第29話 ラストドラゴン

 勢いよく落ちていく私の体が、地面スレスレでフワリと宙に浮かびました。考え抜いた最後の秘策!


 ポケットの奥底、身代わり人形が輝いた。


 序盤。誰かに捕まって檻の中に入れられた時、偶然に見つけたレアアイテム。いま思えば、このアイテムがあったおかげで、少しだけ勇気が持てた。引っ込み思案な私が、ちょっとだけ背伸びできた……そんな気がします。


 はじめてホウキに乗ってマグマの谷を超えた時。巨大なオーガ相手にオトリ役をかってでた時。そして、フレイルさんを相手にしても、一歩も引かずに前へ出る事ができた。


 そして、今も……


ーーすべては、この人形のおかげ……でも、私には、それだけじゃない!


 光の粒に守られてゆっくりと降りていく私。なんとか助かったが、今度は怒り狂ったラストドラゴンの大きな口が襲う。


「もう。しぶとすぎ!」


 もうすでにレアアイテムは効力を失ない、砕け散っています。


 それでもなお、私には勝機がありました!!


「させません!」


 私の背後から伸びる大きな槍。


ーーそう、私には仲間がいます!


「タクマ君!」

「こんなところで、やられては困りますよ。みんなで帰えるって約束したじゃないですか」


 フレイルさんからもらった槍を、タクマ君は使いこなす。槍先を自在に操ると、ドラゴンは2歩3歩とたじろぎました。


「タクマ君。凄い!」

「俺はだって、負けてないぜ」


 シュンスケ君が大きく伸びた槍の上を器用につたいます。ラストドラゴンまで一直線に走る。


「準備万端だ。あとは任せろ!」


 シュンスケの握る右手には歪な形をした剣。幻獣ラストルに認められた少年の一撃は、ドラゴンの残る、もう一つの片翼を切り落とした。


「シュンすけ……つづけ!俺ら、加勢スるぞ」


 クラフトしたばかりの剣を掲げる先生。その背中を生徒たちが続きます。



 私はこのクラスが好きです。いつも、蚊帳の外から見ていた。ワガママな人もいるけど、いつも誰かの事を思い遣っている。何かあれば力を貸してあげられる、そんな仲間思いなクラスメイト。


 ラストドラゴンの咆哮。地響き。羽を失ってもまだ立ち上がる、黒き巨体。


「これで、ドラゴンは飛ばねぇ」

「先生たちはドラゴンを揺動してくれています」

「ユリちゃん。トドメだよ!」


 三人の視線が私に集まる。今まで、この三人が居てくれたから乗り切れた。

 私が居なくなった時は必死に探してくれて、一緒に暮らして、力を合わせて強敵に挑んで来た。仲良しの三人。


ーー三人がいたから…みんながいたから……


「もう、蚊帳の外じゃないよね……ううん。みんなで、お家に帰ろう。カナちゃん。手伝って!」

「もちろんだよ!」


 私とカナちゃんは取り出す。今までクラフトしてきた中で各々の最高の杖。


 親友と目が合いました。


 私はオーガを倒した時、二つの魔法が重なり合い、思った以上の力を発揮した事を思い出していました。


 カナちゃんとならばやれる。みんなと一緒なら超えられる。ラストドラゴンを倒す!


「ストーンブラスト!」

「ファイアーストーム!」


 二つの杖の鉱石が光る。無数の石ブロックを包むように燃える炎の渦。煌々と紅く色づく石ブロックが、隕石のようにラストドラゴンに降り注ぎます。


 そして、ドラゴンが朽ちていく。黒いウロコはボロボロと剥がれ、体内からは眩い光が溢れ出しました。


 歓喜の声が響き渡っていた。ラストドラゴンから溢れ出す光は絶える事なく私たちを包み込む。優しいひかり。


ーーすべてが終わった


 そう感じて、私は目を瞑りました。

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