第28話 天空の戦い

「ユリちゃん!一人じゃ危ないよ」


 ホウキに跨る。ゆっくりと浮上する私の手を、カナちゃんが掴みました。


「でも、私が行くしか……私がドラゴンを引き寄せるから、みんなには、やって欲しいことがあるの」


 カナちゃんの不思議そうな顔に、タクマ君が気付き説明に入ります。


「武器のクラフトですね」

「そう。そして、私がラストドラゴンを地面まで誘き寄せるから、そしたら、みんなで一斉に攻撃して欲しいの」


 シュンスケ君は「ヨシッ!」と気合いを入れながら、カナちゃんをなだめてくれました。


「分かった。地上は俺たちに任せろ。いつでも、反撃できるようにしておくからよ。だから……、その、やられんじゃねぇ〜ぞ!」


「……わかった」

「ユリちゃん……ホントに大丈夫だよね」

「うん、大丈夫だよ。みんなでお家に帰ろう」


 笑顔でホウキに跨る。高さはグングンと空へ。気合い充分。


 まんまるのお月様を背景に、鋭い眼光のドラゴンと目が合いました。すぐさま反転、ドラゴンの注意を引きつけます。

 冷たい夜風を切りながらホウキは進む。バサバサと大きな羽音が背中で響く。速さは互角と感じます。


 私の役目は、クラスメイトが武器をクラフトするまでの時間を稼ぐこと。そして、ドラゴンを地面にまで引きづり落とす。


「アクアショット!」


 ドラゴンの火炎攻撃を避けつつ水魔法で応戦。空中で炎と水がぶつかり合う。白々とした水蒸気が舞います。


 生暖かい空気ごと飲み込むようなドラゴンの噛みつきを、スルリと抜ける。鋭いキバに噛まれたら、ひとたまりもありません。


 ドラゴンの攻撃は物理攻撃と火焔攻撃の二つ。特に厄介なのは口から吐かれる火焔攻撃。ホウキに乗りながら、巨大な火球を避けるには集中力がいります。


ーーでも、私がやらなくちゃ!


 地上では新しい武器のクラフトが始まっています。今、ドラゴンの火球が地上に降り注いでしまっては、作戦が台無しになっちゃう。


「お〜い!」


 ホウキで旋回を続ける中、微かに聞こえるシュンスケ君の声。地上を見ると無数の石ブロックの援護射撃。


 私はすぐにカナちゃんの魔法だってわかりした。声は聞こえないけど、たぶんコードを使ってる。今まで見たことないほどの無数の石ブロックが、ラストドラゴン目掛けて飛んでいきます。


「ヨーシッ!。私だって」


 私はポケットから、以前オーガがドロップした斧を取り出します。見る見る、元の巨大なオノになっていく。持てなくなる前に、私はホウキを走らせます。


 月光による逆光の活用。ドラゴンの死角から攻撃を仕掛ける。斧はすでに大きく膨れ上がり、もう、持っているというより支えている。落とすに近い感覚でした。

 無数に飛来するブロックから身を守ることに必死なドラゴンに、不意をついた一撃。斧をドラゴンの頭上めがけて落とす。


 避けきれないドラゴンの片翼を、巨大なオノが切り落とす。オノはそのまま地面に落下。ドスンという大きな地響き。


「やった!」


 バランスを崩したドラゴンも、地上へと落ちていきます。



 その時でした。喜んだのも束の間。ラストドラゴンが闇雲に放った炎が、私のホウキに当たりました。ホウキは勢いよく燃えていき、浮力を失います。


 私もドラゴンと共に落ちていきました。


——ヤバい!もうダメ。


 荒れ狂うドラゴンの風圧に、体は二転三転と中空を舞う。天と地が交互に移り変わる視界。心臓の鼓動は脈打つのが早い。


 目をつぶり、冷静を取り戻そうと試みるも(本当にもうダメなのか?)と弱気な心がかおをだします。

 藁をもすがる思いで、ポケットをあさる。生き延びるための、秘策はないのか!?


 カナちゃんと約束したんだ。みんなと約束したんだ。一緒に帰るって……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る