第10話 なぞの男

「なんとか必要な数の羊を倒せましたね」

「これでベット作れるな」

「そうね……ん?ユリちゃん、どうしたの」


 カンタンなつくりの木材だけで作った家には窓もないが、ドアから見る景色は夜。太陽は完全に地面の下に潜り、外は松明の明かりしかない。


「たき火に必要な道具をクラフトしてるんだ。羊肉は生でも食べれなくもないけど、焼いて食べた方が安全なんだよ」

「さすが、ユリさん。良く知ってますね」

「ハハ……まあね。それより早く、肉を焼こうよ」

「でも、もう夜よ。さすがに危ないんじゃない」

「大丈夫だよ。柵に囲んだ内側なら敵は行って来ないから」


 ——さすがに詳しすぎない?それに、柵をつくろうって言ったのは……


「何で、そんなことまで知ってるの?あなたは誰?」

「誰って……私だよ。ユリだよ」

「柵が作れるって知ってたのは、タクマだったハズ。でも今、ユリちゃんは自信満々で柵の内側なら大丈夫って言いきっていた」

「それは…パパに教わったことを思い出して……」

「ユリちゃんはパパなんて言わないわ。いつも、ウチらにはお父さんって、言ってるわ」


「えっマジ!初めて知った」

「オマエは誰だ!」


 シュンスケが、すかさず剣を握る。



「ハハッ。バレてしまっては仕方ないね。うーん。でも自分は君たちの実力を知らなければならないのだよ。外でゴブリンと戦うところを見れれば、それで良かったんだけどね。外に出ようか。此処では家が木っ端微塵だ」


 促されるままに私達は外に出た。闇が覆う草原。


「タクマ。柵が破壊されてる!」

「まさか、ゲームでは壊される事が無かったのに」


 夜になり、ゴブリン達が群がり出す。朝方がんばって設置した木の柵は、ゴブリンのもつ石オノに、あっけなく壊されつつあった。


「やれやれ……だね」


 シュルシュルとユリちゃんの体を黒いモヤが覆う。煙から現れたのは黒いマントの男だった。


「たしかに、この世界はクラフトワールド、ゲームの世界がベースになっている。でもね、全てが設定通りとは、いかないんだよ。それでは、世界は壊れてしまう。タクマ君。君はこの世界に多少なりとも詳しいようだね。でも、こんなことは知っているかな……」


 男はマントの内ポケットから黒い刀身を抜き出す。大ぶりの大剣。刹那の一振り。一陣の突風が舞う。黒い旋律。


 一瞬にして、柵に群がっていたゴブリンが切り刻まれ吹き飛んだ。


「おい、タクマ。コイツはヤベぇぞ!」

「いったん、ひきましょう」


「ダメよ!ユリちゃんは、どこにいるの?ウチの親友に何をしたの!?」


 私は怒りに任せて杖ふる。緑色の宝石の光り。石礫が3発、空を跳ぶ。しかし、男は大剣を軽々と降り、男めがけて襲う石ブロックを切り落とした。


「宝石とクラフト。驚いた。思った以上に君達は真理に近づいていたか。しかし、ユリの場所を言うことはできない。なぜなら、君達が役不足なら早々に、このプロジェクト自体を辞めさせるように自分は動かなければならないからだ。さぁ、武器を取りたまえ。見定て……」


「ごちゃごちゃ、うッセーんだよ!」

「シュンスケ。ナイス!」


 隙を見て石の剣をクラフトしていたシュンスケが男に斬りかかる。寸前で大剣に防がれたものの、不意をついた勇気ある一撃が男を後退させた。そこに、タクマの弓矢が走る。男の頬をかすめる。


「甘く見てたな。君達なかなか、やるね」


「そう、易々と引き下がれませんからね」

「ウチらには、ユリちゃんが必要なの!」

「そう言うことだ!オマエをぶっ倒して、絶対ユリの居場所をはかせてやる」


 月明かり。私達は決死の戦いを繰り広げた。

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