第三話 戦闘力53万の噂

』ーー。


「おい、それ本当かよ……!」


蓮の発言は、圭太に驚愕の声を上げさせるのには十分なものだった。


対して、落ち着いた蓮。


事態を分かっている彼は、騒いだところで何も変わらない事を知っているのだろう。


「…あ、わ、悪い」


口を押さえて謝る圭太。


「大丈夫。俺も調べた時にそうなったから」


圭太が落ち着いたのを見て、蓮は再び話し始める。


「今言ったことは、紛れもなく本当だ。

退全て、「決闘」で」


「毎年、蓮のクラスーー1Aーーから?」


「いや。クラスは毎年変わってる」


話の途中で止まっていた食を再開する2人。


圭太は、時計をちらりと見る。


昼休みはあと半分ある。話すには十分だろう。


「そして、もう一つあるんだけど」


「おう」


「……3聖ドライヘイルス


3聖ドライヘイルス…」


今の会話で出てきた「3聖」とは、この東林学園でも最高峰の権力を持つ三人の生徒だ。


特徴としては、「殆どのことを自由にできる権力を持つこと」や「最上級生のみなれる」というものがあるが、


中でも最大の特徴が、『「決闘」で無敗である」こと』。


噂では、去年の3聖の内の1人は百戦百勝だったらしい。


ーー尤も、圭太も詳しくは知らないが。


「あぁ。3聖が、毎年一つのクラスを集中的に攻撃しているんだ」


「……意味が分からない」



強者は上の者の義務ノーブレスオブリージュに則った秩序ある事をすべきであり、弱者を虐げるなど、外道と同等である。


しかし、ここでは「決闘」が全て。


こんなふざけたもので、何処の誰かも分からない野郎から、自分の人生を狂わされるのだ。


ーー3聖の圧倒的な力に対して何も出来ない蓮は、この上なく悔しいだろう。


「何故、そんな事をするんだ?」


「……分からない。けど、毎年行われているということは、やつらには絶対的な理由があるんだろう」


「絶対的な理由……」


「ーーあぁ。けど、そんなの……」


わかる筈がない。


だから、止めようもない。



関係が少ないと、面倒事も少ないーーそう考えている圭太。


しかし、一度持った繋がりは大切にしたいとも思っている。


ーー蓮は助けたい。



(僕はどうすれば良いんだろう)




弁当を見ると、自信作のウィンナーはもう無く。


唯一残ったサラダの中の千切りキャベツが、ゆっくりとドレッシングの白色に染まってゆくのだけがわかる。


昼休みも、あと僅か。




蓮が徐に口を開く。


「……悪いな、楽しい飯の時間に、こんなこと話しちまってよ。

まぁ、別に俺が消えるなんて事もそうそう起こらないだろうし、大丈夫だよっ」


そう言って、初めと同じような笑顔を見せてくる。


その顔に圭太は、何と答えれば良いのか分からなかった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


5、6時間目の授業は、碌に耳に入ってこなかった。


教科書を見ても、ゲシュタルト崩壊が起こるばかり。


全ては、昼食時の会話が原因である。


『毎年、消えている』、『3聖が起こしている』ーー。


正直、未だに整理がつかない圭太。


(これは何なのか。それに対して、僕はどうしたいのか、何ができるのか)。


そんなことしか、頭になかった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


今日の教育課程の終了を告げる、気怠げな鐘が鳴る。


圭太は帰り支度をしながら、先ほどまで熱心に考えていたことから気持を切り替えていた。


確かに、友の大事となっては心配だ。


しかし、「3聖」は勿論、「決闘」のことすらよく分かっていない彼には、これ以上の深度の思考は難しい。


「どうすれば良くて、何が出来るのか」。


授業2つ分、九十分を全て使っても、それすら分からなかった。


よって、「取り敢えず、帰ろう」ーー彼には、そうすることしか出来ない。


狭い引き出しの中の、最後の教科書を詰め込む。


今日、鞄に入れて家に持って帰るのは、「青春」ではなく「虚無感」。


その重い重い一物を背負いながら、彼は教室を後にする。


(……)




何も考えずに廊下を進んでいた、その時。


「………、………っ」


(ん……?)


……不意に、彼の耳に聞き覚えのある声が響いた。


「……めて、……さい…っ」


よく聞こえない。しかし、何となく声には危機感がある。


音の向きへと方向転換し、近付く。


「やめて……ください…っ」



(この声はーー!)



圭太は、全速力で声の主の元へ走っていった。


♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


お読みくださり、ありがとうございました。


もしこの話を読んで、


「面白い!」


「蓮が心配じゃ!どうにかせい!」


「いや最後の誰の声やねん!気になんねん!」


……と思っていただき、

「頑張って!」などの応援や、

「これ、もう少しこうした方が良いんじゃない?」などの助言を貰えると、今後の励みになります。


これからも、どうかよろしくお願いします。




















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