第五話 戦闘力5、戦闘力53万に助けてもらう

今、俄かには信じられないことが起きた。


目の前の優男、史龍時雨が知りたい己の二回り近くもある巨漢二人の腕をあらぬ方向へと曲げてしまったのだ。

さらに、その攻撃の発動、軌道は目認できず、理解できたことは、優男が腕を振り上げたことのみ。

また、腕を振り上げた、というと応援団のエールのようなものが思い浮かぶが、実際には実にゆっくりとーーまるで、割れ物をそっと棚の上に戻すかのようにーー動いたのだ。

例え下手なファンタジー小説でもこんなことは起こらないだろうーー圭太がそう思えるほどに、その光景は壮絶で、不可解であった。

自分の中の、すっかり分かり切ったと思っていた世界が音を立てて崩れていく。

そしてその残骸の上をを飛び交う、様々な思念。


ーー抑々人間なのか?


ーー僕等を助けたのか?


ーーもしかしてこいつが、「3聖」なのか?ーー


上手く考えをまとめられない。


「もう、しないでね」


思考する圭太の側で笑う優男。

その顔は、腕を亡き者とされたチンピラたちの目に、鬼人と映っているのだろう。

大粒の涙を滴らせながら、彼らは何処かへと逃げ去っていった。


その場に残されたのは、圭太と優男、そして彼女。

一連の闘争中には一言も発さなかった彼女だが、チンピラ共が去るのを目認すると、奴らを清掃してくれた主のもとへと駆け寄って行った。


「あ、ありがとうございました……! もう、なんとお礼をすればよいのか」


「大丈夫だよ。君の感謝の言葉だけで、十分さ」


キザな台詞をいけしゃあしゃあと言う優男。

二人は、そのまま会話へと移行していく。


「何もされてないかい? こんなにも美しい君に、少しでも傷が付いていると大変だ」


「いいえ、何も。強くて勇敢なだけでなく、お優しいのですね」


薔薇色の会話が傍で展開されている中、圭太は未だ優男の圧倒的な力のことを考えていた。


喧嘩慣れしたチンピラを一瞬で片付けた力。


(あれがあれば、正式な「決闘」で気に入らない者を消していくことだって可能だ)



「決闘」というのは、この東林学園において最も強いルールである。


内容は、「戦って、勝ち、支配すること」ーー。


ずいぶんざっくりとした内容だが、実は大体これで合ってたりする。


というのも、「決闘」における戦いでは、「校内の鍔競棟で行うこと」と「二人のみで行うこと」ぐらいしか、明確な設定が決まっていないのだ。

戦い方は自由自在、何なら会場に仕掛ける罠でさえも許可される。


そして最も重要なことは、「勝者は敗者を支配できる」点。

勝者は勝った瞬間から、敗者の学園での人生を決定できる。

正に、弱肉強食の極みと言えるだろう。


圭太は改めて戦慄する。

彼の四肢が一度動けば、その時点で采配が下るだろう。

そして、この学園での未来は無くなるのだ。


恐怖しない、訳がない。



「おーい、大丈夫かい?」


「…はっ、はいっ?!」


「はは、ちょっと考え事してたみたいだね」


「は、はい…あと、ありがとうございました」


腰を九十度に曲げ礼を言う圭太。

その姿は宛ら高校野球部のよう。


「いやいや、大した事じゃあないさ」


手をヒラヒラと振る史龍。

行動の隅々にまでキザったらしさが織り込まれている。


「……と、いうか中々古風な方々だったね」


「そ、そういえば、そうでしたね」


「今どき『お楽しみだからヨォ』なんて台詞を吐くチンピラは居ないよ。そもそも何故この学園に居るんだろうね? あの為体で」


「ええと、その、高校の方じゃなくて、外部の人とか…?」


「うーん。外部者としても、流石にあれで堂々と校門を越せるとは考え難いね。


……もしや、か?」


優男は、最後の言葉を、音量をとても小さくして発した。


そのことを疑問に感じ、直様質問する圭太だ。


「あいつ、とは誰でしょうか?」




ーーその瞬間、優男の目が赫く、爛々と輝いた。

まるで、自身の狩に気づかれた殺人者の様に。


「ひっ……」


思わず後退る少年。




(彼は、一体どうしたのだ……?)





♢♢♢♢♢♢♢♢♢

tynecarさん、レビューをして頂き、有難う御座いました。


とても励みになりました。


これからも、どうかよろしくお願いします。


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