第3話 自身の問題点

「ゾア!」

「エヴリン、久しぶり~♪」


 親友のゾア・モーランは上級魔族のエルフ族である。私より一つ上なのだが、上級魔族の中でも屈指の長命種族のため、見た目は私より幼く見えるが、中身は私より相当しっかり者である。プラチナブロンドの長い髪と金色の瞳がお人形さんのようで大変可愛らしい。ちなみに銀狼族のキアル・ソーラー(二十歳)という騎士団の婚約者がいる。今年中には結婚予定だ。


「どうしたのそんな悩み多き乙女みたいな顔して?」

「悩み多き乙女だから相談したいんじゃないの」


 お茶に誘ったゾアは、私の愚痴をふんふんと聞いてくれた。


「──つまりは結婚適齢期に入ったのに、父親が結婚なんてまだまだ早いとか言うし、グレンはプロポーズどころか自分を好きかどうかも分からない、特性から万が一相思相愛だとしても、国を治めることは難しそうと。こういうことで良いかしら?」

「ま、まあそういうことね」

「バカじゃないのエヴリン」


 いつものごとく、見た目から想像も出来ないほどの一刀両断ぶりである。


「で、でもねゾア」

「あのねえ、父親ってのは、娘がどんな出来た結婚相手連れて来ても嫌がるもんなのよ普通は。それに陛下は王妃様を亡くされてて、一人娘なのだから当然でしょ?」

「だけど過保護って言うか、愛情過多って感じで」

「嫌われるより良いじゃないの。ただそんなことは問題ではなくて、一番の問題はグレンの気持ちじゃない。エヴリン一人で悩んでたところで、相手が何とも思ってない、ただの幼馴染み感情だった場合、彼の迷惑でしかないじゃないのよ」

「あ……」


 そうだ。私は本当にバカである。小さな頃から優しくして貰っているからと言って、彼が私を好きである保証などなかったわ。


「告白でもしてみたら? 私だってキアルに告白したわよ? あの酒飲んで仲間内でワイワイするのだけが楽しいってアホを恋愛脳にするまで大変だったけど、今は何とか私との時間も大切にするようになったわ」

「──告白? いやいや、私王女なのよ一応」

「……ああ、そうだったわね。どうも子供の頃から冒険ごっこだの木登り対決だの、男の子顔負けの遊びっぷりが印象に残っているものだから、王女という感覚がいつも希薄なのよねえ」

「…………」

「今は確かに大人しく振る舞ってはいるけれど、エヴリンあなた、お茶会とかより外で剣を振り回したり狩りに行ったり、洞窟探検とか山登りみたいな方が好きでしょう?」

「まあ……嫌いではないわね」

「刺繍したり洋服縫ったり、お菓子作ったりお洒落をするとか、そういった淑女的なこと、今はやってるのかしら?」

「やって、はいないわね。細かいの苦手で……あ、でも教養とかマナーとかはもちろん学んだわよ?」


 ゾアがテーブルにバン、と音を立てて手を置いた。


「そんなの当然でしょう! あのね、いくら竜族でたまたま美人でスタイルも良く育とうが、野山を駆け回るのが大好きな野性味あふれる王女と結婚したいって男性がそんなに沢山いると思う? エヴリンは剣だって無駄に強いんだし、男としてのプライドずたずたよ」


 確かに返す言葉もない。

 趣味でやっていたのに、本来の負けず嫌いが発動してせっせと鍛錬していたら強くなってしまった。

 男性に勝てるのが嬉しくてまた鍛錬したら、竜族の筋力と頑健さもあいまって騎士団でも大抵の男性の手合わせで引けを取らない実力がついてしまったのである。いくら鍛えても見た目はごつくならないのが竜族の特性で、そこは女としてはとても感謝しているのであるけども。

 グレンは夜しか仕事に来ないので手合わせしたことはないし、彼に見られるのが嫌だったので、昼間しか剣は持たないと決めている。


「……グレンはもっと大人しい淑女の方が好きかしら?」

「知らないわよ、私はグレンじゃないのだから。ただ、エヴリンにはいつも優しかったから、それなりに好意は持っているとは思うけど」

「そう? そうかしら?」

「ただ騎士団の仕事は天職だって前にも言ってたし、騎士辞めて次期国王になりたいかっていうとどうかしらねえ? ──そもそもあなたと結婚したいとまで思っているかどうか……ああエヴリン、そんな死んだ魚みたいな目をしないでちょうだい。私が悪いみたいじゃないのよ」

「やっぱり諦めるべきかしらね……」


 こんなレディーとしてはかなりガサツな、しかも王女を妻にしたい男性なんてそうそういないだろう。でも、グレン以外の人と結婚なんて考えたくないのよね……。

 どんよりとした私を眺めていたゾアは、ぽんぽんと肩を叩いた。


「王女であるあなたからは言えないのは分かるわ。……だから、国王陛下に婿募集をして貰えばいいんじゃないかしら?」




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