第十二話 危険な薫り
下駄箱で靴を履き替える。
両足で靴を脱ぎつつ、素早く両手を駆使して履いていくーー流れる様な動き。
この間何と、五秒。
(ふぅ、タイム更新っと)
圭太はこの動きに、一種の自信を持っていた。
……俯瞰すると、かなり下らない事なのだが。
※
2階に続く階段を登り、長い廊下を進んでいく。
路端で話し込んでいる生徒の声を聞きながら。
ーーどうやら、今日までは例の噂をしていない様だ。
少しホッとした圭太は、ストライドを変えずに辺りを見回す。
勿論、彼女ーー新島を探す為だ。
視野限界の200°を惜しみなく使い、彼女の姿を求める。
右、左、後ろもーー。
(校門に居ない時は、いつもこの辺りで話しているんだけどな・・・・・・?)
そう、新島は毎朝友達と喋っており、またその喋る場所も決まっており「校門」か「校舎内、二階」の二つのみである。
よって、彼がその二か所を探せば、必然的に彼女を発見できるのだがーー
ーー不思議な事に、見つからない。
あの嬋媛な雰囲気は、黒檀且つ絶佳な長い髪は、影も形もなかった。
「もしかして、今日は用事があって教室とか……」
彼は即座に方向転換、彼女のクラスーー1Aへと向かう。
自然と、ストライドが少し大きくなった。
ーー微かな胸騒ぎがする。
(ただ教室に居るだけかもしれないのに、何故か心配になる)
少し、想い人の姿が見えないだけなのに。
彼の心には、不安感が立ち込めていた。
大分かかってーー否、そう感じただけかもしれないーーやっと教室に到着した圭太。
人目を気にしながら、ドアをゆっくりと開ける。
若干急いでいた為に気にしていなかったが、彼にとって、「他クラスに入る」というのも、大きな一つの冒険なのである。
「失礼します・・・・・・」
小声でそう言いながら、教室内の席を見渡す。
蓮はまだ来てない様だ、彼の席は空いていた。
他の席も全て見るーーどれも、会ったことのない人のものだ。
そして遂に……見つけた。
彼女は、教室の隅で友達と会話していた。
と、言ってもそれは後ろ姿であり、こちらから見えるのは友達のみである。
何を話しているかは分からないが、友達の顔は笑っている為に、少なくとも大事なことではないのだろう。
しかし、それでも心の中の憂虞は消えなかった。
理由は、彼自身にもわからない。
ーー彼女の姿は見つけた。
ーー友達と談笑していることも分かった。
いつもと同じ風景なのに、何かが違うーー。
圭太が自身の感情に混乱していると、不意に大きな音がした。
それに驚き、クラス内の生徒たちが音源を見やる。
圭太も同様に、見やるーー必要はなかった。
新島の友人が、彼女の肩を掴んだ時に、近くの椅子を倒した音だったからだ。
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