第23話 地底湖

 ファイアウォールから飛び出したシュンスケの一刀。電撃をくらい、動きの鈍るラストルだが倒れることはない。

 力強い剣技を、ラストルは自らのツノで防いでいる。カチカチと洞窟に金属音が響いていた。


 更にシュンスケの一撃。


「うっらぁーーあ!ブレイズキック」


 炎をまとう、赤い鉱石でクラフトした銀色のブーツ。足蹴りされた一角獣は岩壁へと勢いよく吹っ飛んでいった。



 松明に照らされる空色の毛並み。ぐったりとしていて、気を失っているように見える。


「何やってんの!ラストルが起きる前にツノの回収……」

「でも、痛くないかな?」


 シュンスケは両手で剣を握りながら、疑問の声を投げかける。ウチは言葉を返す事が出来なかった。


ーーわかるわけないじゃない。こんな動物、見たことも聞いたこともないんだもの


 松明の炎だけが揺れていた。


「まっ、いいよな。ツノだけなら……」

「待って!」


『貴方は自分の腕を頂戴と言われてあげますか?』


 戦いのなかで言われた言葉が、頭をよぎった。首を振り、獣が痛がるイメージをかきけそうとしてみるが、心にモヤモヤが渦巻く。


 シュンスケの声で我に帰った。


「やべぇ!いつの間にか、ラストルがいなくなってんぞ」


 さっきまで、横たわっていた獣が音もなく消えていた。シュンスケが剣を構える。あたりを見渡す。


ーーウチのせいだ。ウチが決断できなかったから!


「甘いですね。確かに多少の痛みはあるでしょう。しかし、ツノは自ら武器として使っているのです。人間で言えば……そう、爪のようなもの、でしょう」


 ラストルは、地底湖の浅瀬でペロペロと水を舐めながら、舌で毛づくろいをしている。

 そして、フンッとそっぽを向くようにして、地底湖の奥底へと潜っていってしまった。


「どうすんのよ」

「んなこと言ったって」

「ツノがなくちゃ、ラストドラゴンの所まで行けないじゃない」

「だから、俺に、んなこと言ったってよ」


ーー獲物に逃げられた。ミッション、失敗だ。


 ウチらは、どうしたらいいか分からなくなった。元の世界に戻れないかも知れない。ーーそう思うと涙が出てきた。


 ラストルがザバンと湖に波を作り現れる。再び現れた獣は歪な剣を口に咥えていた。


ーーまだ戦うってこと。いいわ、次こそは、そのツノを!


 ウチらは武器を構えるが、ラストルが様子がおかしい。こちらに敵意を見せない。

 獣は器用に前脚を使い自らのツノに刃を通す。


 曲がりくねった剣が前脚に踏まれそそり立っていた。その刃がゆっくりとラストルのツノを切断していく。


 ラストルは自らで、その立派なツノを切り落としたのだった。


「甘いというか、純粋というか。そんな君達が作るミライをワタシは……少し楽しみになってしまいましたよ」


 ラストルは、やれやれといった表情で地面にある歪な剣を前脚で蹴った。滑るようにして、シュンスケの足元に落ちる。

 そして、空色の獣は落ちたツノを口に咥えると、ウチらに差し出すように足元に置いたのだった。


「おーい!カナちゃん。私達も加勢するよ」


 足音が響く。優しい声が響く。ウチらはやり遂げたんだ。ミッションを成功させた。ユリちゃんの方を振り返る。とびっきりの笑顔で。


「大丈夫!もう、ウチら、ミッションを成功させたから」


 シュンスケがラストルのツノを掲げた。ウチは、たまらなくなるほど誇らしかった。

 ラストルは、そんなウチらを優しい顔で見守っていた。



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