第四話 遭遇、戦闘力53万

(この声はーー!)


はっきりと聞こえた、「やめてください」の声。


圭太は全速力で廊下を駆け抜ける。


(これは、新島さんの声だ…!)


新島 静香ーー彼の想い人である。


この東林学園に彼が入学したのも、彼女が理由である。


(とにかく、助けなきゃ)


声の主を目指して走る。


長い廊下を、右へ左へーー。




そして、見つけた。


そこには典型的なチンピラ風情が2人と、


そいつらに肩を掴まれている、圭太の想い人の姿。


「っ…!」


彼女がこちらを見た。


少し潤んだ瞳で。



圭太は口下手であるから、「安心して」とか「僕が守る」とかキザったらしい言葉は言えないが。


「そ、その子から離れろ…!」


彼女の瞳から貰った勇気で、精一杯の言葉を放った。


「あぁん?なんだ小童ァ」


「この子の為に来たってか? でも残念ながら、俺らはこれからお楽しみなのよ」


ベタな台詞を吐いてくるチンピラAとB。


「……っ」


圭太は怖気付いて一歩下がりそうになった足を、ある限りの精神力で止める。


「お、逃げないんだ。…ってことは、君も一緒に楽しみたいの?」


そう言って腕を鳴らすチンピラA。


気味の悪い音が廊下に響く。


「でも、残念ン。この娘は、俺らだけでいただくんだぁ」


チンピラBは舌を出した。


それは、穢れた粘液を鎧のように纏っている。


「……ってことで、


……


「消えろ」ーー汚らしい男の発した一言は、圭太の中の一時封印していた記憶を呼び覚ました。



【一人消えてた】


昼に友達ーー蓮が言った言葉。


【いつ消えるのかわからない】


それを聞いて思った言葉。



無論、目の前のチンピラがこの学園での王者「3聖」であり、同級生が「消えた」元凶とは、誰も思うまい。


それは圭太もである。


しかし、昼の一件の後、敏感だった彼の感性を揺さぶるにはこれ以上ない言葉を、彼らは言ってしまった。


「っ…」


ーー不意に、友が去り際に見せた明るくも悲しい顔が思い出され、心が震える。


「ああぁぁぁあぁっ!」


叫びながら向かっていく。


ーー体中が痛い。何処も殴られてないのに。


ーー目頭が熱い。何処も蹴られてないのに。



しかし、目の前で震えてる彼女の為に、心の中で震えてる友の為に。


圭太は、その右腕を振り上げる。



「へェ、来るんだァ。ちょっと意外だなァ」



「そうか?俺ぁ来ると思ったがな」


笑いながら言葉を交わすチンピラ達。


その笑顔には絶対的な余裕が滲み出ている。


……徐に、チンピラの内の1人が、その岩のような拳を持ち上げた。


(だって、これで来なかった奴、いなかったもん)


ーー正義感や憤怒から突っ込んでくる奴の脳天に、リーチとパワーを備えた自らの拳を叩き込むーー、それが彼の必勝法であった。


彼の凶刃により、服を紅色に染められた勇士は数知れず。


「そろそろだな…?」


男は拳に力を込め、相手の頭に一旦集中。


圭太は拳に力を込め、躓きながらも彼女の元へ。


喉が枯れるまで叫ぶ。


そして、野郎の顔面目掛けて腕を振り下ろす。



チンピラは相手の攻撃を見極め、


(もらったな)


瞬時にその拳を叩き込んだーー




はずだった。


……彼の腕は、


拳を止めた主は、その優しい顔をこちらに向け、


「やぁ。大丈夫だったかい?」


一言、そう言った。



……主を除いたその場の誰もが、この異様な状況に驚愕し、怯えていた。


ーーこいつは誰なんだと。


ーー何故、核弾頭の様なチンピラの拳を止められたのだと。


「ん…?あぁ、自己紹介、まだだったね。


僕の名前は『史龍 時雨』。3Aだよ」


「……は?!……し、史龍…?!」


何者かの名前を聞いた途端、チンピラAの赤い顔かみるみる青白く染まってゆく。


「じゃあ、お、お前はァ……!」


Aと同様の反応を示すチンピラB。


対して圭太はーー彼の拳も史龍とやらに止められていたがーー何故、いかにも「草食系男子」の為体の彼が、チンピラの拳を止めることができたのかが気になってしょうがなかった。


(この風体で、どうやって)


先程まで野郎と向き合っていた彼だから分かることだが、チンピラの拳は明らかに「慣れた」ものだった。


姿勢、威力、タイミングーー。


どれをとっても一級品のそれだった。


しかし、それがーーまるで、空中に舞う綿を取る様にーーいとも簡単に止められたのだ。


(常人じゃない)



「ひィ、悪かったァ、悪かったからァ…!許してくれェェ!」


チンピラ達は必死になってその台詞を吐いた。


そして、そのまま逃げ去ろうとしたが。


「だめだよ。君たち、見たところ「いけない子」みたいだしね」


笑顔のままの彼が、その掴んでいる腕を離さない。


「お仕置きが必要だよね」


史龍が腕を振り上げる。


でも、圭太やチンピラ達の様に、「力の限り」ではない。


それは、演奏直前の指揮者が指揮棒を構える様に。


ゆっくりと、優雅な動作だったーー。





ーー刹那。


「グギィャァァァアッッ!!」


空を切り裂く咆哮。


目の前には無様に地面に転がり、のたうち回るチンピラ達。


ーー



史龍は腕を上げたまま、相変わらず笑っている。



だが、圭太にはその顔が、



「……っ」


人を超越した力を持ち、蹂躙するーー







♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


お読みいただきありがとうございました。


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次の投稿予定は翌日20時55分です。

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