第30話 エピローグ

 ーーまぶしい


 目をくらます程の眩い光


「き、如月君。どうなんだ。ウチの子は大丈夫なのか!?」

「心音、心拍に異常なし。瞳孔も正常。安心して下さい。しばらくすれば、他の子たちと同じように目を覚まします。それより所長、辞表を出すって本当ですか?」

「役を降りるだけさ。後は君に任せる事にするよ」


「ふざけないで下さい。これじゃ政府の思うツボじゃないですか!いいんですか?このままじゃ……」


 パパと誰かが喋ってる。真っ白なカーテンが揺れていました。


「気にするな。私が決めた事だ……大丈夫。今回の一件は世論を伴っていない。そんな顔をするな!私的メタバースは地獄だ。国民だってバカじゃない。月計画だって同じ事。それに、だ……子供たちが無事だった。それで今後はいいじゃないか。私にとって、ユリは大切な一人娘なのだよ」


「僕は所長を責めてるわけでは……?どうやら、その大事なお子様がお目覚めのようですね」


 目をこする。視界が揺れる。揺さぶられている?私はコクリ、コクリと頷く。


「ユリ、大丈夫か?ここが何処だか分かるか」

「所長!落ち着いて下さい」

「あ、あぁ。すまない。ユリ、私が誰だか分かるか……」

「おとう、さん」


 わかりきった事を聞かれて、私は呆気にとらえて、ポカンと口を開けてしまいました。


「もう、大丈夫ですね」


 優しく笑う白衣の男性は、ゆっくりと部屋を出て行きます。

 どうやら、ここは保健室。私は、ふわりとしたベッドに横になっていました。


 白衣の男性と入れ替えに、ガラリと勢いよくドアを開き、先生が入って来ました。


「小峰さん。目が覚めたみたいだな。よ〜く頑張った。良かった。良かった〜」


 ーー先生。オーバーだよ〜


「先生。急なお願いを聞き入れて頂きありがとうございました」

「いえ、子供達を助けたい。それに、私以外にもクラスメイトを助けたいと思う気持ち。二組の生徒は結束力が高いですから。ほら、小峰さん、みんながクラスで待ってるぞ」


「……でも」


 私はお父さんの顔をみました。


「お母さんには連絡しておくよ。みんなに会って来なさい」


 なつかしの教室のドアをゆっくりと開ける。規律よく並んだ机と椅子がバタバタと音を立てて、みんなの視線が私に集まります。


「ユリちゃん凄かったよ。ホウキで空飛んで、ドラゴンと戦うなんて」

「魔法カッコよかったぜ」


 一瞬でクラスメイトに囲まれました。その中に、タクマ君の顔もありました。


「良かった。無事だったんだ」


 剣も槍も鎧もない。いつもの平和な世界。本来あるべきの、ほんわかとした教室の風景が、とても懐かしい。


「えぇ、ユリさんも無事みたいで。ユリさんのホウキと魔法のおかげで、無事ラストドラゴンを倒せました」

「ううん。みんなの力だよ。タクマ君も、フレイルさんにもらった槍を使いこなせたね。私も助かったよ」


 割って入るように、周りの生徒を押し除けて、シュンスケも話に混ざります。


「俺も使いこなせたぜ。見たろ、俺の剣技。ドラゴンのもう一つの翼をズバッと……いでぇ」

「もう、シュンスケ。じゃま!どきなさい」


 親友。


「おかえりなさい。もう、心配したんだからね……ユリちゃん。最後の魔法も凄かったよ」

「カナちゃんもだ……!」


 急な出来事で、何があったか分からなかった。でも、すぐに、これがお母さんの温もりだって分かりました。


 私を背中から抱きしめながら、涙をポロポロと流す母。温かい。改めて生き残った仲間達を見渡しました。


 私は、この時、嬉しい時に流す涙がある事を初めて知りました。

 麗らかな陽光がカーテンを透ける昼下がりの教室。笑い声と温かな涙が頬を伝いました。

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