第12話 進め!カナ隊長

「シュンスケ。はぐれないでね」

「お、おぃ。ちょっと休憩しようぜ」

「ダメ。絶対、今日中にユリちゃんを見つるんだから」


 森の奥。霧深い山道を進む。


「そうですよ。休んでる暇は、ありません」

「だいたいよ。ホントに、こんな山奥に洞窟なんてあるのかよ」

「うるさいな~。わたしのカンだと……コッチなの」


 鬱蒼とする山林。ゲームの世界だからか、足が疲れたり、息が上がったりはしないが、目の前の急勾配の山々を眺めると、ため息がもれた。


「カナだって疲れてんじゃん。それに、カンって……そんなの頼りに進んでたのかよ。そんなんじゃ、見つかるわけ……」

「見つかりましたよ」


 山の中腹。タクマが指をさす。自然にできた洞窟のようにも見えるが、中に入ると、ところどころの壁に松明がある。


「それにしても、なにもない洞窟ね」

「んっ!もう行き止まり…ですか?」


 歩いてきた道より少し開けた場所。小さなドーム状の石壁につつまれた空間から、先に進める場所が見当たらない


「はずれじゃね。ここじゃないかもよ」

「それにしては規則的に置かれた松明……おかしいですね」


 倒れ込むシュンスケに、ブツブツと小声を漏らしながら考えこむタクマ。各々が好き勝手に行動を始める。


ーーもう、なんで男子って、いつもなのよ!


「もう。ゆりちゃんどこにいったの~」

「おなかすいた~」


「「「え、えぇ~」」」


 壁からユリちゃんの声が聞こえた!


「ねぇ、ユリちゃん。そこにいるの」

「あっ!カナちゃん。この扉が全然あかないの」

「ダメだ。この石壁、びくともしねぇ」


 ツルハシを持ったタクマが、シュンスケに声をかける。


「下がってください。ツルハシでは、壊せませんか……きっと何処かに仕掛けがあるはずです」


 タクマが壁の向こう側のユリちゃんと話しているようだ。その間、シュンスケは石壁から遠のく。すると、背中から香ばしい匂い……って!


「シュンスケ。あんた何やってんの」

「だって、ユリちゃんが腹減ったていうから、羊肉焼いてた」


 石ブロックをこねてクラフトしたカマドからは、美味しそうな煙がモクモクと吹き出している。


「はぁ〜。あんたは、こんな時に何を悠長なことしてんのよ。この壁をどうにかしないと、ユリちゃんと合流できないじゃない」

「そういうのはタクマの担当だろ。俺は頭を使うのは苦手なの!」


 そういって、ドーム中央。盛り上がった石ブロックにシュンスケが腰かけると、『ガチャリ』と壁から音がする。そして、次の瞬間、ドドドドド~と音を立てて石壁が割れるように開いた。


「ユリちゃん!」

「カナちゃん!もう心配したよ~」

「それは、こっちのセリフだよ」


 歓喜の声が洞窟に響く。


「あの人たちが言ってたトラップドアとは、仕掛け扉のことだったんですね」

「俺、スゴくねぇ」

「たまたま、でしょ。威張らないの」

「別に威張っなんかねぇ〜し。それに、運も実力の内って……」

「ん?ちょっと、シュンスケ黙って!静かに!!」


『ぐぅぅぅうぅ~』


「ねぇ。なんが聞こえないか?」

「もしかすると、トラップとは…この音はゾンビに間違いありません!」


 ぐぅ―、ぐぅ、きゅるるる〜


「おい、タクマ。また聞こえたぞ!数が多そうだ」

「いや、この音は似てますが、聞いたことがない」

「どっちにしろ警戒しないと。ユリちゃんも気を付けて!たくさんの敵が……」


「ごめん、カナちゃん。さっきのは私の……お腹の音だよ」


「なんだ〜。はい、焼きたての羊肉」

「ありがと、シュンスケ君」


 こんな状況に充満する香ばしい匂い。「プフッ」っと笑いが溢れた。緊張感の解けた瞬間。ウチらは、お互いの顔を見渡した。


「って、ほっこりしてる場合か!」


 ウチらは、洞窟のなか。ゾンビと戦うことになりそうだが、とりあえず、ユリちゃんが無事で本当に良かった。

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