第2話 私に1杯の味噌汁を飲ませてください!

 さて、あれから3年、真摯に研鑽をつみ、立派な貴族令嬢として育ってきたレイラは、ピンチに陥っていた。


 ――― 何故こんなことになったのか?


 それは、今から半年前、晴れやかな日の午後、町に出た時に起きた出来事がきっかけだった。

 異国から、面白いものが手に入ったと言って、商人が見せてくれたもの。

 それがそう……だったのである。


 よく見ると、その店には、米麹も売っていた。

 名前は全然違ったけれど、商品説明を求めたら、まさしくそれで、ついでに手頃な壷まで置いてあった。


 頭の中で、味噌が出来上がる。


( 味噌汁が飲めるかもしれない! )


 その後はもう、好奇心に勝てないままコソコソと味噌造りを進めた。

 そして、ついに完成という日を迎えたのだが……


 どうやらその計画はとっくの昔にばれてしまっていたらしい。

 しかも話を切く限り、使用人達の中では、恋の病にあてられたレイラが、恋敵を葬るために毒を作っていたという事になっていたようだ。


( どうしてそうなった? )


 まぁ、この際それはどうでもいい。

 そんな事より、だ。

 今はその壷の中身を、カミーユが【味噌】だと言い当てたことの方が問題である。


「お父様、それが何かお分かりになるんですね?」

「あ……いや……何故、お前がこれを……?」

「そんなの、味噌汁を飲むために決まっているじゃないですか!! 今日のために懇切丁寧にお世話してきたんです。お父様、一度きりでかまいません。どうか、やっと完成したその味噌で、私に1杯の味噌汁を飲ませてください!! もろきゅうでもいいです。とにかく、味噌、味噌の味見だけでも!!!」


 土下座するレイラを前に、若干引き気味の使用人達。

 カミーユは回りにいた使用人を全て下がらせた。


「正直に答えなさい。レイラ……君は、地球、日本、あー…北海道を知っているか?」

「北海道? 北海道には一度友人と旅行に行きました。海鮮丼おいしかったです。因みに、私は山梨県に住んでおりました。この意味が?」

「山梨には子どもを連れて葡萄狩りや桃狩りに行った。いい思い出だ……。まさか、お前もだったのか。こんな事は私だけだと思っていた。」

「私もです。今やっと、お父様が私に厳しかった理由が分かりました。全て私を守るためだったんですね。」

「いや、私自身を守るためだよ。島流しはごめんだ。」

「本当に。全うに育ててもらってよかったです。」

「それは良かった。さて……レイラ。そうと分かればこの事や今後について話がしたい。だが、その前にこの味噌を使って、シェフダヴィドに味噌汁を作らせよう。私も頂いていいかな?」

「もちろんです。お父様。自信作ですから。」


 カミーユは使用人達に味噌を貴重な異国の調味料だと説明した。

 これを独学で作り出せたのは素晴らしい事だとレイラを称え、同時にこの偉業は決して口外しないようにと皆にクギを差してくれた。


 おかげでレイラの毒物生成の疑いは解け、1時間後には海鮮をたっぷりと使った豪華な味噌汁を堪能することが出来たのであった。


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