第九話 彼女は瞳をじっと見て、

「出来る限り、力に成る」と、圭太は言った。

それは、協力の意。

彼女の荊棘の道の杖と成ることだ。

普段は小心翼翼且つ独善的な彼だが、想い人や、尊き友人の為であれば、一歩前へと進む事が出来る。

ーー大切な存在とは、自分と言う臆病者に力を与えることの出来る掛け替えの無い物だと、彼は感じた。


「ありがとう。・・・・・・もう、分かったたんだね。勇気出して、言おうとしたのに、田中君が先に言っちゃった」


礼を言い、少し微笑む彼女。

「好きな人」というフィルター無しでも、その顔は美しい。


「うん。

ーーところで、聞いても良いかな。


何故、僕にそんな大事なこと、告発したの? 

・・・・・・勿論、僕に言うなって事じゃなくて、僕以外に、沢山凄い人がいるのに」


「それは例えば、さっきの…えーと、史龍さん、とか?」


「そうそう。チンピラを名前だけで震え上がらせて。しかも、よくわからないけど、なんか恐ろしいことしてたし」


少年の、明らかに語彙力のない言葉を聞いた彼女は右手で顎を摘み、少し唸った。


「うーん、確かに史龍さんは凄いけど。

・・・・・・


彼女の言った、「違う」と言う言葉の意味を掴みかねる圭太。

性格は(タブーらしきものに触れなければ)優しく、申し分無い。

また先程の静香との会話やチンピラとの一件を見るに、能力ととしても折り紙付き。

殆ど完璧超人パーフェクトちょうじんのそれだろう。


少なくとも、共に行く人間としてはこれ以上の適任はいないと、圭太は思った。


「違う…えっと・・・・・・どういうこと?」


疑問を受け取り、再度同じポーズでうーん、と唸る静香。

きっと彼女の中には、言葉に出来ない深い思惑が在るのだろう。


「違うって言うのは、なんて言うかーー目とか、雰囲気とかが、私の求めたものと「違う」って事ーーかな」


その意味を少しずつ噛み砕いていく彼女。

圭太は、懸命にその欠片を拾い上げて、理解しようとした。


「目と、雰囲気」


反復して言う。


「そうだよ。

史龍さんも田中君も、瞳がキラキラ光ったたんだよ。と、言っても、希望に満ち溢れたって感じでは無くて……、そんな感じ」


圭太は一度、史龍が彼女の言う「光る瞳」をした所を見た事があった。

あれはまるで獣の様だった・・・・・・と言うのは、その時の彼の感想である。

しかし、それを自身もしていたと言われると、信じられない。


「・・・・・・本当に僕も光ってたの? 目」


「うん。凄く、光ってた」


互いに眼を見据えて言葉を放つ。

…改めて俯瞰してみると全く奇妙な会話ではあるのだが、当の本人達は至って真面目である。


「史龍さんの光は「違う」んだ。

あれは綺麗だけど……

のーー底が見えない位。

飲み込まれてしまうかも知れない、って怖くなる」


彼の「深淵」はきっと、なのだろう。

彼方から覗けるが、此方には何一つ見せてはくれないーー。


「でも、田中君の光はね」


一呼吸置いて、静香は言う。



「ーー

一言で言えば勇敢、という感じ。

眼を見るだけで心強くなる」



ーー大胆で、勇敢で、心強いと。





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