第2話 調査

 先生は、土曜日の昼に電話をしてみた。すると、お母さんと電話が繋がった。


「ご無沙汰してます」

 話した感じはごく普通だった。先日、今の担任と話した時には、親と全然連絡が取れないと言っていたからだ。

「担任を外れたのにお電話なんかして申し訳ございません。辰馬君はお元気ですか?」

「はい。家では元気にしてます」

 母親は不登校の状況を少しも気にしていないようだった。

「勉強はどうされてるんですか?」

「学校の課題と市販のドリルをやってます」

「外出したりはされるんですか?」

「夜、公園に行ったりはします」


 先生は、他の子どもに会いたくないからかな、と思った。


「何時頃、出かけておられるんですか?」

「そうですね・・・夜9時くらいとか」

 先生は夜9時に公園に行けば会えるかもしれないと思った。それで、その時間帯に板倉さんの家の近くをジョギングすることにした。運動部に入っていたから、体力だけはあったから、自宅が離れた距離にあったけど、毎晩板倉さんの家の近くを走るようになった。それも何度も何度も家の周りを回って何かしらB君の気配を感じたかった。


 世の中と隔絶された生活を送るB君。

 大人しいとか、人付き合いが苦手というならともかく、明るく普通の子が何年も自宅に引きこもりっきりというのは、苦痛でたまらないだろうと想像する。親はどうして子どもの就学の権利を奪ってしまったんだろう。先生は悔しかった。


 普通は、一戸建てに子どもが住んでいると、騒いでいる声なんかが聞こえてくるのが普通だ。それに、親が子どもを叱っているとか、色んな部屋の電気がついているとかするはずだった。


 しかし、板倉さんの家はそういうファミリーの家にある特徴が何もなかった。1階だけ電気がついていて、無音だった。子どもの住んでいる家とは思えないほど静かだった。もしかしたら、公園に行っているのでは・・・と、最初の頃は思っていた。だから、何度もその辺を行ったり来たりしていたけど、家に誰かが出入りする気配はまったくなかった。


 倉崎先生はそうやって1ケ月近く板倉さんの家庭を観察していて、B君はそこにいないのではないかと思うようになった。


 昼間尋ねて行くと車庫には埃まみれになった自転車が2台止めてある。お姉ちゃんはもう5年生くらいになるのに、補助付きの自転車のままだった。きっと家から出してもらえていないんだと先生は思った。


 校長先生は教育委員会には報告してるんだろうけど、問題になっていないんだろうか。教育委員会に通報してみようか・・・。それか、児童相談所。


 そうだ・・・189番に通報しよう!

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る