の指の先端が取れ、そこから何か透明な殺意を帯びたものが舞った。東雲は瞬時に“月光”でそれを防ごうとするが、その透明な殺意は東雲の腕を片腕を切断した。
ボトリと東雲の腕が落ちる。
「畜生。何しやがった……」
「サイバネティクス。アロー・ダイナミクス製の単分子ワイヤーと合成ダイヤの巻き取り機さ。知ったところで防ぐ術はないがね!」
アロハシャツの男が再び見えない殺意──単分子ワイヤーを繰り出してくる。
見えない殺意は東雲の衣服を裂き、皮膚を裂く。
東雲は片手で“月光”を構え、七本の刃を高速回転させて次の攻撃を防ぐと、七本の刃全てをアロハシャツの男の向けた。
アロハシャツの男は東雲の“月光”を切り裂こうとしたが、異世界の最高の錬金術師が鍛えた剣は単分子ワイヤーをものともせず、アロハシャツの男を滅多刺しにした。
「クソッタレなサイバーサムライ。くたばりやがれ」
アロハシャツの男は最後に手榴弾を投擲した。
手榴弾は“月光”によって真っ二つに切断され、爆発したものの本来の効果は及ぼせなかった。つまりは無力化されたのだ。
「畜生。好き放題やってくれやがって」
東雲は切断された腕を拾い上げると切断に面に押し当て、身体能力強化によって切断された腕を接続する。
これでようやく終わったかと思ったが、1階から悲鳴が響く。
そこには頭部を砕ければ客の死体と戦闘用アンドロイドが2体存在していた。
「お客様。お客様。お客様。お客様」
「お帰りください。お帰りください。お帰りください。お帰りください」
戦闘用アンドロイドたちがのしのしと東雲に向かって来る。
「ああ。言われなくても帰ってやるよ。こんな店、二度と来るか!」
“月光”が高速回転し、ショックガンに備える。
戦闘用アンドロイド2体の腹部が開き、ショックガンが叩き込まれる。
東雲は壁に叩きつけられながらも、月光を高速回転させてアンドロイド2体に突っ込ませた。回転する七本の“月光”がアンドロイドたちの弱点である関節部を切断し、腕部を喪失させる。
人工筋肉が切断され、循環しているナノマシンが液体となって撒き散らされる。
「切り刻んでやる!」
東雲は再度のショックガンの攻撃を回避し、1体目のアンドロイドの腹部を狙う。“月光”の刃はショックガンを両断し、ショックガンの予備のカートリッジが暴発する。
アンドロイドの胴体が弾け、上半身と下半身が分断される。
「お客様。困ります。困ります。困ります。困ります」
「困ってるのはこっちだよ、クソ野郎」
戦闘用アンドロイドが“月光”に向けて体当たりする。
東雲は“月光”でその重機の体当たりのような衝撃を押さえつつ、反撃に転じる。
既に格納されたショックガンでなく、足の間接部を狙った一撃。
膝が切り落とされ、戦闘用アンドロイドが地面に倒れる。
「お客様。お客様。お客様。お客様」
「クソッタレ。ふざけやが──」
そこでショックガンが炸裂した。うつぶせの状態で床に向けて放たれたショックガンによって周囲のものが撒き散らされる。
「ふっざけんな!」
東雲は飛び散ったガラス片などで皮膚を切り裂かれながらも“月光”に魔力と血を込めて、アンドロイドを串刺しにした。
そして、ショックガンのカートリッジが暴発し、戦闘用アンドロイドが四散する。
「畜生め。また血を使い過ぎちまったじゃねーか」
東雲がよろめきながら造血剤を飲み下す。
「“毒蜘蛛”! 死に晒せえっ!」
そこで怒号が響き、外からガトリングガンの連射される音が響いた。
店舗内に銃弾が雨あられと降り注ぎ、東雲は“月光”でそれらの銃弾を弾きながら、遮蔽物に飛び込む。
「畜生、畜生。今度は何だ?」
東雲は遮蔽物から様子を窺う。
「大井統合安全保障は何やってんだよ、クソ」
東雲は遮蔽物から飛び出すと高速回転する七本の“月光”で銃弾を弾きながら、外にいる男に突撃していく。
「“毒蜘蛛”! 会長の仇ぃ!」
「八天虎会かよ!? お前ら、まだ存在してたのか!」
東雲は驚きつつも銃弾を弾き、身体能力強化を限界まで行使し、男の首を刎ね飛ばした。鮮血が吹き上げ、男が強化外骨格ごとよろめいて、地面に倒れる。
そこでようやく中型のティルトローター機が降下してきた。
大井統合安全保障だ。
「動くな。大井統合安全保障だ。我々はTMC自治政府より警察権を委任されている。抵抗すれば射殺する」
「来るのが遅せえよ」
東雲は“月光”を既に格納しており、両手を上げていた。
「内部の状況を確認。生存者を救助」
「了解」
大井統合安全保障のコントラクターたちがバーに入っていく。
「お前、サイバーサムライか?」
「そういうことになっている」
「違法なウェアを使用してないだろうな?」
「これでウェアが使用できるように見えるか?」
東雲は両手を上げたまま後ろを向いて、首の後ろを見せる。
「BCI手術を受けていないサイバーサムライ? 何かの冗談か?」
「目の前にあるのが事実さ」
東雲は涼しい顔をしてそう言った。
「大尉。戦闘用アンドロイドからMr.AK感染の痕跡を検出。例の連続ハッキング事件と関係があると思われます」
「上に報告だな」
大尉と呼ばれた東雲を監視していた男がそう言う。
「国連チューリング条約執行機関には?」
「報告する義務はない。これはあくまでウィルス感染によって引き起こされた犯行だ。ウィルスのサンプルは取ったな?」
「はっ」
「では、負傷者を救急に任せて撤退だ」
既に現場には各病院の救急車が来ていた。
無保険である東雲には用のないものだ。
東雲はもう一錠造血剤を飲み下し、ジェーン・ドウの下に向かった。
「片付いたぜ」
「ご苦労。礼のチップだ」
ジェーン・ドウがチップを渡す。
「連中、戦闘用アンドロイドがMr.AKとやらに感染していたと言っていたが……」
「今はお前が知る必要はない。平穏に過ごしたければ首を突っ込むな」
「はいはい」
東雲は運ばれて行く負傷者を見る。
「八天虎会の残党みたいだったぜ」
「連中を纏めた人間がいる。そして、そいつがお前に連中をけしかけた」
ジェーン・ドウはそう言って東雲を見る。
「マトリクスの幽霊を信頼するな。用心しろ」
「了解」
そして、東雲はお洒落なTMCセクター6/2から根城であるセクター13/6に向けて帰っていった。
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