データセンター

……………………


 ──データセンター



 七本の“月光”の刃が3体アンドロイドたちを八つ裂きにする。


 “月光”は働きに対して血の報酬が少ないことが不満なようで東雲からその分の血を吸い取る。東雲は血を失いつつも、リモートタレットを制圧し、そしてTMCサイバー・ワンのデータセンターに向かう。


 データセンターに向かおうとするのに対テロ用の隔壁が下りて、同時に警備ドローンが次々に姿を見せる。


 相当重要な場所らしく、警備ボットが出張ってこないのが不思議なくらいだった。


 警備ドローンは無警告で発砲し、東雲は高速回転する“月光”でそれを防ぎつつ、斬り伏せる。警備ドローンが爆発を起こし、破片が飛び散る。


『東雲。警備システムが制圧できそうだからちょっと待って』


「早くしてくれ。こっちは死にそうだ」


『君の迎撃にアンドロイドが向かった。マトリクスに接続中の3体以外のアンドロイド3体が警備システムの制圧をやめて、君の方に。これで警備システムは奪取できると思う。ただ、気を付けて。アンドロイドたちは武器庫を襲って武器を奪ってる』


「知ってるよ」


 電子ドラッグジャンキーがショックガンなど持っているはずがないのだ。


「そっちで警備システムを奪ったら、アンドロイドどもを銃撃してくれるか……。ちょっと血が不味い。造血剤は本当にお守り代わりになりつつある」


『分かった。努力する』


 場がフリップする。


 ベリアは管理AI“スクナビコナ”をコアとするTMCサイバー・ワンのシステムを前にしていた。アイスは既になく、バンダースナッチが放ったワームによって、通信負荷は強まりつつある。


「……ちゃん。アーちゃん。こいつはちと不味いぜ。ワームを流したのはいいアイディアだが、思ったよりTMCサイバー・ワンの演算量が足りてない。いや、あのデカブツが居座っているから、か」


「分かってる。警備システムを制圧したら、こっちの任務タスクは終了。今、物理的にデータセンターを制圧するところだから」


「中にお友達がいるのか?」


「相棒がね」


 ベリアは巨大な“スクナビコナ”を中核としたTMCサイバー・ワンのシステムに近づき、警備システムを制圧しようとしていたジャバウォックと合流する。


「ジャバウォック。警備システムは制圧できそう?」


「連中、最後に迷宮回路付きのプログラムを残していきやがったのだ。連中の作るプログラムはどうも気持ち悪いのだ。電子的でないというか、一種の病的なバイオロジーとでも言うべきか。腐った臓物で培養される人食い連鎖球菌か」


「分かる。どうも連中のプログラムは病的で、生物学的なところがある。それでいて生物を模倣したわけではない。ただ、生物学的なイデオロギーを感じるとでもいうか」


 ジャバウォックからバトンタッチしてベリアが警備システムの制圧を試みる。


 病的で、生物学的なプログラムを破壊して、警備システムを無効化。新しく立ち上げた警備システムにTMCサイバー・ワンの警備システムを乗っ取らせる。


「ショータイム」


 ベリアが警備システムから映し出される光景を目にし、同時に警備ドローンを放った。今度は暴走アンドロイドたちに向けて。


 警備ドローンはアンドロイドたちに精密に狙いを定めて銃撃を加える。


 だが、アンドロイド側もそれを予知していたのか、ショックガンで警備ドローンを一掃する。TMCサイバー・ワンのような精密機器が重要な施設に電磁パルスガンは置いてない。ショックガンがせいぜいだ。


「じゃじゃーん! タレット君、出撃!」


 リモートタレットの12.7ミリ弾がアンドロイドたちを一瞬でミンチに変える。


「隔壁もじゃんじゃん開くよ。さあ、行って、東雲!」


 警備ドローンは無力化され、アンドロイドもマトリクスに接続中のものを覗いて全滅した。しかしながら、警備システムは肝心のデータセンター内には入れない。


 後のことは東雲に任せるしかない。


「負荷がデカくなってきた。あのデカブツは完成しきったらしい。アンドロイドのAIがマトリクスから切り離された。しかし、この負荷じゃ、あのデカブツもまともには動けないだろう」


 既にディーのアバターもノイズが入りつつある。


 通信負荷がワームによって過大になっているのだ。


「脱出するか?」


「まだ。もし、あのデカブツがデータセンターにアクセスしたとして、何を探すのかについて興味はない?」


「そう言われると猫をも殺す好奇心が湧いてくるな」


 巨大なデータ──恐らくは自律AIはマトリクス上ではクジラのような姿をしていて、獲物であるデータセンターに接続されるのをただ待っていた。


 ベリアたちが近づけばすぐさま銃乱射型ブラックアイスによって脳を焼き切られる。今は見ていることしかできない。


 だが、データセンターにアクセスするには“スクナビコナ”を通す必要がある。その時に生じたデータ検索のログを調べれば、あのデカブツが何を求めて、TMCサイバー・ワンを襲撃したかを理解することができる。


「何を求めて、ここまでの違反行為を行ったのか。知りたいよね」


 場がフリップする。


 東雲は次々に開いていく隔壁を通り抜けながら、データセンターに急ぐ。


 そこで銃撃。


 データセンターから対物狙撃銃と短機関銃を使って暴走アンドロイドたちが東雲を狙ってきていた。


「畜生。ベリアもデータセンターまでは制圧できなかったか」


『データセンターには警備システムは出入りできないようになってるんだ。そっちで対応して。お願い。それからケーブルか、不自然は無線端末を探すんだよ!』


「了解」


 東雲は血がどんどん減っていくのを感じながら、12.7ミリライフル弾を使用する対物狙撃銃と短機関銃の銃弾を弾きつつ、データセンターに向けて突貫する。


 データセンターからの銃撃は激しさを増し、東雲は血の最後の一滴まで使い果たす覚悟で、“月光”を高速回転させながら、データセンターの扉を破壊した。


 魔剣“月光”によってデータセンターの厳重な扉とクリーンルームは破壊され、データ保全のために保たれていた気圧が崩壊し、気流の流れが生じる。


「くたばれ、クソ人形ども」


 東雲は肉薄して“月光”の刃でアンドロイドたちを八つ裂きにした。


 アンドロイドたちはバチリと高圧電流をほとばしらせると、ダウンした。


「畜生。血を流さない奴を相手にするのがもうごめんだ」


 東雲は息も切れ切れに造血剤を飲む。もう1日に摂取していい量を大幅にオーバーしている。造血剤でオーバードーズを起こすことはないが。


「畜生、畜生。で、ケーブルと無線端末はどこだ……?」


 ケーブルは山ほど走っている。それぞれのデータサーバーを繋ぐケーブルが無数に走っていて、出血多量の東雲はふらふらしながら、サーバーのケーブルの流れを追う。


「こいつか」


 その中で一本だけ色が違い、サーバー同士ではなく、外部に通じて伸びているケーブルがあった。ジャバウォックの示した地図ではデータハブに繋がっている。


「ふんぬっ!」


 東雲はそのケーブルを引きちぎった。


 場がフリップする。


「デカブツがデータセンターにアクセスした。繋がっちまったぞ」


「何について調べているか。ログチェック」


 データセンターの検索ログが一斉に表示され、長い検索履歴の最新の場所に巨大データが検索したデータが表示される。


「雪風。論文『AIにおける自己学習と自己アップデートについて──技術的特異点シンギュラリティは訪れるのか──』。臥龍岡ながおか夏妃なつき


「それだけか?」


「これだけ。あ、データセンターから切断された」


 東雲がケーブルを引きちぎった瞬間だ。


「奴はどれだけ情報を持って行けた……」


「4件。たったの4件。ファイルサイズにして324メガバイト」


「ここまでやってそれっぽっちかよ」


「それにこの情報を持ち逃げさせるつもりはない」


 バンダースナッチが展開した迷宮回路によってTMCサイバー・ワンは封鎖されている。加えてワームの増殖による通信過負荷。これでは逃げようがない・


 そのはずだった。


「た、大変なのにゃ、ご主人様! 迷宮回路が一瞬で突破されたのにゃ!」


「嘘。まともに演算することだって不可能な負荷なのに」


「ああ。あいつが逃げていくのにゃー……」


 バンダースナッチが涙を流す中、クジラの姿をした巨大データはマトリクスの中へと消えていった。


……………………

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