第七話 帰り道にて
通学路、それは冒険の旅であり、安住の地でもある。
勿論どちらを選ぶかは人によるが、
田中圭太は、間違いなく後者を選択する人間であった。
しかし今、彼は今までに経験が皆無な「冒険の旅」に挑戦しようとしている。
それは、アリアハ〇の街で40年過ごした勇者が、ある日思い立ってバラモ〇を倒す旅に出るようなもの。
何故だろうか?ーーーーその理由は。
(遠くから見るのと間近で見るのとでは、やっぱり違うなぁ)
圭太は同道をする隣の少女ーー新島 静香を見て、しみじみと思った。
至近距離で見た彼女の顔は整っており、またその肢体も色気と艶に溢れている。
得にも言われず美しい、それが彼の感想だ。
(彼女とできるだけ一緒にいるためにも、今日は精一杯遠回りをするんだ)
……と、言うわけだ。
そうやって心の中で堅く決意をしていると、先程まで黙っていた美少女が話しかけてきた。
「えっと、田中くん……だよね、1Bの。
改めて、さっきは助けようとしてくれてありがとう」
「いやいや! 全然、本当、たまたまだから!」
そう言って頭をヘヴィメタルのヴォーカルのように振る圭太だ。
誰の目から見ても、彼が会話慣れしていないことが容易に分かる。
「……あの、さっきの話なんだけど」
話題を持ち出す彼女。
それは、学園で朝から噂の「決闘」についての事である。
「あ、うん…」
実を言うと、彼はその話題を上げてほしくはなかった。
彼の友「東田 蓮」が深くその事象に関連しており、危機的な状況に陥っていたからである。
しかし、彼女は言葉を重ねる。
「あの…実は、ね…」
「うん?」
なんだか勿体ぶる静香だ。
言い辛い事なのか、将又その言葉を本当に言うべきか考えているのか。
その後、少しの沈黙を挟んで、彼女は言った。
「ーー私、1Aなんだ」
「えっ……」
少年の胸を貫く、酷く鋭利な真実。
1Aとは、正に蓮が席を置くクラスである。
ーーそして、このクラスの生徒が学園から次々と退学しているーー理不尽な「決闘」によって。
耳を疑う言葉を、彼女は言った。
殆ど見ず知らずの少年に。
勿論、隠すことも出来たろう。言わなければ、それで良いのだから。
しかし、静香はその道が安全な事を理解した上で、僕に告発したのだと。
そう、少年は今迄の「静香観察経験」から気付いていた。
「…驚いたでしょ?」
「……」
何処かの優男の様に、沈黙で返す。
だが、彼は自らの表情によってその心情を語っていた。
それは、緊張を孕んでいたが・・・・・・大胆で、勇敢で。
ーーだから、
「やっぱり、貴方に言ってよかったかも」
「そ、そうかな。でも……」
彼女は少年の言葉を遮ってこう言った。
「だから、もっと言っても、良いかな、私のことに、クラスのことも」
どうやらもう既に、彼は冒険へと旅立っていたようだ。
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