第20話 フレイル討伐戦

「ユリさん。作戦失敗です!」


 タクマ君は何度も追尾する槍をかわしながら、フレイルの懐に入ろうとするが、火の玉の牽制もあり近づくのは難しそうです。


「どうだね。援護をもらってはいるようだが、この鬼火はね。無限なんだよ」

「こうも火の玉が多くては近づけない…ですね」


「アクアスプラッシュ!」


 勢いよく噴射する水魔法も、鬼火の前には歯が立ちません。火の玉は水を食い尽くすように吸収し、蒸発する。

 そして、フレイルの角からは、新しい鬼火がが現れます。


「今度こそ私の魔法で……」

「何度やっても無駄だ!」


 フレイルが勢いづく。敵の槍は生きているかのように自在に動く。タクマ君は何とかよけながら、自らの槍でも防ぐ。が、辛そうです。


「どうした、もうバテたか?」

「ラチがあきませんね。でも、まだまだ!」


「ハハッ!上等。だが……いつまでその勢いが続くかな。オマエの槍は限界みたいだぞ」


 軋む槍。矛先が砕ける。タクマ君は、なんとか、壊れた槍でフレイルの攻撃を防いでいました。


「タクマ君。わ、私!あの……あの魔法を使おうと思うんだけど、どうかな?」

「忘れていました。奥の手。やってみましょう!」


 タクマ君はこわれた槍を捨てるとポケットから弓を出す。バックステップ。フレイルと距離をとる。タクマ君の放った矢は鬼火とぶつかり合い火花を散らす。


「今度は矢か。考えたな。でも、残念。鬼火には効かんよ」


 ガッハッハ!と快活に笑うフレイル。


 私の手には新しい魔法の杖。先端には赤色の宝石と緑色の宝石が混じる。生み出すは、炎の暴風。


「ファイアーストーム!」


 メラメラと燃える。渦まく熱風は鬼火をすり抜けると、初めてフレイルの身体を捉えました。

 熱波と風圧でフレイルの巨体が浮く。吹き飛ぶ。ズドン!と鈍い音と共に地響き。カランと細い槍が地面を跳ねます。


「グぅ。鬼火をすり抜けるだと!キサマ、何をしたぁ!!」

「そ……それは、」

「目には目を。火には火を、ってやつですよ」


 タクマ君が素早く水属性の剣をポケットから取り出し、フレイルに近づく。

 ハッとして、私は声をあげてしまいました。


「ダメ―――――!!」


 フレイルの首。水の滴る刃が寸前で止まる。


「なぜ、とどめを刺さない」

「ダメと……彼女が言ったからです」

「そうか、いや違う。最初からオマエに殺気を感じなかった」


「僕は……いや、僕たちは、その角があれば良い。命はいらない」


 フレイルの険しい顔が綻ぶ。笑顔に変わる。フレイルは「持っていけ!」と大きく一言、自分の角を切り落としました。


「!!!」


「負けだ。負け、オレ様の負けだよ。フハハハ!にしてもトドメを刺さないか。生優しい。あの人みたいだな。でも、オマエら、ラストドラゴンは、そんなことでは倒せんぞ」


「分かっています。倒さなければ、元の世界に戻れませんから」

「オマエらは、何も分かっとらん」


 フレイルは少しだけ悲しそうな顔をすると、タクマ君に槍を渡しました。


「これは?」

「オマエにやる。元の世界に戻りたいんだろ。そのためにラストドラゴンを倒すのだろ。そうか……オマエ達も帰っていくのだな」


 自在に動く大きな槍は、タクマ君が手に取ると、丁度良い大きさに縮みました。


「ユリと言ったな。スゲー魔法だった。ずーーんと身体に響いた。最高な気分だ」


 フレイルは優しそうな顔をして、ニカッと笑い。私達が戻る道を大きく手を振りながら眺めていました。


「ガンバレよ」


 うっすらと熱風に乗って声がこだましたような、そんな気がしました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る