第十一話 告発の翌日
圭太の朝は早い。
小鳥の囀りと眩い朝陽によって目を覚まし、日課である散歩をするのだ。
彼が滅多に風邪をひかないのも、其のお陰だろう。
「ふわぁぁ……」
大きな欠伸をする圭太。
どうやら寝醒めたようだ。
半開きの眼を擦りながら、目覚めの一杯を求め、台所へと向かう。
「いてっ」
不意に、少年が小さく呻いた。
顔を顰め、呻きの原因となった個所を見る。
そこには、爪先が赤く腫れた右足。
そして、その前方に或るーー恐らく蹴ってしまったであろう、Wal〇Man。
「やばっ、昨日、あのまま床に置いてたのか」
自身が精密な電子機器を、更に拠りによって御気に入りの物を床へ置いていた事実に、顔を青白く染め上げる圭太。
慌てて其れを卓上へと移動させた。
「これが無いと、散歩できないんだよなぁ」
ほっ、と吐息を一つ吐き、蛇口を捻る。
何かが擦れる様な音と共に出てきた水道水を、硝子の割賦に3分の2程注ぎ、そのまま口へと持っていく。
「朝の一杯は目覚めに効き、また特に常温が良い」とTVで聞いたので、彼はその時から其れを実行している。
五度、水が食道を通る嚥下音が響いた後、少年は漸くその割賦を置いた。
そして、布団の上に用意していたジャージに素早く着替えると、先程のWal〇Manを手に取り、玄関へ。
「今日は気温が丁度良いし、天気も良いみたい…もしかしたら、知り合いも歩いてるのかも」
そんなことを言いながら、靴紐を丁寧に結んでいく。
そのまま綺麗な蝶結びを二つ作ると、彼は扉を開けた。
途端、織り重なった陽が満遍なくその身に降り注ぎ、その眩しさに思わず右手で光を遮ってしまう。
陽が強いなぁ、と思いながらも後手で扉をしっかりと閉め、ガチャリ、という聞き慣れた音が鳴るのを覚えると、
「行ってきます」
その言葉を残して、家を後にした。
※
三分咲きの桜並木を通りながら、黄檗色の木洩れ陽を浴びる。
不意に、薄紅色の花弁が顔に付いた。
鼻を優しく擽った其れは、新しい命の薫りを連れて来た少し強い春嵐によって、蒼い空に高く消えてゆく。
今日は、絶好の散歩日和であった。
「天気良いし、これは誰かと会うだろうな。絶対」
両耳に流れるサザンを聴きながら、目を瞑り、そう呟く圭太。
心なしか、その顔は嬉しそうであった。
圭太の散歩コースは短い。
季節の色や薫りを楽しんでいる内に、散歩は終りへと差し掛かっていた。
もう終わりか、と少し名残惜し気に顔を顰めた圭太だ。
最後の楽しみ、「静かな朝の住宅街」も残すところあと少し。
せめて最大限楽しもうと、身体の五感を惜しみなく発揮する。
ーー爽やかな春風を強く感じ、
コンクリートで奏でる足音を深く聴き、
麝香のような、春の甘い薫りを存分に喫むーー。
そうして春の情景を一頻り楽しんだ彼は、気を良くして家へと帰っていった。
※
昨日、あれだけの事があったにも関わらず、圭太は平常運転で登校した。
勿論、事を忘れたり、関係ないと捨てた訳ではない。
彼には得意分野があったからだーー気持ちを切り替える、という。
因みに、大体の気持ち切り替えは、散歩で行われる。
そのため、圭太にとっての散歩とは、自分が気持ちを引きずらないようにし、新鮮な気持ちで生活するためのーー日課というよりは、「無くてはいけない」ものなのだ。
ーー閑話休題。
二週間ほど学園に通って、ようやく慣れた校門を抜ける。
今日の通学路では新島を未だ見かけていない圭太。
姿を探しキョロキョロと辺りを見回すーーが、居ない。
普段の彼女ならば、圭太よりも先に学校に到着し、友達と校門近くで談笑しているはずなのだが......
昨日にしても、圭太が「新島の姿が見えなくなって」から登校をしたため、既に彼女は校舎内だったのである。
(今日はもう校舎に入ったのかな?)
呑気にそんなことを考え、彼は発見を断念し下駄箱へと向かっていった。
ーー今日で、彼の学園生活は終わるというのに。
♢♢♢♢♢♢
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