第2話 もとの世界にもどるには

 わたしは、チェストに入っていた本を取り出すと、ページが勝手に開かれました。カナちゃんが、わたしの顔を凝視しています。


 わたしは、声に出して開かれた本のページを音読しようとすると、キレイな女の人の声が聞こえます。


 どうやら、声は本から聞こえてきているみたいです。


『ゲームの世界へ、ようこそ。あなたたちには、メタバースの世界で人間が適応できるのか、生きていけるのかを、実際に体験しながら、私たちに教えてほしいのです』


「ユリちゃん。めたばーす、ってなに?」

「わたしも、わかんない?」


 本をたくさん読む私でも、わからない言葉でした。少し考えたけど、わからなかったので、本の声に耳を傾けることにします。


『あなたたちに、世界のこれからの明暗がかかっています。この仮想世界にいる最強のドラゴンを倒し、人間が仮想世界でも生きていけることを証明してほしいのです』


「かそう、せかい……?」


『……みごとドラゴンを倒し、現実の世界にもどってきて下さい』


「ドラゴンを倒さなと戻れないの!?」


 カナちゃんが叫ぶように言った。


 やっぱり、ゲームの世界なんだ。このゲームのドラゴンといえば……たぶん、ラストドラゴンだと、わたしは考えます。


 パパとゲームをやった時に一緒にたたかったけど倒せなかったから、よく覚えている。宇宙の果ての扉の先にいる翼の大きな毒の息を吐くドラゴン。


 ——本当にいるのだろうか?


 もし、この世界にも本当にいるのだとしたら……。わたしは急に自信がなくなってきました。となりのカナちゃんも、わたしの不安が伝染したのか、暗い顔をしている。


 もうすぐ日が暮れて、もしかしたらモンスターが出てくるかもしれないのに、わたしたちは立ち尽くしてしまいました。



 急にカナちゃんが指をさして叫び出します。


「お~い!!」


「どうしたのカナちゃん?」

「ユリちゃん。ほら、あそこ。あそこに誰かいるよ!」


 カナちゃんは遠くを見て言いました。わたしはメガネをかけないと遠くはおろか、学校の黒板の文字すらボヤけて見えのに、目の良いカナちゃんには、何かが見えているようでした。


「お~い」


 茂みの方から聞き覚えのある男の子の声が聞こえました。「やっぱり」といってカナちゃんが大きく手をふります。わたしも一緒に「おーい」といって手を振り返しました。


 だんだん、人影の形がしっかりと見えてきました。二人います。


 クラスメイトの青葉あおばシュンスケくんと、二梃木にちょうぎタクマくん、でした。


「なんで、どうしたの?」という問いに

「そっちこそ?」という返事


 お互いがびっくりしながら、いままでのことを話し合いました。シュンスケくんとタクマくんも、ふたりでゲームをやっていたところ、急に、この世界にきてしまった……というのでした。


「やっぱり、これって……ゲームの世界だよな」


 短髪のシュンスケくんが、ぽりぽりと頭をかきながら、確かめるように聞いてきます。みんな、うんうんと首を縦にふりました。


「そうだとすると……!」


 わたしの不安を悟ったかのように、茂みからモンスターが飛び出してきました。



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