第十二話 危険な薫り

下駄箱で靴を履き替える。

両足で靴を脱ぎつつ、素早く両手を駆使して履いていくーー流れる様な動き。

この間何と、五秒。


(ふぅ、タイム更新っと)


圭太はこの動きに、一種の自信を持っていた。


……俯瞰すると、かなり下らない事なのだが。



2階に続く階段を登り、長い廊下を進んでいく。


路端で話し込んでいる生徒の声を聞きながら。


ーーどうやら、今日までは例の噂をしていない様だ。


少しホッとした圭太は、ストライドを変えずに辺りを見回す。


勿論、彼女ーー新島を探す為だ。


視野限界の200°を惜しみなく使い、彼女の姿を求める。


右、左、後ろもーー。


(校門に居ない時は、いつもこの辺りで話しているんだけどな・・・・・・?)


そう、新島は毎朝友達と喋っており、またその喋る場所も決まっており「校門」か「校舎内、二階」の二つのみである。


よって、彼がその二か所を探せば、必然的に彼女を発見できるのだがーー



ーー不思議な事に、見つからない。


あの嬋媛な雰囲気は、黒檀且つ絶佳な長い髪は、影も形もなかった。


「もしかして、今日は用事があって教室とか……」


彼は即座に方向転換、彼女のクラスーー1Aへと向かう。


自然と、ストライドが少し大きくなった。


ーー微かな胸騒ぎがする。


(ただ教室に居るだけかもしれないのに、何故か心配になる)


少し、想い人の姿が見えないだけなのに。


彼の心には、不安感が立ち込めていた。


大分かかってーー否、そう感じただけかもしれないーーやっと教室に到着した圭太。


人目を気にしながら、ドアをゆっくりと開ける。


若干急いでいた為に気にしていなかったが、彼にとって、「他クラスに入る」というのも、大きな一つの冒険なのである。


「失礼します・・・・・・」


小声でそう言いながら、教室内の席を見渡す。


蓮はまだ来てない様だ、彼の席は空いていた。


他の席も全て見るーーどれも、会ったことのない人のものだ。


そして遂に……見つけた。


彼女は、教室の隅で友達と会話していた。


と、言ってもそれは後ろ姿であり、こちらから見えるのは友達のみである。


何を話しているかは分からないが、友達の顔は笑っている為に、少なくとも大事なことではないのだろう。


しかし、それでも心の中の憂虞は消えなかった。


理由は、彼自身にもわからない。


ーー彼女の姿は見つけた。


ーー友達と談笑していることも分かった。


いつもと同じ風景なのに、何かが違うーー。



圭太が自身の感情に混乱していると、不意に大きな音がした。


それに驚き、クラス内の生徒たちが音源を見やる。


圭太も同様に、見やるーー必要はなかった。






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