第八話 彼女の告発
旅というのものは、気付いていないだけで、誰もがしているものなのだろう・・・・・・と、圭太は思った。
電車で駅を乗り過ごしてみることも。
お使いでスーパーマーケットに行くことも。
その全てが冒険だと。
そして彼自身も、正に今冒険の真っ最中にあった。
ーー「想い人と真剣な話をする」、という。
女性耐性及び会話能力が乏しい彼であり、ましてや想い人となると、その冒険は些か厳しいのではと思われる。
しかし、「突然言われた」からといって、避ける訳にはいかない圭太。
自身を鼓舞し覚悟を決め、彼女ーー新島の言葉を促す。
「うん。言ってくれないかな」
彼女は圭太の言葉を聞くと、安堵の表情をその整った顔に浮かべた。
そして、ゆっくりと自身のことを語り始める。
「えっと・・・・・・先ず私は、さっき言った様に
「1A」クラスなんだーーもう何人も生徒が消えてる、あのクラス」
「......」
「ーー本当に、怖い。いつ、自分も、友達もそうなるのか、わからないもの」
彼女は拳を握りしめた。
圭太は、何も言わない。
淡々と聞いている。
「それで、何もしないのはいけないと思って。ちょっとだけ、頑張ってみたんだ」
「頑張った」、それが何を表しているのか、少年にはわからない。
しかし、彼女はその言葉をーーその言葉の通常の意味合いとは少し違う、なんだか背徳的な意味でーー使ったような気がした。
「……何をしたの?」
恐る恐る尋ねる。
すると、彼女は悪戯っ子のような顔を少しして、答えた。
「鍔競棟に、忍び込んだの」
「っ……!」
驚愕により、息が一瞬止まる。
鍔競棟、それは圭太たちの通う東林学園において、決闘が行われる棟であると共に、決闘者以外の侵入を禁じられた、言わば「決闘の聖域」である。
彼が驚いた理由は、後者「決闘者以外の侵入を禁じられた」棟にも関わらず静香が忍び込んだ、という点にあることは明確だろう。
しかし、彼女の告発にさえ動じなかった彼が、何故ここまでの驚愕を示したのか。
それは、許可なき侵入者には重罰を与えるシステムが存在するからだ。
「勿論、禁止事項で、破れば罰が下ることも知ってる。
ーーでも、誰かが行わなければいけないことなんだよ、きっと」
「…本当に、退学のリスクを負ってまで、「決闘」の情報を集めることが?」
少年の口から語気を強くした言葉が放たれた。
見ると彼の頬は赤く、腕には血管の筋が微かに浮き出ている。
「ーーうん。
……このまま何もわからなければ、私もクラスのみんなも消えちゃうかもしれない」
そう言った彼女の顔は、少年と同様に赤かった。
目線は、傍に茂った下生えに向いている。
「そんなの、絶対に駄目。
でも、誰かが行動しないと、終わらない。
……田中君も、そう思う?」
静香はそう言って、少年をを真っ直ぐに見た。
木立の影に塗られた彼の顔は厳しく、自身の行いに対し含む所が或ることは容易に判る。
「……僕は」
ーー呟くように。
「僕は、新島さんの行動が【やるべきこと】とは思わないよ」
少年も、静香を見据えて言う。
「確かに、行動なくして解決に至らず、っていうのもわかる。
……でも、それでも駄目なんだよね、今のままだと」
その爛々と煌めく瞳で。
あの時の史龍のような、堅い意思の宿った瞳で。
「だから」
「できる限り、力になるよーー。
一人じゃできないことも、二人になればできる」
見つめあう二人を、沈みかけた陽が黄昏に染め、足元の影を長く伸ばしていた。
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