第二話 戦闘力5のクラスにて

「おはよう」


さほど声量は大きくないが、それでもクラスメイトには聞こえる程度に朝の挨拶をする田中圭太だ。


「おはよう圭太」

「おはよっす」


その声に反応し、挨拶を返すものがちらほら。


声が返されて少しうれしい彼は、顔をほころばせて自席に着く。


(やっぱり教室でもが話題なのだろうか)


教科書、ノート類を取り出しながら、クラス内の会話に耳を傾けてみる。


「...が「決闘」で負けたらしい」

「一か月で3人目かよ......」


やはり、何処もかしこも「決闘」の話題で持ちきりのようだ。


ーー「決闘」とは、この学校における最大のルールである。


「負けたものが勝ったものに従う」というのが大まかな内容。


圭太も実際にこの目で見たことはないが、今日のような噂が学校中で流れている所為で、否が応でも耳に入ってくる。


(なるべく関わりたくないな)


そう思いながら、丁寧に一冊一冊取り出していく。


......ところで、彼は友達が少ない。


これは彼のコミュニケーション能力の低さもあるが、積極的に友達を作ろうとしないことが主な理由である。


本人曰く、「関係が少ないほうが、面倒事も少ない」。


結果として、彼の友達は決して5人以上にはならない。


しかし、その中に「なぁなぁ聞いたかよ!」と話しかけてくる友達は1人ぐらい。


(今日の一時間目なんだったっけ)

しかし、その友達もこの場にいない今、

そんなことを考えながら腕枕に顔をうずめることしか、彼には許されていなかった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


一時間目は、「現代の国語」だった。


この教科を「圭太が」一言で言うと、面倒くさい。


曰く、「内容が難しいし、なんだか作者が偉そう」。


まぁクラスメイトも大体そんなことを考えているのだろう、周りを見ると、圭太と同じように頬杖をついているものが多く見受けられる。


「えー、つまりこのたとえで作者が言いたいこととはーー」


そのことに気づかない先生は、黒板を見ながら説明を続ける。


先生の言葉を少し遠くで聞きながら、圭太は窓の外へと視線を移した。


彼の席は窓際に或る。


よって、校内の中庭をいつでも見ることができる。


圭太たちの通うこの東林学園は、校内の造形に力を入れていることで有名だ。


それが顕著に出ているのが、この中庭。


或るのは、色とりどりの美しい花々ーーではなく、わびさびの感じられる木々と池。


どうやら学長の趣味らしい。


木々の木漏れ陽が織を返し、池の波紋が調和を生み出す様子を見ていると、学長もいい趣味してるなぁ、とか思う。


……しかし、そうやってしみじみしていると。


「.......ということだ。じゃあ、次の問題をーー田中。田中圭太、解いてみろ」


「ふ、ふふぁい?」



驚きと焦りで思わず変な声を出してしまう圭太と、それで笑ってしまう教師と生徒であった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


そんなこんなで4時間目まで終わり、昼食の時間となった。


昼食を「圭太が」言うと、「至福」らしい。


曰く、「すべてを凌駕する圧倒的な幸福」とのこと。


……「ボキャブラリー不足でそれ以上は表現できない」とも言っていたような。


「やっと昼食になった......これで一息つけるってもんだ」


1時間目だけでなく2~4時間目も息を抜きっぱなしであった野郎が言う。



東林学園では、「学食」と「弁当」、どちらで食べてもよいものとなっている。


割合的には男子は「学食」、女子は「弁当」が多いらしい。


ちなみに圭太は弁当である。


「今日のウィンナーは自信作だ」


弁当の包みを開きながら、呟く。


ーーすると。


「おーい圭太、一緒食おうぜ」


目の前から快活な声。


顔を上げると、そこには彼が想像した通りの者がいた。


「おう、食べよう」


圭太は目の前の、「なぁなぁ聞いたかよ!」と言ってくれる友人ーー東田 蓮ーーに応えた。


彼は圭太の少ない友人の一人である。


しかし、クラスが違うためにしっかりと会うことができるのは昼食の時くらいのものだ。


「今日の自信作は?」


「今日は、ウィンナーだな。いつもより上手に焼けたんだ。 一つあげるよ」


「おぉーっ、さんきゅな!」


そう言って、蓮は太陽のような笑顔をこちらに向ける。


彼のそんな顔を見ると、また作ろうかな、なんて思う圭太だ。


窓の外には、巨大な太陽と、後ろに迫る入道雲があった。


「ところでよ」


蓮が話を切り出し始める。


「聞いたよな、例の噂」


「…あぁ。「決闘」だよね」


個人的には触れてほしくない話題を持ち出され、圭太は少し顔が険しくなる。


「どうやらあれは本当らしいな。今日、俺のクラスから1人消えてた」


「まじか…。もう三人だぞ」


「あぁ。しかも困ったことに」


蓮は口内の卵焼きを飲み込む。


「ーー


「…っ! 何だよそれ、偶然じゃないだろ」


思わず飲んでいた牛乳を吹き出しそうになる圭太。


手で抑えたお陰で、白い噴水の出現は防ぐことができた。


蓮は言う。


「俺もそう思う。だから、俺なりに少し調べたんだよ」


いつ、自分が消されるかわからないーー。


その恐怖の中で行動を起こした蓮は、間違いなく勇気ある者だろう。


圭太は「凄い」と思った。


「それで、わかった事があるーーかなり凄いのがな」


蓮は、真っ直ぐに圭太の目を見た。


そして言った。

























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